第四百十五話 異世界皇女戦記英雄譚その38
呪霊三女の一人である、悪霊の古都古に気に入られ、"ねちっこく"付け回されたギールとシャルは、近くの路地裏にて追い詰めらてしまった。
周囲には古都古の配下だろうか。
多くの悪霊共が、有象無象に姿を現していた。
古都古「さあ、もう逃げ場はないわよ……。」
シャル「っ、これは少々まずいな……。」
ギール「くっ、お前らの目的は一体何なんだよ…。どうして、そう"ねちっこく"俺たちに付き纏って来るんだ!」
古都古「どうして?うーん、そうですね〜。簡単に言えば、私たち悪霊の性と言えばいいかしら?」
ギール「さ、性だと?」
古都古「えぇ〜♪特に私の場合は、悪霊の長として、この世に生を受けた者たちの幸福を喰らい、その見返りとして不幸を与えて死へ追いやり、時には直接的に"ぶっ殺し"たりしながら同胞を増やしているわ。」
ギール「っ!?」
シャル「狂っておるな……。」
古都古「クス、そう恐れなくていいわ。そこの小生意気な魔王を含めて、あなた方には、凄く興味があるの……。だからね、今ここで跪き、私に生涯の忠誠を誓ってくれるなら……、生きたまま私の下僕にしてあげるわ……。でも、嫌と言えば、このまま二人を呪い殺して、私専属の霊体としてこき使って上げるわ。」
殺伐とした空気の中で告げられた選択肢は、そもそも下僕になる前提であり、結局、生きるか、死ぬかの選択であった。
ギール「……くっ、」
シャル「……ほぅ?何じゃお主?そんなにギールが欲しいのか?」
古都古「えぇ、実に欲しいわ。この"引き寄せられる不思議な感覚"……、実に興味深いわ。」
ギール「ひ、引き寄せる?」
シャル「ほう、その感覚に気づくとは、お主も中々見所があるではないな?」
"引き寄せられる不思議な感覚"。
ギール自身に自覚は無いが、ここ最近のギールは、不思議と多くの兄弟たちに恵まれていた。
特に、魔王であるシャルを始め、犬神、小町加茂と言った神様までもが、ギールの兄弟として迎え入れられている現状。
ギールの"引き寄せる力"……、基い、縁の力が如何に強力であるのか、実に物語っていた。
そのため、ギールの"引き寄せる力"の作用は、あの呪霊三女である古都古にも適応されていた。
古都古「ふふっ、さて……、無駄話はここまでにして、二人の答えを聞かせてもらおうかしら?」
ギール「くっ、そんなの決まっているだろ……。誰がお前みたいな非道な奴に忠誠を誓うかよ…ぐっ!ぐあっ!?」
屈強な悪霊「キキ、キザマ……、ブレイ……。」
堂々と古都古の問いに反発したギールであったが、背後に居た屈強な悪霊の怒りを買い、髪を掴まれながら、その場に押さえ込まれてしまった。
シャル「っ、ギール!?き、貴様!余のギールに何をするか!」
目の前でギールが、乱暴に押さえ込まれた事で、無意識にブチギレたシャルは、屈強な悪霊に対して獄炎を放とうとした。
しかしそこへ、周囲に居た複数の悪霊たちが、シャルのグラビア級の体にしがみつくなり、シャルの行動を封じた。
シャル「くっ!こ、この!離せ貴様ら!?」
悪霊「サセ……ナイ……。」
悪霊「オトナシ……ク……シロ……。」
シャル「くっ、き、貴様ら!魂ごと焼き尽くされたくなかったら、今すぐに離せ!!」
悪霊「コトワ……ル……。」
悪霊「コトコ……サマ……ジャマ……サセナイ。」
シャル「くっ!(こ、こやつらの力、見た目に反して、なんて馬鹿力なんだ。)」
激昂するシャルの脅しに全く動じない悪霊らは、更にシャルの動きを封じるため、拘束する力を強めた。
シャルの異様な激昂に少し違和感を感じた古都古は、女だからこそ分かる、とある事に気づいた。
ギールに対しての激昂と言い、広場でのやり取りと言い、古都古は不敵な笑みを浮かべながら、新たな問いを持ち掛ける。
