第五十七話 妖楼温泉街編(14) 終演ノ章
色々とカオスな展開を招きながらも、化堂里屋での遊びを大いに満喫していた桃馬たちは、リフィルの謀略に屈し、愛する"二人の嫁"と共にプール施設から離れた直人が戻るまで、平和なひと時を過ごしていた。
一方で、桜華様の体を思う存分楽しんだ小頼は、ビクビクと体を震わせる桜華様の姿を見るなり、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
その後、時刻が午後十六時をまわると、プール施設から離れていた直人が、愛する"二人の嫁"と共に戻って来た。
今まで三人が、一体何処で何をしていたのかは、直人の窶れた表情と、満足そうに笑みを零しているリールとエルンを見れば、何となく察しはついた。
明らかに禁断の一線を越えたかの様な三人の様子に、極上の惚気展開を察した小頼とリフィルは、リールとエルンに詰め寄り詳細な話を聞こうとした。
しかし、その様な無粋な行為を見過ごせないと悟った桃馬、憲明、ジェルドの三人は、透かさず小頼とリフィルの暴挙を止めようとした。
しかし、興奮状態に陥った小頼とリフィルに敵うはずもなく、三人は呆気なくリフィルの拘束魔法で動きを封じられてしまった。
迫り来る変態美女。
これに対してエルンは、合気道の技を駆使して迫り来る二人の片腕を掴むなり、一瞬でその場に跪かせた。
変態モード全開の二人を完全に押さえ込んだエルンは、凛々しい表情をしながら二人に視線を向けた。
エルン「二人とも……、私たちのプライベートに首を突っ込むのは、流石にどうかと思うぞ?」
小頼「いたたっ!?え、エルンちゃん!?こ、これ決まってる、決まってるよ〜!?」
リフィル「ご、ごご、ごめんなさい、エルンちゃん!?い、痛いから離してよ〜!?」
エルン「……ふ〜。」
二人の悲痛な懇願に、エルンは一息をつきながら手を離した。
小頼「うぅ〜、(やっぱり、正面からエルンちゃんと対峙するのはリスクが大きいよ〜。)」
リフィル「はぅ〜、(こう言う時のエルンちゃんは、圧倒的に強過ぎるよ〜。)」
エルンに一蹴され、少し心が折れた小頼とリフィルは、少しだけ大人しくなった。
この光景を間近で見ていた直人とリールは、救いようがない二人の変態を、哀れな眼差しを向けながら見つめていた。
直人「……全く、お前らは。」
リール「あらら〜。」
その後、終始お騒がせな展開を招いた桃馬たちは、妖楼郭へ戻るため、化堂里屋の玄関口へと向かった。
玄関口には、化堂里屋の主である織奉が、妖楼郭に戻られる直人たちを見送ろうと律儀に待ち受けていた。
織奉「あっ、若様に皆様♪本日のご利用ありがとうございました♪」
直人「こっちもありがとうな織奉。今日は本当に助かったよ。」
織奉「いえいえ、若の頼みであれば、お部屋の一つや二つくらいすぐにご用意しますよ♪」
かなり気を使い過ぎている様な織奉の意気込みに、少し嫌な予感を感じた直人は、少し釘を打とうとする。
直人「ははっ、ありがとう。でも、無理に気を使わなくてもいいんだぞ?」
織奉「っ、いえいえ、そう言う訳には参りません。その時は、他のお客様を追い出してでも……。」
直人「っ、ま、待て待て!?それは流石にやり過ぎだ!?逆にこっちが気が引けるよ!?」
織奉「そ、そうですか?」
直人「はぁ、気を使ってくれるのは嬉しいけど、できる限り他のお客さんと同様な扱いをして欲しいかな。」
織奉「うぅ、わ、若がそう申されるのであれば、そう心がけます。」
直人への尽しレベルが高い織奉に取って、直人と一般客を同等に扱うなど、直人の友人、又は親族を除いて不服の所であった。
そのため織奉は、例え直人からの要求であっても、少々不満に思いながら聞き入れた。
これに対して直人は、何とも分かりやすい織奉の仕草に心を射抜かれ、可愛い織奉の頭を撫で始めた。
