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第四百二十話 異世界皇女戦記英雄譚その43

呪霊三女の一人、悪霊の古都古に対しての一件で、桃馬たちに相談を持ち掛けたギールとシャルであったが、期待外れにも参考となる答えは一切得られなかった。


それどころか、ギールとシャルの"熱いアニイモ"展開を察した小頼から、一方的に色恋沙汰(いろこいざた)(いじ)られてしまう始末。


これに対して少し腹を立てたギールは、この手の事に関して一番詳しいと思われる、大妖怪"がしゃどくろ"の末裔である"湯沢京骨"に相談する事にした。


しかし、その京骨はと言うと、愛するルシアと共にディーデン公国の巡回をしているため、探し出すだけでも容易ではなかった。



ギール「クンクン、クンクン。うーん、だめだ。人が多すぎて全然鼻が効かないな……。」


シャル「ふむぅ、やはりこの広い街中で、巡回している京骨とルシアを見つけ出すのは難しい様だな。」


ギール「うぐぅ、嗅覚で辿(たど)れば簡単に見つかると思ったんだけどな。」


シャル「まあ、そう悲観するでないギールよ。余も魔力探知を使って探し出してやりたい所だが、古都古に絡まれた際に使った拘束魔法のせいで、今は必要最低限の魔力しか残ってないからな……。」


ギール「そ、そんなに消費したのか?」


シャル「う、うむ、何せ渾身の拘束魔法を(ほどこ)したのだからな。」


ギール「…渾身か。それでも古都古に解除されたって事は、それほど古都古の力が強いって事か。」


シャル「…あまり認めたくはないが、ハッキリ言って"そやつ"の力は、余の力と比べて何倍も強力だ」


ギール「っ、そ、そうなのか!?」


シャル「うむ、それに加えて…、"そやつ"の力は、以前に対峙した同じ呪霊三女の"貞美"よりも強力だ。」


ギール「っ、そ、そんなに強いのなら、どうして暴走した俺の姿を見て失神したんだ……。呪霊三女の一人なら、俺なんかより怖い悪霊を見てるはず…。」


シャルより強い力を持っていながらも、暴走したギールの前で呆気なく気絶した古都古に対して、逆にギールは不安を感じていた。


シャル「うーん、そうだな。失神の理由については、当の本人にしか分からない心境だと思うが……、あの時の状況を察するに、"そやつ"が気絶した理由は、今まで過ごして来た"環境"と"精神的な面"にあると思う。」


ギール「環境と精神的な面……か。」


シャル「うむ、さっきギールが言ったように、呪霊三女である"そやつ"は、今まで数多くの同胞を見て来たはずだ。それ(ゆえ)、見た目だけの恐怖には慣れていると思うよ。」


ギール「見た目だけの恐怖か……。っ、と言う事はつまり、心の底から恐怖を感じる耐性が無いって事か。」


シャル「ふふっ、あくまで憶測に過ぎないけどな……。それでも、"そやつ"の精神的な面に関してはよ〜く分かっているつもりだ。」


ギール「えっ、分かるのか?うーん、小生意気で内弁慶的な感じとか?」


シャル「ぷっ、あはは、相変わらずギールの勘は鋭いな。」


古都古のイメージから推測したギールの答えに、思わず吹き出してしまったシャルは、思わず正解だと言わんばかりに称賛した。


ギール「っ、と、と言う事は、シャルも同じ……。」


シャル「いいや、ギールの方が上を行っているよ。余が思っていたのは、シンプルに"そやつ"の精神が、その辺の子供と何ら変わらないと言う事だ。」


ギール「っ、えっ、こ、子供??」


シャルのシンプルな答えに対して、勢い余って飛び越えた様な答えを出したギールは、思わず呆然としながら立ち尽くした。


シャル「む、おーい、どうしたギールよ?」


ギール「っ、ま、まさか〜、いくら幼女の姿をしているからって、流石に子供はないだろ?」


シャル「ふむぅ、ギールの言いたい事はよく分かる。じゃが、"そやつ"の幼稚な言動を見る限り、善悪の分からぬ子供に見える……。」


ギール「幼稚……、善悪の分からぬ子供か……、うーん。」


一瞬、"それはないだろう"っと思ったギールであったが、少し考えて見れば、確かにシャルの言う通り、古都古の言動には幼稚とも思える一面があった。


絶対にギールとシャルを得ようとする執着心。(わがまま)


絶対的な自分主義。(突出した主張心)


善悪も分からず厄災を振り撒いている事。(善悪不明)


他、お漏らしをしながら気絶した件など。


子供ならではの要素が当てはまっていた。


するとそこへ、シャルの口から少し恐ろしい話が持ち掛けられる。


シャル「…ふぅ、こう言うのはあれだが、恐らく" そやつ"は、今まで"遊び"感覚のつもりで、多くの人々から幸福を奪い、形振(なりふ)り構わず不幸をバラ撒いていたのかもしれないな。」


ギール「っ、あ、遊び感覚だと!?」


シャル「うむ。例えるなら……そう、子供が虫を捕まえて無惨な扱いをする様に……、"そやつ"もまた、活きの良い獲物を見つけては幸福を奪い、地獄の様な不幸を与え続けて来たのだろうな。」


