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Story6 「弱くなる心」

大切なものを自覚してゆく天音

しかし彼はそれが消えてなくなってしまうことが怖くなっていった

そんな中彼はとある少女のもとへ向かう─

 大切なものが増えたというのに、心が弱くなっていることに天音は戸惑いだし、しかし時間は天音の心など知りもせずに動き続けるので、

 戸惑ったまま日常が動く

 

 明くる日も、明くる日も、友人や、家族を愛おしく思えば思うほど、失われることが怖くて怖くて、ひどく苦しくなる。

 何かの病気かと疑ったが、医者には異常はないと言われ、胸の苦しさで毎晩息ができなくなる。

 

 夜が怖い

 とは違う

 人と触れ合うのが日中だから、愛しさを感じた分の返しが来るのは夜になるに決まっていた。

 

 今の天音にはみんなが大切で、愛しくて、でも胸が苦しくて、息ができない。

 

 心が弱くなっている…

 

 前までは、愛なんていらないと思った心が、愛してほしいと望んでいる。

 前までは罪悪感だらけだった夜が、自分以外の何かのせいで壊される日常を恐れる夜になってしまった。

 前までは一人の方が良かったのに、誰かといたいと思ってしまうようになった。

 

 守りたい、壊さないでほしい

 

 壊す脅威となるものは何もないのに、失われることを前提として考えてしまう

 

 いつも最悪を考えていたから

 

 壊れてしまったら自分は耐えられないと思って、

 

 自分が守らなきゃいけないのに、こんなにも弱くなってしまった自分では守れないのではないかと、

 

 ひどく苦しい

 

 そんな夜を

 

 何日か過ごした

 

 そんな孤独を一人で抱え続けて、毎朝必ず鏡で目元が腫れていないか確認するほどだった

 

 こんなに苦しいなら

 前のままでよかったのかな

 

 ******

 

 ある日の放課後

 

 ある病院の

 

 ある病室に

 

 天音はいた

 

 

 病室のドアには【飛沫しぶき 日登美ひとみ】と書いてあった

 

 その病室はベットが一つあって、ベッドを囲うカーテンが閉じられていた

 夕日に照らされて、カーテンに2つのシルエットが浮かんだ

 

 一つは天音

 

 もう一つは肩までの長さの髪の女の子だった

 

 その子が日登美

 瞳の色がわからない、その瞳は、薄い瞼と、金糸のまつげに隠されていた。

 日登美は寝たままであった

 眠ったまま

 しかし美しさに翳りがない寝顔は

 そこだけ時が止まっているようだった

 

 日登美の病室に飾ってあるのは日登美が天音と同じくらいな年齢に見えるのに対して少々不自然なものであった。

 子供用の塗り絵、クレヨン、折り紙、ここまでは指先のリハビリなどに使うという理由が明確だ、しかし、おもちゃの人形、可愛いぬいぐるみ、ランドセル、小さなワンピース等々。

 年齢にしては似つかないものが多く病室にあった。

 その病室にきれいに眠る日登美を天音は見つめていた。

 

 このまま起きないのかななんて、何度思っただろう

 もう一度会いたいなんて、もう何百回も

 

 その空間のときが止まったように、天音は瞬き一つせず、日登美の麦畑の稲穂のような黄金の髪を指で少し梳いてやって、優しく日登美の手を握る。

 

 天音にとって日登美がどんな存在なのかはまた今度。

 

 でも大方察しがつくのだろうか

 

「…起きてる?  …」

 静かな声で眠り続ける日登美に語りかける天音は、眉を下げ、瞳に期待を少しだけともした。

 

「…そんなわけ、ないか」

 

 とても小さな声で、そう呟く。

 天音は毎月通っていた。

 

 今日はお見舞いの花束は菫だった。

 その前の花束は、もうなくなって片されてしまっていた。

 枯れてしまったから仕方がない。

 天音が花瓶に差した菫は夕焼け色に染まっていた。

 

 彼が月に一度ここへ来て、何をしているのか、

 それは誰も知らなかった。

 

 すると天音は、寝ている日登美に話しかける

「…日登美、聞いてよ、

 最近、夢を見たんだ、澄鏡っていう人の夢。あの人は僕に自分のことを覚えていてっていったんだ。なんでなんだと思う?僕、それがわかんなくて、困ってる。

 でも、…あの人は、僕のことを大切に思ってくれる大切な人なんだ、だからあの人の言いたかったことを理解しなきゃいけないのに、あの人の望んだことを叶えなきゃいけないのに、わかんなくて、でも、もう一回聞けるわけじゃないんだ、…もう会えなさそうなんだ…でもね、でも、もう会えなくてもいい、それでもいいよ、けど代わりに僕は、最近、彼を理解するために彼についての本みたいなのを書いてるんだ。

 あの人について、だんだん薄れていく記憶を呼び起こして、書いてるんだ。

 忘れない…あの人が望むなら、忘れない…

 

 あの人が、僕を変えてくれたんだ。

 夢の中の人なのに、妙に現実じみていたよ。

 でも、存在しなくても…忘れたくないんだ…

 

 忘れたくないんだよ…日登美…

 

 でもね、僕、最近、ようやく罪悪感から少しだけ…解放されたのに、

 

 なんだか弱くなってしまったみたいなんだ…

 

 大切なものは邪魔なの?

 愛おしすぎて、傷つけたくないよ…。

 壊されてしまうのか不安で不安で…

 

 なのに、心は僕の意思に反して家族とか、友達のことをひどく愛おしく思ってしまうから…

 

 もっと怖くなる

 

 みんなもそう感じてるのかな?