織奉「んんっ……、わ、若?」
直人「…ふぅ、よしよし、すまんな織奉。でも、いつも俺の事を気に掛けてくれる織奉には、本当に感謝してるよ。」
織奉「う、うぅ……若〜。」
直人の抱擁に心を打たれた織奉は、桃馬たちが居るにも関わらず、尻尾を左右に振りながら直人にしがみついた。
何とも微笑ましい光景に、しばらく桃馬たちが和んでいると、そこへ物欲しそうな顔をしたシャルが織奉に声を掛けた。
シャル「のう、織奉とやら?」
織奉「っ、あ、は、はい!?な、何でしょうか?」
シャルに声を掛けられ我に返った織奉は、慌てて直人から離れた。
シャル「うむ、実は宿に戻る前に、ここへ案内してくれた"豆太"と言う、"もふもふ"を譲って欲しいのだ。」
織奉「ふぇ?」
唐突過ぎる話に織奉が呆然とする中、一方の保護者兼兄であるギールは慌てて声を上げる。
ギール「なっ!?こ、こらシャル!?い、一体何を言っているんだ!?」
シャル「むっ?何って、単なる起用の誘いだが?」
ギール「いやいや、お店の人を引き抜いちゃだめだろ!?てか、引き抜いて何をするつもりだ!?まさか、家に連れて行く気か!?」
シャル「うむ、もちろんそのつもりなのだ。それで毎日"もふもふ"して可愛がるのだ。」
ギール「っ、そ、そんなのだめに決まってるだろ!?」
フォルト家に居候している立場にも関わらず、勝手に他所の豆狸を連れ帰ろうとするシャルの行為に、流石のギールでも全力で止めに入った。
すると、ようやくシャルの要求の意味を理解した織奉は、シャルに向けて言葉を返した。
織奉「あ、あの〜、豆太はうちの大切な従業員なので、お譲りはちょっと〜。」
シャル「っ!?な、直人からも頼んでくれ!余はあの"もふもふ"が欲しいのだ〜!」
ギール「こ、こら!?な、直人まで巻き込むな!?」
留まる事を知らないシャルの"わがまま"は、この場で一番顔が利くであろう直人までも巻き込んだ。
直人「う、うーん?豆太って、あの豆狸のか?」
織奉「は、はい。実は、ギール様とシャル様の迎えに豆太を遣いに出したのですが、ご覧の通り気に入ってしまった様で……。」
直人「ま、まあ、確かに豆太は可愛いからな…、欲しがる気持ちはよく分かるけど……。」
シャル「そ、そうであろう!それならば、豆太を余に……。」
シャルの気持ちは、よく分かる直人であったが、それでも、直人から出された答えは厳しいものであった。
直人「すまない、流石にシャルの要件は呑めないよ。」
シャル「っ、うぅ、ど、どうしてもか……。」
頼みの綱であった直人を通しての交渉が失敗したシャルは、次第に子供の様な悲しい表情をし始めた。
これを見た直人は、すぐにシャルを突っ返そうとせず、少し穏便に済ませようと方策を考え始めた。
直人「うーん……、なあ、織奉?」
織奉「は、はい、何でしょうか?」
直人「悪いんだけど、豆太を呼んで来てくれないか?」
シャル「ふぇ?」
織奉「っ、で、ですが、若……。」
直人「大丈夫、豆太の譲渡は俺も容認しないよ。でも、せっかく来てくれた"お客"を悲しませて帰すのは、化堂里屋としても嬉しくない事だろ?」
織奉「え、えぇ、それはそうですが……。」
直人「なら最後くらい、豆太を"もふ"らせてやっても良いんじゃないか?」
ギール「っ、お、おい直人、流石に悪いって……。」
直人「まぁまぁ、ここは俺に任せろ。」
織奉「…分かりました。しかし、この件に関しては豆太の気持ち次第になりますが、よろしいですか?」
直人「うん、構わないよ。」
織奉「……若は変わらずお優しいですね。こほん、おーい、豆太。」
直人の変わらぬ心意気に、織奉は笑みを浮かべながら豆太を呼び出した。
すると、玄関口にあるフロントの部屋が開き、そこから一匹の豆狸が恐る恐る顔を出した。
豆太「お、お呼びですか?」
織奉「うん、お客様が豆太に会いたいと言っている。接待をお願いしても良いかい?」
