魔王3
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「はい、パンチ。」
魔王はヘラヘラと笑いながらライトを軽く殴った。その一撃は、ライトに見えないほどの速さで繰り出された。防御をすることが出来なかったライトは、後方に飛び、数棟の新しく建てたフロスト地方の建物にぶつかり、破壊した。勢いはまだまだあったが、結界の能力によって、強引に動きが止められた。
結界の外では、エマが「ライト君」と叫びながら、ライトたちに近づこうとしたが結界に阻まれていた。
(見えない。技術とかそう言うのは多分もう、関係ないレベルで魔王の身体能力が高い。異常だ。まずな。)
「弱いね。えっと、なんて名前だっけ?まあ何でも良いけど。弱いね。」
魔王は、吹き飛ばされて、血を吐いているライトの元に一瞬で距離を詰めた。恐らく地面を蹴って移動したのだろう。蹴った地面は凹み移動したことによって衝撃波が飛んでいた。
「おっお前は、転生者か?」
ライトは、時間稼ぎと情報を集めるためにそう痛みを堪えながら呟いた。
「良く知っているね。そう、俺は転生者。まあ、今はその領域を超えて神様だけど?」
魔王は、少し驚きながらも不気味に笑っていた。
「神様?」
(マジで、どういうことだよ。)
ライトは、思考を巡らせながら何とか立ち上がった。
「ははは、まあ、教えてやるよ。俺の魔王の伝説を」
魔王はそう言いながらライトを蹴飛ばした。今度は、遠くに飛ぶ前に他の方向から打撃を加えて、その場に留まるようにライトを蹴りながら話始めた。
(あっ、死ぬ)
ライトは、そう一瞬思ったが、何とか痛みに耐えながら、魔王の言葉に耳を傾けた。
魔王はライトに攻撃を加えながら語りだした。
「俺は、元の世界で酷い目にあっていた。俺は才能ある俺は嫉妬されて冷遇された。そして、まあいろいろあって死んだ。その時に神と出会った。神は、俺にこの世界に封印されている他の神の勢力を滅ぼす事を条件に、能力を一つをまず前払いに渡された。そして滅んだら、願いを何でも叶えてくれるらしかった。」
(やっぱり、僕が異常なのか?僕は神に会った記憶なんてない。それに能力って何?他の神の勢力を滅ぼす?意味が分からないけど。でも、間違えなく、こいつに能力を渡した神は失敗してると思う。)
ライトは、痛みに耐えながら思考を巡らせ続けた。前身はもうボロボロで骨は間違えなく折れていた。
「俺が貰ったのは、相手から良い印象を抱かれる能力。ほかの人が俺を見たら、俺は理想的な人物で、俺の行動は理想的に見えるようになる能力を貰った。俺は、この能力で人生を謳歌した。それに、まあ神様との約束もそれなりにやった。しかし、途中で気が付いたのだ。」
(なるほど、一つ能力が判明した。まあ、だから何って話だ。ピンチなのは変わらない。まずいな、まずい。どうする?考えろ。僕が今持っているのは、剣と魔法の杖。いや、魔法の杖は落としてしまって、手元にはないから。あるのは剣だけ。でも、多分魔力を込めて形を形成する暇はないから。ただの小刀。これで何が出来る?)
ライトは全身打撲で死にかけだった。でも、不思議と思考力は落ちていなかった。
「俺が神になれば願いを叶えたい放題なのではって」
(やばいな。)
「まあ、それで、神を殺した。そのために、強靭な肉体や、神を殺すための駒を手に入れるために時間を使ってしまったけど、神は殺せた。神の力も手に入れた。」
(ああ、なるほど、この魔王は、文字通り神様なのか。神か、神の能力を持っているのか?こいつは、神様も生物かな?生物だと信じて戦うしかないか)
この時、ライトの身体はボロボロで痛みを感じていない部分は無かった。
「でも、結果としては失敗だった。神様も自由に願いを叶えられないらしい。他の神が邪魔らしい。だから、他の神を殺すために魔王軍を乗っ取り魔王になることにした。俺が、この世界を理想の世界に変えてやるよ。お前は、俺の理想の世界で奴隷としての人生でも送るか?」
魔王は、そう言って笑いながら話を締めくくるとライトを空中に蹴り上げた。
圧倒的な実力差があった。
空中から地面に落ちるまでの数秒間ライトは考えた。その数秒はライトの人生の中で最も長い数秒だった。
(魔王は、どうやらこのまま地面に僕が落下してくるのを待つらしい。まあ、この高さだったら、下は雪だし、いや関係ないか?でも、多分死にはしないだろう。まあ、死にかけると思うし動けなくなると思う。
いや、ここでマイナスな事を考えても意味がない。動けたとして考えよう。まず、魔王は、万全な状態の僕の剣で斬ることは出来ない。杖も時間も無いから魔法は無理だ。今、僕の手元にあるのは、小刀状態の剣だけだ。ああ、もう賭けに出るか?まあ、賭けに出て勝つしかないか。エマと旅行に行かないと行けないし、スローライフも出来てないしね。)
ライトは、小型を抜き笑った。
落下したライトは、全身を強く打ったが、まだギリギリ動くことが出来た。だから、ライトは無理やり自分の体を動かし起き上がった。それから、目の前の魔王に向かって言葉を放った。
「つまり、自分の都合の良い世界を作るってことですよね。でも、それで作った世界にいるのは君だけでは?君の思想を反映したある意味君だけの正解。そもそも前世で才能無かっただけじゃない?それに今の君の力って君由来のものある?全部貰い物でそれでおままごとして恥ずかしくないの?」
ライトは煽った。口や目から血を吹き出しながら、渾身の笑顔でそう言った。
「うるさい、俺は」
魔王はその煽りに乗り、ライトを蹴ろうとした。その時には、もうライトの攻撃は終わっていた。同じタイミングで動き始めたら、ライトが魔王の速度に勝てないが、初めから、ライトは攻撃を狙っていたら速度で勝てるのだ。最後の攻撃のために、適当に煽って目の前の魔王の口を開けさせる必要があったのだ。
ライトは持っていた剣を魔王の口、目掛けて全力で投げた。外部よりも内部の方がまだ脆いと考えたのだ。確証などは無かったが、目の前の魔王の強度はもちろん素の部分もあるが、明らかに身体能力を強化する魔法を何かをしていた。しかし、普通内部までガチガチに強化しないのだ。だからライトは、それに賭けた。口から脳を突き刺すことを狙った。
「ダメだったか。」
ライトは、攻撃の結果を見て笑った。笑うしか無かった。魔王の蹴りがライトに当たり宙に舞い地面に倒れた。ライトが投げた剣は、魔王の喉に突き刺さりはしたが、致命傷までには至らなかった。
魔王は、結界を解除して、剣を引き抜き、自身の傷を治療した。ライトも、魔力量的には、余裕があった。傷を治すことが出来たが、回復魔法を行う動作など出来ないぐらいにボロボロになっていた。もう、1ミリも身体を動かせなかった。
魔王は、引き抜いた剣を投げ捨てて、それから引き攣った笑顔でライトを見た。
「はあ、ああ落ち着け、俺。まだこいつは殺せない。ふう。まあとりあえず、君の負けだよ。名もなき少年よ。」
ライトは完全敗北した。




