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第九十三話 帝都ノ変(2) 大義と決起

大連休ゴールデンウィークの代償として訪れる二ヶ月以上連休なしの日々。

そして現実を突きつける六月の真っ黒なカレンダー。

季節も梅雨(つゆ)に入り雨の日が多くなった。


更に帝都グレイムが交戦状態と言うこともあり、異界への立ち入りは禁止とされた。



当然部活も無い‥。

そのため、桃馬たちのテンションは低かった。


六月六日の昼休み。


桃馬「‥‥はぁ‥連休ないは、異世界いけないは、雨は止まないは‥じめじめするは‥はぁ、梅雨は嫌いだ‥。」

憲明「そう言うな‥今日もジェルドをもふって元気出せ。」

ジェルド「‥え、えっと‥今日の毛並みはちょっと調子が悪いと言うか‥あはは‥。」


そう言うと、自慢の尻尾を抱き抱えた。

よく見ると湿気にやられたのか、自慢のもふもふは悲しくも縮んでいた。


桜華「この時期の獣人族は大変ですね。」


小頼「はぁ~、何か面白いことないかしら‥。」



桃馬は、机に突っ伏す小頼を見るなり不意にこんな質問を投げた。


桃馬「‥最近思ったんだけど、二人とも恋人だよな?」

小頼「ん?、そうだけど?」

ジェルド「改まってどうしたんだ?」

桃馬「‥いや、何か‥恋人らしくないかなって。」


この質問に小頼とジェルドが不適に笑みを浮かべる。


小頼「恋人は見せつけるものじゃないからね~。」

ジェルド「そうそう、時と場を考えているさ。」



桃馬&桜華「た、確かに‥。」


すると二人はいつぞやの公開キスシーンを思い出す。


小頼の意見は説得力あるけど、

ジェルドに至っては全く説得力がない。

毎日、浮気レベルですり寄ってくるせいで、二人の関係がよくわからなくなっている。

だが、今の話で二人の恋人関係は健在で間違いないようだ。


毎度の他愛のない会話をしている中、


一部の男子が気になる話をしていた。


男子「おい、三組の両津と五組の微食会が義勇軍として決起するらしいぞ。」

男子「ま、マジかよ。」

男子「だけど、先生が許すと思うか?」

男子「その前にどうやって異世界に行くんだよ‥。」


どうやら学園内の一部で、帝都グレイムで起きている戦線に参加しようとしてるようだ。


異世界に行けないストレスからか、

全体的に苛立っているようだ。


桃馬「義勇軍か‥。」

憲明「帝都が崩壊すれば、群雄割拠の乱世が訪れ、異世界の出入りは禁止され、日本経済も打撃を受けるだろうな。」

小頼「要は考えようだね、戦争放棄した国に生まれた以上‥私も戦争には抵抗はあるし、でも戦わなければ今の素晴らしい日常が崩壊してしまう。」

桃馬「戦えば必ず倒れる仲間はでる。ゲームとかじゃないから死ねばそれまで‥だが‥。」


大義名分はあるけど、リスクがある。


生きて英雄になるか、

死んで英霊となるか、


戦わなければ被害は異世界だけで済み、その後の異世界共存文化は終わりを告げる。


戦えば現実世界の被害は覚悟しなければならない。そして確実に勝てる保証もない。だが、夢のような異世界がたった数年の夢物語で終わらせるのは、異世界に憧れた人々に取って死刑を宣告されるのと同じである。


