第六十九話 春の大戦乱祭(9) 深紅の魔と神水の魔
東軍本隊と西軍三年生の戦いは、
互いに被害を出す中、東軍が有利に進んでいた。
特に、生徒会長の新潟時奈の攻勢は凄まじく、
魔法と剣術を駆使して、相撲部であろうが、運動神経が良い者でさえも、新潟時奈の前では赤子に等しかった。
これだけでも圧倒的な東軍優勢に見えるが、
それでも問題なのが、西軍のくノ一の存在であった。
華麗に攻撃や魔法をすり抜けては、
素早い攻撃を仕掛けてくる。
しかも、倒されても復活するため、
長期戦になれば不利になる展開である。
そのため、東軍が完全に有利に立つ条件として、
早急に頭目である四風御影を倒さなければならないのだが‥。東軍くノ一部隊は次々とリタイヤしていた。
椿「はぁはぁ‥。」
ルビア「ふぇーん!チート過ぎるよー!」
御影「駄目よ二人とも~♪バラバラに攻撃しても私には勝てないわよ?」
椿「くっ、私は、まだお姉さまに届かないのか‥。」
御影「クスッ、これで私の勝ちでいいかしら?」
椿「よ、よくありませんよ!それに、まだ負けていません!」
ルビア「うぅ、私は負けでも‥いたっ!?」
椿「しっかりしなさいルビア!」
ルビア「ふえーん、御影先輩~。椿ちゃんが叩いた~。」
御影「よしよし♪椿ちゃんは少し荒っぽいからね~♪これでよく"スーくん"は私より椿ちゃんを選んだわよね~?」
"スーくん"とは、
魔界貴族にして椿の彼氏である。
赤髪男子のスザクである。
ここで小話。
御影は過去に、スザクと椿の関係を知っておきながら、スザクの心に眠る獣の本性を引き出すために誘惑した事があった。しかしスザクは、魔界貴族のくせに紳士であったため、見事にフラれた事があった。
そんな過去を思い出しながらも、
少し妬みっぽく励ます。
椿「なっ!今は、す、スザクは関係ないじゃないですか!?」
御影「だって~、スーくんは迷い無く椿を取ったのよ?あのフラれた時は、自信なくしちゃったよ~。」
椿「はぁ、戦いの最中に何を話してるのですか‥。」
御影「もしかして、おっとりはだめなのかな?」
椿「‥わ、私は知りませんよ!」
戦いの場で、
終わりの見えない恋愛話を終わらせるため、
椿はクナイを投げる。
だがしかし、この程度で倒せる訳もなく、
ルビアを抱えた御影は"するり"とかわす。
ここで再び小話。
実は、意外と"彼氏がいない"四風御影先輩。
誰もが魅了する抜群なスタイルも持ち、
サキュバスに負けず劣らずの妖艶なカリスマ性を持ち合わせている。
当然、言い寄る男子は居るが、
ほとんど体目当ての錯覚の恋であるため、悉く断ってきた。
とまあ、
年下で弟属性の男子を好んでいた事もあり、
彼氏を作るよりは、大好物の"弟属性の男子"を見つけては、からかったりしていた。
中には、純粋な気持ちで好きになる人は居るが、
御影の上級レベルのお姉さん属性と母性の前に、
悉く背徳感を感じて諦めて、雲を見る様な存在となっていた。
しかし、これは噂だが、
御影は小さい時に、結婚を約束した人が居ると言う、一部の噂があるが詳細は不明である。
続いて、からかわれた被害者たちはと言うと‥。
佐渡桃馬‥通称"とうくん"
これ半年前の事。
当時の桃馬は、簡単に彼女ができるプランを見事に外してしまい、情けなく呆けていた。
するとそこへ、
肌の面積が多いくノ一の格好をした御影が、
桃馬の前に現れる。
見知らぬエロい女性の登場に、
脳が追い付かない桃馬。
すると早速御影は、心が折れた桃馬に、
大胆な妖艶なセクハラをする。
当然桃馬は大混乱、豊満な胸に押し込まれているのに、何故か桃馬に罪悪感が襲った。
だがそこへ、当時の生徒会長、ダークエルフのエルガ・ガールンドに助けてもらい、難を逃れた。
この時の結果は失敗に終わる。
また、ある時は
両津直人こと‥通称"なおくん"を狙うも、
気配を気取られているのか、いつも逃げられている。
だが実際は、たまたま人に呼ばれて逃げられた風に見えていただけで、もし一回でも成功していたら、恐らく堕ちていた可能性がある。
更に
相川葵‥通称"あーくん"
恋人シェリル・フェンリルのセキュリティーが強く近寄れず、しかも異世界に居るため狙える機会がほぼない。だが、一度だけハンカチを拾ってくれたお礼に抱きしめた事がある。だが、手応えはなかった。
こんな風に、一部の後輩をからかっては楽しむと言う、少しSでエッチなお姉さんである。
そして話は戻し‥。
未だに御影にしがみついているルビアに、
椿がツッコむ。
椿「る、ルビア!あなたは、いつまでお姉様にくっついてるのですか!」
ルビア「ふえ?あ、あはは、そうだった。」
御影「あぁん♪ルビアちゃんは渡さないわ~♪」
ルビア「ふあっ♪おねえひゃま~♪」
サキュバスでも堕ちる程の破壊力‥。
これでは、ある意味恋人を作るのは難しいだろう。
椿「‥仕方ありません‥。ルビアごと成敗‥。」
椿が奥義を繰り出そうとすると、
