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時間魔法について

 時間魔法ってどういうものなのか?


 前に何かの漫画で見たことがあるのは、戦闘時とかに時間を一時停止して敵を一方的にボコボコにするものだった。

 でも私は時間そのものを止めたことなんかない。もしできるならしてみたいなあ。面白そうだし。


「時間魔法を持っていることについて、心当たりはありますか?」


 うつむいて考えている私に、司祭のおじさんの声が聞こえる。

 思い返してみれば司祭のおじさんの私に対する言葉づかいはずっと丁寧だった。

 この人には最初からわかっていたからだ。この体が100年前の人間「ヴィエナリリア」だということが。


 心当たりと言っても私には魔法を使った自覚はない。でもあのケガの自動回復は、この体が持っている時間魔法によるものと考えれば納得はいく。


 私は小さくうなずいた。


「では、できるだけ隠しておいたほうがいいでしょう。特に魔法使いには」


 どことなく不穏なものをおじさんの言葉に感じて、私は顔を上げる。


 最初に聞いた話で魔法使いは寿命を延ばしたがっていると言っていたけど、他人の持っている魔法も欲しがるのか。であれば想定上で一番最悪なのは、時間魔法プラス命を奪われることだろうか? 

 この世界に魔法を奪う魔法が存在する可能性は否定できない。

 そんなの怖すぎる。できるだけ欲の深い魔法使いとは関わらないようにしないといけない。


 だけど時間魔法がレアな魔法なら余計に狙われることになるだろう。

 そこらへんは確認しといたほうが良さそうだ。

 私は司祭のおじさんに質問した。


「あの、時間魔法って珍しいんですか?」

「……ええ、そうですね、それはもう」


 司祭のおじさんは遠い目をする。


「古代の大魔道師“アディラジーン・マーストゥン”が最後に到達したと言われる魔法です。彼はこの魔法によって1000年以上生きたそうですから、魔法使いであれば誰でも嫉妬するでしょうね。私も……正直に言うと羨ましいと思っています」


 せ、1000年!?

 いやそれは盛りすぎじゃない? そんなの誰も確認なんてできないわけだし、本人が適当に言ったのを皆が信じてるだけじゃないの?

 私は信じたくない。この体が100年前からあるというのも信じ難いのに、1000年なんてもっと無理だ。


 そんなことよりも私には気になることがあった。


「“マーストゥン”って……」


 さっき同じ名前を聞いたことに気が付いて私は首をかしげる。ヴィエナリリアの親戚の人だろうか。


「古代語で“時間を紡ぐ神”という意味の言葉です。アディラジーンはこの称号を好んで使っていたそうです。あなたの名前にも同じ言葉が付けられていますね。おそらくあなたの名付け親は、あなたが時間魔法を持って生まれてきたことを知っていたはずですよ」


 司祭のおじさんが詳しい解説をしてくれた。ありがたい。でも内容がとんでもない。


 真名の魔法、恐るべしだわ。見るだけでここまでの情報を得ることができるなんて。

 それにしてもこのヴィエナリリアさんは結構とんでもないレア魔法を持って生まれてきたようだ。それが良いことだったのか悪いことだったのかはわからないけど。


 何となく疲れてため息をついた私の前に、司祭のおじさんは布でつつまれた大きな板のようなものを出してきた。


「これはこの神殿の物置の隅に置いてあったものですが」


 板のようなものを床に置いて壁に立てかける。

 ゆっくりと包みの布を外すと、中には肖像画があった。

 若い男の人だった。ありえないくらいのイケメンで、この体に似た髪の色と光の粒が散っている緑の瞳。


 私にとっては知らない人のはずだ。でもその肖像画を見たとたんに何かが自分の中で「はまった」ような感覚があった。

 ああ、そうだったんだ。謎が……答えがわかった。ずっとモヤモヤしていたものの正体がわかった。


 肖像画に描かれるくらいなんだからこの人は権力者に違いない。そしてこの神殿とこの人物は何らかの関係があった。事情があってこれを飾っておくことができなくなったから物置に隠されていたのではないか。

