2話 オフ会をしよう
宮ノ下鈴。
10歳。
それがアイリスのリアルだ。
「まさか、小学生だったなんて……」
色々と問題がありそうなのだけど、しかし、ここまで来てやっぱりなかったことにして解散、というのはあまりに酷い気がした。
それに、もうカフェの予約はとってしまっている。
予約を取るのも大変なカフェなので、ドタキャンは店に迷惑をかけてしまう。
ひとまずカフェに移動した。
「私のこと、意外でしたか?」
宮ノ下は丁寧な口調だけど、ニヤニヤという笑みを浮かべていた。
天使のような外見だけど、中身は小悪魔なのだろうか?
でも、それはそれで『らしい』。
ゲームでも、色々とわがままを言われたりからかわれたりして困らされたものだ。
宮ノ下がアイリスなんだなあ……と、この短い時間で実感させられてしまう。
「うん、ものすごく意外だった」
「ネカマとか、そんなことを思っていたとか?」
「もしかしたら、って可能性は考えていたけど、でも、やっぱりそれはないかな。音声チャットをしていたし」
「ボイスチェンジャーかもしれませんよ?」
「うーん、そういう感じはしなかったかな。それに、アイリスは女性っぽい言動があったから。うまく説明できないけど。でも……主婦か社会人かな、って思っていたんだ」
「……私、そんなに歳を取っているように見えますか?」
「ごめんなさい」
女子小学生を主婦や社会人と勘違いする。
さすがに失礼なので素直に頭を下げた。
「結城さんは高校生なんですね」
「うん。結城直人、高校二年だよ」
「想像通りでした」
「高校生だってわかっていたの?」
「予想ですけどね。普段の言動はちょっと大人びていましたけど、ふとした時に見せる素がちょっとまだ幼いかな? ……と。あと、あまり夜更かししないところ。たまに、一週間くらいログインしないところ。あれはたぶん、テスト期間だったんですね」
すごい、全部当たっている。
この子、本当に小学生か?
「よくそこまでわかるね」
「好きな人のことですからね」
「ごほっ!?」
突然の爆弾発言に水を吹き出しそうになってしまう。
「大丈夫ですか? ハンカチをどうぞ」
「あ、ありがとう……」
「あ。来る途中に私もそのハンカチで口を拭ったので、ハンカチで間接キスですね♪」
「ごはぁっ!?」
再び咳き込んでしまう。
「な、なにを……」
「ふふ、ごめんなさい。反応が可愛いから、つい♪」
てへ、と笑いつつ、まったく悪びれている様子がない。
その姿は、まさにアイリス。
リアルでもゲームでも小悪魔っぷりは健在だった。
でも……
「本当にアイリスなんだよな」
「はい、そうですよ」
アイリスもとい、宮ノ下がにっこりと笑う。
一瞬、ゲームのキャラと宮ノ下の笑顔が重なる。
「……マジか」
できることなら会いたいと思っていた。
色々な話をしたいと思っていた。
本物の恋仲になれるかも、なんてことを妄想したこともある。
でもまさか。
「女子小学生とは思わないだろう、普通……」
思わず頭を抱えてしまう。
これ、事案になるのかな?
俺、逮捕される? それとも補導か?
いやでも、宮ノ下となにかあったわけじゃない。
ゲームでは結婚しているものの、現実では付き合っていない。
それ以上のことをしたことなんて、もちろんない。
これからするつもりもない。
なら……問題ない、のか?
「あー……やばい、なんか混乱してきた」
「あの……」
「うん、なに?」
「……もしかして、迷惑でしたか?」
そう尋ねてくる宮ノ下は、年相応に不安そうな顔をしていた。
そっか。
そうだよな。
きっと、宮ノ下は純粋にオフ会を楽しみにしていたんだ。
それなのに俺はどんな態度をとっていた?
小学生ということに驚いてしまうのは仕方ないとしても、がっかりするのは違うだろう。
それじゃあまるで、ネットゲームで出会い目的に活動するという、直結厨じゃないか。
アイリスはアイリス。
小学生だったとしても、それは変わらない。
「いや。迷惑とか、そういうことはないから」
「でも……」
「小学生っていうことに驚いただけ。今は落ち着いてきたから大丈夫。俺も、アイリスと会うことができて嬉しいよ」
「本当ですか?」
「本当に」
「なら、その証にキスをしてくれますか?」
「ごほっ……ど、どうしてそうなるんだよ?」
「ふふ、冗談です」
やっぱり彼女は小悪魔だ。
でも、さっきまであったぎこちない空気は消えていた。
ゲーム内でいつも感じていた、温かくて心地いい感じ。
それが今、俺達二人の間に流れている。
「とりあえず……まずは注文をしようか。夢にまで見たファンネクカフェ! ゲームをイメージした料理ばかりだからな。たくさん注文して写真を撮って、お腹いっぱいになるまで食べたい!」
「賛成です!」
「満腹になる準備はOK? 財布の紐は緩めてきた?」
「OKです! ふふ、食べ尽くしますよー!」
「おー!」
――――――――――
「はぁ、幸せですぅ……」
「俺も……」
料理を腹いっぱい食べた俺達は、それぞれ恍惚とした笑みを浮かべて、椅子に深く寄りかかっていた。
ゲーム内の料理が再現されていたり、ファンネクのキャラクターをイメージした料理があったり。
ゲームのファンとしては、これ以上ないほどのご褒美だ。
意外というか味も美味しかった。
ただのコラボメニューではなくて、しっかりとした味付けがされていて、そこらのファミレスよりも圧倒的に上。
食べる手が止まらない。
気がつけば、俺も宮ノ下も三人前くらい食べていた。
食後のドリンクを飲み、一息つく。
「でも、さすがに食べ過ぎたかも。夕飯、いらないかもな」
「私もです……」
「って、ごめん。俺が止めるべきだったかも……大丈夫か?」
「なにがです?」
「外で食べて夕飯を食べないとか、怒られるんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。ママには事前にちゃんと説明したので。パパには言っていませんが……まあ、家庭内での立場は私の方が上なので♪」
笑顔でそんなことを言うのが恐ろしい。
「だから、私のことはあまり気にしないでください。そのつもりになれば、お泊りも可能ですから」
「もしかして、ホテルをとってる?」
「いいえ。いざという時は、結城さんのお家にお邪魔しようかと」
「ごほっ!?」
「お泊り……いいですか?」
「ダメだから!?」
「ふふ、冗談です」
本当、心臓に悪い。
というか、小学生の宮ノ下が言うと笑えない。
「そういう冗談はやたらめったら口にしない方がいいぞ。特に年上に対しては。相手が妙な誤解をしたら大変だ」
「あら。私、ちゃんと相手を選んでいますよ?」
「え?」
「結城さんだから言っているんです。だって……」
今度は、宮ノ下はとろけるような笑顔で言う。
「私、結城さんのことが好きですから」
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