突然御影が声をあげた。
御影「っ!椿後ろ!」
椿「えっ?」
椿が後ろを振り向くと、
西軍の魔族の臨界生が刀を振り下ろした。
御影も思わず鉄扇を投げようとするが、
間に合いそうにない。
だがその時、赤髪の魔族が椿に飛びかかり、
間一髪の所で椿を助け出した。
西軍生「ちっ、間に合ったか。」
御影「スーくん!?」
椿「んんっ‥えっ‥す、スザク!?」
スザク「間に合って良かった‥怪我はないか?」
完全密着の状態から、
椿を下ろすと赤面していた。
椿「えっ///あ、う、うん‥でも、どうしてスザクが‥臨界生は出れないって‥。」
スザク「ギリギリメンテが終わったから、急遽参戦したんだよ。それよりまさか、‥ここに先輩が居るとは思いませんでしたよ。」
西軍生「今の戦況を見ても、ここが本陣みたいな所だからな。」
西軍生「四風の妹を倒せるチャンスだったが‥やっぱりその前にスザクが邪魔するよな。」
スザク「当たり前ですよ‥。あと俺、もう半分キレてますけど。」
西軍生「いいね~その目、このまま本気のスザクとやり合いたいが‥。」
かっこつけながら話す魔族に対して、
豪速で投げられた模造刀が顔をかすめる。
西軍生「えっ?」
西軍生「っ、お、おいおい‥今のは冗談になってないぞ。」
投げられた方向を見ると、
御影が黒いオーラを漂わせながら笑顔で迫る。
西軍生「し、四風‥何してるんだよ!?味方だぞ!?」
御影「私の可愛い椿ちゃんを傷物にしようとする人は‥許さないわ。」
張り付いた目が開くとそこには光はなく、
ヤンデレの、デレなしの目付きになっていた。
西軍三年くノ一「うわぁ‥もう止められないや。」
東軍二年くノ一「せ、先輩逃げましょう!?巻き込まれますよ!?」
西軍三年くノ一「そ、そうだな、みんな退避!巻き込まれるぞ!」
東軍西軍関係なく、くノ一たちは一斉に散った。
スザク「さてと、じゃあ俺もお望み通り本気だそうか。」
短髪の赤髪が少しずつ伸びると徐々に逆立ち始める。瞳は深紅に染まり高貴な魔族オーラを漂わす。
西軍生「お、おいどうする!?四風まで相手はきついぞ!」
西軍生「へっ、こっちは魔族が二十人もいるんだ‥。数で押せば勝てる!」
スザク「二十人?俺には五人にしか見えないが?」
西軍生「後に控えてるんだよ‥、お前ら出てこい!」
一人のリーダー格の魔族が声を出すが、
残りの十五人は来ない。
スザク「あはは!来るわけないだろ?今頃、俺の仲間が相手してるだろうしな。」
西軍生「‥ぐっ、スザク!」
リーダー格の魔族はやけくそに斬りかかるも、
一瞬で返り討ちにされた。
戦意を奪われた四人の魔族は逃げようとする。
だが、御影はそれを許さず強力な魔法と忍術を組み合わせた。無数の水手裏剣が縦横無尽に襲った。
椿「す、すごい‥‥私も魔法を使いたい‥。」
姉の本気の神技に目を奪われ羨む。椿は残念なことに魔法が使えないため少しコンプレックスを感じている。
スザク「さすが御影姉‥こんなに強いのに彼氏なしなんて勿体な‥ぐはぁぁ!?」
御影「すーくん?一言多いわよ♪」
椿「ふえっ!?スザク!?」
御影「もう、こうなればおねしょた路線を攻めるしかないわね。」
椿「だ、駄目に決まってるでしょ!?」
御影の縦横無尽に放った水手裏剣は‥、不幸にも分身を生み出す術者たちにも直撃し全滅‥。これにより西軍三年四組、五組は壊滅した。
残すは西軍本陣のみ‥。
だが、臨界生の乱入により更なる激戦が予測される。
忍「まさか、不参加だと思ってた臨界生が突如参加とは‥油断したよ。」
時奈「まさか間に合ったとはな。楽しみにしていた臨界生たちには嬉しい事だ。うんうん。」
忍「うむ、高ぶった思いが不完全燃焼で終わるのは‥辛いことだ。」
他愛のない感想を述べていると、エルンとリフィルが東軍右翼部隊の被害を報告しに来た。
エルン「先輩方、被害報告を申し上げます‥。」
リフィル「えへへ、あまり驚かないでくださいね。」
時奈「あぁ、少し無理した分もあるからな、多少の被害は承知している。遠慮なく話してくれ。」
エルン「‥東軍右翼部隊‥八割近く壊滅しました。」
時奈「ふぇ?」
忍「なっ!?」
リフィル「えっと、詳細はシャルちゃんの覚醒といいますか~。恥ずかしさからの誤魔化しといいますか~。不慮の事故により同胞は吹き飛ばされました。」
時奈「な、なんと八割も!?。」
忍「‥今のタイミングで聞けて良かった。」
時奈「もしかして、ギールもリタイヤしたのか?」
エルン「いえ、先に戻ってきた者の話ではシャルとディノと一緒だったとか。」
リフィル「仲の良い兄妹だよね~♪」
時奈「そうか、それなら後で追い付くか。よし、くノ一部隊と一部の部隊を残して私たちは西軍本陣に攻撃を仕掛けよう。」
忍「俺も賛成だ。臨界生組に注意を払い進軍だ。」
忍率いる東軍は、四風椿、スザクと少数の部隊を残し最後の戦場へ向かった。
各地では臨界生同士の戦闘が行われ、
激しい爆音や鬨の声が響く。