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第六十一話 春の大戦乱祭(1) 開戦之刻

鷹鳴りて

戦地渦巻く

戦狂の

若し闘争

いと美しき


春の大戦乱祭当日。


各陣営は位置につき、上杉校長による開戦宣言を待っていた。


校長「こほん……、さて、生徒諸君。いよいよ、皆の力を存分に発揮する日が来た。此度の大戦乱祭も、両軍の維持とプライドを賭けた戦いである。それ故皆には、悔いなくその力を発揮してもらいたいと思う。さて……、長話はここまでじゃ。皆の健闘を祈る。それでは、春の大戦乱祭……、始めっ!!」


上杉校長の開幕宣言と共に、愛鳥(あいちょう)である大鵬(たいほう)を放ち、勇ましい鳴き声と共に大空を舞った。


更に、大会本部から数十発もの花火が打ち上げられ、維持とプライドがぶつかり合う"春の大戦乱祭"が切って落とされた。




東軍左翼陣営


桃馬「やっと、始まったか‥‥。」


直人「あぁ、ここで六組の尊重派共を叩きのめして、二度と偉そうな口を()けないようにしてやる……。」


桃馬「あぁ、そうだな……。」


春の大戦乱祭が始まり、敵の本陣を見つめている二人は、ふつふつと滾る思いを露にしていた。


奏太「おーい、直人。そろそろ、中央の陣を取りに行くぞー。」


直人「あぁ、今行くよ。それじゃあな、桃馬…、そっちは任せたよ。」


桃馬「あぁ、任せておけ。それより直人も、すぐにやられんなよ?」


直人「ふっ、今日の俺は機嫌が悪いんだ……、そう簡単にやられるかよ。」


桃馬「……それもそうか。まあ、我を見失って晴斗たちを吹き飛ばす様な事はするなよ?」


直人「っ、ぜ、善処しよう。」


桃馬から注意喚起を促された直人は、少し顔を引き()らせながら、迎えに来た"燕奏太"と共に"中央制圧部隊"の元へ向かった。


"中央制圧部隊"(二年三組)は、全員青い羽織物を身に着けており、何とも勇ましい姿をしていた。


リール「かっこいい~♪まるで幕末の新選組みたいだね〜♪」


晴斗「こらこら、うかれている場合じゃないよ?これから、そんな"かっこいい"とか、言える暇もなくなるからね?」


リール「はーい♪」


晴斗「は、はーいって……、はぁ、相変わらず能天気だな……。」


リール「ん?何か言った?」


晴斗「いいや、何も……、それより"海洋"?さっきから準備運動の四股を踏み続けているけど……、いつでも行けそうかい?」


晴斗とリールのすぐ近くで、一時間近く四股を踏み続けている五人の相撲部員たちが居た…。


二年三組の四天王の一人である"高田海洋"を筆頭に、二年生を代表する怪力集団である。


また、相撲部の部員については、高田海洋を含めた二名の人間を始め、オーク族(魔人種、獣種)と、屈強なオーガ族が在籍しており、全員肉付きの良い大男たちである。



海洋「よっと!よっと!あぁ、気にするな。こっちはいつでも行けるぞ。なぁ、おまえら!」


四人「おぉぉぉっ!」


晴斗「そ、そうか。それならいいんだけど……。えっと、そろそろ、女子たちを集中させたいから、やめてくれないかな?」


屈強な肉体美を晒し、勇ましく四股を踏む男たちの屈強な姿は、まさかに、筋肉フェチからしてみれば目に毒であった。


そのため、三組に限らず左翼陣営の筋肉フェチの女子たちは、ドスケベな視線を向けながらヨダレを垂らしていた。


何とも統制が"ある"様で"ない"様な現状に、軍師である晴斗が頭を抱える中、するとそこへ、燕奏太に連れられた両津直人が、中央制圧部隊に合流する。


リール「あっ、直人おかえり〜♪」


直人「よっ、待たせたな。」


晴斗「よっ、じゃないよ〜。早くみんなをまとめて、すぐに中央を取らないと作戦が始まらないよ!?」


直人「あぁ、そうだな。こほん、みんな俺の話をよーく聞いてくれ。俺たちの役割はあくまで囮だ。迅速に中央の陣を制圧した後、遠慮なく相手を挑発してこれを叩く。例え相手が、先輩だろうが、貴族のボンボンだろうが、一切気にする事はない。一人でも多くの相手を中央に誘い込み、大いに暴れてやろうじゃないか!!」