ならば答えは一つ、

戦争放棄国家として日本政府が動けないのなら、国境無き義勇軍として起つしかない。


桃馬「‥やらないで後悔するくらいなら、俺も手を上げて戦いたい。」


桜華「桃馬‥。うん、桃馬が戦うなら私も戦うわ!」

憲明「ははっ、同感だ。俺もやるぜ!ジェルドはどうだ?」


ジェルド「当たり前だ、どのみち故郷がピンチなら俺も起つ気だったからな。あと、小頼は待ってな。」


小頼「ふぇ!?私もいくよ!」


五人の声は決起に悩む男子たちの耳に届いた。


男子「ん?桃馬たちも決起するのか?」


桃馬「あぁ、このまま黙って見ていられるかよ。みんなの異世界のピンチだ逃げたら後悔するからな。」

男子「ちげぇねぇな!」

男子「決めた!俺も決起するぞ!」


桃馬たちの決起の意思につられて回りも決断する。

だが、ジェルドが待ったをかけた。


ジェルド「待て待て、軽はずみならやめておけ、俺たちが向かうところは本当に命を懸けた戦場だ。ゲームや大戦乱祭とは勝手が違うからな。」


ジェルドの言葉諭され、決起の熱から解放された男子たちは、考え直しはじめ思い止まった。


桃馬「まあ、出て後悔するよりは、今思い止まる方が勇気ある行動かもな。」

桜華「勢いと感情は人を変えますからね。」


戦争は感情だけで動いては行けない。

真の大義名分がなければ、ただの殺戮と無駄死にである。


憲明「‥それより、両津と微食会はいつ乗り込む気なのかな‥ゲートもどこも閉鎖してるし‥。」

桃馬「心当たりがある‥。」



その頃二年三組では、

闘争心剥き出しで決起集会を開いていた。

議長を朱季楓に誘拐され、最近強くなって戻ってきた燕奏太が務めた。


奏太「日本国として動けないのなら、俺たちが国境無き義勇軍として立ち上がり異世界の秩序を守ることこそ大義である!」


今にでも出陣しそうな勢いで(とき)の声が上がった。


晴斗「出陣の日程は一昨日(おととい)決めた通り今日の放課後に決起するよ!抜けるなら今だよ?」


海洋「おいおい、半兵衛?ここにいる全員覚悟決めてるんだぞ~?」

男子「空気の読めない賊を討つべし!」

女子「けもみみイケメンに会えなくなった‥この恨み‥晴らしてやるわ。」


二年三組は、六月二日の日本政府の緊急防衛対策会議の放送を見るなり、着々と準備を進めていた。


リール「みんなやる気だね~♪」

エルン「熱が入りすぎて前が見えなくならなければ良いのだが‥。」

リール「あれ?そう言えば直人は?」


血気盛んな空間のなか、

(かなめ)の両津直人がいなかった。


エルン「そう言えばいないな‥。」


男子「直人ならゲートの件で葵とコンタクト取ってるぞ?」


リール「準備がいいね~♪」

エルン「先生方も気づいていることだろうし、念入りにしないと行けないからな。」

リール「うんうん、一世一代の大戦‥名を上げるチャンスですからね!邪魔されたくありませんからね!」


直人「名を上げるのはいいけど、戦はない方がいいさ。」


リール「あっ、お帰り~♪」

エルン「ゲートの方はどうでしたか?」

直人「なんとかなりそうだ。葵たちが一つ確保している。それより、すごいやる気だな。」

リール「みんな覚悟決めてるからね♪悔いなく戦華(せんか)を飾りたいんだよ♪」

直人「できるなら、みんな生きて帰ってほしいけどな。」

エルン「‥そうですね。」


士気が極限まで達しているのは良いことだが、

午後の授業でガス欠が起きないか心配である。


その頃二年五組では、


各クラスから微食会の準メンバーを揃えていた。そこには、先の大戦乱祭で東軍に着いた藤原志道率いる二年六組も集結していた。


そして最後は‥。


シャル「さっきからまわりが騒がしいのだ!」

ギール「確かにな‥んっ、きっと帝都の件だろうな。」

ディノ「あぁ~、今テレビで注目してるやつですね。」

豆太「も、もしかして、戦地へ行かれるのですか!?」

ギール「‥恐らくな、でも、先生方もかなり警戒してるようだし、異世界に行く前に取り押さえられるだろうな。」

ディノ「‥そうですか。それにしても皆さんはどうしてリスクをおかしてまで戦おうとするのでしょうか?自国ならまだしも、他国ではないですか?」

シャル「まあ‥我らがこの世界を好いてるように、この世界の者たちも我らの世界を好いておるからじゃろうな。余もこの国がピンチの時は‥きっと加勢するのだ。ギールもそうであろう?」

ギール「‥ふっ、当然だ。」

ディノ「シャル様のおっしゃる通りです。」

豆太「‥‥。」


豆太の表情は暗く悲しげにしていた。

これでも豆太は、九十歳をとうに越えている。

そのため、悲惨な戦争をこの目で見てきたのだ。

たった一つの爆弾で幾万(いくまん)の人々が死んでいく光景、無数の爆弾が闇夜に舞い落とされ町を焼き、人を焼いた悲惨な光景が脳裏を蘇らせた。


そんな豆太を瞬時に察したシャルは寄り添った。

シャル「怖いか豆太よ?」

優しく声をかけると豆太は少し震えながら頷いた。


シャル「その感情は正しいぞ‥。恐怖があるからこそ、生き物は正常でいられる。」

ギール「安心しろ豆太?もうこの国にそんな危険な物を落とさせやしないさ。」


豆太「兄さん‥。」


ディノ「そうですね、これ以上悲劇を増やさないために私たちも立ち上がりましょう。」

シャル「なら、早速桃馬の所に行くのだ!」


こうして二学年の六割近くが義勇軍として起つことを決意したのだった。


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