 おかしいよね、せっかく心が成長したと思ったのに、

 どんどん怖くなっていっちゃうんだよ…

 強くなって、みんなを守りたい。

 なのにほんとの自分はこんなに弱くて…

 無力さを痛感するよ、

 こんなに弱かったとは、思ってなかったな

 

 今までと背負うものが増えすぎたのかな

 

 何もない心に、詰め込みすぎて溢れた愛を、取りこぼしたくは、ないんだよ、なのに、

 

 嗚呼、僕はつくづく自分が嫌いだな

 

 前まで感じていた罪悪感を、今思い出したらきっと、前よりももっと辛くなる。

 前より心が弱くなったから。

 

 嗚呼…僕は…大切なものを作ってはいけないのかな…

 大切なものが多すぎて、うまく、動けないんだ…

 邪魔なのかなって思っちゃう…そんな自分も…すごく嫌いだよ…

 

 どうすればいいの…?

 

 日登美…」

 

 彼が毎月日登美のもとへ通ってしていることは、彼の心の整理のようなもので、日登美に自分の心を打ち明けて、朝が来ない日登美に、答えを得ようとすることであった。

 結局、日登美は何も答えることはできないため、彼は起きない日登美を見て、少し気を落とすだけだった。

 話しかけても虚しくなる、なのに人と話してしまうのは

 やっぱり…その愛おしさに気づいてしまったから

 天音はその後しばらく病院にいて、

 少し暗くなってきてから病院を出た

 

 ******

 

 天音は家に帰り、夕飯を食べた。

 せっかく会話をするようになったので、会話をすることを急にやめることはできない、だからその分、人と触れ合ってしまう。

 

 嗚呼また、愛おしさを感じてしまう

 

 こんなに後ろめたい人間なのに、

 

 愛おしいという感情がまだ残っているんだ…

 

 

 風呂上がりで自室に入った、そして、何となく彼は窓から覗く月を眺めた。

 月を見て、何かが、天音の琴線に触れたのか、月が天音にそれを気づかせたのかはわからない

 

 その金は、金よりも、銀で、星よりも、月だった。

 月だったのだ

 自分は輝けない月だったので

 星よりも金ではなく

 月として銀に輝くから

 

 今宵は

 

 新月だった

 

 天音の瞳が少し動く

 

「…僕は…」

 

 愛おしいという感情だけじゃない、

 辛いのにはもう一つ訳があったことに天音は気づいた。

 愛おしさに照らされて、見つけられなかった銀を見つけた

 

「…人の心に触れるたびに…」

 

 人と話す上で、相手と自分の中間値を見出して話さなければうまく会話は成立しない。

 だから人は人に合わせて、人と触れ合うのだが、

 

 今まで誰の心にも触れてこなかった天音は、

 人に合わせることで、自分と相手との違いを知らしめられたように、気付かされるようなことに、

 

 辛さを感じていた

「…みんなと違うのが、怖い…?」

 うまくわかっていない天音は、発した言葉が腑に落ちなかった。

 もう少し、違う言い方があるはずなのに…全然言葉が思い浮かばない。

 

 しばらく考えた末に

 

 まぁ…いいや…また明日考えよう…。

 夜に考え事は良くないな…。

 

 そう思い、髪を乾かして、授業の復習をして

 

 ふとした瞬間手を止めていて

 

 嗚呼、今日の授業も指されたな、なんて思って

 今度はこういうふうに、授業を受けようとか、思い出しては想像して

 学校のことを思い出して、

 友人のことを思い出して

 

 こんな夜はなかった

 こんな夜は無いはずだった

 

 でも確かにここにあるから

 

 天音はまた

 失いたくなくて、

 儚く見えて

 心細くなり、

 復習に手がつかなくなる

 

 気晴らしでもしようかと

 少しスマホをいじって

 

 ブルーライトに照らされた瞳は

 様々なメッセージを読み上げた

 

 友人からのメールとか、

 温かいメッセージ

 

 どこにいても

 誰かと繋がっているような心地で、

 

 こんなに温かい夜は無かったはずなのに

 これからもない予定で、

 なのにここにあって

 

 また怖くなって

 

 気を紛らわそうと

 

 澄鏡についての文を書き、

 また、手を止めていて

 

 今日の日登美の出来事を思い出して

 

 色んなことが頭の中によぎって

 

 怖さと愛おしさで

 心が埋まってしまっているという事だけしかわからなかった

 

 どうしよう

 愛おしさと

 恐怖と

 儚さと

 

 

 辛さが…

 あるなんて…

 

 何が辛いんだろう

 喉元まで言葉は来そうなのに

 うまい言葉が出てこなくて

 もやもやする

 

 この心の状態を形容できたら

 どんなにかスッキリして、原因がわかって

 

 心のもやもやが

 解決できることか…

 

 

 よし、やめよう

 

 寝よう

 

 そう思い

 彼は、部屋の電気を消し、ベッドに入り目を閉じた。

 

 考えないように、胸のもやもやをわざと無視した

 

 そんなことを思う自分は…と、大切なものに関して、ネガティヴな思いを抱く自分を嫌った。

 自分の、コバルトブルーを嫌った。

 

 寝なきゃ…

 

 早く…

 

 

 

 寝なきゃ

 考えるたびに

 虚しくなるだけなんだもの

 

 

 

 閉じた瞳に映ったのは

 

 

 瞼の裏だけの世界

 

 暗闇

 いろんなことがよぎるので全然眠れないと思っていても

 

 

 

 

 

 気づけば寝ていた

 

 

 

 彼は

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日、夢を見た

読んでいただいてありがとうございました

とうとう日登美が出てきましたね

日登美には何があったのか、天音との関係がどのようなものなのか

次回もお楽しみに♪

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