第九十七話 帝都ノ変(6) 始動と変動
帝都"グレイム"
人間界、魔界、天界と連なる異世界三大柱国の一角で、人間界の代表国である。
日本との同盟関係も強く、言わば生命線と言っても良い。
そんな、重要な国に日本防衛陸軍が着々と集結し始めていた。
その中には、義勇軍として立ち上がった。
首相、中田栄角や佐渡景勝、両津界人などの政治家、警界官がいた。
景勝「各国からの勇姿たちがこんなに集まるとは、やはり異世界は平和の架け橋だな。」
界人「全くだ。今や我々にとって異世界は生命の糧だ。それはここにいる全員がわかっている。」
景勝「だからこうしてみんなが集まった。本来は武力ではなく交渉で済めば良いのだがな。」
栄角「私も手紙を送っているのだが、音沙汰が全くない。それに周辺国への侵攻の情報も入っている。」
景勝「やはり、聞く耳無しと言うことですね。」
界人「決起した警界庁と警察庁の話によれば、ルクステリア領内の三ヶ所で亜種族襲撃部隊と交戦、他周辺国でも交戦していると報告されてます。」
栄角「ふむぅ、この気に乗じて欲にまみれた諸国が動いた可能性があるな。」
景勝「確かに‥草津事件のこともあります。まだ、我々の中に悪巧みを考えている者がいる可能性もあります。」
界人「それもあり得る。ここで尻尾を出す不忠な者は一人残らず逮捕するつもりだ。」
景勝「誤って殺すなよ?」
界人「相手次第だな。」
両津家代々に伝わる名刀。
"万代國光"に手をかける。
その時、黒いローブを被った老人が声をかけてきた。
?「栄角殿‥よく来てくれた。」
栄角「ん?そうですが、どなたかな?」
?「シルバー・グレイム‥そう言えばわかるかな?」
黒いローブのフードを取ると、白髪で高貴な白い髭を生やした老人が姿を現した。
すると、三人は驚愕し身を改め深々と一礼した。
栄角「ご、ご無礼をお許しください。シルバー・グレイム陛下!」
シルバー「シルバーでよい、それより援軍に来てもらって本当にありがたい。日本国に感謝するぞ。」
シルバー陛下は頭を下げて礼を言った。やはり日本国として援軍に来てくれたと思っているようだ。
栄角「シルバー陛下どうかお顔をお上げください!?」
景勝「そうですシルバー陛下!?我々は日本国として援軍に来たわけではありません。」
シルバー「日本国としてではない?しかし、この兵の量は一軍に値しますが?」
界人「我が国日本は戦争放棄国家です。防衛する力はありますが、同盟国の戦争に参戦することは物資の支援などの後ろ楯くらいしかできないのです。」
シルバー「なんと‥それではお三方と集まった方々は一体。」
栄角「我々は国境無き義勇軍として立ち上がったのです。日本国に限らず各世界の人々が結束してここにいるのです。」
シルバー「義勇軍‥そこまでして援軍に来てくれるとは‥。」
界人「我々の世界はこの世界が必要なのです。その証拠に義勇軍の中には民間人も多いです。」
シルバー「民まで立ち上がったのか!?そ、そんなにこの世界を求めているのか。」
景勝「我らからして見れば、ここは夢のような世界です。夢の世界が現実になれば、当然終わらせたくない気持ちが芽吹きます。故に我らが恐れてるのは夢の世界を夢で終わらせてしまうことです。」
シルバー「夢を夢で終わらせるか‥。我らもそちらの世界にとても共感するものがある。むしろ、羨ましいくらいだ‥。確かに我々も逆の立場なら向かっていただろうな。」
この防衛戦に、
戦争ができない国が世界と協力して国境無き義勇軍を結成して援軍に来てくれた。
だが、その中に民まで立ち上がった意味。
そして互いが思う世界の価値観。
