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第七十八話 発酵生涯腐ることなかれ


若干不穏な空気を漂わす異種交流会の部室にて、

続々と部室の情報を知らない部員たちが入って行く。


しかし、奇妙なの事が一つあり、同じ部員であるはずの小頼とリフィルが、部室に入らずこっそりと部室を覗いていた。


更にこの二人は、ギールたちが部室に近寄るなり、"教室に忘れ物をした"と言い、まるで逃げるかの様にその場を後にしたのだ。


これきギールは、また何かのいたずらかと思い、

少々警戒しながら部室へ入ると、予想を超えた修羅場の様な光景に唖然とした。


何故ならそこには、明るい桜色の髪からクールなパープル色に染め、普段では決して感じられないクールでカリスマ溢れる桜華が赤面しながら刀を抜いていたのだ。



ギール「な、何が起きてるんだ‥。」


シャル「何じゃ、今日は初っぱなから物騒でおるな?」


ディノ「ふ、二人とも何呑気な事を言っているのですか!?お、桜華さんが真剣を抜いているのですよ!?」


ギール「あ、あぁ、それは、分かるんだけど、何でこうなったんだ。」


シャル「ふむ、見たところ時奈とルシアが何かしたのだろうな。」


時奈「あっ、ギールたち良いところに来てくれた!エルゼちゃんと豆太くんはいるか?」


ギール「えぇ、いますよ。」


ジェルド「うぅ~♪」


時奈「ジェルド?鼻血なんか出してどうしたんだ?」


ギール「まあ色々ありまして‥」


エルゼと豆太の絡みを妄想してしまったジェルド。

狼が狸を喰らうかの様に、あの大人しいエルゼが急変しては肉食系へと変わり、気弱な豆太を押し倒しては舐め回してしまう妄想に、脳内で軽いオーバーヒートを起こしてしまっていた。



すると、ギールの姿を見た桜華様は、

刀を持ったままシャフ度の構えで、とある二人(匹)を求めた。


桜華様「ギールよ、豆太とエルゼはどこにいるのですか?」


ギール「っ、あ、いや…、と、取り敢えず、刀をしまいましょうか。」


桜華様「あっ‥こほん、そうだな。」


乱心状態の桜華様は、ギールに冷静な(なだ)めにより、

大人しく刀を鞘へ戻し服装を整えた。


ギール「豆太、エルゼちゃんおいで、」


エルゼ「は、はい。あっ‥噂は本当だったんだ。綺麗‥。」


豆太「ふぁ~、かっこいい。」


桜華様「クスッ♪二人ともちょっといらっしゃい♪」


待ち兼ねた二匹の可愛いけもっ子に、

桜華様は優しく手招きをした。


しかし、その様子に不服に思ったシャルが待ったをかけた。


シャル「待つのだ桜華よ‥今のお主に二人は渡さぬぞ。」


桜華様「それは‥どういう意味ですか?小さな悪魔さん?」


ディノ「シャル様、今は張り合ってる場合じゃないですよ!?今の桜華さんが二人に対して、危害を加えようとしてるわけでも無いようですし、どうか、お考え直しを。」


シャル「いやなのだ。初めてこの桜華を見た瞬間から、かなり危険な匂いがしたのだ。だから、今の桜華に少しでも危険がある以上、余は絶対に認めぬのだ。」


ギール「シャル‥お前‥。」


豆太「シャルお姉ちゃん‥。」


エルゼ「わふぅ‥お姉ちゃん。」


"なのだ"モードにしては、

珍しく"まとも"な主張に桃馬と桜華を除く全員か驚いた。


桜華様「‥言ってくれますね。さすがは元魔王‥腐っても鯛‥いや、魔王ですね。」


シャル「ふっ、余は腐ってはおらぬぞ。腐っては何も輝けぬ哀れなものだ。しかし余は、これからも輝き続ける魔王である。だから余は、何も得られぬ"腐る"ではなく、将来を見据えて成長する"発酵"であるのだ。だからここは、"発酵しても魔王"と言ってほしいのだ。」