一同「おぉぉぉっ!」


作戦開始の号令を高らかに放った直人が、勢い良く抜刀すると、それに続いて多くの同級生たちが続いて抜刀しながら雄叫びを上げた。


東軍左翼陣営に、"龍"と書かれた旗を掲げられると、中央制圧部隊は、武人モードに入った直人を先頭に、怒濤の勢いで進軍を始めた。


中央の陣は、両陣営からの見晴らしが良く、一度踏み込んでしまえば、格好の的になり得る危険地帯である。


そのため、兵力が勝っている西軍でも、中央の主権については慎重であり、仮に取るにしても東軍の右翼と左翼の内、どちらかを制圧した後に取ろうとしていた程である。


その後、被害を出さずに中央を制圧した二年三組は、早々に魔法結界を張るなり、簡易的な要塞化に成功。


更に二年三組は、高らかに挑発を始める。


直人「中央の陣は我ら二年三組が制圧した!さぁさぁ、先輩方、貴族の方々お相手しましょうか!」


リール「やーいやーい!後輩に遅れを取って、恥ずかしくないのかな~♪」


奏太「ほらほら、手加減してやるから掛かって来いよ!」


海洋「俺は、十人でも百人でも相手になってやるよ!」


二年三組男子「どうした腰抜け?はぁ?なんだって?ほらほら来いよ!」


二年三組男子「お前ら貴族の"き"は、金玉の"き"なのか〜!」


二年三組男子「〇〇先輩!結婚してくださーい!」


二年三組女子「〇〇先輩!あの日の夜は遊びだったのですか〜!」


中央の陣地から様々な挑発が投げ掛けられる中、これに痺れを切らした一部の西軍部隊は、陣形を無視して怒涛の突撃を開始した。


直人「よしよし、上手く釣れたな。」


リール「あはは、凄いすご〜い♪挑発に乗った西軍が続々と押し寄せて来るよ〜♪」


直人「こらこら、感心してる場合じゃないよ?俺たちの戦いは、ここからが本番だからな。」


リール「あはは、分かってるよ〜♪右翼に回ったエルンの分も頑張らないとね♪」


戦場の空気に酔っているリールに注意を促した直人は、眼前に迫る西軍を前にして迎撃の号令を掛けようとする。


直人「さてと……、さぁさぁ、皆の衆!今から性根の腐った先輩たちに、俺たちの"真の士道"ってやつを見せつけてやろうじゃないか!」


二年三組士道部「おぉぉっ!」


直人「よーし!全員構えぇーっ!」


迫り来る西軍を前にして、何と直人たちは、刀ではなくそこそこ大きいバズーカ砲を構え始めた。


これに対して西軍の生徒たちは、一斉に逃げようとするも、時既に遅し……。


直人からの"放てぇ!"と言う、勇ましい号令が下ると、死なない程度に調整されたバズーカ砲が、一斉に火を吹いた。


これにより、安い挑発に乗せられ、まんまと中央に(おび)き出された西軍の先輩たちは、大した活躍も見せられずに壊滅。


これに対して、立派な"士道"を掲げておきながら、速攻卑劣な戦法を取った直人たちは、不敵な笑みを浮かべていた。



・・・・・


序盤から出鼻を挫かれた報を受け、西軍の総大将である三年六組、新西荒儀(あらにしあらのり)は、無能な同胞に対して憤りを感じていた。


新西「ちっ、あの使えない馬鹿共が、まんまと見え透いた挑発に乗りやがって…。」


メルク「うーん、まさか、二年三組の武闘派クラスが、こんなにも大胆な策を打って来るとは…、想定外でしたね。」


新西「っ、おい、メルク!その様な事を言っている暇があるのなら、急いで各部隊に"下手な挑発に乗るな"と伝えろ!」


メルク「はっ、了解しました……。しかし、間に合えば良いですが……。」


新西「いいから急げ!高貴な我々が、庶民風情に押されてはならぬのだ!例え、勝利が揺るがぬ戦でも、辛勝(しんしょう)だけは避けなくてはならないからな!」