豆太「あぅ、は、はい‥。」
やはり、シャルの事を警戒しているのか……。
豆太は、シャルの事を"チラチラ"と見ながら"恐る恐る"前に出た。
豆太の挙動に少々まずいと感じた直人は、シャルの耳元に口を近付けると簡単なアドバイスを送る。
直人「いいかいシャル……、あまり豆太の間合いに"ズカズカ"と入るなよ?焦らず落ち着いて優しく歩み寄れば、警戒心が強い豆太でも心を許してくれるからな。」
シャル「う、うむ……。」
直人からアドバイスをもらったシャルは、焦らずゆっくりと豆太に近寄った。
豆太「な、何でしょうか?」
気の弱そうな声と共に"おどおど"とした豆太の仕草は、まさしく"けも耳ショタ"の醍醐味であった。
普通の人なら間違いなく飛びついてもふり倒す所、今回シャルに限っては、もふり倒す所か頭を下げて謝り始めた。
シャル「先の事はすまぬのだ。お主の気持ちも考えず、しつこくお主を求めてしまった。……だが、今もその気持ちに変わりはしないのだ。」
ギール「っ!?」
豆太「ひっ!?と、と言う事は……。ぼ、僕を連れて行く気ですか!?」
謝った割には執着しているシャルの姿勢に、思わずギールが止めに入ろうとするも、直人に阻止されてしまう。
シャル「いや……、確かに余の気持ちは変わらぬが、これ以上、お主と直人、そして店主に迷惑をかけられないのだ……。だがら、この思いを静めるためにも、もう一度だけ"もふ"らせて欲しいのだ。」
豆太「も、"もふる"ですか‥……うぅ。」
シャル「もちろん、お主が嫌なら…、よ、余は黙って引き下がるのだ。」
豆太「……うぅ。」
お願いのレベルが格段と下がった事により、閉鎖的であった豆太の心が、次第に揺らぎ始めた。
その証拠に豆太の"もふもふ"とした尻尾が、ゆっくりと左右に振り始めていた。
しかしシャルは、豆太の顔に視線を集中させていたため、普段なら分かるであろう仕草に気づけなかった。
シャル「さ、流石にもう嫌であるな。すまぬ、忘れてくれ。」
豆太「っ、ま、待ってください!?す、少しだけなら……いいですよ。」
シャルが身を引こうとした瞬間。
豆太は顔を真っ赤に染め、体を"もじもじ"とさせながらシャルを引き止めた。
何とも尊い光景に、女子たちは心を奪われ、男子たちは弟にしたいと考えていた。
シャル「っ、よ、良いのか?」
シャルの言葉に豆太は黙って頷いた。
それから豆太は、甘えるかの様にシャルの体に抱きついた。
この瞬間、桃馬たちの理性にヒビが入った。
小さいお姉さんに甘えるショタ狸。
何とも破壊力ある"オネショタ"の完成である。
ちなみに、店の外から密かにカメラを構えていた亀田映果は、鼻血を出しながら悶絶していた。
甘えて来た豆太をシャルは優しく撫でまわし、数十秒間の神展開を繰り広げた。
シャル「うむ、ここまでじゃな、ありがとう豆太よ。」
豆太「ふぇ、あっ、う、うん。ま、満足してもらえてよかったです。お、お姉ちゃん。」
シャル「はぅ!?お、お姉ちゃんとな……。か、可愛いやつめ~♪」
けも耳ショタからのお姉ちゃん呼びにより、若干理性が乱れたシャルは、大胆にも豆太の頬に擦り寄った。
豆太「んんっ~♪」
一瞬嫌がるかと思った展開であったが、実際豆太の尻尾はご機嫌よく振っていた。
これは何かしらのフラグが立ったかもしれないと、横で見ていた直人は密かに思うのであった。
その後、直人たちが化堂里屋を後にすると、豆太は玄関口から離れようとせず、耳と尻尾を垂れ下げながら立ち尽くしていた。
豆太「お姉ちゃん……。」
豆太の心の変動に大きな変化が起き始めていると感じた織奉は、元気の無い豆太に声を掛けた。
織奉「ふぅ、どうしたんだい豆太?」
豆太「っ、ふぇ!?あ、い、いえ、何でもありません。」
織奉の呼び掛けで我に返った豆太は、急いでフロントへ戻ろうとした。
