第六十五話 春の大戦乱祭(5) 骨にも皇女
戦の勝敗は数が全てではない。
統率力、知力、結束力、個々の質などで、
簡単に不利な戦況から覆せる事ができる。
そのため、西軍の度重なる敗因は、結束力と統率力が分散し、軍の輪と足並みがバラバラになった事によるものだ。
そのため戦には、
急な出来事で意図も簡単に勝敗が着くケースもある。
そしてここ西軍本陣では、
度重なる想定外により風前の灯に晒され、苛立つ新西荒儀の背後に、ガチムチの男がヌルりと迫った。
荒則「くそぉ‥どいつもこいつも、何してるんだ!メルク!何か策はないのか!」
メルク「そ、そうですね、敵本陣奇襲部隊の報告も未だありません。取り敢えずここは、下手に動かず、本陣近くで暴れている"敵の後輩たち"を蹴散らして、四組と五組を本陣に下げましょう。」
荒儀「よ、よし!急いで向かわせろ!」
メルク「‥はぁ、わかりました。では、私が指揮して対応しましょうか。」
メルクは、ため息をつきながらメガネを"くいっ"と上げると戦場へと向かった。
それと同時に荒儀は、
背後から何者かに襲われると物陰に連れて行かれた。
メルク「あ、そうそう‥もしも私がやられたら‥許してくださいね。」
荒儀「アァァーーッ!」
メルク「ふっ、声が裏返ってるぞ?それじゃあ、行ってくるからな。」
荒儀にとって不幸な事に、
メルクは振り向く事もなく、
捨て台詞を吐きながら戦場へと赴いた。
そして仲間たちのところへ向かうと、
西軍の生徒たちは"そわそわ"と動揺していた。
西軍生「お、おい、今の声はなんだ?」
西軍生「何やら新西様の声に聞こえた様な。」
メルク「みんなどうした?何そわそわしてるのだ?」
西軍生「あっ、メルクさん!今、甲高い新西様の声が聞こえたのですが‥。」
メルク「あぁ、それか。それなら安心しろ、俺の返事に勢い余って裏返っただけだ。それより、魔法を使える人を全員集めて欲しい。本陣近くにいる後輩たちを倒すぞ。」
西軍生「わ、わかりました!」
その頃、
荒儀は、誰もいない本陣の中央にて、
無様に半裸でうつ伏せ状態で倒され、ガチムチの男こと、ベリー・レリフソンに片足を背中に乗せられ、決めポーズをいくつか決められるのであった。
ベリー「あぁん、歪んでんな~?ポイポイチャーシューメン!」
最後にケツを何度か叩き、
何事もなかったかの様に去っていった。
本来勝利なはずだが、
たまたま、パソコンの映像で見ていたジャーナリスト映果はこれを黙殺、気づかれるまで放置する事にした。
これにより、
オーバーキルの始まりである。
映果「先輩方、本陣は私たちに任せて総攻撃に転じてください。このまま見てばかりでは後々、後輩を出汁にして勝利を掴んだ先輩として、誹謗中傷される可能性がありますからね。」
時奈「そうだな‥、後輩ばかり良いところを取られるわけにはいかないな。」
忍「うーん、少々、良いとこ取りみたいで嫌だが、見てるだけじゃつまらないよな!よーし、グリント!」
グリント「だから、俺はグリント‥って‥えっ?俺の名前を呼んだか!?」
忍「それ以外誰がいる?」
グリント「っ!よっしゃ!やる気出てきたぞ!三年生全員出陣だ!後輩に遅れるな!」
三年生一同「おぉぉぉっ!!」
総大将を差し置いてグリントが号令をかけると、今か今かと待っていた三年生が怒濤の勢いで総攻撃に打って出た。
完全に劣勢下に置かれた西軍。
敗北すれば後輩に跪く事になるこの戦。
西軍、三年四組、五組は、崖っぷちからの一層奮起により、東軍右翼部隊を押し上げる。
更に、西軍本陣からの"本陣後退"の伝令を無視した挙げ句、陣を立て直し徹底抗戦の構えを見せていた。
ギール「ちぃ!もう少しだってのに!」
ディノ「魔族が多い分‥厄介ですね。」
シャル「うぅ‥ひっく。本当に魔王なのに‥。」
ギール「いつまでも、くよくよしてるな!昔の魔王って言っても誰も信じないのが普通だよ!」
シャル「うぐぅ‥妖怪の温泉街に戻りたいのだ!そうしたら本当の姿になれるのに!」
話は少し前のこと。
東軍右翼と西軍三年生たちと乱戦になってる最中、
シャルは相手に魔族が多いことに気づく。
そこで無謀にも、交戦しているギールの背中によじ登っては、高らかに声を上げた。
シャル「魔族の者たちよ聞け!余は魔王シャル・イヴェルアであるぞ!跪くのだ!」
その声に全員が反応し、
戦闘を一旦取り止めシャルに注目した。
黒髪ロングで立派な二本の角をはやした小さい魔王様。誰もがその偉大さを崇め、恐れをなして許しを乞う‥。
シャル「さぁ、魔族たちよ。余の軍門に下るのだ。」
胸を張って満足そうに言うと、
西軍魔族が大反発した。
三年魔族「ふざけるな!小娘!」
三年魔族「偉大なシャル・イヴェルア様の名を語るとはなんたる無礼な!」
