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1話 ファンタジーライフ・ネクスト

久しぶりに現代恋愛物を書いてみました。

普通に書いてもつまらないので、ちょっと変化球にしてみました。

「そろそろ終わりにしよう。我が奥義にて、貴様の存在を歴史から抹消する!」


 世界の崩壊を企む魔神が決着をつけるために動いた。

 両手を頭上にかざして、全てを無に返す『光』を生成していく。


 タイムリミットは10秒。

 その間にヤツを倒せなければ負けだ。


 しかし、こちらはすでに奥義を放っている。

 魔力も底を尽きていて、単調な攻撃を繰り返すことしかできない。


 それでも。


 最後まで諦めない。

 絶対に諦めてなるものか!


 あと少し。

 あと少しで手が届くはずなんだ。


 だから、ひたすらに攻撃を繰り返した。


 最適な動きで。

 最適な解で。

 今できる全力を叩き込んでいく。


 0、7パーセント。

 0、3パーセント。

 0、1パーセント。


 そして……


「バカな!? 我が敗れるというのか!? 魔神である我が、たかが人間に……」


 ヤツが奥義を放つ直前、どうにかこうにかHPを削り切ることができた。


「いよぉ……しっっっ!!!!!」


 夜中だからまずいのだけど、ついつい大きな声を出してしまう。

 それとガッツポーズ。


 だって、仕方ないだろう?

 現時点で最難関と呼ばれているボスをようやく倒すことができたのだから。


『やったやったやった! すごいすごいすごい! やったぁあああああああ!!!』


 ヘッドセットの向こうから歓喜の声が届いてきた。


『私達、やったんだよね!? ついに魔神を倒したんだよね!?』

「ああ、そうだ。めっちゃギリギリだったけど、倒したんだ!」

『い……』

「い?」

『いよっしゃああああああああっ!!!!!』


 耳が痛くなるほどの叫び声。

 でも、気持ちはわかる。

 このボスを倒すために一ヶ月をかけたからな。


「あぁ……この達成感がたまらない。本当に最高……」

『だよね、だよね! これだから、ファンネクはやめられないよ!』


 ファンタジーライフ・ネクスト。

 全世界で3000万人がプレイするMMORPGだ。


 細部まで練り込まれた設定と、重厚でドラマチックな物語。

 一方で、農作物を育てたり家を建てるなどのスローライフを送ることができて……

 全世界で愛されているゲームだ。


 1年前にファンネクを知った俺はドハマりして、以来、毎日プレイしている。


 ヘッドセットの向こうで歓喜に湧く彼女も、同じようにドハマりした。

 ゲームで知り合い、友達になって、二人でクランを起ち上げて……

 ノリと勢いと、ついでにアイテム目的でゲーム内結婚もした。


 彼女のゲームプレイヤーの名前は、アイリス。

 ちなみに俺は、ヒロだ。

 名前に性格の差が出ていると思う。


『ねえねえ、どんな装備を手に入れた? かっこいいやつ? 見せて見せて♪』

「もちろん。アイリスの装備も見せてくれよ」

『見せるっていうか、むしろ見せつける!』


 アイリスとはゲームを初めた頃に知り合い……以来、ずっと付き合いが続いている。


 ネットゲームというとネカマが多いイメージだけど……

 ファンネクは女性の人も多く、たぶん、アイリスは女性だと思う。

 男っぽさを感じないというか、気遣いができて細かいところに気づくんだよな。


 声は女性のものだけど、最近は、ボイスチェンジャーという手段もある。

 ただ、そういうものは使っていないような気がした。

 素の声音だと思う。


 それと、たぶんだけど、主婦だと思う。

 あるいはホワイト企業に務める社会人。

 どちらにしても俺より年上だろう。


「あー……それにしても、本当に疲れた。難しいとは聞いていたけど、まさか、ここまでかかるとは。マジでやばい……」

『でもでも、すっごく楽しかったよね!』

「だな。コツコツと攻略を積み重ねて、少しずつフェーズを突破していって、最後にようやくクリアーする……達成感がホント半端ないわ、このゲーム」

『やみつきになるよね。でも私、実はちょっと心が折れかけていたんだ』

「え、マジで?」


 ちなみにタメ口なのは、アイリスが望んだからだ。

 ゲーム内結婚までしたのに丁寧語だと壁を感じる……らしい。


『一ヶ月もかかると、さすがにね……』

「まあ、きついはきついよな」

『でも、ヒロのおかげでがんばることができたんだ』

「俺の?」

『私一人で野良に行ってたら、絶対にくじけていたと思う。でも、ヒロが一緒にいたからがんばることができたの。隣にいてくれたから、やってやる、って思うことができたの。だから……ありがとう、ヒロ』