織奉「こらこら豆太?嘘はよくないぞ?」
豆太「っ、ぼ、僕は嘘なんて……。」
織奉「あのお客様と一緒に居たいのだろ?」
豆太「っ、あぅ………はい。」
織奉に見透かされた豆太は、最後まで嘘を通す事ができず、あっさり胸の内を認めた。
織奉「……ふぅ、そう言えば豆太は、豆狸の中でも勉強ができる方だったな?」
豆太「は、はい。いつか現世へ行って勉強をしてみたいと思っていましたから。」
織奉「なるほどな。うーん……、よし、分かった。豆太よ、ちょっと来てくれ。」
豆太「えっ?な、何でしょうか?」
織奉「そう身構えなくてもいいよ。ちょっとしたテストを受けてもらうだけだから。」
突然、何かを思いついた織奉は、可愛らしい豆太を休憩室へと連れ込んだ。
一方その頃。妖楼郭へ戻っている桃馬たちはと言うと、ギールの背中に乗っていたシャルが、豆太と別れたショックで大泣きしていた。
シャル「ふえーん!豆太~!」
ギール「だぁ~うるせぇ!耳元で泣くなって!」
桃馬「……相当欲しかったんだな。」
ギール「くそぉ、妖楼郭に着くまで泣き止ませないと。」
ディノ「シャル様~、お気持ちは分かりますが、どうかお平らかに!?」
シャル「ふぇ〜ん!そんなの無理なのだ~!」
誰の言葉も受け付けようとしないシャルの心境に、もはやシャルを泣き止ませるためには、豆太以外厳しいのではないかと思われた。
そんな慌ただしい展開を繰り広げている中、一方で桜華様から再び元の姿に戻った桜華と、調教人である小頼は、別の事で盛り上がっていた。
桜華「こ、小頼ちゃん?ど、どうして私の首に首輪を着けるのかな?」
小頼「あはは、首輪じゃないよ~♪これはチョーカーって言うアクセサリーだよ〜♪」
桜華「ちょ、チョーカーですか?」
小頼「うん♪普通の首輪だと下手に人目に付くからね〜。チョーカーならアクセサリーの一種だから変に見られる事もないよ♪」
桜華「うぅ、そ、それで……、チョーカーを着けた意味とは……。」
小頼「クスッ♪それはもちろん、もし桜華ちゃんが、また桜華様になってしまった時……、簡単に調教するためだよ♪」
桜華「っ!?」
何とも身の毛がよだつ様な言葉に、桜華は身の危険を感じた。
小頼「ふふっ、ちなみにこのチョーカーは、ちょっと特殊でね〜。なんと電流を流したり、リードを付けるための"輪っか"があるんだよ〜♪」
桜華「で、電流!?そ、そそ、そんな物を着けないでくださいよ!?」
小頼「にしし、また桜華様になったら大変だからね〜♪それに桜華様は、調教に弱い様だからね〜。もっと喘がせて……、できるなら……ぐへへ。」
桜華「ひぃ〜っ!?」
先の一件で桜華様を"おもちゃ"にしていた小頼は、高貴な女性を犯す快感が忘れられず、桜華様から戻った桜華に対しても、変態的な性癖を爆発させていた。
その後、もはや手に終えない一行らは、この調子でゴールデンウィーク三日目を過ごすのであった。
※ちなみに、大泣きしていたシャルは、妖怪の温泉街で売っていたアイスを買ってあげたら、すぐに泣き止みました。
更に、ゴールデンウィーク期間中の妖楼郭での滞在は、ゴールデンウィークの最終日は避けて、四日目の日、つまり翌日には帰る事になった。
そして、翌日のゴールデンウィーク四日目。
桃馬たちは、五日間もあるゴールデンウィークのうち最終日を残し、名残惜しくも妖楼郭からチェックアウトをしようとしていた。
白備「若様、皆様、この度は妖楼郭のご利用ありがとうございました。」
昴「うぅ〜、兄さんまで帰らなくてもいいじゃないか〜。」
白備「こ、こら昴!?」
直人「あはは、ごめんよ。最終日に帰るのは、流石に精神的にもきついからね。」
昴「……うぅ、た、確かにそうだけど。」
ゴールデンウィークの期間中は、フルに居てくれると思っていた昴は、一日を残して帰ってしまう直人に寂しを感じていた。
