16 変化
とても良い感じの引きこもり生活が出来ております。
時々"仙人"としての仕事に出かけるくらいで基本我が家に入りびたりなので、まだ引きこもりを自認しても問題無いですよね。
プリナさんがツァイシャ女王様にご相談したのは、この家を取り囲んでいる森について、でした。
ここはエルサニア大森林と呼ばれている深い森なのですが、
最近ちまたで評判の"若仙人"さまに願いを叶えてもらおうと、無茶して森に侵入する人たちが急増中、だったようなのです。
元々魔物だらけの場所ですので、当然危険が危ない。
遭難者多数で冒険者ギルドに捜索依頼が殺到、という困った事態に。
そんなわけで、我らがプリナさんが一計。
大森林を丸ごと王家直轄にして、立ち入り禁止にしちゃおう作戦。
正確には、立ち入りは許可制にして無謀な連中のみを排除、なのだそうです。
今まで生活のために森を利用していた人たちにはちゃんと許可が下ります。
そして不法侵入者排除の警備のお仕事が増えたおかげで冒険者たちもほくほく、なんですって。
さすがはプリナさん、クレバーで優しい解決法ですね。
もちろん、"若仙人"のところに連れていけなんて言う不届き者の依頼は、即、ギルドで弾かれるのです。
って、"若仙人"ってなに!?
あー、"仙人"なのに妙に若いので、親しみを込めて、ですか。
はい、親しんじゃってください。
どうせアクティブ引きこもり"仙人"を目指すなら、怖がられるより親しまれた方がマシです。
でも、お布施やお供えは勘弁なのです。
……
一緒に暮らしている皆さんも、各々ここでの暮らしを満喫中。
スーミャは、とっても良い子しております。
知り合いの皆さんへの挨拶回りの旅だけでは無く、日常的な買い物のお出かけでも、好奇心いっぱいで楽しんでくれております。
ただ、今まで我慢して暮らしていた分、もっともっとみんなに甘えても良いのではないかと。
押し付けがましくならない程度に後押ししましょうと、保護者一同で相談済みです。
元プリンセス繋がりでユイさんやエルミナさんが何かとフォローしてくださってますので、焦らず急かさず、スーミャのペースで、ですよね。
イリーシャさんは、大使のお仕事にも慣れて、のびのびとした護衛騎士ライフを満喫しておられます。
最初のうちはタリシュネイアから送られてくるぐだぐだした恨み節に神経をすり減らしてましたが、
今では自分なりのスルースキルをバシバシ使いこなせるようになり、
つまりは、スーミャのためならあんなお国なんて二の次三の次と、覚悟完了なのです。
ただ、隙あらば僕に勝負を仕掛けてくるのは、どうにかしてほしいですね。
何が目的なのでしょうか。
プリナさんは、とても頼りになるパートナーです。
僕が望む穏やかな暮らしを守るため細やかにサポートしてくれるのみならず、
引きこもり過ぎないよう手を引いてくれる積極性も遺憾無く発揮。
何と言いますか、気遣いされていることを忘れてしまうほどに心地良く気遣いしてくれるという、得難いパートナーなのです。
問題は、僕の方がプリナさんにとって対等なパートナー足り得ているのかということ。
何はともあれ、プリナさんに穏やかな暮らしを約束した以上、僕が出来ることをがんばるのみ、なのです。
……?
ところで、僕ってこんなキャラでしたっけ。
誰かを守るために自ら行動するとか、
誰かのために一生懸命がんばるとか、
少なくともあっちの世界に居た頃の伊深 裁理は、こういう人間では無かったはず。
そういえば、アランさんが言ってたっけ。
この世界に来てから、思考や感情を操作されているみたいだって。
どうしよう、けんちゃんに聞いてみた方が良いのかな。
まあいいか。
欲とか望みとかを持たないで静かに暮らすだけだった、あっちの世界の僕。
静かな暮らしを守るために、なんやかんやと厄介ごとに首を突っ込んじゃう、こっちの世界の僕。
精神操作か洗脳かは知らないけど、今が良ければそれで良しっていうお気楽思考なのは、変わってないよね。
というわけで、異世界冒険者サイリは楽しい引きこもり生活を守るために、今日も全力で"若仙人"としてのお仕事をがんばるのです。
目指せ! 異世界快適引きこもりライフ!
……えーと、これで終わりじゃ無いですよ。
先ほど、欲がうんぬんという話しをしましたが、僕なりに欲と言いますか、やりたいことが出来ちゃったのです。




