第四百二十九話 異世界皇女戦記英雄譚その52
八月十八日…。
ディーデン公国の奪還から一夜明け。
ルクステリア軍の主力である"カオスギルド"は、中立国家"サルベール"の救援に向けて着々と準備を進めていた。
そんな中、昨夜の内に先行させていた斥候が帰還すると、なんとも耳を疑う様な吉報がもたらされた。
その吉報とは……。
"中立国家サルベールに対して、東西より侵攻していたはずの外道国家ジレンマ軍が、壊滅的な大敗を期した"というものであった。
また、詳細に至っては……。
外道国家ジレンマ軍によって、東西から侵攻を受けていた中立国家サルベールは、日本国から駆けつけた警界庁を含む義勇志士を始め、リブル公国より駆けつけた一軍により、外道国家ジレンマ軍の"西側方面攻略部隊"は壊滅…。
また、盗賊団団長である"ガルベル・イザベル"は、リブル公国との攻防で戦死。これに対して、サルベールの攻略に苦戦していた副団長の"ビルヘイズ・キャンベル"は、退路の死守とガルベルの仇を討つため、多くの配下を失いながらも、リブル公国軍に奪われた某国へと退却した……。
しかしそこへ待っていたのは、腸を煮え繰り返していたリブル公国軍の十神柱、"渡邉蒼喜と本間孝"率いる部隊であった。
これに対してビルへイズは、生き残った五十数騎で突撃を行うも呆気なく敗北……。
ビルへイズの配下は、一人残らず討ち取られ、一方のビルへイズは、渡邉蒼喜との決闘の末に首を跳ねられた。
正直のところ…、まだ相手が渡邉蒼喜と本間孝であったから良かったものの…、これがもし、近藤尚弥、茂野天、高野槙斗となれば、更に悲惨な最期を迎えていた事であろう……。
その後、ビルへイズ率いる部隊を打ち破った渡邉蒼喜と本間孝は、陸路より外道国家ジレンマを叩くべく、中立国家サルベールの陣営と合流した。
一方その頃……。山賊団団長の"ゼロール・ゲシャマ"率いる"東側方面攻略部隊"は、八月十七日の決戦で部隊の半数以上失うという大敗を期していた……。
その背景として、影の傭兵団"ポイズンルーン"の団長にして、警界庁特殊隠密捜査官でもある"カーマン・ロマンシング"の決死の働きがあった。
任務遂行のため、悪党の仮面を付け続けた"カーマン"は、最後まで外道国家ジレンマ軍の一員として潜入し、一切手を抜く事なく大戦に参戦していた。
しかし、"東側方面攻略部隊"の団長であるゼロールは、終始カーマンの動向を警戒していたため、大胆な総攻撃を躊躇っていた。
これに対して、警界庁特殊隠密捜査部隊を率いていた"霧隠彩花"は、ジレンマ軍の統率を一気に乱すべく"奇襲部隊"を編成。
素早いゲリラ戦術を始め、死角からの奇襲戦術を用いてジレンマ軍の統率を大いに乱した。
これにより、"東側方面攻略部隊"の参謀である"ゲファール・ガシムス"は、この騒ぎをカーマンの裏切り行為と断定し、本来"味方"である影の傭兵団"ポイズンルーン"に対して攻撃を仕掛けた。
悪人同士で凄惨な殺し合いをする中で、ゲファールによる攻撃を読んでいたカーマンは、至って冷静にゲファールとの決闘に挑んだ。
しかし、その僅か数秒後。
ゲファールの重い一撃を防いだカーマンであったが、その際に致命的な腰痛を患ってしまい、不覚にも左腕を切り落とされるという重症を負ってしまった。
絶体絶命の中で死を覚悟したカーマンであったが、そこへ運良く駆けつけた霧隠彩花率いる部隊によって、命からがら救出された。
カーマンの抹殺に失敗したゲファールは、苦虫でも噛み潰した様な表情を浮かべながら、ゼロール率いる部隊と合流…。
こうして外道国家ジレンマ軍"東側方面攻略部隊"は、占領した某国の国境まで後退した。
・・・・・
ディーデン公国、会議室…。
筋肉ムキムキの老人「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。やはり日本国の者たちが関われば、どんな戦でも戦局が大きく変わるのぉ〜。」
ランドルク(元魔王幹部)「あははっ!こんなにも早く解決されては、俺たちの努力も取り越し苦労だな。」