 優しくて心に染みる言葉に、ちょっとだけ泣きそうになってしまう。

 人と人が繋がるゲームでもあるから、こういう展開は弱い。


「えっと、その……俺の方こそありがとう。俺も、アイリスが一緒だったから攻略することができたんだ。いつも一緒にいてくれて、支えてくれてありがとう」

『どういたしまして。その……これからもよろしくね?』

「ああ、もちろん」

『えへへ、大好きだよ♪」


 ちょっと甘い空気になる。

 こういう時は何度かあるけど、いつも思うことがある。


 現実のアイリスはどんな顔をしているんだろう? ……と。


 本心からの言葉なのか。

 それとも、役になりきるロールプレイなのか。


 ちょくちょく考えるけど、実際のところはなにもわからない。

 俺が勝手に思っているだけで、やっぱりネカマかもしれない。

 ボイスチェンジャーを使っているだけかもしれない。


『ねえねえ』

「あ、うん? どうかした?」

『せっかくだから、クリアー記念でパーティーをしない?』

「いいね。じゃあ、クランハウスで……」

『違う違う』

「え?」

『リアルでパーティーをしよう!』




――――――――――




 秋葉原。


 昔は電気街として栄えて。

 少し前まではオタクの街として有名で。

 そして今は、外国人向けの街に改造されつつある。


 そんな街の駅前で、俺はアイリスと待ち合わせをしていた。


 最難関コンテンツのクリアー祝い。

 それを現実でする……いわゆるオフ会だ。

 ファンネクがコンセプトのカフェがあるため、秋葉原に集合することになった。


 それと、意外にも二人の住所は近いらしい。

 妙な縁を感じる。


「それにしても……オフ会、か」


 現実のアイリスが気になっていたものの、まさか、本当に会うことになるなんて。

 そわそわして、ものすごく落ち着かない。


 俺、彼女なんていたことがないから、コーデとかよくわからないんだよな。

 必死で調べて整えたけど、ダサいって笑われたりしないだろうか?

 そもそも高校生だから、ガキかよ、って呆れられたりしないだろうか?


 いや。

 そもそもネットゲームの彼女が現実に適用されるなんて、ちょっと都合がいい。

 あくまでもゲーム、と割り切ることが多い。


 ゲームはゲーム。

 リアルはリアル。

 そう割り切ることで、ゲームで結婚していたからといってそれをリアルに適用したら、引かれてしまうかもしれない。


 うーん。

 ついついネガティブなことばかり考えてしまうな。


「あー、やばい」


 オフ会、めっちゃ緊張する。


 とりあえず、アイリスがどんな人でもいいから……

 男でもいいから……

 同じゲームを楽しむ者として、楽しい時間を過ごせれば良いな、って思う。


「あの……もしかして、ヒロですか?」


 ふと、後ろから声をかけられた。

 聞き間違えることはない。

 アイリスの声だ。


 慌てて振り返る。


「あ、はい! 俺がヒロ……で、す……?」


 振り返った先。

 そこにいたのは、とても小さな女の子だった。


 背は低い。

 俺の腰よりも少し高いくらい。


 夜空のような鮮やかな黒髪は長く、腰まで伸びていた。

 瞳はくりっとしてて、頬はぷにぷにとしてそうで……

 可愛いのだけど、でも、全体的に幼さが残る。


 体型はすとーん。


 以上の外見的要素から考えると、目の前にいる女の子は10歳くらい……女子小学生だと思われた。


「えっと……」

「よかった、ちゃんと合流できましたね! 秋葉原は何度か来たことがあるんですけど、ヒロと現実で会うのは初めてだから、行き違いにならないか心配していたんです」

「……アイリス?」

「はい♪」

「……もしかしてもしかしなくても、アイリス」

「はい♪」

「……本当の本当にアイリス?」

「そうですよ?」


 ネットゲームのオフ会をしたら女子小学生がやってきた。

 これは事案ですか?

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― 新着の感想 ―
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