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6話 アルバイト先を訪問

「いらっしゃ……あ、結城君。おはよう」

「おはようございます、先輩」


 喫茶『アマリリス』。

 ここが俺のバイト先だ。


 笑顔で迎えてくれたのは、バイト先の先輩の笹塚綾音さん。

 今年で二十歳になる大学生だ。


 亜麻色の髪をポニーテールでまとめているのが特徴的だ。

 とても優しい人で、彼女を目当てに店に通う人も多い。


「すぐに着替えてきますね」

「そんなに急がないでいいわよ。今はお客さんも少ないから」

「そうそう、ヒマだからね。あっはっは」

「マスターがそんなことを言うと、バイトの俺でも不安になるんですけど」


 気楽に笑う初老の男性は、アマリリスのオーナーだ。

 白髪混じりの髪をオールバックにして、シックな眼鏡をかけている。

 英国執事という印象だ。


 ただ、名前は知らない。

 『マスター』と呼んでいる。

 そう呼ばれることに憧れていたらしく、そう呼んでほしいと頼まれていた。


 ちょっと変わった人だけど、でも、マスターもとてもいい人だ。

 初めてのバイトで失敗を連続していた俺をクビにすることなく、優しく丁寧に仕事を教えてくれた。

 おかげで今は一人前。

 感謝しかない。


「おまたせしました」


 更衣室で店の制服に着替えてフロアに戻った。


 二人が言っていたようにお客さんは少ない。

 近所の主婦と常連さんと、それと……


「♪」

「ごほっ」


 すでに宮ノ下が来ていた。


 確かにバイト先は教えたけどさ。

 俺よりも早く来ているなんて、どれだけ楽しみにしていたんだよ?


「結城君、どうしたの?」

「いえ、なんでもありません……」

「そう? じゃあ、五番テーブルさんのメニューお願い」

「はい」


 パフェとオレンジジュースのセットを受け取り、五番テーブルに向かう。


「来ちゃいました♪」


 膝から崩れ落ちそうになるけれど、どうにかこうにか耐えた。


「どうして驚くんですか? ちゃんと、来ますからね、って言っていたじゃないですか」

「そうだけどさ……なんで俺よりも早く来ているのかな、っていう驚き。あと、あまりにも自然にいることについての驚き」

「小学生は高校生よりも授業が終わるのが早いですからね。あとは、愛の力です」

「なんでもかんでもそれで片付けようとしてないか?」

「本当のところを言うと、働いている結城さんの姿を少しでも早く見たくてがんばっちゃいました」

「……」

「あれ? 照れています? にひひ。もっと褒めてもいいですか? かっこいいです、結城さん」

「やめてくれ……」

「疲れているみたいで大変ですね」

「原因の全てが宮ノ下のせいだっていうこと、自覚して?」

「ごめんなさい、結城さんの働くところを見たかったので。まったく反省していません♪」


 にっこりと、ものすごくいい笑顔をされてしまう。

 これ、本気で反省していないやつだ。


「どうぞ。ご注文のパフェとオレンジジュースです」

「あれ? 足りないですよ」

「え」

「店員さんの熱いハグ♪」


 冗談ではなくて本気だから困る。


「あのな……そんなことできるわけないだろう?」

「サービスの一つということで、なんとかなりません?」

「ならないよ」

「ケチ。でも、そうやってつれないところを見せられると、絶対に落としてやろう、って燃えてきますね。よし、がんばりますよー!」


 お願いだから燃えないで。


「こう言うと失礼かもしれないけど、宮ノ下ってガッツがあるよな」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。普通は諦めると思うけど」

「……初恋は実らない、っていう話があるじゃないですか。でも私、結城さんが初恋なんです。だから諦めたくないじゃないですか? なんだとー、って挑んでやりたいじゃないですか?」


 宮ノ下はとてもいい笑顔で言う。


「私、負けず嫌いなんです♪」


 困った性格だ。

 でも、そんな宮ノ下を好ましいと思う。


 まっすぐで、ひたむきで。

 そして情熱的で、がんばりたいと思うことに全力投球する。

 俺はそういうものはないから、羨ましくさえ思えた。


 もちろん、好ましいといっても人として、という意味でだ。

 断じて恋愛ではない。


「じゃあ、ごゆっくり」

「あれ? もう行っちゃうんですか」

「仕事中だからな」

「残念。では私は、結城さんをじっと見つめていることにしますね」

「……ほどほどに頼む」


 止めても止まらないだろうから、放置することにした。


 苦笑しつつテーブルを離れる。


「ねえねえ」


 フロア中央に戻ると、先輩がそっと声をかけてきた。

 なぜか声が小さい。


「今のお客様だけど……」

「あ、はい。なんですか?」

「結城君のことが好きなの?」

たくさんの応援、ありがとうございます!

おかげさまで、ジャンル別日間ランキング1位になりました!

たくさんの人に読んでいただき、たくさんの応援をいただき、とにかく嬉しいの一言に尽きます。

がんばるので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] >「今のお客様だけど……」 >「あ、はい。なんですか?」 >「結城君のことが好きなの?」 そ・れ・は!! 禁則事項じゃああぁあああああ!!!
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