第四百二十四話 異世界皇女戦記英雄譚その47
改めて、"母からの手紙"を姉の"ワルプス"から受け取ったルシアであったが、先程燃やした"偽手紙"の内容を思い出し、本能的に嫌な予感を感じ始めていた。
特にルシアは、ワルプスとシャロンを"一時的に匿って欲しい"と言う、何とも受け入れ難い内容を警戒していた……。
ルシア「……ごくり。(い、嫌な予感はするけど……、こ、ここまで来たら、覚悟を決めるしかないわよね。)」
心の中で腹を決めたルシアは、意を決して"母からの手紙"を読み始める。
ルシアへ。
突然この様な手紙に続いて、ワルプスとシャロンをそちらへ向かわせてしまって申し訳ない。
恐らく、この手紙を読んでいる頃には、既にワルプスとシャロンの二人に、振り回されている事でしょう。
もしルシアが、二人の事で不快に感じているのなら、どうか母に免じて許してあげてください。
実際に二人は、ここ最近帰って来ないルシアを気に掛けては、毎日心配していたのです。
どうかそれだけでも、理解してあげてください。
さて、話は変わりますが、今回この様な手紙を認め、そちらにワルプスとシャロンを向かわせたのは、折り入ってルシアにお願いしたい事があるのです。
ここ最近の魔界では、"カルガナ"の動乱に便乗した"過激派"によって、少々騒がしくなっています。
幸い、シフェルム皇国を含む十ヶ国を始め、日本大使館及び、各地より募った勇士たちの力によって、何とか反乱勢力の拡大を抑え込んでいる状態です。
しかしそれでも、厳しい取り締まりの目を掻い潜り、ゲリラ戦を始め、要人へ暗殺などが多く見られます。
また、シフェルム公国内で捕らえた過激派の中には、ワルプスとシャロンを狙った者もいます。
そのため私は、魔界の騒動が落ち着くまでの間、ワルプスとシャロンには、しばらく魔界から避難してもらい、願わくばルシアの下で身を隠してもらおうかと考えました。
正直、今のルシアに取っては、かなり酷なお願いではありますが、どうかこの通り、ワルプスとシャロンを匿ってください。
お願いします。
母より……。
偽手紙よりも少し詳細に書かれた"母からの手紙"は、ルシアの心を強く葛藤させた。
結局、ワルプスとシャロンを匿うという話は、"偽手紙"に記されていた内容と殆ど同じであった。
これにより、"愛する京骨とのイチャラブ生活"が、九割近く崩壊する事が確定した。
ルシア「う、うぅ……。」
ワルプス「クスッ、どうかしらルシア?」
ルシア「はぁ……、いくらお母様からの頼みであっても、これだけは受け入れたくはありません……。ですが…、今の魔界にお姉様方の命を狙っている不届き者がいる以上……、無闇にお姉様方を追い返す事はできません。」
ワルプス「ふふっ、そうでしょ〜♪そうでしょ〜♪」
これもワルプスの策略なのだろうか。
心理的に追い返す事ができないルシアに対して、ワルプスは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
その一方で、"母からの手紙"に記された内容を全く知らないシャロンは、二人のやり取りに小首を傾げていた。
シャロン「え、え〜っと、二人とも?"母上からの手紙"には、一体何て書かれていたのですか?」
ルシア「っ、は、はい、実は……。」
ワルプス「…っ、ふふっ、そうね〜♪"お母様からの手紙"には、大まかに二つの内容が書かれていたわ♪」
シャロンの質問にルシアが答えようとすると、ワルプスは微笑みながらルシアの肩に手を置いた。
ルシア「っ、わ、ワルプスお姉様?」
ワルプス「ここは私に任せて♪」
シャロン「ん?ふ、二つの内容ですか??」
ワルプス「えぇ♪まずは一つ目の内容だけど…、私たち三姉妹が力を合わせて、魔界の秩序と平和を乱している元凶……、"カルガナ"の動乱を一日でも早く終わらせて来なさい、って書いてあるわ♪」
ルシア「……ふぇっ?」
生真面目なシャロンの質問に対して、涼し気な表情を浮かべているワルプスは、"母からの手紙"とは全く異なる内容を伝えた。
これには近くで聞いていたルシアも、予想を遥かに超えたワルプスの発言に、思わず"キョトン"とした表情を浮かべていた。
