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第九十一話 変わりのない日々

昼休み終了の予鈴がなる。

縛られていたジェルドが暗い顔で帰って来た。


ジェルド「わふぅ‥シャルめ‥好き放題しやがって‥。ん?なんだやけに静かだな?」


静かな空間、そして予鈴がなったというのに、各クラスの女子たちが、やけに近い桃馬と桜華がいた。


ジェルドの勘は直ぐに察してしまった。


気まずそうにしている桃馬と桜華‥。

この二人はこの場でキスしたことに。


ジェルドのピュアッピュアな心のガラスは見事に割れた。瞳の光沢は失くなり、静かに席についた。

そんなジェルドに憲明も小頼は察するも声をかけられなかった。



尻尾は悲しく垂れ下がり、ボーッとしていた。

午後の授業に差し支えなければよいが。


こうしていても仕方がないので、小頼は苦渋な思い出声を出した。

小頼「えっと、そろそろ授業が始まるから皆解散しよう。」


小頼の声に我に帰った生徒たち、他クラスの生徒たちは急いで戻った。


男子「なぁ、憲明‥さっきの話だけど。」

憲明「‥遊郭の件か?」

男子「俺‥いかなくていいや‥。」

憲明「‥いいのか?」

アニメのような超展開に男子たちは感服したのか、無気力状態になり遊郭計画は白紙となった。憲明にとっては生還できた蜘蛛の糸であった。


しかし、桃馬と桜華はそのまま立ったままである。


桃馬「えっと‥その‥。」

桜華「な、何もいわないでくだひゃい‥。」

桃馬「ご、ごめん‥(な、何この子すごくかわいいぞ!)」


目の前の可愛い聖霊様に気を取られながら、脅迫文が並べられている自分の席についた。


桃馬「それにしても‥俺の机ガタガタになってしまったな。ナイフまで刺しやがって‥誰のだよ。」


手際よくナイフを引き抜き(かばん)にいれる。桜華もそろっと席に着いた。


そして、親子喧嘩を始めた。


お母様のばか!何するのですか!


‥クスッ、ごめんなさい♪

やっぱり私‥我慢できなかったわ♪


私の体で好き放題しないでくださいよ!

み、みんなの前で‥せ、接吻だなんて‥。


‥でもこれで桜華と桃馬くんの恋路の糸は太く頑丈になったわ。


表向きは‥ですけどね。

実際はお母様と桃馬の糸が太くなっただけじゃないですか!


‥クスッ‥私も桃馬くんを意識しちゃったら、ほしくなっちゃってね♪


うぅ、親が娘の恋人に手を出すなんて‥信じられませんよ!お父様が泣きますよ!



‥それなら安心しなさい、体は求めても心までは。


ストーッぷ!その台詞は言ってはだめです!

その台詞を言う人ほど、心も直ぐに堕ちるのですからね!


‥‥そ、そう言うものなの?


今の時代ではそう言うものです。

あと、今日をもちましてお母様の主導権は家以外渡しませんからね!


‥むう、でもクラスのみなさんに求められたらどうします?


そ、その時はその時です!

とにかくダメなものはだめですからね!


初めて感情的になった瞬間。

母親に振り回された桜華は、親子らしい喧嘩を初めてしたのだった。




そして沈黙する教室に不気味に感じた吉田先生が恐る恐る覗くように入ってきた。


吉田「‥や、やけに静かだな?どうしたみんな?」


いつも騒がしい教室が今日に限って静かすぎるため思わず心配した。


憲明「え、えっと‥ま、まあ色々ありまして、別に問題になる話ではないので気にしないでください。」

吉田「そ、そうか‥ん?おーいジェルド起きろ?授業始めるぞ?」


昼休みに立て続けに襲ったショックに耐えきれず、とうとう机に突っ伏していた。

珍しく反応がなく、心配した吉田は近くに寄る。

吉田「珍しいなジェルド?具合でも悪いのかって!?顔色が悪いぞ大丈夫か!?」


ジェルド「わ、わふぅ‥。」


吉田「へ、変な物でも食べたか!?」

憲明「先生、ジェルドは精神的ショックで病んでるだけです。桃馬とキスさせれば治ります。」

桃馬「えっ?はぁぁ!?憲明何言ってるんだ!」

小頼「うんうん、それは良いかもね。」

吉田「うーん、また桃馬が虐めたのか?」

桃馬「いやいや先生?俺は‥あっ、えっと‥。」


堂々と虐めていない、なにもしていない、と言いたいところだが、昼休みの調教を振り替えると返す言葉がなかった。


吉田「ふぅ、仕方ない二人の仲は俺も知るところがある。五分間だけ目をつぶるからジェルドは桃馬に甘えろ。」


吉田の言葉にジェルドの耳と尻尾が反応した。

尻尾は徐々に左右に振り始め、耳はピコピコと動いている。


やばい、可愛い‥けど、トリガーが外れたらもともこもない‥みんなの前でヤられる可能性が大だ。


同志(クラスメート)たちは二人に注目し、ゆらりゆらりとジェルドが席を立つ。そして、桃馬に近寄る。


桃馬「お、おいおい‥ジェルド‥な、何する気だ?」

逃げようとする桃馬に男子たちが押さえつける。


桃馬「な、なにをする!?」

時間も時間なので大声が出せない状況に、抗議の威力が弱い。


憲明「諦めろ、これもジェルドのためだ‥。許してくれ。」

桃馬「くっ‥だからってみんなの前では‥ひっ!?」


まるでゾンビのような動きをするジェルドが、桃馬の目の前に立ち目線を合わせてきた。


女子たちは、念願のBL展開に固唾を飲んだ。


ヤレ!ヤレ!


と女子たちの心は一つとなった。


男子たちは引き続き合掌した。


くそぉ‥まだ二人の時の方がましだ‥。

ジェルドの目は蕩けてるし‥も、もはやこれまでか‥。


ジェルド「桃馬‥くぅーん♪ペロッ。」


桃馬「ひっ!?」


白髪のイケメンが桃馬の首筋を嫌らしく舐め始める。


桜華「ごくり‥。」

桜華は思わず生唾を飲んだ。


続いて女子たちは、目をかっ開き噛み締めながら見ていた。

男子たちも例外ではない。

不思議と二人の行為に興味津々で見学する。


桃馬「こ、このバカ犬‥正気気よ!?」

憲明「いつもの事だろ‥これがジェルドの正気だよ。」

桃馬「くっ、こ、この‥くぅ‥(やばい、気持ちいい‥)」

ジェルド「ペロッ‥くぅーん。」

憲明「ほら、キスされたくなかった撫でろよ?」

桃馬「くっ‥こんなのおかしいだろ‥。」


最悪を回避するため渋々なで始める。


ジェルドは嬉しそうだ。

だが、犬かショタの姿になってほしい‥。

でも、そんなこと言えば‥きっと本気で襲うだろう。


女子たちはよだれを(たらし)

目の前の素晴らしい光景を目に焼き付けた。


数分後

ジェルドの調子はいつも以上によくなった。

変わりに、桃馬の調子が少し低下した。


これを皮切りに、静かすぎた教室にいつもの風が吹いた。


吉田「よーし、授業始めるぞ?教科書開け~。」


こんな調子で彼らの物語の序章は幕を閉じた。

そして、この先に待つは‥新たな黒雲、新たな出会い、新たな物語の始まりである。





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