ギール「っ、そんな感覚で多くの人々を……。」


シャル「まあ、これも私の憶測に過ぎないが…、何にせよ、善悪も分からず本能のままに動いているのは、ほぼ間違いないだろうな。」


ギール「…愚かだ。やっぱり、こいつは今ここで……。」


シャルの話を聞いて義憤に駆られたギールは、脇に抱えた古都古を降ろすなり、刀に手を掛けトドメを差そうとする。


シャル「っ、ま、待てギール!?今そやつを殺したら何が起こるのか分からぬのだぞ!?」


ギール「っ、だ、だけどよ……。」


シャル「古都古に関しては死神に託した方が良い。そのためにも、早く京骨に相談せねば取り返しのつかぬ事になるぞ。」



ギール「……わ、分かった。ごめん。」


シャル「ふぅ、全くギールは義憤に駆られやすいな。」



シャルに諭され刀から手を離したギールは、再び古都古を脇に抱えるなり、京骨とルシアの捜索を再開させた。



それから、一時間後……。


結局、街中を粗方探し回っても京骨とルシアを見つけられなかったギールとシャルは、"まさか"と思いながらも、 捜索中に見つけた"とある宿(やど)"へと(おもむ)いていた。


ドル公国に占領されてから、少々酷な仕打ちを受けていたのだろうか。外壁を始め、フロント内は荒れていた。


店主「あぁ〜、緑髪の少年と水色髪の女の子でしたら、確かに一時間前に来ましたよ。」


ギール「や、やっぱり…。ち、ちなみにその二人は、まだここに居ますか?」



店主「えぇ、まだお部屋に()られると思いますよ。えーっと、確か202号室ですね。」


ギール「っ、お、教えてくれるのですね。」


店主「あはは、本当はダメなんですけどね。でも、ここへ来られた二人は、街の警備目的で利用している訳ですから、お仲間を通すのは当然ですよ。」


ギール「な、なるほど…。えっと、ちなみに確認なんですけど、二人がここに来た時の様子はどんな感じでしたか?」


店主「どんな感じ?うーん、そうですね。これと言って変わった様な事はなかったと思いますが…、強いて言えば、お二方の様に仲が良さそうなカップルでしたね。」


シャル「なっ///」


ギール「っ、そ、そそ、そうでしたか〜♪あはは、えっと、ご協力ありがとうございました〜!」


店主の余計な一言のせいで、ようやく忘れ掛けていた二人の恋心(こいごころ)に再び火がついてしまった。


ギールは取り乱しながらも、頬を真っ赤に染めたシャルの手を取るなり、急いで京骨とルシアが居る部屋へと向かった。



ギール「全くあの店主、余計な事を言いやがって……。」


シャル「うぅ、余とギールが、か、カップル……。」


ギール「っ、シャ、シャル?あの店主が言った事を真に受けるな。そもそも俺たちは、その……兄妹だろ?」


シャル「そ、そうではあるが……うぅ。」



依然と動揺が収まらないシャルは、ギールと視線を合わせる事が出来ずに、体を"モジモジ"とさせていた。



古都古率いる悪霊との戦闘により、暴走状態に陥ってしまったギールを落ち着かせるためとは言え、思わず愛の告白に続いて、ファーストキスまで捧げてしまったシャルに取っては、やむを得ない展開であった。


一方で、暴走状態に陥っていたギールは、シャルとキスをしてしまった事は覚えているが、愛の告白については全く覚えていなかった。


しかしそれでも、シャルに対しての意識は強く、兄妹と言う(かせ)が無ければ、当に理性は崩壊し、大切なシャルを襲っていたかもしれなかった。



ギール「はぁ、全くらしくないな。幼女になっていた時の"小生意気な威勢"はどこへ行ったのやら……。」


シャル「っ、う、うるさい馬鹿者……。そう言うのは、その時の気分で変わってしまうのだから、仕方ないだろ……。」


ギール「……はいはい、分かったよ。」


悶々としている空気を何とか変えようと、少しシャルをからかい始めたギールであったが、いつもの"なのだ"モードを引き出すつもりが、クール系のツンデレ属性を引き出してしまった。


何とも逆効果な展開を招いてしまった事に、ギールの脳内では、崩壊寸前の理性と熾烈(しれつ)な戦いをしていた。


ギール「……。(あぁ〜、もう〜!シャルとキスしてから何かが変だ!?頭からシャルが離れないし、いつも以上に可愛く見えてしまう!?こ、これが、本当の(こい)と言うやつなのか……。主従の愛とは全く違う……。異性として求めている感覚……。くっ、気を抜いたらシャルを襲ってしまいそうだ。)」


込み上げて来る本能を抑えつつ、極力シャルに背を向けながら歩き始めるギールの表情は、両目を大きく開きながら血走っていた。



店主の余計な一言のお陰で、禁断の恋煩(こいわずら)いに陥ったギールとシャルは、互いに視線を合わせないまま、京骨とルシアが居ると思われる202号室に到着した。


ギール「こ、ここが、202号室か。」


シャル「そ、その様だな……。うぅ、えっと、な、なあ、ギールよ?果たして開けても大丈夫だろうか?」


ギール「う、うーん、い、一応、喘ぎ声は聞こえないから大丈夫だとは思うけど……、事後の可能性はあるよな。」


シャル「っ、うぅ、や、やはり、一時間前に来たとなれば、その可能性は十分に有り得るか…。」


ギール「あぁ、しかも密室に二人だけ…。その時点でルシアが何もしない訳が無いんだよな……。」


既に扉の前でも感じる嫌な予感。


この扉の先には、学園随一の不埒(ふらち)なカップルで有名な京骨とルシアが居る。


願わくば、大人しく警備の任務に当たって入れば安心なのだが、十中八九イチャラブな展開に浸っている可能性があった。


シャル「うぅ…、ぎ、ギールよ?た、例え事後であっても、今は一刻を争う事態だ。ここは、直ぐに扉を開けるのではなく、ノックをしてから入った方が良いのではないか?」


ギール「っ、そ、それだよ!先にノックをすれば良いんだよ!」


部屋の状況が気になり過ぎていたせいか。


ギールは安全に入れる方法を完全に見失っていた。


そのためギールは、少し不安に感じながらも、意を決して扉を叩くのであった。



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