第八十六話 親子丼レシピ
我想う
鬼人に恋し
片想い
言えず時経ち
芽吹く遅咲き
昨日の恋路から一夜が明けた。
そして春桜学園では、朝から吉田先生とキリハの情報が何処から流出し、亀田映果が早々に号外を配っていた。
映果「号外だよ~♪吉田鷹幸先生が鬼人の女性と熱愛だよ~♪」
男子生徒「吉田先生が鬼人と熱愛だってよ。」
男子生徒「す、すげぇ‥このお姉さんえっろ‥。」
女子生徒「ごくり、かっこよくて‥抱かれたいわ。」
女子生徒「吉田先生嬉しそうだね♪」
女子生徒「ずっと片想いと思ったら、実は両想いだったなんてドラマチック~♪」
号外は大好評。
映果の懐も大好評である。
小頼「くすっ‥さすが映果ちゃんね。」
リフィル「うんうん!ジャーナリスト根性がずば抜けてるわね♪」
ジェルド「お前たち‥また、何してるんだよ。」
憲明「個人情報皆無かよ‥。」
やはり、漏らした犯人は小頼とリフィルであった。恐らくばれるとは思うが‥この後の展開が楽しみである。
そして、あの二人はと言うと‥。
桃馬「お、桜華?無理に抱きついてこなくても良いんだよ?」
桜華「ま、まだこうさせてください‥。せ、せめて教室まで‥。」
桃馬「で、でも‥視線が痛いんだよな。」
昨日までクールで毛嫌いしまくっていた桜華様であったが、今朝になるといつもの桜色の髪に戻っており、桃馬の腕に抱きつき申し訳なさそうにイチャついていた。
事の発端は昨日帰宅した時のこと。
桜華様「早く来なさいよ‥。この変態‥。」
桃馬「うぅ‥そこまで言わなくても‥。」
桜華様「蛇に補食されて喜ぶようでは、当たり前かと思いますが?」
桃馬「‥ぐうの音もでない。」
桜華様「はぁ、お母様とお父様もこんな姿見たら幻滅ですね。」
桃馬「ぐはっ!」
なぜか、父景勝と母雪穂には好印象のようだ。
桜華様は俺に何を求めてるのだろうか‥。
もしかして、試しているのだろうか‥。
でも、さっきの事もあるし‥挽回は厳しいだろうな。
なら、残る道はこれしかないか‥。
桜華様「‥はぁ、こんな時でも男らしくないのですね。」
桃馬「男らしくか‥確かにそうだな。」
下手に見栄を張るより、自分の本性を素直に表せた方が良いと思った。
その時ちょうど、母雪穂が家から出てきた。
雪穂「あら?二人とも帰ったのね♪お帰りなさい。」
桃馬「ただいま母さん。」
桜華様「ただいま帰りました。」
雪穂「今日も仲が良さそうね♪あら?桜華ちゃん髪が‥。」
桜華様「な、仲‥」
桃馬「あ、こ、これはちょっと学校で色々あって髪の色が変わったんだよ。」
雪穂「色々ね~?ふむふむ‥確かに今の桜華ちゃんはまるで別人みたいな雰囲気ね?」
さすが、異界出身者だ。
少しの気配の違いに察したようだ。
桜華様「‥お母様。」
雪穂「クスッ‥二人とも先に家に入りなさい。あと桃馬?私が戻るまで桜華ちゃんと近づくの禁止よ?いいかしら?」
桃馬「え、わ、わかった‥。」
雪穂「それじゃあ、私はちょっと回覧板をまわしてくるからね。」
母親に桜華様接近禁止令を言い渡され、桃馬は反論せずに受け取った。こうい時の母雪穂の言い分は逆らわずに従った方が吉である。
それから二人は家に入ると、桃馬は言いつけ通り部屋に籠り桜華様に会わないようにした。
それは桜華様も同様で部屋で待機するも、いざ一人になると不思議と寂しさが込み上げてきた。
桜華様「‥何なのでしょう。この複雑な気持ちは‥。」
つい言葉に出てしまうような、モヤモヤした感じはクールな桜華様を混乱させた。
まさか、私は寂しいのか‥。
いや、そんな事は断じてない‥。
今日一日桃馬から避けて小頼たちと居た。
そうだ、これは小頼たちがいないからだ。
桃馬が近くにいないからという理由ではない。
そうだ、そうに違いない。
むしろこれは、桃馬に対する不安かもしれないじゃないか。
‥いいえ、あなたは寂しいのですよ。
っ!またお前か‥。
私が寂しいと言ったな‥確かにそうだな。
小頼たちと離れて桃馬と同じ家にいるのは、さすがに堪えるな。
‥違うわ、あなたは桃馬が側にいないことを不安に思ってるのよ。
はぁ?何を言うと思えば‥そんなのはあり得ませんよ。
現に私は今日一日桃馬から離れました。
でも、こんな感情にかられたことはないわ。
‥それは、みんなが居たからですよ。
でも、今は桃馬しかいません。
今のあなたは戻るための鞘を失くした刀そのものです。
説教臭い言い方ね?