直人「そう寂しそうな顔をするなよ?また、夏休みになれば会いに来れるからさ。」
昴「夏休みって、あと三ヶ月後……か。」
直人「……俺だってみんなと別れるのは寂しいよ。出来る事なら、早く家に帰って来て欲しいくらいだ。」
昴「っ、じゃあ俺も帰っぐえっ!?」
白備「ダメに決まってるだろ?ここで修行を怠れば、この先ずっと兄さんの役に立てないんだぞ?」
直人「ん?俺の役に……って、何だ??」
白備「っ、あ、いえ、これは〜、そ、そう!両津家の時期当主である、若様をお支えするための意味でして……。」
昴「そ、そうそう!」
直人「……気が早いな。正直、当主は稲荷姉か、白備に譲りたいんだけどな。」
白備「っ、それは絶対にダメですよ若様?」
昴「そうだよ!兄さんが当主でなければ意味が無いんだよ。」
直人「うぐっ、相変わらず押しが強いな……。そ、それより、稲荷姉はどうした?」
白備「えっ、えっと、姉上なんですが……、昨夜の時に若様が帰られてしまう事を伝えたら、そのまま部屋に閉じ籠ってしまいまして……。」
直人「そ、そうか……。稲荷姉も相変わらずだな……。」
白備「すみません若様。」
直人「そう気にするな。元はと言えば、直前に帰る日を決めた俺が悪いんだからさ。」
白備「い、いえ、それでも姉上には、最後まで若様を見送るべきですよ。」
直人「白備は真面目だな〜。ん?ふっ、どうやら月影は、白備の影の中に隠れて居るようだな。」
白備「えっ、えぇ、本来なら月影もしっかりお見送りさせていのですが、他所の人が沢山居るから恥ずかしいと言う事で、せめて私の影に潜めて若様をお見送りさせています。」
直人「あははっ、そうかそうか、それでも嬉しい限りだな。おーい、月影?見送りありがとうな♪」
直人が末っ子の月影に声を掛けると、白備の影に隠れていた月影が、ひょこっと顔を出した。
直人と白備たちが別れの話している中、ここで桃馬が、父の佐渡景勝から頼まれていた"ツケの支払い"を思い出した。
桃馬「……あっ、そうだ。忘れる所だった。えっと、白備さん?」
白備「あ、はい、何でしょうか?」
桃馬「これ、親父が渡してくれって。何か今までのツケとか。」
白備「あ、分かりました。確かにお預かりします。」
直人「……叔父さん滞納してたのか。」
桃馬「そうみたいだよ。」
危うく父の佐渡景勝から頼まれたツケを返しそびれそうになった桃馬は、従兄弟の直人が居る前で滞納していたツケを支払った。
一方、別視点では……。
フロントへ来てから、ずっと晴斗にしがみついていた千夜は、別れのショックのあまり大号泣をしていた。
千夜「うぅ、晴斗ひゃまぁ〜!また来てください〜!」
晴斗「あ、あぁ、またね千夜ちゃん♪体には気をつけるんだよ?」
千夜「にゃう〜♪」
別れの挨拶を交わすが、依然と晴斗から離れようとしない千夜に対して、少し困った晴斗は、泣き縋る千夜の頭を優しく撫で始めた。
更に、もう一方の別視点では……。
ギール「さてと、チェックアウトも済んだ事だし、荷物でも担いで帰る準備でもするか、よっと……ん?。」
チェックアウトの手続きが終わり、一旦フロント近くに置かせてもらっていた荷物を担ぐと、部屋から持ち出した時と比べて、少し重くなっている感じがした。
ディノ「どうしたの兄さん?」
ギール「あ、いや、俺の荷物って、こんなに重かったかなって思ってさ。」
シャル「ぬはは♪それはきっと、お土産を詰め込み過ぎたせいだよ〜♪」
ギール「……お土産か。うーん、そんなに詰め込んだかな?」
ディノ「ま、まあ、最初は軽く感じても、一回荷物を降ろして再び持ち上げると、重く感じる事もありますからね。」
ギール「うーん、確かにそれもそうだな。」
中身を見ればすぐに分かるものの、ギールはバッグの中身を確認しようとせず、そのまま桃馬たちと共に妖楼郭を後にした。
湯に草津
風吹く騒乱
御用とし
明くる熱湯
終わり悲しき