第六十七話 春の大戦乱祭(7) 臨界生これにあり!
春の大戦乱祭は、いよいよ終盤に差し掛かった。
正直祭りにしては、何とも味気ない物であった。
しかしそこへ‥、終盤にも関わらず、異世界より臨界制の生徒たちが続々と戦地へと向かっていた。その数、二、三年生を含めて約三百人。
まだまだ、春の大戦乱祭はこれからである。
戦場から1キロ先のこと。
臨界制の生徒たちは、
東西軍問わず、急いで戦地へと赴く。
?「ちくしょう!なんでこんな時にゲートのメンテナンスしてるんだよ!楽しみにしていた戦が終わってしまう!」
?「全くだ!せっかくのワルキューレ紅薔薇隊の活躍が見せられないではないか!」
とある一集団の先頭には、和服を着た紺色の短髪男子と鎧を身につけた水色のショートヘアーの美女が、愚痴を言いながら走っていた。
そう、彼らは、
二年三組のもう一つの強者である臨界制の生徒だ。
?「問題は戦場に着いたとしても、戦況や敵味方の位置がわからない点が厄介だ。」
?「た、確かに、味方は襷の色で分かるとして‥、配置が問題だな。」
色々と情報不足な臨界生組の元に、
突如大空から大鵬が舞い降りて来る。
臨界生は足を止め大鵬の迫力に圧倒された。
すると、大鵬の背から"上杉校長"が現れた。
上杉校長「いやはや、臨界生の諸君ようやく着たか。」
?「っ、上杉校長!?」
?「な、なぜこの様なところに?」
校長「先程、異世界支部から連絡があってな。皆に今の戦況を伝えようと思って来たまでじゃよ。」
?「と言うことは、まだ続いてるのですね。それで、今はどちらが優勢ですか!」
校長「まあ、落ち着くのだ相川葵くん。手短に話すから皆もよく聞くように。」
‥まず、戦況は東軍が有利に転じている。
‥西軍も最後の抵抗を見せているが、
おそらく時間の問題であろう。
‥そして、臨界制の各代表には、
今段階の各隊の配置を記した資料を配布する。
‥だが、気を付けよ。これは、十分前までの情報だ。参考程度に使う様に。それでは、諸君らの検討を祈る。あと、ここでの戦闘は固く禁じるからの。
言う事を伝え、渡す物も渡すと、
上杉校長は直ぐに飛び立った。
予想以上の手短に全員は、ポカンとした。
葵「‥えっと、取り敢えず‥分かれますか。スザク‥また戦場で。」
相川葵は、ライバルにして友人である赤髪の魔界貴族のスザク・ザングリードに別れを告げる。
しかし‥。
スザク「いやいや、なに言ってるんだよ。四組は東軍だぞ?」
葵「あっ‥わりぃ、そうだったな。」
?「いつも戦いすぎて癖になってないか?」
葵「あはは‥そうかもな。それよりシェリルは、どこから攻める?」
シェリル・フェンリル
葵の恋人にして、
ワルキューレ紅薔薇隊の隊長。
水色髪ショートヘアーの胸は控えめで、
ちょうど良いバランスである。
勇猛果敢で姫騎士に近く‥、
いや、"ワルキューレ"は、ほぼ姫騎士である。
シェリル「取り敢えず、まずは直人たちと合流を‥ん?って、リタイヤしてるじゃないですか!?」
葵「な、何だって!?っ!、ほ、本当だ‥。しかも奏太まで‥うわっ、忠成さんまで‥どうなってるんだ。」
シェリル「でも、前線は押してるみたいだ。恐らく、直人と奏太で忠成殿と相討ちに持ち込んだのかも。」
※いいえ違います。
西軍助っ人の朱季楓のせいです。
しかも、二人にはそれを知らないため、
誤解を生んでしまった。
そして、赤髪魔界貴族のスザクは、
一人のくノ一を心配していた。
スザク「‥椿は‥よかった。無事の様だな‥。さて葵?やっぱり悪いが、俺は別行動させてもらうよ。」
葵「ん?あぁ、わかった。でも、十二人で大丈夫か?」
スザク「ふっ、甘く見るなよ?みんな葵と同等の強さの仲間達だ。簡単にはやられないさ。」
葵「どうせ椿さん目当てだろ?良いとこ見せて告白しないと時を逃すよ?」
スザク「う、うるさい!いくぞみんな!」
スザクは少ない仲間をつれて進軍を開始した。
葵「それにしても、どうして四組だけ男しかいないんだろうな。」
シェリル「たぶん、ルシア殿の影響かもしれないな。」
葵「ルシアね~。まあ、そのお陰で平和なんだけどな。さてと、それじゃあ俺たちは、一気に西軍本陣を攻めるか!」
シェリル「えぇ!華麗に落として上げましょう!」
二年三組は三十人、二十人のワルキューレと十人の男たちは、急いで西軍本陣へ駆けた。
他の部隊も徐々に散り始め戦場へ向かった。
その頃
西軍本陣では決死の攻防が繰り広げていた。
四方を囲まれ、睨み合いや戦闘を繰り広げていた。
まずは、様子を伺う桃馬と桜華の一隊。
桃馬「完全に守りに入ってるな。これじゃあこっちが疲弊するだけだな。」
桜華「うーん、四方囲んでも落ちないとなると、やっぱり人数の差と魔法が使える人の差かな?」
