第四百二十六話 異世界皇女戦記英雄譚その49
怒声と爆発音が鳴り響く姉妹喧嘩は、202号室の個室どころか、隣の部屋まで巻き込み全壊させ……、淫毒によって眠らされていた"シャル"が、不機嫌そうな表情を浮かべながら目覚めてしまった……。
シャル「ぅぅ〜、なんなのだ……、騒がしいの〜。」
ルシア「っ、しゃ、シャルちゃん……。」
シャル「んんっ……ん?ル、ルシア?……おぉ!ルシアではないか!?ようやく見つけたぞ!」
目覚めて早々…、探し求めていたルシアを目にしたシャルは、満面な笑みを浮かべながらルシアに歩み寄った。
ルシア「っ、あっ、えっと、その……ご、ごめんなさい、シャルちゃん……。」
シャル「ん?何故ルシアが謝るのだ?」
ルシア「っ、そ、それは…、わ、私の"お姉様"たちが、シャルちゃんとギールに酷い事をしちゃったから……。」
シャル「ん、酷い事?……酷い事…か、うーん……。あっ!そ、そうであった!?確かあの時…、余とギールは"赤髪の淫魔と紫髪の淫魔"に襲われて…。」
強い淫毒を注がれ、一時的に記憶が飛んでしまっていたシャルであったが、ルシアとの会話で少しずつ当時の記憶が鮮明に蘇り始めた。
するとそこへ、ルシアの背後に立っていた"赤髪の淫魔"こと、シフェルム公国第一皇女である"ワルプス・シフェルム"が、微笑みながら声をかける。
ワルプス「ふふっ、初めましてシャルちゃん♪さっきは手荒な事をしてごめんなさいね♪」
シャル「っ、お、お主は、あの時の淫魔ではないか!?」
記憶が戻るに連れて、次第にワルプスへの認識が明らかになる中、シャルは慌てて指を差すなり警戒した。
ワルプス「クスッ♪そう警戒しなくても大丈夫よ♪別に"三人"を取って食おうなんて思ってないからね♪」
シャル「っ、そ、そうなのか?って、いやいや、お、お主の様な上級淫魔が、わざわざ獲物を捕まえて何もしないわけがないだろ!?」
ワルプス「ふふっ、本当ならそうしたいところではあるけど、現に今は、"妹"からの強い"監視の目"が光っているから下手に手が出せないのよね〜。」
シャル「い、"妹"からの強い"監視の目"?……ん?」
"妹"からの強い"監視の目"という言葉に、"もしかして"と思ったシャルは、気まずそうな表情を浮かべているルシアに視線を向けた。
ルシア「う、うん……。この方が、私のお姉様です…。」
シャル「…っ、た、確かに、似ておるな……。」
ワルプス「ふふっ♪そうでしょ〜♪私とルシアの顔立ちは、お母様譲りだもんね〜♪」
ルシア「なっ、わ、ワルプスお姉様!?シャルちゃんの前でイチャついて来ないでください!?」
ワルプス「えぇ〜、いいじゃ〜ん♪私とルシアの仲を"元魔王"であるシャルちゃんに見せつけようよ〜♪そうしたら、険悪なギールくんとの仲もグッと深まると思うからさ〜♪」
シャル「なっ///」
ルシア「ちょ、お姉様!?」
何の悪びれもなく、笑みを浮かべながら爆弾発言を滑らしたワルプスに対して、シャルとルシアは個々の感情を露にしながら困惑した。
ワルプス「ふふっ、ルシアの見守りついでに、シャルちゃんの様子も見ていたけど、ここ最近焦れったい展開が続いて"モヤモヤ"していたのよね〜♪」
ルシア「お、おお、お姉様!?ちょっと待ってください!?流石にそれは以上は禁句ですよ!?」
ワルプス「えっ?どうして禁句なの?」
ルシア「そ、それは、その〜、シャルちゃんとギールの仲は、兄妹の域を超えているというか……。」
ワルプス「ふえっ?……えぇっ!?シャ、シャルちゃんとギールくんって、兄妹の域を超えちゃっているの!?」
ルシア「ふえっ?」
話が噛み合わない状況下で、ワルプスとルシアの間で混乱が生じている中、一方でギールへの恋心を見透かされたと思ったシャルは、赤面しながら呆然としていた。
シャル「……ぷしゅ〜///」
ワルプス「ど、どうしましょう…。私はてっきり、大胆な触れ合いが少ないものだから、兄妹としての距離感が掴めないのかなって、思っていたんだけど……。」
ルシア「あ、あの、お姉様?ち、ちなみに、それはいつ頃の話ですか?」
ワルプス「え〜と。確か最後に見たのは、先月の中頃だったかしら?」
ルシア「先月の中頃……。あぁ〜、その頃だと、確かに険悪な雰囲気が残っていたかも…。」
ワルプス「そうそう、せっかくシャルちゃんに抱きつかれたのに、すぐに振り解こうとしてね〜。」
ルシア「よ、よく見てますね……。まさかですが、常習的に私生活を覗いていたわけじゃないですよね?」
ワルプス「さ、流石にそこまではしていないわよ?」
ルシア「はぁ、それならいいのですが……、取り敢えず、誤解の衝撃で呆然としてるシャルちゃんの誤解を解きましょう……。」
ワルプス「そ、そうね〜♪」
その後、呆然としてるシャルの誤解を解いて落ち着かせたルシアとワルプスは、そのまま魔界の情勢を始め、事の次第を包み隠さず話した……。
