第八十五話 鬼心、人心、恋心
討伐クエストと用事を済ませた異種交流会は、ルクステリアの街へと向かっていた。
しかし、その道中で吉田先生こと"鷹幸"の元ギルドメンバー兼片想いをしている鬼人キリハが、未成年である佐渡桃馬を手懐けようとしていた。
口には言えないほどのすごいことをしようとしていることは確かだ。
キリハは変態ではあるが、鷹幸にとっては学生の頃に襲われ恋をしてしまった相手だ。
今まで告白に踏み出せなかったのは、ただもみくちゃにされたからと言って、キリハを好きになるのはおかしいと踏み止まっていたからだ。
そして今、キリハが桃馬をターゲットにしたことにより嫉妬心が芽生え、好き、love、レボリューションが込み上げ、今に至る。
吉田「か、柿崎‥本当にいいのか?」
桜華様「えっ?質問の意味がわからないですが?」
吉田「柿崎はキリハのこと‥どう思ってる?」
桜華様「ふっ、答えるまでもないですがいいでしょう。キリハ様は私にとって、体を預けても良い方ですよ。」
吉田「ほう、なら‥柿崎の嫌いな桃馬に‥汚されても良いのだな?」
桜華様「くすっ‥焦ってますね?ですが、その手には乗りませんよ?」
さすが桜華様、瞬時吉田の嫌悪感を誘っての企みを見事看破した。
吉田「くっ、一筋縄ではいかないか。」
キリハ「さっきから鷹幸はなにしてるんだよ?」
吉田「お前の毒牙から桃馬を救い出す策を考えているんだよ。」
キリハ「毒牙ってひどい言い方だな?」
吉田「‥お前の毒牙に耐性があるのは‥俺だけなんだよ。」
キリハ「‥へぇ~♪耐性か~。なら‥一つ賭けでもしないか?」
吉田「か、賭けだと?」
キリハ「あぁ‥どっちが先にへばるか勝負だ。」
吉田「ごくり‥い、いいだう。それでルールと条件は?」
キリハ「私が勝ったら、ここにいる生徒たちを味見させてもらおうか♪」
吉田「なっ!?」
桜華様「キリハさんに味見‥いいですね!」
外野一同「っ!!?」
ギール「ごくり‥味見だと。」
憲明「‥吉田先生が負けたら‥合法的に‥いたたっ!?」
リフィル「気持ちはわかるけど‥浮気は許さないわよ♪」
ジェルド「‥わふぅ、どっちも捨てがたいな。」
小頼「結局苦労するのは吉田先生だね。」
時奈「‥察するに勝負は淫行か。それとも‥。」
まわりが勝負の内容に気になり始めると、キリハは拳を構えた。
吉田も答えるように攻めの構えを見せる。
残念、淫行勝負ではなくシンプルに殴り合いで決着をつけるようだ。
しかしこの勝負、確実に吉田先生は負けると全員が思った。キリハの激しい味見(淫行)が遂行されることであろう。
キリハ「いくぜ鷹幸!」
先手はキリハから仕掛けた。
吉田はひらりと交わすと、
破壊力のある鬼人特有の拳が地面へとめり込んだ。へばる以上に殺すレベルである。
吉田「相変わらず加減を知らない変態め。」
キリハ「鬼人の勝負はいつでも本気じゃないとな!」
次は、鋭くて早い回し蹴りが襲う。
その一瞬、大人びた黒い下着が目に入ったことは鷹幸だけの秘密である。
吉田「くっ、やっぱり‥お前は変態としか言えない!」
キリハ「あはは!攻撃できないからって見苦しいな!」
殺す気満々な踵落としも繰り出し、軽い地割れが起きる。
もはや、人相手に繰り出す技ではない。
だが、そんな凶器的な攻撃もいとも簡単にかわす鷹幸に生徒たちは目を奪われた。
時奈「さ、さすが先生‥意外とやりますね。」
桜華様「キリハ様‥。」
吉田「相変わらずこっちの攻撃は変わらないな?」
