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第七十四話 春の大戦乱祭(最終) 戦の成れの果て

春の大戦乱祭は東軍の勝利で幕を閉じた。


蒼天の空には、絢爛豪華でド派手な花火が打ち上がり、

約二分間近く鳴り響いた。


勝利に喜ぶ声と花火の音が響く中で、

上杉校長は、マイクの前に立ち閉幕の言葉を全生徒へ向けて発信した。


校長「こほん、生徒諸君!此度の大戦乱祭の武功、誠に見事である!劣勢ながらも結束力を高め、緻密(ちみつ)な策と個々の武勇で導いた東軍の勝利は感動の極みである。」


上杉校長の言葉は、更に東軍生たちを高ぶらせ、

旗を高らかに掲げるや大歓声で喜んだ。


そんな時、上杉校長から、

勝利に浸る東軍生に対して重大な質問する。


校長「して、東軍生徒諸君。此度の西軍の処罰を如何する?西軍側は、勝てば東軍に属する生徒を傀儡(かいらい)にすると称し、負けた暁には同等の罰を受けると合意している。皆は如何する?」


東軍生「もちろん!代償は傀儡だ!それしかない!」


東軍生「目には目を!歯には歯を!傀儡には傀儡を!」


東軍生「少なくとも代表者に罰を!」


当然、大半の東軍生は代償を望んだ。



しかし、その一方で、

一人の男子生徒が()を読んだ。



"これも生きし者たちの(さが)なのであろう。

どんな大層な(こころざし)(かか)げたとしても、

敵である"悪"に対して吊し上げることを望む"


"所詮この世は善と悪。

悪は大義名分で善に倒され、中には善が悪となり、悪が善となる事もあり得る。勝てば官軍、されど賊軍なり、真の大義とは如何(いか)なるものなのであろうか"


