9話 ランチは一緒に
そろそろ腹が減ってきたということで、ハンバーグ専門のレストランに入る。
「やっぱり、ハンバーグは正義ですね! って、なんで微笑ましい顔をしているんですか? 小学生の私がハンバーグを食べることを微笑ましく思っているんですか?」
「そうなるかな」
「子供はハンバーグが好き、というのは否定しませんけどね。でも、大人も好きじゃないですか。たくさん食べているじゃないですか。子供だけ、という見方は心外です。子供も大人も、みんな大好きハンバーグ。ですよね?」
「ごめんなさい」
もっともな意見なので素直に頭を下げた。
って、宮ノ下に論破されることが多いな、俺。
もしも付き合うことになったら尻に敷かれてしまいそうだ。
「でも、愛らしいと思ってくれたんですよね?」
「まあ、そうなるかな」
「なら、それはそれでよしです♪ 結城さんに愛される私、えへへ」
「そんなところで喜ぶんだ……」
「可愛い?」
「はいはい、可愛いよ」
「もっと言ってください!」
「すごく可愛いよ」
「きゃー♪」
実際に可愛いから困る。
「えへへ。私、小学生でよかったです」
「俺は、困っているんだけどなあ……」
「年下に振り回されるのも、嫌いじゃないでしょう?」
「好きな人はいないと思うぞ」
「ツンデレですか?」
「違う」
「ふふっ」
どうでもいい会話が楽しい。
なんだかんだ、宮ノ下と一緒に過ごす時間は気楽で、楽しいんだよな。
「そろそろメニューを決めましょうか」
「そうだな。えっと……俺は、和風ハンバーグにしようかな」
「私はチーズinハンバーグですね! チーズは正義です。ジャスティス!」
「それは同意見」
「私達、気が合いますね♪ 結婚しましょう」
「倫理観の前に、法律的に無理だ」
それぞれ注文をして、待つこと10分ほど。
ジュウジュウと熱々の鉄板に乗せられたハンバーグが運ばれてきた。
「「いただきます」」
ぱくりと一口。
俺と宮ノ下は笑顔で、そして声を弾ませて、
「「美味しい!!」」
「さすが専門店ですね。肉がぎゅっとしているような感じで、旨味がたっぷりで、すごく美味しいです!」
「ソースも違うな。この店のオリジナルっぽくて、ハンバーグの旨味を何倍にも引き立ててくれている」
それぞれ料理コメンテーターみたいな台詞を口にする。
大げさかもしれないけど、それくらい美味しいのだ。
「……」
ふと、宮ノ下の視線を感じた。
正確に言うと、彼女の視線は俺の和風ハンバーグに向けられている。
「……じゅるり」
「気になる?」
「ものすごく!」
「なら、少し食べるか?」
「いいんですか!?」
ものすごい目をキラキラさせている。
もしかして食いしん坊?
「いいよ」
「やったー!」
こういうところは、やっぱり子供だな。
ちょっと微笑ましい。
「あーん」
「え?」
「あーん、してください。あーん」
餌を待つ雛鳥のように、宮ノ下は小さな口をいっぱいに開けてみせた。
「いや、さすがにそれは……」
「なんですか、乙女に恥をかかせるつもりですか? 小学生にあーん、をできる機会なんて、滅多にありませんよ?」
「いつもしたい、みたいな言い方、やめてくれ。色々とまずいだろ」
「……そうですよね。所詮、私は小学生。結城さんに相手をされないのは当たり前ですね……」
宮ノ下がしょんぼりと肩を落としてしまう。
よほど楽しみにしていたらしく、じんわりと涙さえ浮かんでいて……
それはずるいだろう。
「わ、わかったから。あーんをするから!」
「はい、お願いします♪」
一瞬で笑顔に切り替わる。
「ウソ泣きかよ……」
「乙女の涙は、時に武器になるんですよ? ふふ、小学生といって侮ってはいけません」
「わかったよ、降参だ。降参」
「じゃあ……あーん♪」
「はい、どうぞ」
「あむっ」
宮ノ下は実に幸せそうな顔でこちらが差し出したハンバーグを食べる。
「美味しいです。結城さんの愛情が伝わってきて、さらに美味しいです」
「愛情はないから。まあ……友情はあるけど」
「はい、今はそれでも構いません」
そう言い切るものの、満足はしていないようだ。
その証拠に、宮ノ下は不敵に大胆に妖艶に微笑む。
「いつか、その友情を愛情に変えてみせますから」
「宣戦布告?」
「はい、恋の宣戦布告です♪」
中二っぽい台詞だ。
とはいえ、宮ノ下は小学生なので意味が異なってくるかもしれない。
「じゃあ、今度は私があーんをしますね」
「断る」
「なんでですか? 照れているんですか?」
「そうじゃなくて……」
女子小学生にあーんをしてもらう高校生。
運が良ければ仲のいい兄妹に見えるだろう。
でも、下手したら事案案件に見えてしまう。
さすがにそんなリスクは犯せない。
「大丈夫ですよ、兄妹に見えますよ。悔しいですけど」
「そうかもしれないけど……」
「いいじゃないですか。私にはあーんをしてくれたのに」
「半ば脅迫だったろ?」
「さて、なんのことやら」
宮ノ下はわざとらしくとぼけてみせた。
こうして接していると、彼女がアイリスであることを強く意識する。
ゲームでも、こんな言動が多かったんだよな。
振り回されて困ることも多かったけど……
でも、圧倒的に楽しい思い出の方が多い。
ゲームでは対等の関係で。
でも、リアルでは差があって。
「なんか、色々とうまくいかないな」
「どうしたんですか?」
「なんでもないよ」
ほんと、色々とうまくいかないな。
「では、あーん、です♪」
「……」
「してくれるまで、引きませんよ? あと、あまりに遅いと泣きますよ?」
「わかった、降参だ」
小学生という武器を使われたら、俺は、どうしようもない。
「はい。あーん、です♪」
「あーん」
「おいしいですか?」
「……正直、よく味がわからない」
こんな時になんだけど、ちょっとだけドキドキしてしまう俺だった。
だって……
「えへへ♪」
宮ノ下が、あまりにも嬉しそうな笑顔をしているから。
ついつい、それに見惚れてしまうのだった。
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