第九十八話 帝都ノ変(7) 変動と風来
怒号と砲撃音が鳴り響く戦場。
防壁の外は死屍累々と深紅の海へと変わる。
これまさに地獄なり。
衛兵「よーし!このまま守りきれば反撃に移れるぞ!」
帝都、義勇軍の連合軍の狙いはシンプルであった。防衛に徹して相手の力を消耗させカウンターを決める策である。
初戦は思惑通りの数まかせの戦法、これを返り討ちにし亜種族側に大打撃を与えた。
だが、戦況が激しくなる度に決起した義勇軍の中には、おぞましい光景にゾッとする者が増えていった。
男「これが‥戦争か。」
男「勢いで決起したのはいいが‥命の駆け引きは予想以上に重いな。」
男「‥平和に慣れてる証だな。」
男「良いようで悪いような‥。」
男「今更後悔してられないさ。腹決めろ。」
地獄の光景を目の当たりにして、気が引けるのは当然である。
しかし、もうじき反撃の白兵戦が始まろうとしていた。
男「えぇ‥腹を決めましょう。全員死ぬ覚悟を。」
一人の男が何かしらのスイッチを取り出し迷わず押した。
すると、壁が大爆発し多くの兵士と義勇兵が投げ出された。
男「なっ!?なんだ!」
警界官「このっ!大人しくしろ!貴様スパイだな!」
近くの警界官が男を取り押さえる。
その男は拳銃を所持していたようで、懐から転げ落ちた。
男「こ、この話せ!」
犯行した者は一人ではなかった。
各箇所で同じくスイッチを押したものが次々と拘束された。
戦況は大きく動いた。
壁は破壊され、白兵戦を余儀なくされた。
突然の爆発に混乱する連合軍。
辺りでは壁から投げ出された負傷兵を急いで救出に取り組んだ。
衛兵「怪我人を早く下げろ!」
衛兵「敵が雪崩れ込んでくるぞ!武器を持て!」
混乱を生めば敗北へと繋がる。
それを理解している帝国兵たちは士気を下げないよう声を張った。
シルバー「今の爆発は‥なんだ。」
栄角「‥これは火薬の匂い。」
景勝「まさか‥義勇軍に不忠者が紛れてたか。」
界人「景勝、俺は前線に行く総理を頼む!」
景勝「わかった。」
栄角「それには及ばない。景勝も行くのだ。己の身は自分で守る。」
景勝「‥わかりました。では、ご武運を!」
栄角「二人もな。」
栄角は敬礼をし見送る。
さぁさぁ、戦はここから本番である。
壁の爆発の瞬間は、亜種族陣営でも確認された。
アイシュ「な、なんの音だ!?敵襲か!」
リヴァル「‥魔法ではなさそうだな。」
ゲドゥルム「‥クンクン、火薬か。でも、誰が‥。」
徳川「始まりましたね。これで厄介な壁は崩れましたぞ。さぁ攻めるなら今です。」
リヴァル「この狸め‥やってくれるな。」
アイシュ「気が乗りませんが‥ここは早いところ制圧してしまいましょうか。」
ゲドゥルム「それなら、三人で行こう‥これ以上被害を出すのはまずいからな。」
徳川「それであれば、ここの守りはわしにお任せを。」
リヴァル「良いだろう‥お前ら行くぞぉ!」
亜種族側の総攻撃が始まった。対する連合軍も反撃攻勢に転じた。
界人「邪魔だどけ!敵方大将はどこだ!」
景勝「相変わらず刀握ると性格変わるな!」
界人「皮肉で不謹慎だが、戦はやはり面白い!」
界人は迫り来る亜種族ゴブリン種をなぎ払い斬り伏せている。
前しか見ていない界人に対して、景勝は周囲を分析しながら界人のおこぼれを処理していた。
そんなとき、帝国女騎士がゴブリンに押し倒されていた。亜種族のゴブリンは知能が低くが、野性的本能が強く、殺戮、強姦などにおいてはズバ抜けている。
女騎士「くっ!こ、この離せ!」
ゴブリン「キヒヒ!ぎゃひっ!?」
景勝「大丈夫かい?」
女騎士「す、すまない‥助かった。」
景勝「よかった。それより一人で戦わない方がいい、三人一組で動いた方がいいぞ。」
女騎士「あ、あぁ‥。」
流石に怖かったのだろう。
声に余裕はなく、少なからず震えている。
景勝「‥界人!先に行け!俺はここで奮戦して陣を押し上げる!」
界人「あいよ!油断して死ぬなよ!」
景勝「それはこっちの台詞だ!」
界人とそれに続く警界官と義勇軍たちは怒涛の勢いで突っ込む。
ここで景勝は考えた。
戦況を見る限り連合軍の足並みはバラバラだ。
さっきの女騎士様がピンチの時、誰も助けようとしなかった。いや、助けないと言うよりは前を見すぎて目に入らなかったのだと推測する。
こうなると女性を前に出すのはリスクがある。
差別するわけではないが、異世界の美女を慰みものにしたくはないし、傷物にもしたくない。
あぁ‥不思議と雪穂を重ねてしまう。
女騎士「あの!」
