第四百二十五話 異世界皇女戦記英雄譚その48
防音結界が張られた202号室に響く爆発音…….。
今日から共に過ごす事になった二人の姉に対して、あらゆる不満を爆発させた妹の"ルシア"は、二人の姉に向けて強力な魔弾を叩き込んだ。
これに対して、透かさず防御魔法を張り巡らしたワルプスとシャロンであったが、羞恥の感情が込められた魔弾の威力は凄まじく、普段のルシアなら決して破れる事ができない程の防御魔法が、意図も簡単に破壊されてしまったのであった。
迫り来る魔弾をギリギリの所で回避したワルプスであったが……、一方のシャロンに関しては、まさかの展開に回避運動が遅れてしまい、ルシアの魔弾を"もろ"に受けてしまった。
また、羞恥の感情が込められた魔弾は、202号部屋の内装どころか…、外に面している壁を半分近く吹き飛ばされていた。
ルシア「はぁはぁ……。」
シャロン「ふにゅ〜。」
ワルプス「もう〜、ルシアったら〜、少し"私生活"を覗かれたくらいで、ここまでしなくてもいいじゃないの〜。」
ルシア「な、何が少しですか!?どうせ使い魔を通して、"毎日"私のプライベートを覗いていたんじゃないですか!?」
ワルプス「っ、むぅ〜、それは酷い言いがかりね?流石の私でも、ルシアの"私生活"を毎日覗く様な真似はしてないわよ?」
ルシア「っ、そ、それなら、どのくらいの頻度で覗いていたのですか?」
ワルプス「う〜ん、そうね〜。政務中にルシアの事を思い出して心配したり、無性に会いたくなった時に、ちょっとだけ覗いているから……、え〜と、"週"に三回……いや、四回くらいかしら?」
ルシア「殆ど毎日じゃないですか!?しかも、"週"に三、四回って……、ち、ちなみにですけど、一日に何回覗いているのですか?」
"週"に三、四回……。つまりこれは、一週間の内に一度でもルシアの"私生活"を覗き見た"日数"の単位である。
そのためルシアは、詳細かつ明確な回数を明らかにするため、"一日の単位"で聞き出そうとした。
これに対してワルプスは、少し表情を強ばらせながら応えるのであった。
ワルプス「え、え〜っと、そうね〜、い、一日の回数となると、"多くて五回"くらいだったかしらね〜♪」
ルシア「へぇ〜、一日で"五回"ですか……。ふ〜ん、お姉様にしては少ない気もしますが……、まあ、一度に覗いている時間が長いとすれば……、それはそれで納得しますね。」
ワルプス「っ、むぅ〜、そんな言い方をされると、流石のお姉ちゃんでも傷ついちゃうわよ?……でもまあ、これで納得して貰えるのなら、それはそれで良いのだけど……。」
ルシア「はい?一体何を言っているのですか?そもそも私の見立てでは、一日に"十回"以上、ワルプスお姉様に"私生活"を覗かれていると思っているのですが?」
ワルプス「っ、え、えっと〜、わざわざ"倍"に見積もらなくても〜。」
ルシア「ふん、こういう時のワルプスお姉様は、決まって本来の数字よりも"低く"見積りますからね……。特に今回の場合は……、"半分近く"誤魔化している様な気がするので……。」
ワルプス「あ、あはは……。(ま、まずいわね……。ここまで手の内が読まれているとなると、下手な言い逃れは難しいかもね……。うーん、だとしても、今更ルシアの指摘を認めて二人のイチャラブ展開を"お〇ず"にしていたなんて知られたら…、間違いなく軽蔑されちゃうし……。うーん、困ったわね。)」
自ら掘った墓穴に加え、更にはルシアからの鋭い指摘を受けたワルプスは、久々に感じる不安と焦りに追い詰められていた。
実際、今までワルプスがして来た覗きの頻度は、ストーカーレベルの異常なものであった。
ルシアと京骨のイチャラブ展開及び、健全なルシアの日常生活を一日十回以上覗き、更にこれを"週"に五日以上続けるという異常っぷりである。
もしこの事実が、終始疑っているルシアにバレてしまったら…、それこそ絶交どころか、二度とシフェルム皇国に帰って来なくなる可能性だって十分に有り得た。
そのためワルプスは、苦し紛れではあるが……。次第に表情を曇らせ始めるルシアに対して、お得意の誤魔化し戦法を仕掛けた。
ワルプス「も、もう〜、ルシアったら〜♪そんな怖い顔をしながら冷たい事を言わないでよ〜♪それにお姉ちゃんだって、ルシアの事が心配で仕方がなかったのよ〜?」
ルシア「……はぁ、だからと言って、私の"私生活"を高頻度で覗き過ぎですよ。」
ワルプス「っ。(あらあら、また呆気なく一歩引いちゃったわね〜♪よーし、このまま一気に言いくるめるわよ〜♪)」
何とも呆気なく逆転の一手を掴んだワルプスは、そのまま一歩引いてしまったルシアを言いくるめようとする。
ワルプス「う〜ん、そう言われてもね〜。実際、ルシアの様子を見ようとすると、何故か京骨くんとイチャついている時が多いのよね〜。一体どうしてかしら〜?」
ルシア「っ!?なっ、ななっ///」
身内だけには、決して知られたくない秘密を姉のワルプスから指摘されたルシアは、瞬時に顔を真っ赤に染め始めた。
ここで小話。