キリハ「ふっ、これはほんの小手調べだ。」
吉田「ならここから本気で来いよ?その余裕ぶった鼻‥いや、角をへし折ってやるよ。」
キリハ「ふっ、かっこつけやがって‥さすが、俺が認めた男だな!」
吉田「っ!?」
先程までのキリハとは比べ物にならない攻撃の早さに守りの構えが遅れる。キリハの拳は鷹幸の腹部を捉え吹き飛ばした。
生徒たちは唖然とした。
一瞬過ぎる出来事に脳内処理が追い付かなかった。
キリハ「おいおい鷹幸?さっきの威勢はどうした?」
ルシア「き、キリハ!いくらなんでもやり過ぎよ!」
キリハ「安心しろ、こんなくらいで死ぬような鷹幸じゃないよ?」
ルシア「普通なら死ぬわよ‥。」
キリハ「このくらいで死ぬようなら、俺の夫は務まらないさ。」
ルシア「お、夫?」
キリハ「‥あっ‥こ、こほん‥今のなしだ。」
キリハが思わず発した恋口上、
少し取り乱したのか、咳払いをして誤魔化した。
小頼「か、かわいい‥。」
リフィル「お、乙女ですね。」
桜華様「‥‥ごくり。」
時奈「‥楓先輩みたいだな。」
シャル「おぉ~、二人は両想いだったのか!」
女子たちはキリハの純粋な乙女心に魅了された。姉御の中にも乙女ありと、大人びた女性の恋路は素晴らしいと思った。
吉田「キリハそれは本当か!」
鷹幸は額から流血しながら、瞬間移動でもしたかのようにキリハの前に立った。
男一同「はやっ!?」
キリハ「お、おぉ‥ほ、本当だ。お、俺は‥鷹幸が好きだ‥。」
吉田「‥そ、そそ、そうか!俺もキリハが好きだ!」
両想いとわかった途端に恋心を爆発させ想いを伝えた。
小頼「きゃ~♪超展開~♪」
リフィル「はぁはぁ、姉御系が乙女に‥いい!」
時奈「‥◯れ◯れ。押し倒せ‥押し倒せ‥。」
桜華様「‥キリハ‥っ、こ、これでは桃馬と引き裂く作戦が台無しではないか!?」
シャル「ぬはは!鬼人に気に入られるとは凄いのだ!」
女子たちは二人の恋路をネタに盛り上がった。
だが、ルシアだけは的確なツッコミをいれた。
ルシア「‥好きならどうして遊郭にいるのよ。」
キリハ「そ、それは、私の趣味みたいなものだ。だが安心しろ、私は鷹幸を好いてから口でしか許したことはない。」
ルシア「どこが安心なのよ‥。」
吉田「うぅ、キリハ‥そんなに俺のことを‥。」
キリハ「あ、当たり前だろ?夫が出来ちまったら、他の男の物じゃ嫌だからな。」
吉田「き、キリハ~!」
感極まった鷹幸は、キリハを抱き締めた。
ギール「‥な、なんだこの絵になる光景は。」
豆太「ドラマみたいですね。」
ディノ「‥うぐっ、感動です‥うぅ。」
エルゼ「わふぅ、お父さんとお母さん見たいです。」
ジェルド「あ~、確かに‥よく覚えていたな?」
エルゼ「うん、喧嘩して仲直りする時と似てたから、それから‥えっと、楽しそうに遊んでたような。」
ジェルド「え、エルゼ?それ以上は思い出さなくて良いぞ?」
憲明「これが大人の恋愛か‥。」
京骨「‥俺もルシアとあんな風に接してみたいな。」
憲明「‥うん、俺もリフィルと大人びた付き合い方をしたい。」
一部の男たちは、二人の光景を参考に今後の恋路に役立てようとしていた。
そして、肝心の桃馬は‥。
紗曇に再び食べられていた。
これにより、紗曇の好物は佐渡桃馬となった。
うーん!うまい!
紗曇は幸せそうに堪能していた。
恐らく桃馬を美味いと感じるのは、母雪穂が異界出身で力のある騎士であったことが影響しているのだろう。
その後、再び桃馬がいないことに気づくのは、ルクステリアに戻ってまもなくのことであった。