メルク「…わ、分かりました。あー、もしもし、こちら本陣……。」



西軍本陣から送られた伝令は、参謀のメルクが危惧していた通り、殆ど後の祭りであった。


なんと、二年三組の士道部を中心とした部隊が、西軍の本陣へ向けて進撃を始めており、これに釣られた西軍の各部隊が、次々と足並みを崩しながら交戦を始めていた。


直人「さぁさぁ、どうしましたか!西軍の強さはこの程度ですか!」


リール「あはは♪この場に居る先輩方は、実に遅いですね〜♪これなら、百人相手でも勝てますよ♪」


現状、迫り来る西軍をねじ伏せている士道部の勢いは凄まじく、そのまま西軍の本陣を攻め落とす程の勢いがあった。


しかしそこへ、その勢いを止める程の学園最強の武人が迫っていた。


晴斗「っ!ま、まずい、とうとう"忠成(ただなり)"先輩が動き出したぞ!?」


奏太「げぇっ!?こ、このタイミングで学園最強の"本田忠成"先輩が動くか……。」


※本田忠成……戦国時代の最強武将の一人、本田忠勝の末裔である。


海洋「そ、それは、まずいな。このまま、直人とリールを対峙させても、まず勝ち目はないぞ?」


晴斗「……とは言っても、今の二人に退けと伝えても、果たして聞き入れてくれるか……。あっ、ほら見ろよ。やっぱり、斬り込みに行ったよ。」


海洋「うわぁ…、無理してやられなきゃいいけどな……。」


晴斗「……たぶん、無理だろう。」


奏太「だな。」


無謀にも思える学園最強との対峙に、後方で守りを固めている晴斗たちは、九割近く直人とリールのリタイヤを予測した。




一方その頃、"無能なクラス代表"の命を受け、中央の制圧に乗り出した"本田忠成"率いる士道部(三年二組)は、大義名分もない西軍陣営に対して、不満の意を露にしていた。


三年二組男子「全く、頼孝(よりたか)のやろう……。大口を叩く割には、安全地帯に逃げ込みやがって、マジで腹立つは……。」


三年二組男子「あぁ〜!もう我慢できない!今からあの頼孝(バカ)を叩きのめして、"クラス代表"の座から引きずり下ろしてやろうぜ!」


三年二組男子「あぁ、そうだな。このまま俺たちの"士道"が、大義名分もない西軍に利用されるのは(しゃく)に障るからな!」


三年二組男子「そうだ!そうだ!反旗を(ひるがえ)すなら今だ!」


三年二組の本隊から離れるに連れて、離反の声が高まる中、部隊長である忠成は、少しため息をつきながら宥めようとする。


※三年二組クラス代表、(みなもとの)頼孝(よりたか)は、あの鎌倉幕府を開いた"無能な暗君"にして、"血も涙もない愚将"、源頼朝の子孫である。


そのためか…。彼の性格は、かなり(ひね)くれており…、中でも、自己中心的な傲慢(ごうまん)さと、キモの座った閣下精神は、何とも目に余る程のクズっぷりである。


これは、忠成の出陣前の事……。


頼孝「おのれぇ……、後輩風情が図に乗りやがって、直ぐに目に物を見せてやる。…おい忠成!今すぐに出陣して、力の差を見せつけて来い!いいか?絶対に手加減なんかするなよ?絶対に完膚無きまで叩き潰して来るんだ!」


この程度の男である。




忠成「ふぅ、皆の気持ちはよく分かるが、少しは落ち着いたらどうだ?」


三年二組男子「っ、だ、だけどよ忠成!?これじゃあ、俺たちの"士道"に反するぞ!」


忠成「あぁ、分かっている。だが、今ここで反旗を(ひるがえ)したら、俺たちはただの"離反者"になってしまう。そうなっては、俺たちの"士道"が地に落ちるどころか、勝っても負けても"裏切り者"のレッテルを貼られる事になるぞ?」


