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第八十二話 再会の蛇鷹公

ルクスの街に蛇鷹公(じゃようこう)と呼ばれし者がいた。


小さき蛇を(まと)いて、公国に(こう)する異界の者がいた。


ルクスの荒くれ退治して、清きギルドへ(よろず)(ごう)を尽くす。


人は口を(そろ)えて、(のち)の公国に仕えし者だと(うた)った。


しかし、その期待も突如泡となる。


小さき蛇との突然の別れにより、蛇鷹公の名を捨て()に下ったと言う。




そして数年の歳月を重ね、

吉田鷹幸は、勇ましくなったサタンとの再開を果たしたのだった。


吉田「‥紗曇(さたん)、どうして俺の元から去ったんだ。」


声を震わせ今までの悲しき感情を漏らした。



豆太「あ、あの先生僕からお話し‥んんっ!?」

シャル「こら、豆太?安易に情報を与えるのは良くないのだ。」

豆太「ぷはっ、ね、姉さん‥でも。」


吉田「構わない‥二人とも‥教えてくれ、あの時どうして紗曇が俺のもとを去ったのか。」


シャル「‥ふむう、受け入れる覚悟はあるのか?」

豆太「ね、姉さん‥そこまで深刻にしなくても。」


吉田「‥覚悟はある。この数年どうしていたのかも気になるからな。」


シャル「‥仕方ないのだ。じゃあ、聞くのだ!」



数年前のこと、


いつものように吉田と紗曇は、ルクステリア付近の森で討伐クエストをしていた。


吉田「ふぅ、これで終わりっと‥ほら紗曇?ペペ肉だ。」


紗曇はいつものように切り分けたペペに食らいついた。


吉田「紗曇、いつもありがとう。お前のお陰でいつも助けられてるよ。」


不思議と口から出た感謝の言葉、まるでこれから起きることを察知していたかの様だ。


その時背後から数匹の狂犬が飛び出して来た。


吉田は怯むことなく返り討ちにしたが、

再び紗曇の方を向いたときには紗曇の姿はなかった。


吉田「さ、紗曇?おーい、どこだ~?狂犬なら倒したから出ておいで~?」


それが、紗曇との別れだった。

吉田少年は三日三晩、飲まず食わずに紗曇を探した。

しかし、努力は実らず見つからなかった。

吉田少年は泣き喚いた。

気が狂うくらい刀を振り回した。

唯一無二の友を失った。

その衝撃は家族を失うのと同じだ。


最後は力尽きて倒れ込み、三日三晩帰ってこない吉田を心配したギルドの仲間によって助けられた。


それが、吉田鷹幸の人生で暗い出来事のひとつであった。



だが実際は‥。


吉田が狂犬と交戦している隙に、鷹に似た鳥魔種(ちょうましゅ)に襲われ連れ拐われたのだ。


抵抗しようにも胴体を掴まれ()(すべ)もない。そのまま遠くの巣へと連れていかれたのだ。


しかし、一瞬の隙を見て逃げ出すことに成功するも、辺りは知らない土地、しかも唯一の信頼者である吉田もいない。今あるのは孤独心と死の恐怖であった。


紗曇は吉田と同じく休まず探した。

だが、結局は見つからない。


狩のおこぼれを食らい。

自分より大きな敵から逃げ、過酷な日々を送っていた。


だが、それもいつか主人である吉田‥いや、鷹幸との再開を果たすため数年間希望を捨てなかったのだ。



そして、今ここに成就した。



シャルと豆太が、そう語ると皆は感動した。


サタンを恐れて逃げた憲明とジェルド、エルゼは知らなかったとはいえ、逃げた行いを恥て感動のあまり涙した。


吉田「そうか‥紗曇‥お前はずっと‥諦めなかったんだな‥‥ごめんよ、俺はそうとも知らないで‥諦めて‥‥あぁ‥うわぁぁ!」


若教師は生徒の前で本気の涙を流し嘆いた。

自分より過酷な環境でずっと一人で生きてきたのだと思うと、罪悪感しかなかった。


シャル「本来ヤマタノオロチは、憎悪や欲望などの見えぬ力が上蛇種(じょうじゃしゅ)に影響を与え生まれる生き物なのだ。じゃが、ここまで心の優しいのは珍しいのだ。恐らく長い間溜め込んだ、会いたいと言う欲望が自らを刺激させて姿を変えたのだろうな。」


