第四百十七話 異世界皇女戦記英雄譚その40
殺戮と恐怖が渦巻く戦いの中で、呪霊三女の一人、悪霊の古都古を捕らえたギールとシャルは、あまりにも大物過ぎる古都古の対処に悩まされていた。
本来ならば、すぐにでもトドメを差したい所ではあるが、第二形態への誘発、あるいは大災害レベルの異変が起こる可能性があったため、下手に危害を加える事が出来なかった。
そのためギールとシャルは、桃馬たちからの意見を聞くため、お漏らしをしながら気絶している古都古を連れ、早速桃馬たちの元へと向かった。
ギール「お、お〜い、桃馬〜!」
桃馬「んっ、おぉ〜、ギールにシャルじゃないか。救護班としての活動は、もう終わったのか?」
ギール「あっ、いや、救護活動の方は終わってないんだけど…、実は救護活動中に、かなりヤバい奴に絡まれてな。」
桃馬「かなりヤバい奴?うーん、イケメンの獣人族を性的観点から主食にしているババァに襲われそうになったとか?」
ギール「っ、ぜ、全然違うよ!?」
的外れにも程がある桃馬の予想に、思わずツッコんでしまったギールの脇には、例の"ヤバい奴"が抱えられていた。
桃馬「あはは、冗談だよ。それで、そのヤバい奴って一体どんな…って、おいおい、よく見たらその脇に抱えている黒い物体は、子供じゃないか!?」
ギールの脇に抱えられた"子供"こと、呪霊三女の一人、悪霊の古都古にようやく気づいた桃馬は、指を差しながら驚いた。
ギール「あっ、あぁ、実はこの事で話が……。」
黒い着物を装った古都古は、ギールの脇に抱えられたままピクリとも動かず、細い手足に続いて、漆黒の黒髪を"だら〜ん"と垂れ下げていた。
一方、桃馬の声に釣られ、ギールの方に視線を向けた憲明たちはと言うと、何とも誤解を招く様な光景に多様な表情を浮かべていた。
そのため……。
桃馬「……憲明、警察。」
憲明「うん、分かった。」
ギール「ちょっ、ま、待てって!?」
傍から見ても誘拐犯にしか見えないギールの姿に、呆れて物も言えない桃馬は、近くにいる憲明に対して、警察に通報させようとした。
だがしかし、この異世界の地には、電話回線どころか、ネット回線も無いため、そもそも通報をする事など不可能であった。
憲明「っ、どうしよう桃馬……。そもそも、この世界に電波が無いから通報できない。」
桃馬「なっ、何だと……。」
わざとなのか、それともガチなのかは不明だが、現状を見る限りでは、ガチに見えていた。
ギール「だ、だから、通報しようとするな!?これには訳があるんだ!」
もしこの場に、大妖怪"がしゃどくろ"の末裔である京骨が居たのなら、すぐに古都古の正体に気づいて相談に乗ってくれていたかもしれない。
だがしかし、その肝心な京骨はと言うと、只今愛するルシアと共に、公国内の巡回警備に勤しんでいた。
桃馬「ん、訳だと?」
ギール「そ、そうだよ、そもそも、こいつはな……。」
ジェルド「ふ〜ん、この期に及んで言い訳するとは、良い度胸だな……。」
ギール「っ、べ、別に言い訳なんかじゃ……。」
小頼「ふふっ、シャルちゃんが見ている中で、ギールはどんな手段を使ってその子を落としたのかな〜♪」
ギール「だ、だから、そんな淫らな事はしてないって!?」
リフィル「や、やっぱり、人気の無い路地裏に連れ込んだのかな〜?」
桜華「ろ、路地裏に……ごくり。」
ギール「お、お前らな……。」
ギールとしても、一刻も早く本題を切り出したい所であったが、桃馬たちのわざとらしい誤解のせいで、本題に入るタイミングが掴めないでいた。
そのためギールは、堪らず半ギレになりながらも、半ば強引に本題を切り出した。
ギール「っ!?あぁ、もう〜!埒が明かない!この際、単刀直入に言うけど、こいつは呪霊三女の一人、悪霊の古都古なんだよ!」
桃馬「はっ?呪霊三女……?」
憲明「ま、まさか〜、この世界に呪霊三女の一人が居る訳ないだろ?」
ギール「っ、本当なんだって!?何ならついさっきまで、こいつと大量の悪霊共に絡まれていたんだぞ!?」
全く嘘などついていないギールであるが、それでも信じ難い話に桃馬たちは半信半疑であった。
ジェルド「と言いながらも、実は路地裏で……。」
ギール「おい、ジェルド……、次にふざけた事を抜かしてみろ……、喉元を掻っ切るぞ……。」
ジェルド「っ!?」
最後に余計な一言を漏らしたジェルドであったが、ギールからの強烈な殺気を受けるなり、思わず竦んでしまった。
するとここで、ずっと黙り込んでいたシャルが、少しため息を漏らしながら、ようやく口を開いた。
シャル「ふぅ、お前たちよ。ギールが言っている事は本当の事だ。現に余も、ギールと一緒になって、この古都古に絡まれていたからな。」
ギール「っ、しゃ、シャル?」
桃馬「お、おいおい、冗談キツいよシャル?」
憲明「さ、流石に、いつもの冗談だよな?」
ジェルド「あっ、そ、そうか!こ、ここ最近のギールとシャルは凄く仲が良いもんな〜。きっと、哀れに感じたギールを助けようと、無理にフォローを入れているんだな?」
シャル「はぁ、戯けが……。無理な助けでも、冗談でもない。ギールが抱えている"そやつ"は、間違いなく呪霊三女の一人、悪霊の古都古だ。近くの路地裏で余とギールを襲った際に、自らそう名乗っていたから間違いない。」
中々信じてくれない桃馬たちに対して、カリスマ溢れる魔王の姿になっているシャルは、クールな眼差しを桃馬たちに向けながら、凛々しい口調を保ったまま事の次第を詳細に語った。
普段のお転婆属性が感じられないシャルの説明に、桃馬たちは事の次第を受け入れる他なかった。
桃馬「え、えーと、ちょ、ちょっと待ってくれ、と、と言う事はつまりだ。ギールの脇に抱えられている少女は……、呪霊三女なんだよな。」
シャル「うむ、先程からそう言っている。」
憲明「お、おいおい、マジかよ。」
ジェルド「はわわ!?は、はは、早く死神を呼ばないと!?」
つい数日前に、呪霊三女の厄災をその身で感じている桃馬、憲明、ジェルドの三人は、目の前にいる古都古にビビリながら、無意識に距離を取り始めた。
対して女子たちはと言うと、"あわあわ"と戸惑っている桜華はおいといて、一方の好奇心旺盛な小頼とリフィルはと言うと、ビビるどころか不敵な笑みを浮かべていた。
綺麗な黒髪ロングの美少女。
そして高貴な匂いを漂わしている着物姿。
更に、小生意気なメスガキの風格。
など……。
古都古と言う危険な存在は、好奇心旺盛な小頼とリフィルに取って、調教したいと言う欲求を刺激させてくれる……。
最高級の存在であった。