それなら私が桃馬のことを不安に思ってるから、小頼たちを求めているって言えるわよね?
‥それでは、なぜさっきから桃馬を名前で呼ぶのですか?
っ!そ、それは‥。
‥本当に嫌いなら桃馬の名前を呼ぶことはありませんよ。一日あなたを見ていましたが‥ほぼ桃馬の名前を言ってましたよ。
うる‥さい。
うるさいわよ!
私だって‥貴方のために‥相応しくない男から守りたいのよ。もう‥私みたいに誤った道を歩んでほしくないのよ!
‥それは、あなたが決めることじゃありません。
お母様‥‥。
っ、桜華‥どうしてそれを‥。
‥何となくです。
でも、強いて言えば婚約者を認めない、親のようでしたことが大きいですね。
でも、今のではっきりしました。
柿崎 藤霞‥お母様ですね。
私に母を名乗る資格はないわ‥。
夫を失くした苦しみから解放されたくて‥幼いあなたを残して死を選んだ私なんか。
‥でも、それでも私の中に居てくれたじゃないですか。
お父さんが言ったのです‥。幼い娘を置いて、俺の後を追う母親がどこにいると‥。いつも優しいお父さんが本気で怒って、私の霊を桜華に投げ込んだのです。
‥そうだったのですか。
お母様‥いえ、お婆様はきっと分かっていたでしょう‥。でも、敢えて何も言わなかった‥。私は‥最後のチャンスを与えてくれたのだと思いました‥。でも‥私は‥人間である桃馬‥さんを、あの人と重ねてしまって‥桜華に私の想いを押し付けてしまいました。
‥だから桃馬の事を、名前で呼んでたのですね。
私だって苦しいのよ‥。
あの人と瓜二つの性格‥嫌いと言い続けないと‥押し倒したくなるのよ!
‥ふぇ?
ここまで衝撃的な話であったが、
更に上を行く衝撃的な発言を耳にした。
まさかの母親も桃馬を好きになっているという展開。親子丼コース濃厚である。
雪穂「なるほどね~♪桜華ちゃんの中に入る人がお母さんだったとは思わなかったわ♪しかも親子揃って好きとは‥桃馬もやるわね♪」
桜華様「っ!お、お母様!?」
‥ふぇ!?も、もしかして、聞こえてましたか!?
雪穂「えぇ、バッチリとね♪」
藤霞「‥雪穂さん。」
雪穂「固くならなくて良いですよ藤霞さん♪」
藤霞「‥いえ、私は‥桜華のためと思って、桃馬さんを傷つけてしまいました。申し訳ありません。」
雪穂「藤霞さんの気持ちは痛いほど分かるわ‥私も夫をなくしたらそうなるかもしれないからね。」
‥お母様、
雪穂「桜華ちゃんも心配しないで、桃馬はこんなくらいじゃ折れないわ♪」
‥そうだと良いのですけど。
雪穂「大丈夫よ♪これくらい乗り越えてこそよ♪もし、心配ならいつも通り桃馬に接してほしいわ♪」
藤霞「雪穂さん‥ありがとうございます。」
雪穂「クスッ‥お母さんでしょ?」
藤霞「は、はい、お母様♪」
雪穂「もう~♪可愛いわね♪」
急展開ではあるが、柿崎家の暗い因果の壁が崩れ光が照らされた。そしてこの日を持って雪穂の親子丼計画が始動した。
その頃桃馬は、一人で18禁アニメに勤しんでいた。
桃馬「‥親子丼か。」
これも予兆なのか。
ちょうど主人公が恋人と恋人の母親に襲われているシーンであった。