08 依頼
そんな感じの穏やかながらも楽しい日常。
しかし、平穏な日々が続くほど大きな反動が来るというのが、異世界生活のお約束なのでしょうか。
きっかけは、イリーシャさんからの手紙でした。
スーミャルシア様を助けてほしい、という切実なSOS。
姫さまからの手紙の方には、困りごとなどカケラも記されていません。
ただ、あの姫さまは、すっごく我慢強いのです。
何せ生まれる前からずっと悪意に晒されっぱなしで、身近で頼りになるのはイリーシャさんだけ。
そりゃあ我慢強くも育ちますよ。
そして今は、唯一の女王候補。
王宮内のごたごたは片付いているはず、だったのですが、新たな問題発生。
残存している反対派勢力がちょこちょこ嫌がらせしてくるらしいのですが、なぜか、即 撤退。
どうやら、僕が姫さまに付与した『呪い知らずの健康体』が、仕事し過ぎてるようでして……
"これからの呪いは即 三倍返し"と、補足で付け加えたのですが、
なぜか呪いだけではなく、悪意も跳ね返しちゃってるみたいで。
つまり、姫さまに悪感情を抱くと、即座に精神的ダメージが返ってくるのです、しかも三倍返しで。
そのせいで姫さまは、王宮内で今まで以上に孤立してしまっているのだそうです。
その上、いわゆる中立派の方々からも距離を置かれているようで。
……僕のせい、だよね。
うん、自分の不始末は自分で解決しなきゃ。
というわけで、まずはタリシュネイア王国訪問の準備を始めました。
今回は僕個人で勝手に『転送』するのでは無く、正式な手続きで入国したいと思います。
陰でこそこそ動くよりも協力関係を明確にした方が、今後も姫さまのお役に立てそうなので。
それなりに有名になった、僕の"仙人"としての立場を利用するのです。
僕のいるエルサニア王国と姫さまのタリシュネイア王国は、正式には国交が結ばれておりません。
タリシュネイアへの入国許可を得るためにエルサニア城を訪れた際、ツァイシャ女王様から釘を刺されました。
『この件は、エルサニア王国としては出入国手続き以外は一切協力出来ません』
『私の友人スーミャルシアを救ってくださいとしか言えないのです』
ツァイシャ女王様の近衛騎士『七人の戦乙女』の団長ベルネシアさんとイリーシャさんは武芸者として古くからの友人で、その縁でツァイシャ女王様とスーミャルシア様の交流が始まったそうです。
孤立していたスーミャルシア様を励ますしか出来なかったこと、ツァイシャ女王様は悔やんでおられます。
今も、表立って支援出来ないことを、悲しんでおられるのです。
初めてお会いした時、女王様やベルネシアさんたちからハグの嵐だったのは、僕がスーミャルシア様の命を救ったから。
スーミャルシア様のこれからの幸せのためにも、今回の任務、責任重大です。
大昔の人族と魔族の戦争終了後、魔族は大陸の中央に大規模な結界を張って魔族領としました。
基本的には外界との交流は制限されているのですが、物流や個人としての行き来はそれなりにあるのだそうです。
現在も結界の外の国々とは正式な国交は結ばれておらず、国家間の争いごとが起こりそうな場合に限り協力しましょうという約束があるのみとのこと。
そういえば、モノカさんたちの武勇伝にそういう出来事があったような……
僕個人としてひとりで入国する予定だったのですが、心強い助っ人登場です。
詳しい事情を知ったプリナさんが、同行を願い出てくれました。
貴族のしがらみに翻弄されたプリナさんには、スーミャルシア様の境遇は他人ごとでは無いのです。
「私には姫様を励ますことくらいしか出来ませんが……」
いえ、きっとすごく仲良しになれますよ。
それに、どちらかと言えばプリナさんの方がお姫さまっぽいですし。
「……」
あー、やっちゃったよ。
我ながら、この期に及んで空気読めない発言炸裂ですよ。
ごめんなさい、プリナさん。
出来れば姫さまには内密に……
「先ほどの発言については、スーミャルシア様の判断を仰ぐ、ということで」
勘弁してくださいよぅ……




