第八十八話 駄犬が導く食糧難
とある昼休み‥。
某多目的教室より。
朝の熱い処刑から桃馬の逆鱗に触れた駄犬ジェルドは、桃馬と二人きりでお望みの調教に勤しんでいた。
ジェルドは、縛られ、目隠し、猿轡で完全に受け側の体制である。
桃馬「この駄犬め‥よくも‥みんなの前で醜態をさらせてくれたものだな。」
ジェルド「わふぅ‥ふぁっ‥。」
嬉しそうに尻尾をブンブンと振り回し、今か今かとお仕置きを待っていた。
桃馬「ほんと駄目犬だな?エルゼちゃんが見たら幻滅だろうな。」
ジェルド「わふぁ‥ふぅふぅ‥。」
あぁ‥やめてくれ‥エルゼだけは‥はぁはぁ‥でも‥桃馬ならそれも良いと思う俺が悔しい‥。
桃馬なら‥何されても受け入れてしまう‥。あぁ‥もふってくれ‥。
桃馬「どうしようもない変態犬だな‥。さてと、このまま少し放置しようかな。」
なっ!放置だと‥くっ‥ひどいよ。
桃馬「少し反省していろ。」
ジェルドを縛り上げために、昼ごはんを抜いていたため、桃馬は購買に向かおうとして多目的教室の扉を開ける。
すると、目の前にもう一匹の駄犬ギールが立っていた。
桃馬は無言で扉を閉め鍵を掛けようとするが、強引にギールが扉に手をかけ入ろうとする。
ギール「なんで閉めるんだよ!?そこに白いバカ犬がいるだろ!抜け駆けなんて許さんぞ!」
桃馬「うるせぇ‥駄犬二匹も相手してられるかよ。毎度毎度一匹構えば群がるのやめろ。」
ギール「俺は桃馬の犬になりたいだけだぞ。あんな穴を狙ってるだけの淫犬と一緒にするな!」
桃馬「暴走したらお前も同じだろ!」
決死の攻防戦に双方は奮闘する。
だが、人間の桃馬には流石に限界があった。
徐々に扉に隙間が開き、そこから足を入れられた。もはやこれまでと、桃馬は体を捻り扉から手を離した。
すると、勢い余ってギールは多目的教室に転がり込んだ。
ギール「いってて‥。」
桃馬「あばよ!ギール!」
シャル「突撃なのだ~♪」
桃馬「ぐふっ!?」
ギールが転んだ隙に購買へと行こうとするが、突如現れたシャルの突撃により多目的教室に戻された。
ギール「ナイスシャル!読み通りだな。」
シャル「ふっふっ、単純な男でよかったのだ♪おや?ふむふむ、これはこれは‥良い姿ではないかジェルドよ?いや、駄犬~♪」
ジェルド「んんっ!ふぅふぅ!」
お前ら‥何しに来やがった!?
帰れ!お前たちが見ても良いものじゃねぇんだよ!
