第六十三話 春の大戦乱祭(3) 好転ところに鬼転
三年二組、本田忠成の寝返り、二年六組、二条実光、三条実時の寝返りにより、戦況の主導権が完全に東軍へと流れた。
西軍二年六組は風前の灯、三年五組は援軍にまわろうとするが、東軍右翼部隊の二年二組、二年四組が雪崩込み、これを阻む。
そして、最後までどちらにつくか渋っていた三年四組は、仕方なく三年五組の援護に向かった。
これにより、
大乱戦の始まりである。
直人「二条‥三条‥これはどういう風の吹き回しだ?」
貴族嫌いの直人は、
寝返った尊重派の二人を睨むと、
刀を向けて敵対心を剥き出しにした。
するとそこへ、
二人の事情を知る、従兄弟の桃馬が駆けつける。
桃馬「待て待て!直人!二人は味方だ!」
直人「桃馬‥?これはどういう事だ?」
二条「佐渡殿には、秋の大戦乱祭での借りがある‥。ただ、それを返したまでだ。」
三条「ふん!俺は盟友のためなら力を貸すぞ!」
桃馬「ま、まあ、秋の大戦乱祭の手違いで、擁護しただけなんだけどな。」
二条「だが、それが合ったから今がある。」
三条「そうそう、それに‥、歯向かう側も悪くはないからな!」
直人「お前らはそれで良いのかよ‥。どちらに転んでも、裏切り者だと揶揄されるぞ?」
二条「どのみち東軍を破ったら、共存派を冤罪に掛けて潰す予定だったからな。‥結局汚名を被る事になるから構わないさ。」
三条「いやはや、新西家は暴虐非道だ。」
聞き捨てならない新西の下策に、
直人は憤りを感じた。
直人「‥あの野郎、やっぱり許せん。どうせ、エルフの姫騎士ジャンヌと、ダークエルフの皇女アンジェリカたちを好き放題にしたいのだろう‥。全く、姫様たちは不可侵だと言うのに‥。」
二年学年男子たちの中で、
世にも恐ろしい法案ある。
それは、二年六組の姫君に手を出すことなかれ。
これを破りし者‥、二年五組のベリー・レリフソンによる特別レスリングが待っている。
と言うものである。
小話
ベリー・レリフソンは、アメリカから来た優秀な留学生で、学園一の筋肉を持つ最強のガチムチである。
そして、彼が所属するボディービル部、通称ガチムチ部は、とにかく筋肉を愛し、半裸でレスリングを愛する者たちが集まる変態集団である。
レスリングに置いては無敗のベリー、例え相手が何者であろうとも、相手を"アァーっ!"と叫びさせ勝つと言う。
必殺技。
チャーハン大森、巻いてくえや春雨、
田植えを行う、逆十字固め。
勝利の名言。
歪んでんな。しょったれ。生姜ねぇ。
※ほぼ、空耳です。
そして話を戻し。
不可侵と良いながらも、少し気にかけている様な発言に、桃馬は要らんツッコミを入れる。
桃馬「リールの前で変な願望漏れてるぞ?」
直人「っ!へ、変な願望なんてないぞ!?そ、それに、リールとエルンたちを越える気持ちはない!」
桃馬「もし、越えたら?」
直人「な、ないに決まってるだろ!?。」
リール「あはは♪目が泳いでるよ~♪」
直人「そ、そんなリールまで!?お、俺はハーレムに興味はないよ!?ま、まあ、事情で作っちゃったけど。こ、これ以上増やす気ないからな!?本当だよ!?」
リール「じゃあ‥稲荷さんを入れたら四人‥。」
直人「な、なんで稲荷姉が出てきた!?稲荷姉とは姉弟だぞ!?」
桃馬「はいはい、痴話喧嘩はそこまでだ。早いところ新西を潰すぞ。」
直人「お、おお!そうだな!」
リール「あっ!こら!誤魔化して逃げるなぁ~!」
その場から逃げる様に直人が走り出すと、
リールはその後を追う。
すると桃馬は、
忠成に号令をお願いする。
桃馬「本田先輩お願いがあります。先輩の勇ましい号令を頂戴したい。」
忠成「‥俺がして良いのか?」