晴斗「‥相変わらず皮肉な詩だね?」


?「ふふっ‥悪が善に裁かれ、善が悪に染まる…この混沌(こんとん)は素晴らしき音色だ。」


顔を前髪で隠し、琵琶(びわ)を不気味に(かなで)ながら(うた)う男子生徒は、そろりそろりと晴斗に近づく。


しかし晴斗は、

何食わぬ顔で不気味な男子生徒の髪を掴むと、

そのまま"かつら"をひっぺがした。


不気味な男子生徒の顔が(あらわ)になると、彼は寝不足なのか、目の下には濃い"くま"が出来ていた。


この男子生徒の名は、

臨界制二年三組、粟島(あわしま)浦雅(うらまさ)である。


浦雅「うぅ‥まぶっ。」


晴斗「相変わらず明るいところが嫌いな様だな?ほらよ。」


寝不足のせいなのか、

それともシンプルに太陽の光が嫌なのか、

浦雅は、防ぎきれない光を何とかしようと両手で日陰を作った。これに晴斗は、"ひっぺがした"かつらを元の位置に戻した。


浦雅「‥どうも、それより‥そろそろ判決が出るよ。」


晴斗「‥判決?また少し先の未来を見たか?」


浦雅「ふふっ、面白いことになりそうだ‥大将が動くぞ。」


不気味に浦雅が笑うと、

宣言通り東軍総大将"聖籠(せいろう)(しのぶ)"の声が響いた。


忍「同志たちよ静まれ!吊るし合いは我ら東軍にとっては美しくない。ここは僕に免じて西軍を許してやってほしい。」


東軍生「し、忍!?正気で言っているのか!?」


東軍生「そ、そうだ!人権を賭けてまで戦ったのに、みすみす許すのかよ!?結局、半年間の購買と学食の半額券しか貰えないではないか!」


まわりが反論するのは当然である。


人権まで賭けたんだ。

せめて代表者に罰を与えない限り気がすまない。


忍「同志たちよ勘違いしちゃ困るよ。僕は公平な裁きを与えたいだけだ。勝者が裁く判決などではなく。真の戦犯者に罰を与える。これこそ戦の美学だ。」


東軍生「それなら新西(あらにし)荒儀(あらのり)だ!」


東軍生「そうだ!そうだ!」


東軍生「新西(あらにし)狂季(きょうき)一条(いちじょう)是清(これきよ)も戦犯者だ!」


東軍生「そうだ!この三人は許してはなりません!この際奴等の悪行を改めるべきだ!」


三年生は、真っ先に西軍総大将新西荒儀の名を上げ、

二年生は、弟の新西狂季と一条是清の名を上げた。


桜華「うぅ。み、皆さん少しやりすぎでは…。」


桃馬「まあこの戦いに問わず、日頃から新西兄弟の卑劣な行いには目が余っていたからな、こればかりは仕方ないさ。」


桜華「で、でも…。」


桃馬「まあ、桜華は同情するな。なんせ相手は、平気で気に入った女子たちを手込めにしようとする屑だからな。」


桜華「ふぇ!?…うぅ、少しでも同情したのが恥ずかしいです。」


桃馬「そうだろ?あと例を上げるなら、去年の秋の大戦乱祭の時に、狂季の奴がリールに手を出した結果、直人の逆鱗に触れて大変なことになったな。」


桜華「そ、そんな事があったのですか?」


桃馬「あぁ、危うく死人が出るくらいのな。直人が鬼仏(おにぼとけ)と呼ばれる由縁となった話だよ。当時の三年生を四十人、二年生五十人、一年生百人近く半殺しにして、殴られようが斬られようが、焼かれようが前に進み、止めようとした味方までも捲き込んで二十人はやられたっけな。」


桜華「ごくり‥ま、まさに鬼神ですね。今の直人さんには想像できません。」


桃馬「そうだろうな、でも、今回はぶちギレなくてよかった。(あやかし)にもなってるから、キレたら確実に死人が出ただろうな。」


桜華「あ、あはは‥知らないで戦っててよかった~。」


二人が安堵している中、

大鵬に乗った上杉校長が降り立った。


校長「結論は出たかな?」


忍「は、はい。皆の言うとおり、新西兄弟はもちろん、条家、各代表者への罰則が必要かと思います。しかし、それでは勝者の意見です。上杉校長や先生方の意見も聞き公平にしたいと考えています。」


校長「はっはっ、葛藤しておるな。だが感情に流されない事は良いことだ。よかろう、職員会議を開いて我々の意見をまとめてみよう。」


忍「ありがとうございます。」


上杉校長は早々に大鵬に乗り込むと颯爽に去っていった。


東軍生「‥忍‥こんなのでいいのかよ。」


忍「‥気持ちはわかる。だが、俺たちは正当な官軍であるためにも、この戦の裁判だけは、一方的に勝者が敗者を裁くことはしてはならない。勝者が敗者を裁くのは、権力を横暴に振るう者だけだ。俺たちはそんな愚かな人間でないだろ?」


演劇モードが抜け、真剣に真面目な事を話す忍に、

その場の者たちは反論できなかった。


晴斗「見事な演説だな~‥俺は先輩に賛成だね。」


浦雅「ふふっ、私も賛成です。我らだけの意見では、不当な裁判と称す者がいるだろうしね。ふふっ‥必ず吊るされる者を黙らせるには‥これが一番‥ふふっ。」



桜華「す、凄くためになるお話ですね。」


桃馬「いつもあんな感じなら良いものの。」


桜華「でも、先生方がもし西軍の代表者たちを庇って処罰しないってなったらどうなるのかな?」


桃馬「そうなれば、一部で大義名分もない"決闘式"の戦乱を開いて白黒つけるかもな。」


桜華「私たちもやらないとダメなのかな?」


桃馬「俺としては、忍先輩に任せるよ。出来ることなら新西狂季と一条是清だけでも報復を受けてほしいけど‥あまり私情で争いたくないよな。」


桜華「なんだかこう言う戦いは、勝てば嬉しいけど最後に報復を求めるとなると(むな)しいですね。」


桃馬「そうだな。恐らく校長先生もそれに気づいてほしいのだろうな。だから、西軍の一方的な意見を取り入れて敢えて止めなかった。負けて気づくこともあれば、勝って気づくこともある‥非戦争国家ならではの貴重な授業だな。かなり痛いけど‥。」