シャル「な、なるほどな…。この世界で起きている動乱が、まさか魔界にも影響していたとは……、ルシアの母上が、急に二人の姉を送り込んで来たのも納得だな。」
ルシア「はぁ…、とは言っても、ここも安全とは言えないけどね……。」
ワルプス「クスッ、果たしてそうかしら?私としては、治安の悪い魔界で過ごすよりも、ルシアたちと一緒に行動していた方が、何倍も安全だと思うけどな〜?」
シャル「まあ確かに…。あちらこちらで要人が暗殺されたり、公国内に過激派が紛れ込んでいる可能性がある以上…、ルシアと共に居た方が安全だな。」
ワルプス「ふふっ、そうでしょ〜♪」
シャルからの安全のお墨付きを頂いたワルプスは、にこやかな笑みを浮かべながら、ルシアとの同居に手応えを感じた。
ルシア「うぅ、や、やっぱり、この戦いが終わっても、お姉様と暮らさないとダメなのかな……。」
シャル「うーん、そうだな…。今の魔界は、確たる敵も分からず、各地でゲリラ戦と暗殺が横行している危険地帯だ……。ここから魔界を平定するとなると、少なくても三年は掛かると思うぞ?」
ルシア「さ、ささ、三年!?」
ワルプス「っ、……ふふっ、流石は元魔王様ね♪私も魔界の平定には、それくらい時間が掛かると思っていたわ♪」
ルシア「なっ!?」
シャルの推測に便乗するワルプスに対して、姉の居候期間を僅か三ヶ月程度で見積もっていたルシアは、目を見開きながらワルプスに視線を向けた。
シャル「ど、どうしたルシアよ?そんなに二人の姉と暮らすのが嫌なのか?」
ルシア「っ、あ、当たり前よ!?そ、そもそも、私と京骨が暮らしている狭い"寮"に、もしお姉様たちを迎え入れたら……、京骨とイチャつく時間はおろか、隙を見て寝盗られちゃうじゃない!?」
シャル「っ、なるほど…。」
京骨のNTR(寝盗られ)を危惧した力強い反対意見に、流石のシャルでも少し気まずそうな表情を浮かべながらワルプスの方へ視線を向けた。
ワルプス「ふふっ♪私とシャロンを意図も簡単に発情させる程の逸材だからね〜♪ できることなら、三姉妹仲良く京骨くんを共有したいんだけど〜?」
ルシア「っ、だ、だめですよ!?そ、それに京骨は、決してお姉様たちに渡しませんからね!」
ワルプス「えぇ〜、それじゃあ、今日からどうやって欲求を晴らせばいいの?」
ルシア「ふ、ふん、その辺の男でも捕まえて、適当に欲求を晴らせばいいんじゃないですか?」
ワルプス「えぇ〜、そんな品のない行為は、あまりしたくないわね〜。もしするなら、京骨くん見たいな男の子じゃないと嫌よ〜?」
ルシア「っ、くっ、わ、分かりました。そ、それなら…、お、お姉様にピッタリな子を紹介してあげるわ……。」
ルシアとしては、この"カード"だけは切りたくはなかった…。
しかし…、これも愛する京骨との幸せなイチャラブ生活を送るため…、やむなく学園の同級生を"売る"しかなかった…。
ワルプス「あらあら?もしかして、苦し紛れの言い逃れかしら?」
ルシア「そ、そんな事はないわ!おそらく、お姉様もよーく知っている私の同級生よ!」
シャル「っ、る、ルシア!?ま、まさか、その同級生って、ギールのことじゃ……。」
ルシア「いいえ、ギールじゃないわ。ギールよりも恐ろしく……、"男女"問わずいける口の同級生よ。」
シャル「…えっ?"男女"問わずいける口?」
"なぞなぞ"めいたルシアの紹介に、思わずシャルは小首を傾げながら考えた。
するとルシアは、ドアの方に視線を向けるなり、聞き覚えのある二人の名前を呼び始める。
ルシア「……そこに居るのでしょ?小頼ちゃん、リフィルちゃん。」
シャル「えっ?」
ワルプス「ん?」
ルシアの呼びかけから数秒後。
閉ざされていた扉がゆっくりと開かれた。
小頼「あ、あはは〜、もうバレちゃったか〜♪」
リフィル「ほ、ほら〜、盗聴スキルなんか使うから〜。」
シャル「こ、小頼にリフィル!?な、なんでこんな所に居るのだ!?」
小頼「ご、ごめんね、シャルちゃん。実は"あの後"、二人の事が心配で跡を追い掛けて来たんだよ。」
リフィル「そうそう、途中で見失って諦めかけたけど、すぐに大きな爆発音が聞こえてから慌てて駆けつけたんだよ?」
シャル「そ、そうだったのか。」
小頼「でも、良かった〜。てっきり、呪霊三女の"古都古"に襲われたのかと思ったよ〜。」
シャル「呪霊三女……?っ、そ、そうだ!あやつは今どこに……。」
小頼たちとの会話で"ふと"重要な要件を思い出したシャルは、慌てて未だに眠っているギールに駆け寄った。
ギール「んんっ……、シャル〜。」
古都古「ふへぇ〜。」
シャルの目の前には、呪霊三女の一人である悪霊の"古都古"を抱き枕にしているギールと、それを満更でもなさそうに、笑みを浮かべながら眠っている"古都古"の姿があった。
シャル「…………。」
ギールに恋情を抱いてから間もないシャルに取って、目の前の光景は、正しくNTR(寝盗られ)であった。
そしてNTR(寝盗られ)の被害感情に駆られたシャルは、静かに魔力を濃縮した魔弾を左手に込めるのであった。