ディノ「お、お見事ですシャル様!」


ギール「いつの間にそんなの覚えたんだ。」


普通に聞けばカッコ悪い話してはあるが、

少し思慮(しりょ)深く聞いてみると、シャルの哲学とも言える反論は、中々考えさせられるものであった。



桜華様「クスッ、あはは。さすが魔王ですね。まさか、腐るを発酵として旨みを出してくるとはお見事です。」


シャル「わかったのなら、早々に控えてほしいのだが?」


桜華様「クスッ、ですが私も、この二人と触れ合って見たいのです。二人に危害を加えないと約束しますから、どうかお許しください。」


桜華様は以外にも頭を下げた。


これに対して、断固拒否モードであったシャルは、

頭を下げる桜華様の姿を見るや、徐々に警戒心を解き始める。


シャル「‥わかったのだ。約束なのだ。」


豆太「シャルお姉ちゃん‥いいの?」


シャル「目を見ればわかるのだ‥。少し変わっても桜華は桜華なのだ。」


豆太「わかりました。エルゼちゃん行こう♪」


エルゼ「は、はい!」


安全は確保され、二匹は桜華様の元へ向かった。


桜華様「はぅ~♪二人とも可愛いです♪」


先程までの殺伐とした空間が嘘の様に、

部室内は一瞬で穏やかになった。


桜華様「二人とも少しもふもふしてもいいかな~♪」


エルゼ「は、はい♪。」


豆太「僕もどうぞ♪。」


桜華様「ありがとう♪では、早速‥。」


桜華様は二人の頭に手を伸ばすと耳と耳の間を撫でる。


桜華様「んんっ~♪二人とも(すこぶ)るもふもふね~♪」


エルゼ「んんっ‥わふぅ~♪」


豆太「‥んんっ、はぅ~♪」


二匹は上機嫌に尻尾を振り、

耳をピコピコとさせては満足そうにしていた。


その表情には、

桜華様でもメロメロに(とりこ)にされていた。


桜華様「はぅ~♪二人とも可愛(かわゆ)すぎる~♪耳も触らせて~♪」


次は、けもみみたちの敏感な耳を触り始めると、

二匹は完全に(とろ)け始めた。


エルゼ「わふぅ~♪くぅ~ん♪」


豆太「うぅん♪耳気持ちいいですぅ~♪」


エルゼは甘えるかの様にすり寄り、

豆太は無意識に桜華様に抱きついた。


この光景は、ただ見ているだけでも,

虜にするくらいの破壊力があった。



女子たちは、スマホとカメラを構えて、この天国の様な光景を撮り始め、男たちはノメリ込まない様に少し遠目で観賞し始めた。


すると、遠目で見ていた事で視野が広がり、ようやくここで部室の片隅に設置された不自然なバリケードに気づくわけである。



ジェルド「‥意外と可愛い子には優しいんだな。ん?うわっ!?と、桃馬!?」


ギール「えっ?うわっ桃馬!?なんでそんな片隅でバリケード張っているんだ!?」



桃馬「‥よぉ‥‥来たか‥。」


返事はあるものの、声に覇気がなく、

光すらも無い絶望の瞳をしていた。


恐らく桃馬は、メンタル的にかなりのダメージが入っている。しかも、この外部との交流を遮断しようとしているバリケードを見る限り、強引な励まし等は帰って逆効果である。


しかしそこへ、

今桃馬に取って一番絡まれたくないであろう

陽気マシーンが接近して来る。


シャル「ぬはは!なんじゃ桃馬♪ひどくやさぐれておるな~♪」


ディノ「ふ、負のオーラが強いですね。」


ギール「こ、こらシャル!?少しは空気読めよ!?」


シャル「むっ?空気とな?ぬはは~。どうせ、桃馬が落ち込んでおるのは、今の桜華にきつい何か言われたのだろう?」


鋭すぎる勘に桃馬は反論する気力も起きなかった。


シャル「図星の様だな。三人とも少し手伝うのだ。」


ギール&ジェルド「お、おう。」


ディノ「えっと、手伝うとは?」


シャル「うむ、取り敢えず、このバリケードを破壊するのだ!」


桃馬「なっ!?」


まさかの実力行使に桃馬は戸惑った。

この小さなバリケードに、四体一の攻防。


戦法の中でも、籠城する側に対して、

攻め側は、三倍以上が必要とされている。

そのため今回の小さな攻防は、完全に桃馬の劣性であり、

当然、桃馬も必死に抵抗するが、秒で陥落した。


ギール「大人しくしろ桃馬!らしくないじゃないか?」


ジェルド「そうだぞ?どうせ桜華様絡みだろ?気にすんなって、桜華の心は今でも桃馬を推しているから心配するな。」


桃馬「‥うるさい。お前たちは一部始終を見てないから、そんな事が言えるんだ。」


表情と震える口調を見る限り、

心が病み始めていると二匹は悟った。


ギール「‥‥ジェルド。」


ジェルド「‥仕方ないな。」


二匹は獣人の姿から"狼(犬)"の姿に変えると、

そのまま桃馬にすり寄り始めた。


シャル「ぬわっ!?」


ディノ「な、なるほど、身を呈してのご機嫌取りですね。」


桃馬「な、何のつもりだ‥。」


ギール「ほ、ほら、そんな暗い顔はするなよ。す、好きなだけもふっていいから機嫌直せよ。」


ジェルド「ほらほら~♪俺たちは桃馬の犬だぞ、好きにしろよ♪わふぅ~ん♪」


桃馬「‥うぐっ‥ふ、ふん…、卑怯な奴らだ。」


桃馬はツンケンしながらも、

二匹の優しさに甘えて撫でまわした。


しかし、この光景にシャルも便乗しようとする。


シャル「よ、余も触るのだ!」


ディノ「だめですよ、シャル様?」


シャル「ぬわっ!?離すのだ~。」