エルドリック(元騎士団長)「まあ、そうを言うな。それでも我々は、僅か二日で三カ国も奪還したのだ。それだけでも功績は大きいぞ。」
釣りガチ爺「左様。今頃マダル王国へ向かった一軍も、リバー公国とペソル公国を平定しつつ、反帝のマダル王国を攻め滅ぼしている頃でしょうな。」
短パン爺「ペソル公国か…。そう言えば、まだペソル公国へ送った斥候が戻って来てないが、マダル王国へ向かった部隊は、上手くこちら側に引き入れただろうか?」
白髪老人「ふむぅ。確かに、それは気になるの〜。もし仮に、まだ敵対関係とならば、早急にペソル公国を叩かねばなるまい…。」
低級魔法SS爺「ふむぅ。そうなれば、我々が進む道は二つに一つじゃな…。先にマダル王国へ向けて進撃した一軍と連絡を取り合うか…。それとも、ペソル公国へ向かった斥候を待ち、事の次第で北伐を始めるか…。」
エルドリック「まあ、何にせよ。ここはまず、"ダグラス"ギルド長の意見は聞いてみようではないか?」
中立国家"サルベール"の吉報に、多くの熟練冒険者たちが声を上げる中、カオスギルドの幹部であるエルドリックは、左隣に座っているブロンズ髪の老人に意見を求めた。
そのブロンズ髪の老人の名は、"ダグラス・トウゴウ"。
カオスギルドの長にして、元エルンスト王国の海軍を率いていた大総督である。
ダグラス「ふむぅ、そうだな。既に"サルベール"の危機が去った今、おそらく外道国家ジレンマの栄華も長くはないだろう。…となれば、次に我々がやるべき事は北伐が最適であろうな。」
ランドルク「うむ。そうとなれば、早速部隊を整えて、ペソル公国に向かった斥候が戻るまで待つとしよう。」
釣りガチ爺「うむうむ。これでペソル公国が敵対していると分かれば、一気に陸路と水路から攻め入り、そのままマダル王国までも滅ぼしてやろう。」
短パン爺「おぉ!平和を乱す"反帝"を完膚無きまで叩きのめしてやろうぞ!」
ギルド長であるダグラスの意見に、多くの熟練冒険者たちが賛同する中、ダグラスは更に話を進める。
ダグラス「だが皆の衆。ここからの戦は、我ら熟練冒険者たちだけで決行しようと思う。正直心苦しいが、これ以上未来ある若者たちを死地に向かわせたくないからな。」
ランドルク「ふっ、確かにそうだな。現に若者たちには、充分過ぎるくらい貢献して貰ったからな。」
エルドリック「うむ。外道という名の"盾"を失った今、下手に前線に立たせれば命を落とすリスクが高まるからな。」
釣りガチ爺「うーん。じゃが…、ここまで奮闘して来た若者たちが、素直に納得してくれるだろうか?」
ダグラス「案ずるな。仮に納得しなくても、ギルド長の権限を持って止めるまでだ。」
ランドルク「…とは言っても、軽く無視されそうだけどな。」
ダグラス「…ふむぅ。ならいっその事、"極秘"で動くとするか。」
ランドルク「っ、おぉ、それはいいな!」
エルドリック「ふむ。それなら言い訳要員として、"鷹幸"と数名の熟練冒険者たちを残して行った方がいいな。」
筋肉ムキムキ爺「うむうむ。それは妙案だ。突然ギルド長と熟練冒険者たちが居なくなっては、流石の若者たちも混乱するかもしれないからな。」
白髪老人「ま、まあ、混乱と言うよりは、勝手にあちらこちらに散らばりそうじゃがな。」
ダグラス「っ、うーむ。それはそれで厄介だが、それでも危険な激戦区に連れて行くよりかは遥かにマシだ。……さて、事は一刻を争う時だ。早々に"極秘作戦"を練るぞ。」
熟練冒険者たち「おぉ!」
その後。
熟練冒険者たちによる"極秘作戦"は、"ダグラス"ギルド長を筆頭に着々と準備が進められた……。
しかし、この"極秘"と言われた作戦は、とある口の軽い熟練冒険者たちによって、瞬く間に"カオスギルド"全体に広まってしまう事になる…。
一時は、若者層を中心に"帝都救援"の声が一気に高ぶるも、その熱意は"ペソル公国"から帰還した斥候の知らせで一変することになる。
"マダル王国の滅亡"、"ペソル公国投降"の知らせは、熱に当てられた若者層の闘志を一気に冷めさせた。
これにより、周辺各地で戦う目的を失ったカオスギルドは、事実上の後衛部隊となり、周辺各地の情報収集に勤しむ事になるのであった。