表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/431

第六十二話 春の大戦乱祭(2) 暗雲逆光

序盤の戦況は、

東軍二年三組と西軍三年二組を主体とした連合軍が激突。見え透いた挑発にまんまと釣られ、憤怒する西軍の先輩たちは、直ぐに生意気な後輩らを壊滅できると踏んでいたが、意外にも後輩たちの士気が高く均衡に持ち込まれていた。


この様子に西軍二年六組では、

尊重派と共存派で意見を対立させていた。


尊重派は、

烏帽子を着けた公家(くげ)風の貴族を筆頭に、

金持ちのボンボンや異界出産の高慢な貴族たちが集まりである。


一方の共存派は、

その名の通り、身分の線を引かずに共存を重んじる(こころざし)を持った、各貴族と各王国の姫君や皇太子など、多様な派閥である。


そのため、尊重派の公家風貴族と共存派の貴族との仲はかなり悪く、昨日の大戦乱祭の軍発表で、西軍に加わったことに共存派は大反発。足並み揃わぬまま今に至る。



一条「何を言うておる!今は本田殿に乗じて我らも参戦する。これは得策でおじゃろう!何故、反対するおじゃるか!」


藤原「おじゃる、おじゃるうるせぇ!このおじゃる丸が!!」


一条「お、おじゃる丸とな!?」


二条「藤原殿‥それは、我ら"条家(じょうけ)"に対する侮辱と捉えて良いのか?」


藤原「‥だとしたら‥なんだ?俺は一条から十条まで‥まとめて相手にしてやってもいいぜ?」


共存派筆頭である少年が、

刀に手をかけ威嚇すると、

対して、十人の公家風貴族も刀に手をかける。


お互い相容れない同士。

しかも足並み揃わぬ展開に、二年六組代表、

新西狂季(あらにしきょうき)が止めにかかる。


狂季「志道(しどう)是清(これきよ)、他の者もやめよ!志道たち共存派には悪いが‥ここは我らに協力してほしい。」


藤原「なにを言ってるのですか‥。この様な暴挙を見過ごせるわけないだろ?この戦いに我らが勝ったら東軍全ての者が傀儡とは‥、我ら共存派への侮辱ですよ!」


共存派筆頭である藤原(ふじわら)志道(しどう)

代々平安から続く藤原家の末裔である。


対して尊重派は

新西狂季が筆頭であるが、クラスの代表を務める身であるため、代わりに"条家"の一条(いちじょう)是清(これきよ)に一任している。


狂季「‥わかってくれ、これもお前たちのためだ。逆らえば、兄上に一掃されるだろう。そうなれば、共存派の地位など地に落ちる。家柄を汚すことになるぞ。」


藤原「狂季!また、自分の兄貴に怯えてるのか!」


狂季「この戦いは兄上が必ず勝つ。それに外部から助っ人も頼んでいる。逆らったとしても‥勝てる見込みはない。ならば、公平を取るなら‥この戦いで武功を上げて、東軍を庇うしかない。」


藤原「‥お前とは昔からの縁だが。ここまで落ちたか。」


狂季「それは違う!俺には‥‥俺なりの思想がある。こんなことを言えば、共存派などと言われるかもしれない。だが、俺から言わせれば、兄上と是清たちの思想は度が過ぎている。これでは、尊重よりも従属眷属(じゅうぞくけんぞく)主義だ。」


