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聖女の宣告2

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「私は噓つきです。今も昔からずっと嘘をついていました。」

聖女のその透き通る声が競技場中に響いた。誰もがその言葉に真剣に耳を傾けており、誰も遮るものはいなかった。



更に聖女は言葉続けた。

「まず、私が、私たちが帝国軍に証拠を持ち込まなかったのは、確かに帝国軍が信用できないという点もありましたがそれだけではありません。」


聖女はある意味でライトの気遣いを全て無に返すような行動言動を取ろうとしていた。

「……私の嘘を隠すために、帝国軍に行きませんした。」

彼女は覚悟してを決めたのだ。良い嘘はこの世界にあるかも知れない。賢い嘘はあるかも知れない。でも彼女は捕まってから考えていたのだ。果たして自分が付いている嘘が良い嘘なのかと。誰かの為の嘘なのかと。そして気がついたのだ。この嘘が自分の為だけの嘘であった事に。


聖女は深く息を吸った。

「……私は聖女ではありません。」

そして、沈黙の会場でそう声を上げた。


会場が少しざわつき始めたが、皇帝陛下の「最後まで聞こう」そんな一言で再び会場は静かになった。


聖女は何度も深呼吸をして

「私は、いえ、僕は先代の聖女、母の娘ではなく息子です。」

そう告げた。彼女はどよめきと混乱と様々な感情に包まれていた。戦争をしたい人々は、反戦主義者であった聖女がいなくなると喜び、彼女の事情を知っていた数少ない人物は頭を抱えていた。


聖女は少し目に涙を浮かべていた。恐怖である。何を言われるか分からないとした漠然とした恐怖。それでも、聖女は涙を拭い言葉を続けた。嘘をついていた自分には涙を流す権利などないと考えながら、言葉を更に続けた。

「母の意思を継ぐために、みんなを騙して……そのことを隠すために多くの人に迷惑をかけました。だから、今回の騒動もそのことが原因です。きっかけです。だから……」

それでも、言葉を詰まらせてしまった。


聖女は振り絞るように

「だから…」

そう言いかけた。会場は割れていた。聖女を擁護するもの。聖女を批判するもの。聖女に逆ギレするもの。様子を見ているもの。先ほどの静かな状況と変わって会場は混乱の渦にあった。皇帝陛下もこの状況を制することが不可能と感じたのか様子を見守っていた。


その混乱を止めるのは簡単ではなかった。

『めんどくさいな。こんなことするタイプでもないし、ああ本当にフロスト地方なんかに行ったからだ。』アスランは心の中でそうつぶやくと、


「ああああ」

大声をあげた。視線を集めるには大声でも出せば良いのじゃないかという適当なライトのアドバイスが役に立てながら、アスランは視線を集めた。観客の意識を集めた。


「なら、俺の罪は、それを知って君を聖女と言ったことだ。だから、俺にも罪はあります。皇帝陛下私も裁いてください。」

そう、叫んだ。アスランも覚悟を決めたのだ。


「何言ってるの?アスラン君。僕はそんなこと望んでない。」

聖女は、素に戻りつつ、そう声を挙げた。聖女の犠牲を無駄にする行動だった。下手をすれば全てが台無しになるかもしれない行動だったが。


「では、聖女様。私の罪は、嘘をついていたと告白した聖女様のことをまだ聖女様と思っていることですか?皇帝陛下私も裁いてください。」

観衆からそんな声が聞こえた。全く関係のない一般市民の声だった。


「えっ?」

聖女の眼には水が溜まっていた。それは、さっきとは違う意味の涙であることは明白だった。


声は一つで止まらなかった。

「では、俺も罪を裁いてください。」

そう声が続き、「俺も」「私も」「僕も」その声は会場の8割を占めた。その中には普段は厳しい戒律の中で生きている宗教家の姿もあった。そうなった理由は、普段の聖女の努力の賜物だった。彼は、性別や出生など関係なく、もうすでに聖女であったのだ。


様子を見ていた皇帝陛下は、バレない程度に小さく微笑んだ。

「なるほど、これでは罪を裁く人が多すぎて、裁ききれそうにない。では、ひとまず、皆の罪と聖女の罪は不問とする。その代わり、聖女としての役目を全うしろ。」

そう皇帝陛下は目を涙で濡らし、赤くしている聖女に告げた。


しかし、それでも諦めない人物がいた。

「ですが、皇帝陛下。教会には教会の伝統が。」

枢機卿がそう声を上げた。


しかし、この流れはその程度で止まるものでは無かった。

「そもそも、聖女や聖人、勇者や英雄を決めるのは教会の役目か?否、それを決めるのは、教会でもなく、もちろん私、皇帝陛下でもない、君たちだ。私は、彼を聖女であると思う。そこで、私は皆に問いたい。彼は、聖女であろうか。」

皇帝陛下は、枢機卿の言葉に対してそう言葉を返した。そして問いかけた観衆に。観衆の答えは分かっていた。


「「もちろんです、聖女様は聖女様です。」」

多くの観客の声が会場に響いた。それから、聖女に対する賞賛の声が会場に響き渡った。


皇帝陛下は、その中を歩き、聖女とアスランに近づき全員に聞こえるように

「そういうことだ。」

そう宣言した後で二人にだけ聞こえる小さな声で

「聖女君は、策士なのか、それとも日頃の行いか。この国のは素晴らしい人物がいるよ。アスラン君も、皇帝陛下に愚問という度胸は素晴らしいと思う。だが、帝国軍はクビになるだろうな。聖女騎士団を設立を許可するから団長でもすると良い。」

そう語りかけて、それから一つ咳ばらいをして


「では、ギゼンを捕らえに行こうか。」

そう宣言した。

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