シャル「ふむふむ、怒っておるな~♪でも、説得力ないぞ?」
怒ったジェルドに、シャルは手慣れたように尻尾をもふる。
ジェルド「んんっ!?」
ジェルドは大胆に体をビクンと跳ねさせた。
すると、徐々に息を荒げて涙目になっている。
まるで、エロゲーの"ワン"シーンのようだ。
桃馬「いっつつ、二人とも何のつもりだ‥。」
ギール「何って‥忠犬が主人の元にいるのは当然だろ?」
桃馬「駄犬のくせに何が忠犬だ。どうせジェルドと俺の監視だろ?」
ギール「当然だ。俺より駄犬を構うことはあってはならないからな!」
桃馬「相変わらず素直な犬だな。」
ギール「忠犬だからな、わんわん♪ハッハッ!」
イケメンの黒犬は可愛らしく犬真似をする。
シャル「おいギール?さっきから好き放題言っておるが、ギールの主は余であるぞ?」
ギール「いやいや、お前は妹枠だろ?むしろ逆だろ?」
シャル「ぬわぁー!言いよったな!はぐっ!」
ジェルド「んんっ!!?」
いつもの癖でシャルは誤ってジェルドの尻尾に噛みついた。
シャル「んわっ!?間違えたのだ!?すまぬジェルド!?」
ギール「あはは!いいね~♪俺からしてみれば一石二鳥だ。」
ジェルド「ふぅふぅ‥。」
ものすごく痛かったのだろう、ジェルドの瞳には涙を溜めていた。
ギール「さぁて桃馬!俺を躾てくれ!」
再び桃馬の方を向くと、桃馬の姿はなかった。
一瞬の隙をついて逃げたのだった。
ギール「くっ‥またお預けか‥相変わらず容赦ないな。」
シャル「なら余が躾てやろうか?お兄ちゃん?」
ギール「却下にきまっへぇぇ!?」
シャル「相変わらず尻尾の付け根は弱いのだな?ほらほら、ここがエエのか?それともここか??」
ギール「きゃふっ、やめ‥俺は桃馬にしてほしいんだ‥。」
シャル「ぬはは!変態め!兄として情けないの~♪それそれ~♪」
こうして、二匹はシャルのおもちゃにされた。
桃馬「はぁはぁ、危なかった‥。やっぱり、こっそりでも鼻が利くからすぐにばれるな‥。今度から対策しないと。」
無事に惨劇を回避した桃馬は購買へと急ぐ。
運が悪ければ昼飯抜きである。
だが、激戦タイムが終わっている今、その可能性が大である。
そんな予想をして購買に着くと、案の定何もなかった。
桃馬「やっぱりないか‥。」
直人「‥ぁぁ、ばっか食うのがねぇ‥。」
桃馬「うわっ!?な、直人!?」
誰もいない購買部の片隅にこの世の終わりを告げられたかのように落ち込んでいる直人がいた。
直人「‥と‥ま‥‥‥おれの‥一週間に一度の楽しみ‥久勝食堂屋のカツ丼が‥取られた‥‥。」
桃馬「‥う、うわぁ‥お前カツ丼好きだもんな‥。」
直人「は‥ははっ‥。」
桃馬「学食にもあるだろ?」
直人「‥違うんだ‥味や肉質‥"微食会"のお墨付きの逸品なのに‥。」
桃馬「あー、直人も準メンバーだもんな。微妙な味を求めてるくせに、なかなか上手いものレビューするもんな。」
直人「俺は、あれなしでは生きられない体になってしまったんだ。誰だ‥俺の命の源を奪ったやつは‥。」
桃馬「明日って言いたいけど、あれは木曜限定だからな。きびいよな。」
そんな時、直人の恋人兼嫁のリールが駆け寄ってきた。
リール「あっ、やっぱりここにいた。探したよ直人?」
直人「‥‥‥。」
嫁の声にも無反応である。
リール「な、直人どうしたの?人類の終焉を突きつけられたような顔をして?桃馬なにか知ってる?」
桃馬「言って良いのかな‥。まあ一週間に一度の楽しみがなくなったと言えば言いか。」
リール「えっ?それって、カツ丼のこと?」
直人「っ!な、なんでそれを!?」
どうやら内緒にしていたようだが、リールに完全に筒抜けだった。
リール「毎週木曜日だけ、教室にいないなんて不自然だからね。少し前にルシアと尾行してたんだ~♪」
流石学園一の鈍感男だ。
尾行に至ってはセキュリティがガバだ。
直人「‥そうか、でも、取り越し苦労だな。隠し事がこんな食に関することだったからな。」
リール「クスッ、本当だよ♪だから先回りして回収したんだよ♪」
直人「回収‥?」
リール「教室に行けば直人の分あるよ♪」
直人「お、おぉ!本当か!」
生気を取り戻しリールに詰め寄った。
リール「うん♪だから、隠し事は駄目だよ?」
直人「えっ、あっ‥少しくらいは‥。」
リール「じゃあ、お預けだね♪」
直人「もう隠しません!」
リール「よろしい♪さっ行くよー♪」
何を見せられたのか、結局直人が蒔いた種が発芽しただけのものだった。直人の食事情は解決したけど、桃馬は全く解決されてない。
手短に食べられる購買の道は閉ざされたが、まだ学食と言う救済がある。だが、学食には"微食会"という組織が居座っているのだった。