一条「なっ!なんじゃと!」


二条「‥一条そこまで。さすが新西殿‥クラス代表は伊達ではないですね。」


一条「実光(さねみつ)!今の新西殿の発言は、我らの思想を踏みにじる侮辱でおじゃるぞ!」


二条「こうでもしないと我々は結束はできん。よく考えろバカめが。」


一条「うぐ、ぐぐ‥。」


二条による一喝で、

一条は返す言葉もなく身を退いた。



藤原「さすが、実光‥。公家の中でも日本語がわかる男だな。」


二条「勘違いするな‥、これも戦に勝つため。相手も仲間割れを狙ってるだろうからな。」


藤原「違いないな‥。」


二条「ふっ、実時(さねとき)。」


三条「おう、どうした?作戦開始か?」


二条「‥あぁ、作戦開始だ‥二年三組を潰せ。動ける尊重派を全員出撃させよ。」


三条「おぉ!軽くいなしてやるぞ!他の条方(じょうかた)も如何かな?」


三条の威勢の良い誘いに、

一条、四条を除く条家は全員が便乗した。


狂季「‥志道許せ、この戦が終われば必ず東軍を擁護する。」


狂季が、やむ終えない雰囲気を出しながらも、

尊重派の意見を押し通すと、共存派の志道は、これ以上は何を言っても無駄であると思い席を立つ。


藤原「‥無礼失礼しました。それでは、私は持ち場に戻ります。」


呆れ口調になりながら言葉を吐き捨て、

軍議の席を後にすると、尊重派の化けの皮が剥がれ落ちる。


狂季「‥ふぅ、一演技するだけでも疲れる。」


一条「ふっふっ、馬鹿な男よ‥。そんな約束守るわけないと言うのにの~。」


狂季「くくく、全くだ‥。東軍を潰して、更には敵と内通をしていたと冤罪を掛け‥、共存派を潰す。そして目障りで高飛車で可憐な姫様たちをこの手に納める。」


一条「さすが、狂季殿でおじゃりますな。」


暗躍するドス黒い黒雲。

己の欲を満たすため、

汚ならしい大きな一手を打ち込むのであった。


一方、二年六組の尊重派たちは、

三年二組に便乗して中央への攻撃を仕掛けようとしていた。


三条「皆!新西殿の許しが出た!思う存分敵を討とうぞ!」


六組「おぉぉ!!」


二条「目指す中央にいる二年三組!いくぞぉぉ!」


二条の号令により、

約百人の二年六組の尊重派が、

一気に二年三組の陣へ突撃する。



その様子を少し離れたところから、

約二十名の共存派が見届けていた。


藤原「‥行ったか。」


?「志道、これで本当に大丈夫なのか?」


異界出身の黒髪少年は不安げに訪ねる。


藤原「あぁ、綺麗事を並べても所詮は腐った生ゴミの戯れ言‥もし、止まる勇気があれば‥、腐った鯛になれたかもな。」


?「‥違いないな。こうも汚れた姿を見せられると逆に良い反面教師だな。」


藤原「ふっ‥。金と権力に毒された成れの果て‥あんな風にはなりたくないな。」


?「確かにな‥。」


藤原「‥なあジレン?もしこの戦で東軍が負けたら、俺たちはお払い箱になるだろうな。」


ジレン「そんな事、言われなくてもわかってるよ。それより、姫様たちの安全対策は大丈夫なのか?」


藤原「対策と言ってもな‥。共存派の半数以上は、姫様や姫騎士様ばっかりだからな。取りあえず、尊重派の回し者が人質に取りに来るかもしれないから警戒するとして、あとは、好奇心旺盛な姫様が、下手に動かない様に監視だな。」


ジレン「ちなみに、その見張り役はどうするんだ?」


藤原「うーん、他の男たちは出払ってるからな。ニブルとリト‥、あとは、ジレンか。」


ジレン「たった三人で、十人以上見張れと?。」


藤原「そう言うな。ただでさえ共存派は男不足なんだから。それに、誰かが戦局を見ていないとダメだろ?」


ジレン「うぐっ、た、確かにそうだが、一人漏れたら崩壊だぞ?」


藤原「そう心配するな。確かに好奇心旺盛な姫様だけど、中には真面目な姫様もいるだろ?だから、俺たちは外を守って、真面目な姫様には内側を守ってもらう。これがいいだろ?」


ジレン「‥そ、そうだけどよ。」


藤原「頼むって、他に方法がないんだ。もし、ジレンから良い案があるなら聞くぞ?」


ジレン「あ、えっと、それは‥。うぐっ、わ、わかったよ。」



流石に志道より良い案が思い付かないジレンは、渋々と天国のような、地獄のような所へ向かった。


ちなみに、共存派の姫たちは、定番のエルフやダークエルフ、人間、魔族多種多様であった。更に分けると武闘派、清楚派、お転婆、ほのぼのお姉さんなど、エ○ゲー属性満載の方々だ。