桃馬「その可能性はあるな。現にこっちは百人も満たないし、魔法を使える人も少ない。しかも、隊を四方向に分けてるから更に少ない。このまま戦っても無駄に、こっちがやられるだけだな。」
桜華「やっぱり、一点に攻めた方が良かったのかな。」
桃馬「いや、それだと、逆に横と後ろを突かれる可能性がある。それに包囲をすれば相手も分散させられるし、下手に攻撃もできないだろうからな。」
桜華「な、なるほど‥奥が深いですね。」
桃馬「そうだろう?ゲームなんかより駆け引きが重要になるから‥痺れるんだよな。」
桜華「わ、わかる気がします!ごくり。このそわそわとした感じもそうなのかな?」
桃馬「あはは、痺れてるな♪」
西軍の様子を伺う中、憲明とリールの一隊は、相手を上手く挑発して陣から引きずり出していた。
リール「さすが憲明だね~♪少しの挑発で簡単に引きずり出せ‥よっと!」
憲明「私語は控えておけ!相手は先輩だからな!油断してたらやられるぞっと!」
リール「確かにっ!それより、ギールたち遅いね?」
憲明「やっぱり‥押されてるんだろうな!」
リール「ゲームなら直ぐ攻略できると思うんだけどな~。」
憲明「ゲームと比較しちゃダメだよっと!現実はそう甘くないからな!」
二人を主とする一隊は、次々と西軍の先輩を撃破し、互角から優勢に転じた。
だが、本陣に踏み込むにはまだできない。
そして、
もう一方のジェルドと小頼の部隊は、
前代未聞の策略に出ていた。
小頼「見よ先輩方!小頼商会名物公開処刑だ!」
小頼は前代未聞の戦法に出た。
大の字に縛られ、上半身裸のジェルドを前に出す。
ジェルドの瞳は死に、
心を折られた姫騎士の様な表情をしていた。
更には悲しい事に、小頼とジェルドの一隊を相手をしている先輩方は‥八割近く小頼商会のお得意様だった。この中には、ジェルドのファンも多く‥、勝敗は完全に決まっていた。
西軍生「ごくり‥ジェルドくんが‥あんな格好に‥。」
西軍生「お、俺のジェルドが!やめてくれ小頼!ジェルドを壊さないでくれ!」
西軍生「ばかやろう!けもみみイケメン堕ちは最高だろ!」
西軍生「はぁはぁ‥僕のジェルド‥はぁはぁ。」
西軍生「うぅ、カメラを持ってない私のばかぁ!」
この様に反則とも言える、小頼商会の看板乱用だけじゃ飽きたらず、小頼は更なる行為に走る。魂の抜けたジェルドの写真を近い位置で撮り始める。
そして‥。
小頼「さぁさぁ、先輩方々~♪ここに完堕ちジェルドの写真があります‥。ご購入したい方は‥武器を捨てて降伏するか‥こちら側に寝返るか。あ、もちろん寝返る方は色々お助けしますよ~♪降伏の方は‥お助けしない代わりに‥この写真を無料で配布します♪」
なんと、反則とも言える、
とんでもない究極の大選択を迫ったのだ。
寝返る者には、購入する権利と春の大戦乱祭の敗者の救済が約束される。
降伏する者には、写真をタダで配布される‥。
その代わりに敗者の救済はなし。
あるいは‥小頼商会を敵にまわしてまで、戦うか‥。
恐ろしい選択である。
そして、一番の被害者は‥泣いていた。
ジェルド「‥ころ‥ひ‥へ‥くれ‥。」
結果、西軍内で寝返りが発生。
混乱に乗じて、小頼は笑顔で攻撃命令を発した。
小頼「お疲れ~♪ジェルド~♪」
ジェルド「わふぅ‥‥。ひどい‥よ。」
小頼「ごめんごめん♪後で桃馬を献上するからいいでしょ?」
ジェルド「うるひゃい!こんな屈辱‥小頼でも‥あんまり‥んんっ!?」
小頼は口付けをして黙らせる。
小頼「んはぁ‥これで許してよ♪」
注意
皆さんはお忘れかもしれないが、
これでも二人は恋人関係です。
そして、大激戦を繰り広げている。
二年三組主力と三年六組主力の戦いはと言うと‥、
晴斗「弓隊打ち続けろ!相手に攻撃魔法を撃たせるな!」
攻撃魔法を阻害するため、遠距離攻撃を休まず率先して実行する中、対して西軍は攻撃魔法と防御魔法で耐えてるため、魔法攻撃が機能していなかった。
そうこうしていると、
高田海洋率いる主力が突撃を始めた。
メルク「くっ!我々の足並みが揃わない‥攻撃班と防御班に分けたいが‥これでは‥。」
正面と空からの攻撃に、西軍の足並みは乱れ、
指示を出しても、聞く暇もなさそうであった。
メルク「くっ、仕方ない‥魔法部隊は前線の援護に回れ!近接隊は迎撃を急いでください!」
この場合では、
こうする事しかできないなかった‥。
だが、これが更なる不幸が起きる。
小頼商会に寝返った部隊が、
血相を変え攻めて来たのだ。
メルク「なっ!お前たち何をしているのだ!?」
三年六組「栄光より、同人と写真集が最優先だ!」
これが決め手になり、
西軍本陣の防衛は完全に崩れた。
この機に乗じて桃馬たちの一隊も攻勢に出た。
こうして西軍本陣は、臨界制の生徒が到着する前に大乱戦となった。
まさに西軍は風前の灯。
関ヶ原の戦いを再現したかの様なありさま。
果たして、西軍はこのままどうなるのか‥。