道徳心を試されているような今回の大戦乱祭。

人権まで賭けてまで倒した相手に何を求めるのか‥。


公開処刑並みの罰を期待をしていた東軍生であったが、

意外にも人道を優先した罰にモヤモヤする中、

すると、忍から一つの案を打ち出した。


忍「なら、今年の納涼祭に国民的アイドル"ユキツバキ"を呼ぶってのはどうだ。」


時奈「なっ!?」


一同「おぉぉぉ!!」


沈んだ空気が一気に好転。

大歓声が起きた。


当然生徒会長は抗議した。


時奈「ま、待ちなさい忍!何勝手なことを言ってるの!?そんな大規模な行事は、生徒会と上杉校長の承認が必要なのよ!?」


忍「まあまあ、あくまで提案だよ。だめなら代わりの提案を提示するさ。」


東軍生「なんだ‥ただの提案かよ。」


東軍生「でも、本当に来てくれたらすごいことだぞ!」


東軍生「だが、実現したら誰が呼ぶんだ?」


忍「それはもちろん、西軍総大将新西の力でな。」


一同「おぉぉ!」


罰として相応しい内容に、

男女問わず拍手喝采である。


時奈「だ、だが、これが罰で良いの?ユキツバキを呼ぶにしても新西に取っては難しくないはずだぞ。」


忍「だろうな。この案は金さえ積めば簡単なことだ。でもこれは、あくまで戦犯者から(のが)れられた場合の絶対的な公約だよ。」


時奈「じゃあ、戦犯者となったらどうするんだ?」


忍「ふっ、当然二つ背負ってもらうに決まってるだろ?」


勝者が敗者を裁く事を否定していた割には、

抜け目のないエグい内容に多くの東軍生たちが歓喜するも、その中には、涼しい顔で心の中ではエグいことを考えている忍を察し、ある意味恐れながら歓喜に浸る者もいた。



ここで小話

国民的アイドル"ユキツバキ"とは


金髪エルフのお転婆幼馴染系

スカーレット・ナーシェル


銀髪ダークエルフの"くっころ"ツンデレ騎士系

ダクト・リンバートル


白狼族の甘えん坊な忠犬

ココロ・コロネル


紫髪サキュバスの珍しいクール系お姉さん。

ルルー


茶髪のツインテの妹系 現人神(あらひとかみ)

弥彦(やひこ)(みのり)


五人組の美女グループであり、

強くて歌って踊って癒しを与える、

国民的異世界アイドルグループである。




晴斗「本当に面白いことになったな。浦雅はどこまで先が見えたんだ?」


浦雅「ふふっ、まあ、数分って所かな。でも俺の見える光景は、あくまで未来予知程度だから、実際に動きながら未来予知をすると多くの光景が見えるから使えないんだよな。」


晴斗「‥な、なんか不便だな。漫画とかなら簡単に相手の動きが読めて便利な気がするけど。」


浦雅「まあ、実際使いこなせていないだけかもしれないけどね。でも、じっとしている分には便利だよ。、」


ここで再び小話

実は浦雅はユキツバキの大ファンであり、

いつも徹夜してライブ動画を見ているため毎日寝不足である。そのため授業の時は前髪の長いかつらを着けては居眠りをしています。


そのため、浦雅が持つ魅力的な未来予知は、全てアイドルグループ"ユキツバキ"に関する物ばかりで戦術的には全く役に立ちません。



話は戻し、


国民的アイドル"ユキツバキ"を生で見れる事に、

ほとんどの東軍生が盛り上がる中、


一部それを喜ばない二人の美女がいた‥。


リフィル「‥うーん、エルンちゃんどうしよう。」


エルン「‥取り敢えず納涼祭まで時間はある。姉上方には学園で会わないようにしよう。さすがに姉妹だとバレた時は面倒だからな。」


リフィル「あはは‥そ、そうだね。久々に会いたいけど、もしかしたら、憲明を取られるかもしれないからね。」


エルン「‥う、うむ、アイドル活動は色々と欲求不満になるものらしいからな。もしそんな姉上が直人と出会ったら‥。」


納涼祭まで近くて遠く、

まだ未定であるが、確実に叶うであろう展開に、

二人は不安になるのであった。



その後リタイヤした者にも、国民的アイドルを新西家一門の名に賭けて納涼祭に爆誕させると広められ、東西関係なく大歓声のもと、大戦犯の新西家は追い詰められていった。





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