三年二組男子「なっ!?そ、それじゃあ、大人しく頼孝(よりたか)たちに従えと言うのか!?」


忠成「いや、そう言う意味ではない…。俺としては、"士道"に反する離反行為よりも、このまま後輩たちと一戦を交えた上で、(いさぎよ)く"降伏"した方が良いと思うが?」


学園最強の忠成から出た"降伏"という言葉に、三年二組の士道部員たちは驚愕した。


三年二組男子「な、なるほど…。一戦を交えた上での"降伏"なら、不意打ち染みた離反よりも筋は通るな。」


三年二組男子「うーん。となれば、後輩たちを残しつつ、逆に俺たちが"やられる"くらいの加減で当たれば良いか。」


忠成「あぁ、そうだ。次第にこちらの旗色が悪くなれば、必ず頼孝は本陣まで逃げようとするだろう…。そこで俺たちが反旗を(ひるがえ)せば、西軍と東軍から同情を得る事が出来る。」


三年二組男子「おぉ!それなら大義名分で東軍に離反できますね!」


忠成からの"意外な案"により、ようやく冷静さを取り戻した三年二組の士道部員たちは、勇ましく西軍の部隊を蹴散らし、怒涛の勢いで迫り来る後輩たちに備えた。


直人「どけどけー!忠成先輩!!その勇ましい御首級(みしるし)を頂きに参りました!」


リール「あはは、忠成先輩♪お覚悟してください♪」


忠成「…ふっ、直人とリールか。よかろう、相手に取って不足なし!お主たちの"士道"を……我に示せ!」


何とも勇ましい後輩の姿に心を打たれた忠成は、愛槍の"人間止主(にんげんやめます)"を巧みに振り回しながら構えた。


直人「うおぉぉぉっ!」


リール「はぁぁぁっ!」


忠成「っ!ふんっ!」


渾身の力を込めて斬り掛かった直人とリールであったが、意図も簡単に忠成の愛槍に防がれてしまった。


直人「くっ!」


リール「それっ!」


忠成「っ!」


無謀にも力で押し切ろうとする直人に対して、少し機転が利くリールは、綺麗なサマーソルトを決めながら忠成の愛槍を弾いた。


直人「はぁはぁ、や、やっぱり、忠成先輩を倒すには、"序列二位"のエルンが居ないと厳しいか……。」


リール「あ、あはは……、さ、流石は、"序列一位"……。"序列十三位"の直人と"九位"の私じゃあ、勝ち目はないかもね〜。」


直人とリールに続いて、次々と二年三組の士道部たちが、三年二組の先輩たちと交戦を始める中……。


早くも弱音を吐き始めた二人に、ついつい見兼ねてしまった忠成は、口では言うが、実は"諦めの悪い"二人に対して、発破を掛け始める。


忠成「ふっ、ならば諦めて去るか?」


直人「っ!ふっ、まさか。こんな所で逃げ出したら、それこそ"士道部"としての名折れですよ。」


リール「な、直人の言う通りだよ!ここで負けを認めたら、別行動をしているエルンに顔向け出来ないからね!」


忠成「ふっ、その意気があるのなら、最後まで弱音を吐くではない!。…さあ、覚悟を決めたのなら参られい!この"本田忠成"、尋常にお相手致す!」


二人の性根を叩いた忠成は、再び愛槍を構えるなり、勇ましい闘志を露にした。


直人「〜っ!ふっ、良いでしょう…。俺の全力…、今ここでご覧に入れましょう…。士道部序列十三位、両津直人!」


リール「っ、お、同じく二年士道部序列九位、リール・エルディル!」


直人&リール「いざ……、」


直人「参る!」

リール「参ります!」


勇ましい忠成に焚き付けられた直人とリールは、息の合った名乗りを上げるなり、渾身の一閃を仕掛けた。



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