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第四百十六話 異世界皇女戦記英雄譚その39

複数の悪霊に取り押さえられ、身動きが取れない状態のシャルは、呪霊三女の古都古より非道な仕打ちを受けていた。


シャルの胸を揉みしだく古都古の手は、見た目は透き通る様な白い肌をしているが、その実態は、"数多(あまた)の怨念と数多(あまた)の血"で染めきったドス黒い手をしていた。


気安くシャルに触れる古都古に対して、強い憤りを感じるギールであるが、無事にシャルを助け出すために自らを犠牲にしようとする。


これを聞いたシャルは、愚かな事をしようとしているギールを止めようと声を上げるが、そこへ痺れを切らした古都古によって、渾身の平手打ちを受けてしまった。


初めて味わう"恐怖付きの痛み"に、シャルは思わず放心状態になってしまう中で、許されざる光景を見せられたギールは、心の奥底に眠る"本能"を極限の怒りと共に覚醒させた。



普段の黒い瞳は、禍々しい暗赤(あんせき)(いろ)に光だし、瞬く間に狼男の様な恐ろしい姿へと変貌を遂げた。



覚醒により理性を失ったギールは、周辺の悪霊を瞬く間に八つ裂きにし、瞬時に古都古の目の前に立ちはだかった。


何とも恐怖を煽る様な光景に続いて、今まで見た事がない程の恐ろしい怪物を前にして、古都古は恐怖のあまり腰を抜かした。


ギール「グルル……。」


古都古「ひっ!?く、来るな!来るな化け物!?」


先程の余裕はどこへやら、完全に腰を抜かしてしまった古都古は、腰を浮かしながら後ろへ逃げようとする。


これにギールは、古都古の顔に接近するなり徐々に唸り声を強めた。


ギール「グルル!グルル!」


古都古「ひぃ〜!?」


ギール「グルルっ!、グガァァっ!!」


古都古「〜〜っ!!!?」


何とも魂が飛びそうな雄叫びに、古都古はその場でお漏らしをしながら気絶した。


一方、シャルを押さえ込んでいた悪霊及び、周辺に居た悪霊たちは、たちまち逃げようと飛散するが、何故か古都古が作り出した闇の空間から出る事が出来ず、覚醒したギールに次々と襲われ始めた。



悪霊「〜〜っ!っ!!?」



ギール「グルル〜、ワオーーン!」


悪霊狩り……。それとも、命を狩る事を楽しんでいるのであろうか。



覚醒したギールの表情は、一人、また一人と、悪霊を八つ裂きにする度に笑みが溢れていた。



これに対して、"恐怖付きの痛み"を与えられ、放心状態になってしまったシャルは、その場に座り込んだまま、豹変して行くギールの姿を悲観しながら見つめていた。



シャル「だめじゃ……だめなのだ……。」


ギール「グルル〜!グガゥッ!」


悪霊「グガッ!?ガガガッ!」


シャル「もう……やめてくれ、ギール……。」


ギール「ワォーン!グガッ!グガァァッ!」


悪霊「アガガガッっ!!?」


シャル「……ギール……余の声が聞こえぬのか……。」


ギール「……グルルッ?」


シャルの周りに蔓延っていた悪霊を全て狩り尽くしたギールは、キョロキョロと辺りを見渡しながら既に獲物が居ないと分かると、最後にポツンと腰を下ろし涙を流しているシャルに視線を向けた。


シャル「っ、ぎ、ギール……。」


ギール「グルル……。」


シャル「……ギール、すまん…すまぬのだ…。余のせいで、こんな……こんな……。」


徐々に迫り来るギールに対して、シャルは生まれて初めて心の底から謝った。


正直、今のギールにこの思いが伝わるかは分からない。


下手をすれば、喉元を食いちぎられたり、八つ裂きにされてもおかしくはない状況である。


しかしシャルは、それでもギールへの謝りたい気持ちを抑えきれなかった。


するとギールは、シャルの目の前まで駆け寄って来た。


ギール「グルル…。」


シャル「っ、ギール……、〜っ、すまない……。余が不甲斐ないせいで……、ギールに辛い思いをさせてしまった……。」


ギール「グルル……わふぅ。」


シャル「……ひっく、謝って済む様な事じゃないとは、ひっく、分かっている……。けど、余は謝り足りぬのだ……、例えギールに許して貰えなくてもいい……、でも、何かさせて償わせて欲しいのだ……。例え、ギールに喉元を食いちぎられても、八つ裂きにされたとしても……。」


ギール「……わふぅ、ペロッ。」


両手両膝をついて謝るシャルの姿に、ギールは不安そうな声を出しながらシャルの頬を舐め上げた。


シャル「んんっ、ギール……?」


ギール「……わふぅわふぅ〜。」


理性は無くても本能が覚えているのだろうか。


悲しそうな表情をしているシャルの姿に、ギールはソワソワしながら落ち着かない様子であった。


シャル「……ギール。うぅ、どうしてだ……、どうしてなのだ……どうしていつも……余の事を優しくしてくれるのだ……、どうして、"私"なんかのために、そこまで怒ってくれるのだ。」


ギール「わふぅ?」


言葉の意味が分かっていないのか、ギールは小首を傾げた。


シャル「うぅ、ギール……。わ、"私"は…、"私"はな…、ギールがその身を犠牲にしてまで、古都古の要求を呑もうとした時、"私"は凄く怖かった……。"私"のせいで……、ギールが辛い思いをしてしまうって……。」


ギール「…………。」


シャル「……うぅ、っ!」


ギール「っ、わふっ?」


苦しい心境をギールに打ち明ける度、次第に心の抑制が出来なくなってしまったシャルは、堪らずギールに抱きついた。




シャル「ギールの"優しさ"は本当に嬉しいよ……。でも、ギールが犠牲になる優しさ何て全然嬉しくない……。」


ギール「っ……。」


シャル「それに…、今の"私"は、ギールが側に居てくれないと……、不安で堪らない…、寂しくて怖いのだ……。」


ギール「……っ…わふぅ?」



シャル「…だからね、ギール……。うぅ…、い、今からする事は…、今の"私"が出来る最大の気持ち……。そして……私の初めてを捧げるわ。」



俯きながら話すシャルは、そっと覚醒したギールの"もふもふ"とした頬に両手を触れた。


シャル「……ギール…好きよ…愛してる……ちゅっ……。」


ギール「…っ!?」


大人びた魔王シャルからの告白に続き、接吻を受け取ったギールは、大きく目を開けながら硬直した。



すると覚醒したギールの体は、見る見る内に元の姿へと戻って行った。その後、正気に戻ったギールは、シャルとの接吻に一瞬驚くも、不思議と無理に引き剥がそうとはせず、むしろ抱きしめながら熱い接吻を交わした。




その後。


古都古が張った闇の空間が解かれると、ギールとシャルはお漏らしをしながら気絶した古都古を連れ出し、桃馬たちと合流するのであった。




ちなみに、二人の接吻後。


元の姿に戻ったギールに気付かず熱い接吻を続けていたシャルであったが、元に戻ったギールの姿を見るなり、あまりの恥ずかしさから渾身のビンタをギールに見舞った事は言うまでもない。










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