三年魔族「許せん!あの小娘を教育してやれ!」
三年魔族一同「おぉ!!」
これが奮起の理由である。
皮肉にもシャルが地雷を踏んだ事により、
相手を下手に鼓舞してしまう結果となった。
それは、シャルならではの天然挑発であった。
そして今に至る。
更に、少し離れたところでは、
先輩サキュバスに言い寄られている京骨がいた。
京骨「くそぉ、本来の姿になれないのが不便だ!」
三年サキュバス「くすっ、京骨くん‥大人しくしなさい。」
三年サキュバス「ねぇねぇ?私たちに攻撃しないの?」
三年サキュバス「もしかして、みてくれだけで‥本当は貪られたいとか?」
京骨「ち、ちがっ!か、体が動けないんだよ!」
三年サキュバス「またまた~♪本当は動けるでしょ?ほら、好きに甘えて良いのよ?」
三年サキュバス「さすがルシア様のお気に入り‥。貴族クラスを抜けてまで京骨くんに執着した気持ちがわかるわ♪」
京骨「ルシア様‥?先輩がどうしてそんな呼び方をするのですか‥。」
京骨の質問に、四人の"お姉さん"たちが笑みを浮かべながら近寄る。すると京骨は、サキュバスフェロモンに酔わされ、その場に崩れ始める。
三年サキュバス「彼氏なのに知らないの?まあ教えて上げるわ。ルシア様は私たち全サキュバスを支配する‥。シフェルム皇国の第三皇女‥ルシア・シフェルム様なのよ♪」
耳元で囁かれ、暖かな吐息が耳に触れる。
その度京骨は、鳥肌を立て‥下の方が黄色信号を提示する。
脱力した京骨は、刀を取り上げられ、
されるがまま服も脱がされる。
三年サキュバス「ルシア様には悪いけど‥少し味見を~。」
京骨が涙目になり道半ばで諦めると、
緑髪の短髪美少年を襲うサキュバスお姉さんの後ろから、怒りを込めた低い声が響く。
ルシア「ふーん、私の秘密をばらした挙げ句に、京骨をつまみ食いしようとするとは‥良い度胸ね?」
三年サキュバス四人「ひぅっ!?」
三年サキュバス「る、ルシアさま!?こ、これはその‥。」
三年サキュバス「京骨くんが苦しそうにしてましたから、楽にして上げようと‥ふぇにゅ!?」
ルシアは、情け容赦なく、
サキュバスでさえもよがる程の淫術と禁欲術をかけた。
その効果は、発情しているのにも関わらず、
強制的に欲求を押さえ込まれると言う。
生殺しである。
三年サキュバス「はぁはぁ♪おゆるひくらひゃい~♪はぁぁん♪」
一人のサキュバスが、気持ち良さそうに蕩け始めると、残りの三人は許しを乞う。
三年サキュバス「ご、ごめんなさい!ルシア様のお気に入りの京骨くんが凄く気になったもので‥。つい食べたくなって‥。」
三年サキュバス「わ、私も味わいたいです!あ、いや‥ごめんなさい!」
三年サキュバス「ど、どうか禁欲はお許しを!」
ルシア「‥はぁ、次したら‥わかるわね?」
三年サキュバス三人「は、はい!」
三年サキュバス「ふぁひぃ~♪」
ルシアは淫術を解き、その場を見逃した。
京骨「はぁはぁ‥ルシア‥‥。」
綺麗な緑髪が乱れ蕩けた美少年は、
物欲しそうな顔をしてルシアを呼んだ。
ルシア「全く‥私もなめられたものね。あんなので足止めだなんて。」
二人がいる近くに少し焼き上がった魔族がいた。
京骨「‥皇女‥だったの‥はぁはぁ。」
ルシア「‥はぁ、そうよ。だからなに?嫌いになった?」
京骨の顎を"くいっ"と上げて訪ねる。
京骨「あう、うぅん‥ただ‥意外だと思って‥。」
ルシア「クスッ‥まあ、そう思われても仕方がないわよね~。正直私、あぁ言う縛られた空間は好きじゃないからね。」
京骨「‥はぁはぁ、そ、それもそうだ‥んんっ。」
ルシア「クスッ‥苦しそうだね?」
京骨「‥はぁはぁ、し、仕方がないだろ‥‥こ、堪えただけでも‥‥はぁはぁ‥誉めてくれよ。」
ルシア「よしよし♪よく我慢できました♪」
治まる処か、ますます蕩ける京骨に、
ルシアは子供を"あやす"かの様に頭を撫でる。
京骨「や、やめろよ‥はぁはぁ‥‥恥ずかしいだろ。」
ルシア「クスッ‥誉めろって言ったのは京骨じゃないのよ‥それとも‥んっ。」
ルシアは、まごまごする京骨の口を自らの口で塞ぐと、いやらしく舌を入れ京骨の理性を壊しにかかる。
ルシア「んはぁ‥これが良いのかしら?」
京骨「はぁはぁ‥。」
ルシアも限界であった。
目の前の蕩けた恋人を襲いたくて仕方がない。
ここまでの事ならいつでもできる‥。しなし、こういう時だからこそ、今しかできない事をやろうとルシアは行動に出る。
京骨も嫌がる素振りは見せず、黙って身を任せた。
その後、二人を見た者は‥、
大乱戦祭が終わるまでいなかったと言う。
二年四組
湯沢京骨
ルシア・シフェルム
自主的リタイヤ。
功績、西軍サキュバス全員自主的リタイヤ。