フロスト地方への来訪者2
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ギルドでは、数人の鎧を着た人々が説明をしていた。ギルドの中には、恐らくほとんど全て、この地域で住んでいる人がいて今までで一番人がいた。ライトとエマは、説明をする騎士から最も遠い位置にいた。話の内容の8割は済んでいた気がしたが、話はまだ続いていた。
「話長いな。」
ライトは退屈そうにつぶやいた。
「うん、でも、そういうものだよ、ライト君」
エマも、退屈そうに呟いていた。
「まあ、そうだけど、つまりこれから氷結の魔物の調査をしてくるから、それから作戦を立てるって事でしょ。それを伝えるために大げさすぎない?」
ライトはもはやただ言いたいだけだった。文句を言いたいだけだった。まあ暇であるからしかたない。
「それは、体裁だ。軍は体裁があるんだ。」
そんな風にナチュラルに話に覆面の料理人が入ってきた。ほとんどしゃべることがない、彼がいきなり話に入ってきた理由をエマとライトは不思議に思ったが、それを聞く必要性も特に感じなかったのでナチュラルに受け入れることにした。
「そうなんですか。それで前から聞きたかったんですけど、名前なんて言うんですか?」
ライトは気になることを尋ねた。名前を知らなかった。全員が何故か覆面の料理人と呼んでいたのだ。
「…………俺か?名前は…………ベルゼ」
少し間をおいて、そう答えた。覆面で表情は全く見えないが、困っているように見えた。
「妙にためて喋りますね。」
ライトは少し笑いながら適当に言うと。
「………気にするな。ちょうどよい、ろくに君たちは、騎士の話を聞いてないようだから別の話をしよう。」
そう、覆面のベルゼは話を変えた。
「別の話ですか。」
そうライトが答えると
「ああ、あのアイの話だ。あいつの身体構造は可笑しい。正確に言えば魔力の流れが可笑しい」
そう覆面のベルゼがつぶやいた。
「魔力の流れ?」
ライトは首を傾げた。
(魔力の流れ?何それ?体内を循環している魔力の事?確かに感覚的には、身体中を魔力が流れている気はするけど。)
「ああ、俺は、魔力の流れが見える。」
そう覆面のベルゼがつぶやいた。
「…………何いってるんですか?」
ライトは、意味の分からないことを言われて混乱した。魔力の流れ見えるということが意味がライトには分からなかった。そもそも、魔力の流れという概念を理解していなかった。
「何って、魔力の流れが見えるってことですよ、ライト君。」
対照的にエマは、理解していた。
(マジで、どういうこと?)
ライトは混乱していたが、話をここで大量に止める分けにはいかないので
「???僕がおかしいんですかね。…………まあここで止まってても話も進まないので、とりあえず、すすめてください」
そう言って一度疑問を飲み込んだ。
「ああ、アイの奴は、普通の人間の魔力の流れと異なり、流れがぐちゃぐちゃになっていて、まるで魔術式のようになっている。」
覆面のベルゼがそう言った。
(つまり、普通の人と違うってことか。)
ライトはその程度しか理解できていなかった。
「確かに言われればそうですね。でも、そんなに言うことですか?ライト君も変ですよ。」
(マジで)
ライトは、ただ驚くしか出来なかった。
「ああ、だからそれもあってライト、お前に話すことにした。」
そうベルゼが言ったが、ライトに取ってはそんなこと言われても、何も知らない状態であった。
「ちょっと、待ってください。僕の魔力の流れも変なんですか?」
とりあえず、ライトは自分の状況から理解することにした。
「なんか、ライト君の魔力の流れ、二種類の魔力が流れてる的な、私の魔力の流れと違うんだよ。」
そう、エマが身振り手振りで何となく説明をした。
(二回目の人生だからか?なるほど、でも今のところ、それ以外で転生したメリットを得られてない気がするけど。まあうん、しょうがないよね。この世界も文化は発達しているし、化学技術は、知識で分かってもそれを活用する技術は僕にはない。……違う、今はそんなことを考えている暇はなくて、まあ、魔術式みたいなら見たら分かるでしょ。)
余計なことをライトは考えつつも少し納得した。それから、一応アイの状況を確認するために尋ねた。
「そうなんですね。えっと、それで一応、アイさんの魔力の流れ書けたりしますか?」
すると
「「無理」」
そんな風に綺麗に声がシンクロして、シンプルな返事がやってきた。
「何故?」
ライトもシンプルにそう返した。
「複雑すぎて描けないんだよ、ライト君。無理、絶対に無理って感じ。ライト君は魔力の流れ見えないんだね。」
「じゃあ、この話何の意味もなかったですね。僕、魔力の流れとか分からないですから。まあ、なんかあったらその時に考えるしかないんですよ。」
ライトはそう言って話を終えた。
「そうか、それはすまなかった。」
ベルゼは去っていった。
それからしばらくライトとエマが駄弁っていると
『この厄災級の魔物の討伐はこの地方の領主であるカール家当主の承諾も得ている。』
そんな騎士の声が聞こえた。
「そういえば、誰が領主になったのかな?」
ライトは適当にそうつぶやいた。あまり興味はなさそうだった。
「普通に長男さんか、長女さんだと思うよ。うん、でも可笑しいよこれは、ライト君。フロスト地方の土地の権利を持ってるのライト君だから、ここの領主ってライト君が正解じゃないの?だから本当はライト君の許可をもらわないとじゃない。」
エマは、ふと気が付いてそう言った。実際、その通りだった。フロスト地方は寒さで不毛の地だが、面積などを考えると領主を名乗ることも、帝国が認めれば貴族になることも出来たのだ。
(ああ、確かに、でも、まあ)
「…………確かに。まあ面倒だからなんでも良いよ。それに領主とか嫌だから。もし領主なら誰かに押し付けたい。」
ライトはそんなことどうでも良かった。領主とか面倒だからやりたくなかった。
「私は嫌だよ。領主。」
エマも首を横に振った。
「知ってる。絶対にエマには向いてないし。」
「……それは、正論なので、まあ何も言わないけど。でもなんで領主嫌なんですか?ライト君は、出来ると思うよ」
エマは何となくそう尋ねた。
「僕旅行とか行きたいのよ。」
それにライトは、適当に返した。旅行に行きたいのは本当だったが。
「そうですね。今度行きましょうか何処かにライト君」
それにエマが乗って領主の話は流れた。
「暖かいところが良いね。」
ライトは、南国を思い浮かべた。具体的にはハワイを思い浮かべていた。なお、ライトは前世でも行ったことがないのでただの空想だが。
「旅行に行くためにも、厄災の魔物を頑張って倒しましょうね、ライト君。」
そう、エマがファイティングポーズを決めると
「ちょっとやる気になったよ、エマ」
そう、珍しくこのような行動に返信するタイプでないライトもファイティングポーズをした。
「それは私との旅行が楽しみって事かなライト君。」
少しはしゃいでいるライトを見てエマは尻尾を上機嫌に揺らしながら、ニコニコ笑いながら呟いた。
「………暖かい所に行けるのが楽しみって事。エマ」
ライトは、半分の本音を隠して半分のみの本音を話した。
「まあ、どっちでもいいですけど。」
エマは上機嫌に笑った。