桃馬「はい、本田先輩の号令があれば二条、三条についてきた仲間の罪悪感を消し去り、士気は上がるでしょう。」
忠成「なるほど‥我で良ければ引き受けるぞ。」
忠成は一歩二歩と歩くと、
愛槍を二年六組の陣に向け号令する。
忠成「目指すは新西狂季の首!皆の者!かかれぇ!」
一同「おぉ!!」
けたたましい号令に、
中央の東軍は勢いよくそれに答える。
覇気を込めた大号令。
少し離れた陣まで響く声に、
新西狂季をびびらせる。
狂季「くそ!くそ!なぜこうなった!」
一条「‥そ、そうでおじゃる!今のうちに共存派を叩いて人質にするのです!」
狂季「‥だめだ、それは規定違反だ。やれば、兄上に殺される。」
一条「それでは勝ち目が‥。」
絶望の陣営の中、
劣勢に立たされ、追い詰められる新西と一条の前に、一人の女性が現れる。
?「おいおい、やけにショボくれてるじゃねぇか?」
狂季「‥だ、だれだ!」
一条「ん?ひっ!お、鬼!?」
?「おいおい、そう驚くなよ。お前たちの学園にも、鬼は居るだろ?まあ、私くらいではないが‥。」
二人の前に現れた鬼は、
立派な一本角を生やし、
大胆に豊満な胸をさらしで巻いて出しては、
和服を羽織る様に着込み、袴を履いている。そして健康的な褐色肌に綺麗な銀髪‥。
姉御系のカリスマ溢れる鬼である。
すると狂季は、
思い当たる女性の名前が思い付く。
狂季「も、もしかして、朱季楓さんですか!?」
楓「おうよ、ちょっと遅れたけど、逆に面白そうなことになってるな?」
狂季「え、えぇ!面白いです!特にあの大軍が良いかと。」
楓「ほぅ‥ん?あれは‥、忠成じゃないか?‥へぇ‥こいつは面白そうだ!」
楓は指の関節を鳴らすと、
早速、勢いよく正面の東軍目掛けて突っ込む。
直人「‥覚悟しろ!狂季!」
リール「待ちなさいよ!直人!」
楓は早速、先頭にいる直人目掛けて突っ込む。
楓「そりゃぁぁ!」
直人「ん?なっ!ごはっ!」
突然、目の前に鬼美女が現れ防御が遅れた直人は、腹部に重い一発をくらい、そのまま勢いよく後方の数名を巻き込み二十メートル近く吹き飛ばされた。
リール「な、直人!?」
忠成「リール!戻れ!」
リール「は、はい!」
忠成は走りながら指示をすると、
リールは素直に言う事を聞き入れ替わった。
忠成「急いで直人を手当てしろ!こいつは‥まずいのが来たぞ。」
リール「わ、わかりました!」
急ぎ直人の回復に行くリール。
直人は悶えながらも立ち上がるも吐血していた。
普通なら重症レベルだが、
直人は無意識に妖の姿になっており、
辛うじてダメージは抑えられていた。
楓「あっけないな~?ん?」
楓の前に忠成が立ちはだかる。
忠成「やはり‥朱季先輩でしたか。」
楓「おやおや、忠坊じゃないか~?二年ぶりだな~♪こんなに逞しくなって‥。」
忠成「‥そんなことより、よく学園に入れましたね。」
楓「いや~、そりゃ助っ人だからな。ほら、この通り許可書もある!」
忠成「せっかくですが、‥直ぐに破り捨てて退場してもらいましょうか。」
愛槍を地面に突き刺すと、楓に歩み寄る。
楓「ほう、私相手に素手でやる気か?」
忠成「愛槍を壊されたくないですからね。」
楓「それもそうだな‥それじゃあ来い!」
忠成「言われるまでもない!」
右手を"ひょいひょい"とし、"かかってこい"アピールをすると、忠成は勢い良く仕掛けた。
だがしかし、学園最強の忠成でも、過去に白銀褐鬼と言われ、三年間最強と言われた化け物の前では赤子であった。
勝負は三十秒足らずで決着。
楓の拳が、忠成の"みぞおち"を捉えた。
忠成「かはっ!」
楓「ふーん、卒業式のタイマンよりは強くなったかな?でも、まだまだな。」
忠成「く‥チートめ‥。」
楓「あはは、その台詞も懐かしいな~。」