景勝「えっ、あ、どうしたの?」
女騎士「え、いえ‥急にボーッとしてたので。」
景勝「あ、こほん、失礼‥女騎士と女性たちは三人一組で動いた方がいい。あとなるべく男性の近くで戦った方がいいぞ。」
女騎士「‥そ、そのようですね。」
景勝「‥ふぅ、と言っても組む相手もいないか。仕方ない、俺から離れるな?」
女騎士「わ、わかりました!」
端から見ては若い子を誑かしたおじさんである。そんなシーンを景勝の仲間が冷たく呟く。
男「か、景勝‥お前‥雪穂さんが居ながら‥若い子を‥。」
景勝「ご、誤解するな!?これは保護だ!それよりお前ら、まわりに三人一組になれと伝えろ!あと、視野を広げて助け合え!」
男「‥そ、そういうことか、すまん誤解した!」
男「‥あはは、雪穂さんが聞いたら誤解でも凍りつけだろうな。」
景勝「そ、それもありだ‥じゃない!早く行け!」
景勝の指示に連合軍の足並みは後続から改善され始めた。
だが激戦区の先陣では、出会い頭の斬り合いが激しく、両軍の被害は大きく出ていた。
警界官「がはっ!?お、おさきぃ‥。」
ゴブリン「ケケケ!げぇ!?」
警界官「先に行かせるか!負傷者は後ろに下げろ!」
男1「くそぉ、やるじゃねえか!」
男2「銃とかが使えないのはきついな。」
男3「仕方ないだろ。ここでは銃のような近代武器は使えないからな!」
男4「ゲートを通ったら、近代武器が消えるって‥空港の手荷物検査みたいだな!」
男3「だけど例外に、中世ヨーロッパと戦国時代の単発銃は通るっていうね。変な話だよな!」
男5「かっこいいけど、扱いづらいんだよな。」
オーガ「ぐおぉぉっ!!」
男5「だけど‥威力はマグナム級ってね!」
オーガ「うぐっ!?」
ゴブリン「げへっ!?」
現実世界では性能が悪い単発銃でも、異世界であれば不思議とマグナム級の威力に倍増される。そのため、一発の鉛弾でも強靭なオーガの体を貫通し、近くのゴブリンをも巻き込んだ。
男5「くぅ~痺れるね!がはっ!」
男1「お、おい!?早く治療してもらえ!」
注意、威力が強すぎるため流れ弾が飛び交うので撃つときは周囲を警戒すべし。
界人「防壁跡まで押し返せ!弾崎は後方で"種子島"を構える範囲を確保しろ!」
弾崎「はっ!」
界人「さぁ!帝都の兵に遅れるな!」
警界官一同「おぉぉっ!」
両津界人の号令に前線の士気は極限を越えたいた。
その様子を見ていた帝都の将たちも負けじと奮い立たせた。
とくに、
界人の戦友、千人将"ハイド" 、第一軍将"スカル"
の二人が先陣へと駆けた。
ハイド「やるな界人!俺たちも負けてられるかよ!」
スカル「ようやく共に戦場を駆けれる日が来たな!」
本来、ハイドは北門とスカルは南門の守備に回っているのだが、二人はばれないように手勢を率いて界人のいる東門に集結したのだった。
界人「ん?やっと着たかスカル・ハイド?」
ハイド「当たり前だろ?こんなこと滅多にないからな!」
スカル「界人との戦、とことん楽しもうぞ!」
界人「ふっ、秒で死ぬようなフラグを踏みやがって‥死んだら許さんよ?二人は数少ない異世界の友人なんだからな。」
ハイド「寂しい男だな?」
スカル「俺たち以外で友人を作る気なさそうだな。」
界人「まあな。」
ハイド&スカル「諦めんなよ。」
オーク「よそ見してんじゃねぇ!」
オーガ「ぐぉぉ!食ろうてやろうか!」
ハイド&スカル「だまれ雑魚が!」
オーク「ぐひぃ!?」
オーガ「ぐふっ!」
死亡フラグを踏んだ割には、相手を瞬殺にした。
ハイド&スカル「お前を置いて死ぬかよ。」
界人「黒髪の男に言われてもな~。」
ハイド&スカル「喜べよ!?」
二人がツッコむと、背後から瞬時に巨大なキングオーガが現れた。
キングオーガ「虫けらが!死ねぇ!」
ハイド&スカル「っ!」
でかいわりにスピードがある上位種キングオーガは、ハイドとスカルの間合いに入り込み棍棒を構えた。
だが、界人は見えていたのか。
小銃を構えてキングオーガを睨み引き金を引く。
界人「死ぬのはてめぇだ!」
キングオーガ「ぐふっ!」
ハイド&スカル「あ、あぶねぇ‥。」
界人「油断するな馬鹿者が、ほら来るぞ!」
ハイド「ふっ、わ、わかってたし‥。」
スカル「かっこつかないな。」
その後界人、ハイド、スカルらの奮戦により、亜種族の大攻勢も虚しく、前線は押し返され半数近く失う大打撃を与えた。対する連合軍は陣形と体制を生かして、被害を二割に止め戦況は優勢に傾いたのだった。
だがそれは、三人の亜種族幹部が着くまでのこと‥。