シルバー陛下は彼らの単純な気持ちを直ぐに理解することができなかった。だが、逆の立場で考えるのなら、むしろこの行為は儚いが素晴らしいものだと考えさせられた。
その時、帝都の数名の衛兵が駆け寄ってきた。
衛兵「あ、陛下!ここにおられましたか!」
シルバー「うっ、全く‥もう見つかったか。」
衛兵「勝手に離れられては困ります。」
栄角「‥お忍びでしたか。」
景勝「その姿を見る限り‥常習的みたいですね。」
界人「‥親父見たいな方だな。」
景勝「あー、わかる気がする。」
栄角「佐渡金守‥かなりの自由人だったな。」
注意、まだ生きてます。
金守「へっくしゅ‥誰か噂しておるな‥はぁ、孫に会いたい‥。」
衛兵「陛下、ここは危ないです。城へお戻りください。」
シルバー「それはできぬ、援軍に来た義勇軍には民もいるというではないか。ここで城に引き籠っては名が廃る。」
衛兵「し、しかし‥。」
その時、敵襲を知らせる鐘が鳴り響いた。
衛兵「敵襲!敵襲!」
衛兵「各員戦闘に備えろ!」
景勝「来たか‥。」
界人「二十年遅れの異世界武勇伝‥いくぞ!」
こうして義勇軍本体と帝都が合流した第三次攻防戦が始まった。
その頃、亜種族陣
帝都攻略部隊本陣では、
侵攻の速度があまりにも遅すぎることで、頭を悩ませていた。
亜種族「‥妙だな。ここまで攻めても成果は小さな街と三つの関所‥。」
亜種族「しかも、各地に散らばせた一隊の連絡もない。どうなっているんだ。」
知的な亜種族が話し合う中、三人の上級亜種族と一人の人間が冷静に構えていた。
そんな時、異世界の定番、露出度高め高身長、銀髪、健康的な褐色肌、そして巨乳の美女が口を開く。
?「日が経つことに抵抗の激しさも増している‥まさか、異世界から援軍が送られたとか‥日本国は戦争に参加できないんじゃなかったのか‥徳川殿?」
美女の目の前には、和服を着た老人が居た。
徳川家時
徳川十五代を引き継ぐと十八代目に当たり、全政治家、大企業を操る影の権力者だ。
数年前まで警察庁、警視庁、検察庁を操っていたが、三組織改め法案が可決され手がつけられなくなり、肩身が狭くなった男だ。
いつぞやの草津事件でも影で操っていたと噂になっていた。
徳川「‥義勇軍として日本だけではなく、米、英など各国の勇姿たちが立ち上がってるのですよ。」
?「‥なるほど、それなら納得がいく。だが、これでは我らの方が消耗するだけだな。」
?「アイシュの言う通り、このまま出し惜しみしてる場合ではないようだ。」
立派な紅い竜の尻尾を生やし、赤髪の男が同意する。
アイシュ「ゲドゥルム‥私の意見に賛同するなんて珍しいな?まるで野生の本能とかで迫り来る危機を感じてる様じゃないか?」
そう告げると、ゲドゥルムの表情を重く首を縦に振った。
純潔の亜種族"竜王"の二つ名を持つゲドゥルムがこうも反応するのだ‥。深刻であることは間違いない。
そんな時、ずっと黙り混んでいた黒髪鬼神の総大将リヴァルが口を開く。
リヴァル「あはは、ゲドゥルムがこうも神経尖らせるのは久々だな?忘れられた魔王以来じゃないか?」
ゲドゥルム「‥くっ、あんな雲隠れした馬鹿なんぞ忘れたよ。」
アイシュ「‥‥私は覚えてるよ。忘れたくても忘れられない。」
徳川「まあまあ、過去に縛られては先には進めませんぞ?それと、わしには先に進める策がある‥。」
リヴァル「ほう?さすが欲のためなら我ら亜種族でも恐れぬ男だ。さて‥どういうものか聞かせてもらおうか‥。」
未来を繋ぐ戦で散った命があった。
夢が破れて戦を起こして散った命があった。
己の欲のために戦を起こして散らせた命があった。
荒れる戦の兆しと非道な策、
散った命は桜の如く。
数多の命が、己の正義のために奮起する。