東軍生「た、忠成先輩がいとも簡単に‥。」
東軍生「ど、どうしよう‥か、勝てる人いないよ!?」
忠成の秒殺に、
東軍の士気が下がり始めた時、
後衛に待機していた燕奏太が前に出た。
奏太「‥‥楓さん。」
楓「ん?君は‥うーん、どこかで見たことあるような。」
奏太「燕奏太です‥。あなたに挑みながらも、固まって動けなかった男ですよ。」
楓「‥あぁ~、あの可愛い坊やか~。」
奏太「‥あの時の雪辱を晴らします。」
楓「へぇ~♪戦う前に負けた坊やが、雪辱なんてできるのかな?‥でもまあ、せっかく来たんだから‥取り敢えず‥テストだね。」
寛大なアピールを見せる楓は、
手始めに殺気が混ざった圧をかける。
だが、奏太は動じず前に出る。
楓「へぇ~、やるね~♪」
奏太「‥ふぅ‥。」
すると奏太は、
空手の構えから、ゆっくり深呼吸をする。
奏太は自分の間合いを確立させると、
ゴールデンウィークを返上してまで、
異世界で修行に明け暮れていた成果を見せる。
楓「なるほど、忠成とは違う強さの持ち主ね。面白いは‥人間なのが勿体ないわ。」
奏太「‥燕奏太‥いざ!」
楓「っ!」
楓の油断を誘い、
低空姿勢から瞬時に楓の懐へ潜り込んだ。
想定外の速さに油断していた楓は反応が遅れた。
しかしここで、奏太に問題が発生‥。
相手は鬼でも女性‥どこを攻撃すれば良いかで、
せっかくのチャンスに、タイムロスが出てしまった。
低い姿勢から上を見上げると豊満な胸と綺麗なスタイル、タイプな顔立ち‥、もはや攻撃は不可だ。
まわりは勝ったと思い込み盛り上がるが、
奏太は寸前のところで止まる。
それを見た忠成は、ため息をついて首を縦に振る。
あの"後輩"も同じ考えをしているのだと忠成は思った。
まわりは何が起きたのか理解できなかった。
突然の硬直に、どう声をかければ良いのか分からず、
場が固まっていた。
取り敢えず懐に入ったまま、
攻めの構えを崩さず楓を見つめる奏太と、
対して楓も、奏太をじっと見ていた。
なぜ攻撃してこないのか。
ぶれない姿勢に切らせない集中力。
何がしたいのか謎だ。
そして、十秒、三十秒‥一分‥。
桃馬「おい、これ何の時間だよ。」
ジェルド「‥油断したらやられる感じがするな。」
晴斗「二人とも、しーっ。」
桃馬&ジェルド「うっ、すまん。」
今のうちに、こっそりと進軍すれば良いのではと、まわりが思う中‥この場の全員が空気を読みすぎて硬直する。
リール「すごい睨み合いだね。」
直人「‥はぁはぁ、俺じゃなかったら死んでたぞこれ‥。」
リール「あはは、お疲れ様‥。キョロキョロ」
直人「ん?どうしたリール?」
リール「どうしてこの気に、みんな攻めないんだろう?」
みんなが待っていた一言に、
天然モードのリールの口から出ると、
この気に晴斗が号令をかける。
晴斗「攻撃再開!二人を無視して狂季を討ち取れ!」
硬直していた東軍は一斉に攻撃を再開。
綺麗に楓と奏太を避けて進軍した。
狂季「おいおい!?何してるんだよ!?」
一条「もはや‥これまでおじゃる‥一矢報いるため‥共存派を叩くでおじゃる!」
狂季「あ、おい!?俺も行くぞ!」
今や十人も見たいない尊重派は、
苦し紛れに共存派に向け攻撃を開始した。
ジレン「っ!志道!狂季が出てきたぞ!」
藤原「やっぱり‥。苦し紛れに共存派を人質にでもする気か。そこまで勝ちたいのか。」
ジレン「おい志道!人数ではこちらが上だ。このまま戦おう!」
藤原「よし‥、白黒はっきりつける。行くぞ!」
ジレン「おぉ!」
尊重派と共存派の対決に、終止符を打とうと、
迎え撃つ準備に取りかかる。
そしてその頃。
二年六組の可憐な姫騎士たちは、
抑えきれぬ闘争心が爆発寸前であった。