一方、"母からの手紙"に記された内容を全く知らないシャロンは、そのままワルプスの言葉を鵜呑みにするのであった。
シャロン「っ、な、なるほど……、さ、流石は母上です!元凶である"カルガナ"の動乱を静める事によって、過激派の勢いを削ごうと言う訳ですね!」
ワルプス「っ、ま、まあ、そうなるわね♪(ふふっ、危ない危ない…。危うく"ちょろ可愛い妹"に魅了される所だったわ♪)」
素直で可愛いらしいシャロンの仕草に、危うく魅了されそうになったワルプスは、ギリギリの理性を保ちながら平然と振舞っていた。
一方、破天荒過ぎるワルプスのペースに圧倒され、思わず"タジタジ"になってしまったルシアが、そっと小声でワルプスに話し掛けた。
ルシア「ちょ、ちょっとワルプスお姉様!?シャロンお姉様に対して、あの様な嘘を言って良いのですか!?も、もしバレたら後が怖いですよ!?」
ワルプス「…ふふっ、そう慌てないの♪そもそも、お母様の最大の目的は、私とシャロンを魔界から遠ざける事なのよ?それなのに、あの生真面目なシャロンに"本当の事"を伝えちゃったら、血相を変えて魔界に戻ろうとするわよ?」
ルシア「っ、そ、それは……、うぅ、確かに…、やりかねませんね。」
一時は、いつもの悪ふざけかと思っていたルシアであったが、ワルプスからの心境を聞いた瞬間、全てはシャロンの性格を理解しているワルプスの考慮であったと、ルシアはそう感じた。
すると、再び仲良さそうに話し始めるワルプスとルシアに、少し羨んだシャロンが声を掛ける。
シャロン「え、え〜と、先程から二人は、一体何をヒソヒソと話し合われているのですか?」
ルシア「っ!?」
ワルプス「ふふっ、ちょっと話を盛った事に怒られただけよ♪」
シャロン「話を盛った?」
ワルプス「えぇ〜♪でも、盛ったと言っても表現を変えただけだから気にしないで♪」
シャロン「そ、そうですか……。(な、何だろ……。この"モヤモヤ"とした違和感は……もしかして二人は、"母上からの手紙"について、何か隠しているのか?)」
本能的に違和感を感じる二人に対して、ここでようやく疑い始めたシャロンは、じっと二人の事を見つめ始めていた。
ルシア「…っ。(シャ、シャロンお姉様がじっと見つめて来る…。うぅ、無言の圧が強い……。)」
ワルプス「……。(あらあら、流石のシャロンでも気づいちゃったみたいね……。よーし、こうなったら…、下手な質問をされる前に、動揺を誘って主導権を握った方がいいわね。)」
"愛する妹"から疑いの眼差しを向けられているワルプスは、再び話の主導権を握ろうと、さり気ない一手を打つ。
ワルプス「ふふっ♪もう〜、シャロンったら〜♪そんなに熱い視線を送られたら、流石の私でも恥ずかしいわよ?」
シャロン「っ、ご、ごめんなさい姉上!?え、えっと、これは、その〜、別に変な意味は無くてですね……。」
ワルプスからのさり気ない指摘によって、ふと我に返ったシャロンは、今にも余計な一言を口走ってしまいそうな勢いで取り乱していた。
※ある意味、即落ちである。
ワルプス「ふ〜ん♪意味も無く私を見ていたんだ〜♪」
シャロン「っ!?あっ、え〜っと、それは〜、あっ、そうそう!"母上の手紙"に書かれていた、もう一つの意味を教えてください!」
ワルプス「……クスッ、あらあら、シャロンったら♪そんなに"二つ目"の内容が気になるの?」
シャロン「っ、は、はい!」
完全にワルプスの術中にはまったシャロンは、そのままの勢いで返事を返した。
ワルプス「ふふっ、分かったわ♪え〜と、二つ目の内容だけど、これは動乱を終結させた後の話になるわね。」
シャロン「えっ?それはどう言う意味ですか?」
ワルプス「ふふっ、実はね…。この動乱を終結させた後、私とシャロンは魔界に戻らず、しばらくルシアが住んでいる"家"にお邪魔して、"異世界"の文化を学んで来なさいって、書いてあったのよ♪」
シャロン「っ、な、なな、何ですって!?そ、それは、つ、つまり……、わ、私たちもルシアが通っている学園……いや、"異世界"に行けるという事ですか!?」
ワルプス「その通り♪私たちも晴れて"異世界入り"よ♪」