二匹の凛々しくて逞しい狼の姿に、

シャルは白黒の上質な毛並みに飛び込もうとするも、

ここは、冷静なディノによって阻まれた。



こうして異種交流会の部室は、

獣人族たちが接待する楽園と化した。



すると、そんな様子を扉越しから覗く、

不審な二人の美女がいた。


リフィル「いいですね~♪まるで天国見たいです。」


小頼「うんうん、でも、入るタイミングを見失ったね。」


リフィル「そ、そうですね~、今部室に入るのは気が引けますね。」


憲明「二人とも何してるんだ?」


リフィル&小頼「ふにゃ!?」


リフィル「の、憲明!?いつの間にそこに!?」


憲明「たった今だけど‥、みんなはもういるのか?」


小頼「ま、まあいるけど‥今は入りづらくて‥。」


憲明「桜華様の件か?どれどれ‥ほう、なるほどな。」


憲明の目に広がるのは、


エルゼと豆太をもふり倒して満足している桜華様。


狼(犬)化したギールとジェルドをもふっている桃馬。


その近くでシャルを羽交い締めにしているディノ。


時奈、京骨、ルシアは、楽しそうに傍観していた。


完全に仲介役が必要な状況に、

憲明はため息をついて、美女二人と共に部室に入り込んだ。


憲明「すみません時奈先輩遅れました。」


時奈「おぉ、リフィルと小頼も来たか。これで全員揃ったな。」


憲明「えっと、一応確認なんですけど、この状態で異世界に行く気ですか?」


時奈「うむ、今日はサキュバスが多く住む街に行く予定だ。」



部長の時奈は、普通の女子なら躊躇(ためら)ってしまう様な事を、何一つ躊躇(ためら)う仕草を見せず"しれっ"と言い放った。


ここで小話

サキュバスと言えば、

男子と一部女子に取っては、ロマンの一つである。


しかし実際は、付き合ったら最後。


理性を持ち合わせているサキュバスなら良いが、

性に貪欲であるサキュバスなら、ほぼ毎日、精気を搾られては大変な目に合っている例がある。


ちなみに、学園内での性行為は当然禁止とされてるが、

精気を吸い取るドレインタッチは認められている。




憲明&京骨「えっ?ええっ!?」


ルシア「‥‥時奈先輩?聞いてないのですけど‥。」


急な行き先に反応したルシアは、

京骨が他のサキュバスに襲われると思ったのか、

表情は曇らせながら軽く時奈を睨んだ。



時奈「おっと、すまない。言葉が足りなかったな。サキュバスの街には、私たち女子だけで向かう。男子たちは街の外の森で採取活動をしてもらう。」


憲明「で、ですが、サキュバスが住む街の近くでの採取活動は、普通に考えてもサキュバスと遭遇するリスクがあると思うのですが。」


時奈「それは大丈夫だ、吉田先生の話によると、そのエリアにはサキュバスが出る事はないそうだ。」


憲明「…そ、そうですか。しかし、女の子同士とはいえ‥サキュバスの街に女子を送るって、先生は何を考えてるんだ‥。」


時奈「比較的に治安も良いと聞いているから大丈夫だ。」


ルシア「‥比較的に治安が良いって事は魔界ではないようね?」


時奈「そうだ。場所は"ルクステリア"の東にある"フルロジカル"の街だ。さすがに、魔界のサキュバスは女子同士でも精気を吸い取ると聞いているからな。さすがにそこまでは行けないな。」


ルシア「ふぅ。そうなのよね。魔界の子達は歯止めを知らないから、気に入った人間を勝手に魔族にしては結婚したり‥大変なのよね。」


憲明「‥まさか、そんな人間の辞め方が‥でも、サキュバスと結婚か‥‥いててっ!?」


サキュバスとの結婚も少しは悪くないと思ってしまった時、リフィルが背中をつねってきた。


リフィル「の~り~あ~き~?」


憲明「いたたっ!?どうしたリフィル!?」


リフィル「わ、私はサキュバス見たいに可愛くはないけど、私は憲明を取られたくありません!」


憲明「な、何言ってるんだよ!?俺の一番はリフィルしかいないって‥。」


リフィル「はぅ///ほ、本当?」


憲明「本当だよ、嘘ついて何になるんだよ?」


リフィル「っ///」


半ば強引な愛の確認に感極まったリフィルは、

照れ隠しだろうか、そのまま憲明に抱きついた。


これに憲明は、

リフィルの綺麗な金髪に手を触れると優しく撫で始めた。


この光景に羨ましくなったのか、

ルシアは京骨に対してチラチラと見ながらアピールを始める。


京骨「相変わらず憲明とリフィルは、安定してるな。」


ルシア「‥むぅ。」


だが、目だけでは気づいてもらえていないのか、

そのままスルーされてしまう。


そのためルシアは、

京骨の肩に頭をポフポフし始めた。


京骨「‥ふぅ、仕方ない姫様だな。」


ルシア「こ、ここでそれを言わないの‥。」


京骨「わりぃ、」


結局の所、ルシアのアピールに気づいていた京骨は、

ルシアをデレさせるため敢えて無視していた様だ。



京骨は、デレたルシアの頭を撫で始めると、

ルシアは満足そうに喜んだ、


時奈「‥取り残されたな。」


小頼「‥そうですね。」


時奈「ふっ、小頼もナデてやろうか。」


小頼「あう、うぅ~。」


結局、取り残された二人は、

時奈が小頼の頭を撫でまわす形となった。


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