今回の覗きの件については、高頻度でルシアの"私生活"を覗いていたワルプスに非がある訳だが……、そもそも裏を返せば、ルシアの"私生活"にも問題があった。
実際、京骨と同棲に近い生活を送っているルシアは、毎日の様に愛する京骨を押し倒しては、ほぼ十八禁レベルの淫らな行為を繰り返していた。
また更に、淫行が禁止されている学園内であっても、ルシアは平然と恥ずかしがる京骨を捕まえては、校則ギリギリのプレイを強行している。
中でも、周囲の生徒たちが見ているにも関わらず、堂々と"舌を絡め合ったディープキス"をしている展開は、学園内でもトップクラスのバカップルである。
そのためルシアの"私生活"は、殆ど京骨とのイチャラブ展開で占められている。
一方で、もはや"レア"化している健全な"私生活"に関しては、授業中、部活動(内容による)、昼休みの女子会など、主に京骨と一緒に居ない時に見る事ができる。
※一応、京骨と一緒に居る時でも健全な"私生活"を見る事はできるが……、こればかりはルシアの気分次第のため、運要素が大きく作用される。
そして話は戻し……。
ワルプス「……クスッ。ねえ〜、ルシア?私の口からこんな事を言うのはあれだけど〜、私とシャロンに見られて恥ずかしいと思うなら、少しは自重した方がいいと思うわよ?」
ルシア「う、うぅ〜///」
ワルプスからの指摘にぐうの音も出ないルシアは、更に顔を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうに体と尻尾を左右に振り始めた。
ワルプス「っ、ふふっ♪(ひゃわ〜♪可愛い〜♪あぁ〜、神様〜♪私は淫らなサキュバスではありますが、何とも可愛いらしい妹を授けてくださり、ありがとうございます♪)」
何とも理想的で可愛らしい"妹"の姿に感極まったワルプスは、ここへ来て重度の"シスコン"属性に火をつけてしまった。
その後、どさくさに紛れてルシアに抱きつこうとするワルプスであったが……、案の定、羞恥の限界を迎えていたルシアを刺激してしまい、苛烈な魔弾祭りを招いてしまった。
縦横無尽に撃ち込まれた魔弾は、ボロボロになった202号室を始め、両隣に接している部屋を巻き込み、殆ど全壊に近い損害を与えてしまった。
※ちなみに、202号室の直下にある102号室は、天井に穴が開く程度で済んでいた。
更に、202号室に張られていた防音結界は、部屋が全壊した事によって、全く機能しなくなっていた。
そのため、ルシアが放った魔弾祭りは、宿屋を中心に響き渡ってしまい、当然店の中に居た店主も慌てて202部屋に駆けつける程であった。
店主「あ、あれ?あ、開かない!?っ、ちょ、ちょっと、す、すみません!?先程から凄い爆発音が聞こえるのですが!?一体部屋の中で何をしているのですか!?」
開かない202号室の扉を"ドンドン"と叩きながら、声を上げる店主に対して、ここで我に返ったルシアが慌てて誤魔化そうとする。
ルシア「っ!?は、入って来てはなりません!?」
店主「えっ?入っちゃだめって……っ!も、もしかして、ドル公国の残党が攻めて来たのですか!?」
ルシア「そ、そそ、その通りです!今はとんでもない相手と対峙しているので、店主さんは早く安全な所へ避難してください!?」
店主「わ、分かりました!そ、それなら私は、避難ついでに応援を呼び掛けますね!?」
ルシア「っ、そ、それはだめ!?」
知らぬとは言え、ありがた迷惑な事をしようとしている店主に対して、ルシアは大きな声を上げながら制止を呼び掛けた。
店主「えっ?し、しかしそれでは……。」
ルシア「わ、私と対峙している相手は、そ、"それ"が狙いなのよ!?この宿に多くの同胞を集めて、一気に大魔法で消し炭にしようとしてるのよ!?」
店主「っ、な、なんと……。わ、分かりました。そ、それならせめて、周辺に居る人たちに声を掛けて避難させますので、ど、どうかご武運を。」
ルシア「え、えぇ、お願いします。」
即席とはいえ、何とか店主を言いくるめたルシアは、気疲れからか、その場に座り込んだ。
ルシア「はぁ……、何とか誤魔化せたわ……。」
ワルプス「ふふっ、お疲れ様〜♪見事な演技だったわよ〜♪」
ルシア「っ、な、何を呑気な事を……、一体誰のせいで、こんな目に遭ったと思っているのですか……。」
ワルプス「ふふっ、ごめんね♪それよりお姉ちゃんは、ルシアの即席演技を見て驚いたわ♪まさか、演技の才能まであるなんてね〜♪」
ルシア「うぅ、即席の演技を褒められても全く嬉しくないですよ……。そ、それより私は、あれだけの魔弾を撃ち込んだというのに、一発もワルプスお姉様に当てられなかった事が悔しいです……。」
ワルプス「あらあら♪この私を見くびってはダメよ〜?例えルシアが、魔弾を何十発撃ち込もうとも、私には止まって見えるんだからね♪」
ルシア「っ、うぅ…。」
恥辱を受けた挙句、力の差まで思い知らされたルシアは、未だに超える事ができない姉の存在に、ただただ打ちひしがれるのであった。
それからしばらくすると……。
シャロンの淫毒によって、深い眠りについていたはずのシャルが、少し不機嫌そうな表情をしながら目覚めるのであった。