ギール「じゃあ‥今までヤマタノオロチの報告がなかったのって。」


シャル「人目を避け人や魔族を食わず、我々と同じように狩りをして飢えを(しの)いでいたからだな。」


ディノ「うぅうぐっ‥なんて(つら)い話なのでしょうか。」


シャル「ディノよ、お主がそんなに泣いてどうするのだ?」


ディノ「うぐっ、申し訳ありません‥。」


哀愁漂う空気にサタンは心配そうに頬擦りし、優しく舐める。


シャル「ぬはは!くすぐったいのだ~♪」

エルゼ「ひゃう‥んんっ~♪」

ジェルド「こ、こら‥うぅ‥ごめんな、サタン。」

憲明「‥ま、(まれ)とはいえ、サタンの尊厳を傷つけてしまった‥こんなに優しいのにごめんよ。」


サタンは公平に接した。

だが、なぜか気絶した桃馬と京骨だけ、(よだれ)(たらし)ながら見つめていた。


京骨「‥‥えっと、何で涎を滴ているんだ?」


なんとなく察してはいたが、聞いたとしてもサタンの言葉がわからないが‥取り敢えず聞いてみた。


だが、逆効果だったようで顔を近づかせ京骨の頭をパクリと加えた。


その光景に全員が唖然とした。


京骨「‥はぁ‥またこうなるのか。」



ここで小話


京骨には昔から抱えている悩みがあります。

それは、骨を好む獣族などによく(かじ)られることで、特に初対面の相手に高確率で噛られてしまいます。ちなみに、噛った方に感想聞くと、一家に一本はほしいと絶賛しています。



そして、桃馬に至っては‥ゆっくりと飲み込まれ既に下半身まで喰われていた。


吉田「なっ!?さ、紗曇ストップ!?桃馬は食べ物じゃないよ!?」


シャル「安心しろ吉田よ♪あれは、桃馬が寝てると勘違いして冷えないように暖めておるのだよ~♪」

吉田「そ、そうなのか‥俺も紗曇の声が聞きたい。」

シャル「ぬはは!人間では難しいだろうな~♪」

吉田「‥はぁ、でも、紗曇と再開できただけでも俺は嬉しい。」


シャルの言葉を信じるが、徐々に沈んでいく桃馬。後は頭だけが飛び出していた。


ジェルド「‥桃馬大丈夫なのか?」

ギール「一気にパクリか‥いや、まさか‥蛇特有の舌で、桃馬体を‥う、羨ましい。」

ジェルド「ごくり、羨ましい‥。もしそうなら、後で上書きしてやらないと‥はぁはぁ。」

ギール「先に俺だからな‥邪魔するな。」

ジェルド「それはこっちの台詞だ‥。」


(よこしま)な野望を掲げ二匹の駄犬は火花を散らした。



憲明「それより先生?サタンをこれからどうするのですか?」


吉田「‥問題はそこだ。ヤマタノオロチがこの地域に生息していたとなれば、いくら優しい紗曇でもまわりから危険視されるだろう。それに、ルクステリアに連れて行こうにも暮らすには狭すぎる。」


憲明「確かにそうですね、でも、一人ぼっちにさせるのも‥元の世界に連れていくわけにもいかないですよね。」

吉田「そうなると校長と政府の承認がいるな。まず下りないだろうな。」

憲明「‥ですが、外に出しっぱにしても狙われる可能性もあります。良い手はないものでしょうか。」


シャル「なんじゃ?サタンを土地の守り神として祀り上げて自由にさせれば良いのではないか?」

吉田「‥それでは、紗曇の優しさに漬け込んで邪な連中が寄ってくる。」

シャル「じゃが日本では神を(あが)める風習が‥あ、そうだったのだ、ここは日本じゃなかったのだ。この世界は中世風だから‥少し危険なのだ。」


短期間で博識並みに覚えた知識が、シャルを覚醒させる。


憲明「考えてる姿を見るとまるで別人だな‥。」


吉田「魔王様も短期間で成長しましたね。取り敢えずは、女子たちと合流してルクステリアに連れて行こう。もし危害を加えるのなら‥紗曇と久々に"蛇鷹公"として武を振るうまでだ。」


シャル「なんじゃ?中二病か?」

憲明「いや~、まさか二つ名見たいなことを言うとは‥大概(たいがい)ですね。」


痛い目で吉田を見つめる二人。

折角の口上も台無しである。


吉田「こ、こほん、それじゃあ、フルロジカルに向かって女子たちと合流するぞ。」


こうして討伐クエストは予期せぬ大成功を納めた。上質な素材と生き別れたサタンとの再開は、この上ない成果であった。



そして‥‥頭だけだった桃馬は‥パクリと残った頭も食べられたのだった。



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