藤原「さて‥この戦は天国か地獄か‥。どう転ぶかな。例え東軍が負けて、共存派が潰されようとも、姫様たちだけは守らないとな。」




その頃、

激戦地である中央では、二年三組の活躍により、

三年二組の部隊に大打撃を与えていた。



そのため三年二組代表、源頼孝(みなもとのよりたか)は、戦意を喪失し退却命令を出す。


対して忠成に挑んだ二年士道生は、

半数近く敗走していた。


忠成「全く、相変わらず腑抜けな大将だ‥。それよりは、我を食い止めて相手を倒すとは見事だ二人とも。」


直人「はぁはぁ‥ありがとうございます。」


リール「それで忠成先輩はどうするのですか?まだやりますか?」


忠成「‥うむ、そうだな。お前たちの稽古は‥、あの者達を蹴散らしてからでも良いだろう。」


忠成が背を向け愛槍を向けると、

二年六組の尊重派の部隊が攻めて来ていた。


直人「おぉ、これは大物が釣れたな!」


リール「‥まさか、こんなに早く釣れるとは思いませんでしたね。」


少し覚醒状態のリールは、いつものほわほわ感はなく。その姿はクールでかっこいい立派な剣士であった。


頼孝「おぉ!二年六組の援軍か!これは転機だ!みんな引き返せ!」


戦意喪失した挙げ句、無様に退却した敗将は、

虎の威を借りた鼠の如く反転攻勢に出た。


しかしこれには、

思わず忠成は激怒した。


忠成「お前たち少し下がっていろ。」


愛槍の石突きを力強く地面に突くと、

恐ろしい程の圧を放ちながら、後輩たちを下がらせる。


五条「ふはは!忠成殿助太刀に来ましたぞ!」


六条「圧倒的な力を見せつけてやろうぞ!」


先陣を務めるは、"三撃槍王"五条実槍(ごじょうさねやり)と鬼畜陰険"六条実鬼(ろくじょうさねき)"を先頭に、三十人程の生徒が後に続く。


そしてこの後、

先頭集団はとんだ貧乏くじを引くことになる。


忠成は、愛槍の"人間止主(にんげんやめます)"を両手で握ると、

一閃の構えを取った。


これに西軍の生徒たちは、その刃が自分達に向けられてることも知らずに、勢い良く攻め立てる。




頼孝「忠成!やってしまえ!」


忠成「えぇ‥遠慮なく!」


頼孝の命令で、ついにキレた忠成は、大きな一歩を踏み込み、単身一人で西軍に襲いかかった。


頼孝「なっ!血迷ったか!?」


五条&六条「っ!」


忠成「武士道なめるなぁぁっ!」


あまりにも早い忠成の攻撃に、五条と六条らは、反応が遅れ、迎撃する暇もなく、忠成の一振りで前線が蹴散らされた。


想定外の展開に両軍は驚き、

本田忠成の最強と称される由縁を目にした。


忠成は、頼孝に詰めより胸ぐらを掴む。


頼孝「うぐっ、この裏切り者が‥。」


忠成「黙れ!武士道ではなく、保身のために西軍についた貴様は、大将や代表を務める資格はない。」


頼孝「くっ、うぐぐ‥ちくしょうが‥。」


反発する言葉もなく、

三年二組は、本来味方である忠成の一撃で、

残り五人しか残っていない状況であった。


忠成「さて、無事なのは五人か。お前たちはどうする?俺とやるか‥それとも俺につくか。」


忠成の質問に、

生き残りの五人たちは、

迷わず忠成につくことを決めた。


"やる"と言えば横に首を振り。

"つくか"と言えば縦に首を振った。



忠成「よーし、悪いが頼孝‥俺は東軍につく。」


頼孝「くっ‥好きにしろ‥。俺は負けても西軍につくからな。」


顔を反らし、ふてくされながら吐き捨てる。


直人「‥忠成先輩が、東軍についた‥。」


リール「こ、これは‥す、すごい味方ですね!」


二年士道生「た、忠成先輩が東軍についた!!」


忠成が東軍についた事により、

東軍の士気が飛躍的に上がった。


一方、

忠成の寝返りで西軍では、

士気を大きく低下させる事になり、

西軍の本陣では大混乱になった。


更に西軍では、不幸な事が起きる。


二年六組、二条と三条の寝返りである。


二条「‥予定はかなり狂ったが、そろそろ三条いくぞ。」


三条「ふっ、やってやらぁ!八条覚悟しろ!」


二条「俺は七条をやろうか!」


第二陣に構えていた二人は、約三十人の同士と共に転進し、第三陣の七条と八条を攻める。突然の寝返りに尊重派は大混乱、瞬く間に蹂躙されていった。

これにより、第四陣の九条、十条が本陣へと撤退しようとすると、そこへ東軍左翼に陣を敷いていた、二年一組がそれを(はば)む。


尊重派も魔法などを駆使して応戦するも、

力及ばず壊滅した。


この不幸とも言える知らせに、

新西狂季と一条是清らの野望と勝ち道は、

一瞬で崩れたかの様に思えた‥。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