3話 告白
「好き、って……」
冗談だろう?
そう問いかけようとして、しかし、宮ノ下の顔を見て言葉が消える。
宮ノ下は頬を朱に染めて、瞳をしっとりと潤ませて。
それでいて、どこか緊張した様子で、じっとこちらを見つめていた。
本気だ。
彼女の想いを冗談と切り捨ててはいけない。
小学生だからまずいとか、そういうことは関係ない。
一人の女の子が勇気を出して告白をしているんだ。
なら、俺はそれをしっかりと受け止めないといけない。
「……そっか」
「はい。私は、結城さんのことが好きです。もちろん、異性として」
「うん、ありがとう。その気持ちは嬉しいよ」
「じゃあ……」
「でも……ごめん」
もしかしたら、これでアイリスとの関係が切れてしまうかもしれない。
明日から一人で遊ぶことになるかもしれない。
そうだとしても、告白を受け入れるわけにはいかない。
「宮ノ下と付き合うことはできない」
「……私のこと、嫌いですか?」
「まさか。好きだよ。でも、それは友達としてだ」
もしかしたら恋愛関係に発展するかも、という妄想はしてた。
でも、そんな妄想をするということは、まだ彼女に本気で恋をしていないという証拠だ。
恋ではなくて憧れなのだ。
それも彼女に対してではなくて、『恋愛』というものに対する憧れ。
それなのに付き合うとか、宮ノ下に失礼すぎる。
ゲーム内で結婚はしているものの、あれはノリだ。
あと、ご褒美のアイテム狙いだ。
「結城さん、彼女さんがいるんですか?」
「いないよ」
「なら、まずはお試しで付き合いませんか? まずは……っていう話はよくあると思いますよ」
「そうなんだけどね。でも、俺はそれをよしとしないんだ」
試しに付き合ってみる、という選択はあると思う。
でも、宮ノ下は俺にはっきりと好意を伝えている。
試しに付き合ってみて、やっぱりやめよう、っていう展開になったら?
無駄に希望を持たせて最後に裏切る。
それはあまりにも酷い話だ。
だから、最初から断る。
「ごめんなさい」
頭を下げた。
今、宮ノ下はどんな顔をしているだろう?
傷ついているだろうか? それとも、怒っているだろうか?
確認するのが怖い。
「えへへ」
「え?」
顔を上げると、宮ノ下は……笑っていた。
「よかったです」
「え? えっと……よかった、っていうのは?」
「だって、小学生っていう理由じゃなかったから」
「それは……」
「結城さんは、私をちゃんと『女性』として扱ってくれました。もしも『小学生』として扱っていたら、どうしようもなかったです。年齢だけはどうすることもできませんからね。でも……『女性』として扱ってくれたのなら、まだ希望はあると思いませんか?」
「なっ……」
まさか、そう考えるなんて。
確かに可能性はあるけど、でも、普通はそこまで前向きに考えることはできない。
この子、本当に小学生か?
ゲームで遊んでいた時からそうだけど、日頃の言動が大人びているんだよな。
思考も大人のそれだ。
だからこそ、主婦か社会人と思ったわけで……
「私のことを好きになってもらうように、これからがんばりますね♪ というか、必ず好きにさせてみせますね? もう逃げられると思わないでくださいよ、ふふふ」
がんばらないで。
事案になっちゃうから。
――――――――――
「ふぅ」
初めてのオフ会が終わり、帰宅。
どっと疲れが襲ってきてベッドに横になった。
「夕飯は……今日はいいか」
一人暮らしなので、その辺りは自由にできる。
「楽しいオフ会だったけど……けど……」
まさか、アイリスが女子小学生だったなんて。
しかも、告白されてしまうなんて。
「あー……明日からどう接すればいいんだ?」
しばらくの間、俺はベッドの上で悶えるのだった。
――――――――――
「ふふ」
家に帰り、自室に戻った宮ノ下鈴はニヤニヤと笑う。
嬉しさと喜びが抑えきれなくて仕方ない、といった感じだ。
「ようやく会えた、リアルのヒロに会うことができました♪」
17歳の男子高校生。
キラキラ輝いているイケメンというわけではないものの、一緒にいると温かい気持ちになれるような優しさにあふれていた。
「やっぱり、顔よりも性格ですね。付き合うだけなら顔は大事ですが、その先……結婚を考えると、やっぱり性格が大事です」
まだ付き合っていないのに、すでに結婚した時のことを考えている。
恐ろしい少女だった。
「それに、アイドルほどではないとしても、親しみを持ちやすい感じの優しさや温かさがあるというか……うんうん。私から見たら、やっぱりイケメンですね。本物のヒロ、とてもかっこよかったです♪」
恋愛補正はかかっているものの、それでも結城の一つ一つの仕草がかっこよく見えた。
ゲームでそうしているように、いつも鈴のことを一番に考えてくれている。
その上で、一緒に楽しむことを考えてくれている。
そうやって隣で笑ってくれることはたまらない幸せだった。
太陽のような明るい声に癒やされて。
そして、いつしか惹かれるようになっていた。
「なによりも、私のことを一人の女性として見てくれた」
鈴はまだ十歳だ。
小学生だ。
高校生に恋を語っても、普通はまともに相手をしてくれないだろう。
『子供なんかが背伸びをするな』というのが普通の反応だ。
仮に向き合ってくれたとしても、『小学生だから』という理由で離れてしまうのが普通だ。
でも、結城は違った。
鈴のことを小学生ではなく一人の女性として扱った。
それがどれだけ嬉しかったか。
「んーっ……もう本当に最高ですね!」
顔は好み。
性格もいい。
そして、ゲーム内で結婚をしている。
「これはもう、運命としか思えないですね♪」
鈴は枕を抱きしめて、ベッドの上をごろごろと転がる。
「絶対に好きになってもらいますからね。もう逃しませんからね。ふふふ……大好きですよ、結城さん♪」
そう語る鈴は、どことなく蜘蛛を連想させる表情をしていたが……
それは誰にも見られることはなかった。
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