ルシア「う、うぅ……。(ワルプスお姉様が言ってる事は、大間違いじゃないんだけど……。"私の家にお邪魔"してって……、私に対しての嫌味かしら……。)」
お気楽に話を進めるワルプスに対して、少し不満に感じているルシアは、心の中で本音を漏らしていた。
シャロン「っ、ごくり……。あ、姉上!ルシアが通っている学園には、そ、その〜、男っ気のある女性も居るのでしょうか?」
ワルプス「ふふっ、そうね〜♪京骨くんと今眠っているお友達を見る限りだと、きっと活きのいい生徒たちが沢山いると思うわよ〜♪」
シャロン「おぉ〜!それは期待できますね!」
ルシア「ちょっ!?ちょちょ、ちょっと待ってくださいお姉様方!?ま、まさか…、春桜学園に通う気ですか!?」
私生活だけじゃ飽き足らず、学園生活にまで足を踏み入れ様とする二人の姉に対して、色々と危機感を覚えたルシアは、慌てて二人の横暴を止めに掛かった。
ワルプス「え〜?どうしてダメなの〜?」
シャロン「そ、そうだぞルシア!?ダメな理由を教えてくれないか!?」
ルシア「っ、い、一応、念の為に伺いますけど……、お姉様方は、一体何をしに"私が通っている学園"に編入しようと思っているのですか?」
春桜学園の編入に、かなり積極的な姿勢を見せている二人の姉に対して、心の底から来て欲しくないと念じているルシアは、何となく分かりきっている展開にも関わらず、二人の本心を聞き出そうとした。
ワルプス「えっ?何って、活きのいい男子生徒と女子生徒を捕まえて、濃厚な精気でも搾り取ろうかな〜って……。」
シャロン「わ、私は、男っ気のある女性の方と"まぐわい"たいだけだぞ?」
ルシア「っ、はぁ、や、やっぱり……。」
案の定、性的に食べようとしている二人の姉に対して、少し呆れた表情を浮かべたルシアは、思わずため息を漏らした。
もし仮に、目の前に居る二人の姉が、難なく学園に編入してしまった場合……。
恐らく一週間足らずで、学園の三割近くの生徒たちが、二人の皇女によって性的に貪られる事になるだろう。
だがしかし、京骨ラブのルシアからして見れば、例え、学園の生徒たちが、全員性的に貪られよとも……、正直どうでもいい話であった。
それよりも、今ルシアが一番恐れているのは……。
愛する京骨を三姉妹で"分け合う"と言う、超最悪なハーレム展開である。
三人の皇女を交えての乱行パーティー……。
傍から聞いては、何とも羨ましい展開ではあるが……、実際は、確実に命を落としてしまう超危険な展開である。
そもそも京骨は、ルシアの"ドレインタッチ"だけでも死にかけていると言うのに……、そこへ加減の知らない二人の皇女が参戦したとなれば、もはや絶命必至である。
そのためルシアは、淫行目的で編入しようとしている二人に対して、厳しい現実を突き詰めようとする。
ルシア「い、良いですかお姉様方?そもそも、私が通っている春桜学園では、全面的に"学園内"での淫行は禁止になっているのですよ?ですから、初めから淫行目的で編入しようとしているお姉様方には、絶対に合わないかと思います。」
ワルプス「あら、そうなの?うーん、それじゃあ〜、いつも周囲の視線を無視して、京骨くんと"べろちゅ〜"していたのは…、淫行じゃないの?」
ルシア「〜っ///なっ、なな、なんでそれを!?」
シャロン「あ、姉上!?そ、その話は触れないはずじゃ……。」
ワルプス「あっ、あはは〜♪そうだったわね♪」
ルシア「〜っ!ま、まさかお姉様方……、わ、私の学園生活を覗いていたのですか……。」
普段から周囲の視線を無視して、愛する京骨とイチャラブな展開を繰り広げて来たルシアであったが……、どうやら身内に見られるのは、かなり恥ずかしい様であった。
そのためルシアは、俯いた状態で肩を震わせると、そのまま禍々しいオーラを放ち始めた。
シャロン「っ、お、おいルシア?」
ワルプス「あ、あらあら〜♪も、もしかして、怒っちゃったかしら?」
ルシア「〜っ!!っ!当たり前ですよ!!!」
次から次へと癇に障る二人の姉に対して、ついに不満が爆発してしまったルシアは、二人に向けて強力な魔弾を叩き込むのであった。