 たとえばその人物が、元領主様であって王様に反逆してしまった人だったりして。

 そしてフィヴライエの名前を持っているこの体と同じ髪と瞳の色。


 これはヴィエナリリアの父親である、フィヴライエ伯爵の肖像画なんじゃないか。そしてヴィエナリリアは聖女ヴィエナレーリィの姉妹。


「あの、ヴィエナレーリィ様とその母親のティファーナ様は似ていたかどうかご存じですか」


 司祭のおじさんに聞いた途端、私は何かちょっと嫌な感じがした。具体的には言えないけどかつてとても嫌な思いをしたことがあるような、そんな不愉快さだ。

 司祭のおじさんはあっさりうなずいた。


「よく似ていたようですね。どの文献にも、そっくりだとか、生き写しだとありますので」

「そうですか。……父親が誰であるか、気にならないくらい似ていたのでしょうね」


 司祭のおじさんの返答に私は確信していた。

 なぜ聖女がヴィエナレーリィでなければならなかったのか。

 髪と瞳の色を含めて、元王女である母親とそっくりであること。それは元王女としての王族の権威を利用するためには必須だった。


 そして、あの絵本だ。

 『聖女ヴィエナレーリィさまは、大司祭さまと王女ティファーナさまとの間に生まれたこどもで』と書いてあった。

 司祭のおじさんによるとそれは嘘ということだったが……。

 それが本当なら、嘘を堂々と後世に残るものに書いているということではないか。

 子供の頃からそうやって嘘を教えておけば、当時のことを知らない人たちの間ではそれが真実になっていくんだろう。


 なるほど、なるほど。

 てことはこの「大司祭さま」ってのが、黒っぽいな。


 だって嘘の内容を高価な本に載せられるってのは権力者じゃないとできないことだ。

 しかもそれから100年という長きにわたってお飾りの聖女様を利用し続けている。それによって得をしているのは……水の神殿だ。


 当時の水の神殿の大司祭。こいつはどう考えても臭い。


 私は上目遣いで司祭のおじさんを見上げて、


「あの、司祭さま、100年前の水の神殿の大司祭さまのことを、調べることはできますか?」


 と、あざとい感じで聞いてみた。美少女にこんなんされたら、おじさんだったらお願いを聞いてくれるはず。 

 どうだっ!


「……どうしてそんなことを?」


 司祭のおじさんは眉をひそめて、不信感を隠そうともせずに私の目を見る。


 あんまりどころか全然効いてないじゃん。

 おかしい、ファンタジーものの聖職者って大概ちょろいのに、どうしてこいつに限って真面目なんだ。


「その人が怪しいなあって、ええと、勘? です」


 まさか12歳の子供が「こいつが黒に違いない」なんて持論を披露するわけにもいかないので、あいまいな言葉で濁してみた。


 ところが、濁せていると思ったのに司祭のおじさんはさらに険しい目になっていた。

 あれ、なんか地雷を踏んでしまったのか。

 司祭のおじさんは詰め寄るように私の近くに寄ってきて言う。


「ヴィエナリリア様、あなたはまさか、記憶が戻っているのですか?」

「えっ? いいえ?」


 私はあわててブンブンと首を横に振った。

 何だこのおじさん。この体の記憶が戻っていたら何かまずいことでもあるのか。


 だいたい記憶が戻るも何も私はヴィエナリリアではないのだ。元々ありもしない記憶が戻ることなどありえない。


「そう、そうですね。すみませんでした」


 司祭のおじさんはバツが悪そうにうつむいた。


「ティファーナ王女の名前を呼びながら泣いていたと、報告があった時から危惧していたのです。あなたはすべてを忘れてしまっているわけではないのだと」


 おじさんは私の両肩をつかんで、私の目をのぞき込む。その鋭い眼光はヴィエナリリアではなく「私」を見ようとしているように思えて、私は心の中で震え上がった。


「ですが、お願いです。どうか今は、都には近づかないでいただきたいのです。聖女様が替わられたことと、その後あなたがここに現れたことは、私には無関係であるとは思えません。あなたの時間魔法は」


司祭のおじさんはそこで言葉に詰まったように私から目を逸らした。なに? なんなの?


「……狙われているからです」


おじさんの声は低く響いて、私は冷や汗が背中を伝うのを感じた。


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