古都古「クスス、もしかして二人って、"恋人"なのかしら?」
ギール「っ///は、はぁっ!?」
シャル「なっ///」
古都古「ぷっ、あはは、へぇ〜、そうなんだ〜。」
分かり易い二人の反応に、古都古は思わず吹き出してしまった。
ギール「そ、そんな訳ないだろ!?そ、そもそもシャルは、俺の大切な妹だぞ!?」
シャル「〜っ///そ、そうだ!ギールは余の兄であるぞ!れ、恋情など抱く訳ないだろう!?」
古都古「へぇ〜、そうなんだ〜。」
話せば話す程、確信を持つ古都古は、不敵な笑みを浮かべつつシャルに近寄った。
ギール「っ、お、おい!シャルに何をする気だ!?」
古都古「クスス、そうだね〜。強情な二人を手っ取り早く下僕にする方法を思い付いた…、と言えばいいかしら?」
古都古は、不敵な笑みを浮かべながらギールの言葉をあしらうと、身動きが取れないシャルの豊満な胸を鷲掴みするなり、乱暴に揉みしだき始めた。
ギール「っ!?」
シャル「くっ、今すぐ離せ…この…死に損ないが……んんっ。」
古都古「クスス、やはり揉み心地は最高ね〜。服越しからでも…、透き通る様な肌の感触が伝わるわ。」
ギール「〜っ!!貴様ァァ!!」
古都古の穢れた手によって、大切なシャルが穢されて行く光景を目の当たりにしたギールは、今までに感じた事がない程の怒りを露にした。
心の奥底から込み上げる殺意と憎悪。
古都古からして見れば、狙い通りの展開であった。
古都古「クスス、そう声を上げるでない……。そうだ、この大切な妹を助けたかったら、私に未来永劫仕えると誓え……そうすれば、大切な妹を解放してもよいぞ……どうだ?」
ギール「……っ、それなら、二度とシャルに近寄らないと約束してくれ……。」
シャル「っ!ギール!?何を言って…んんっ。」
ギール「っ!さ、さあ、この条件を受け入れるのなら……、俺は大人しく、お前の提案を全て受け入れてやるよ……。」
口が上手い古都古の言葉に少し違和感を感じたギールは、シャルの安全を保証させるため、念には念を入れてから古都古の誘いに乗ろうとした。
しかし……。
古都古「……おやおや〜、それは無理な相談だね〜。そもそも君に条件を提示する権利はないんだけどな〜?」
ギール「っ!」
条件を跳ねられた事により、違和感を感じていたギールの不安は確信へと変わった。
そもそも古都古は、シャルを諦めていなかった。
一度は解放するなどと甘い事を言いながら、その日の内に再び捕らえようとしていたのである。
シャル「はぁはぁ……、ギール、そんな馬鹿な提案に乗るな……、この程度の恥辱……、全く感じたりはしない……。」
何とも不平等な提案にその身を捧げようとするギールの姿に、胸を揉まれながら恥辱に耐えているシャルは、艶のある声で必死にギールを止めようとした。
すると、パチンっと、大きな音が響いた。
シャル「……っ、ふぇ……。」
ギール「っ!!」
話の邪魔をして来るシャルに対して、とうとう痺れを切らした古都古は、シャルの胸を鷲掴みにしている手を離すなり、渾身の平手打ちをシャルに見舞った。
古都古「…下僕風情が、勝手に喋らないで貰えるかしら?……ちょっと、寛大な気持ちを持って我慢していたけど……、次に喋ったら……、容赦なく殺すよ?」
シャル「…………。」
初めて味わう"恐怖付きの痛み"に、シャルは思わず放心状態になってしまった。
古都古「ふぅ、それで返答は……っ!?」
シャルへの折檻を終え、再びギールの方へ視線を向けると、そこにはおぞましい姿になったギールが立っていた。
暗赤色に光る禍々しい眼光が、鋭く古都古を睨みつけ、狼男の様な恐ろしい姿に豹変していた。
ギール「グルルッ!」
古都古「……ふぇ、あ、えっ、ふぇ……。」
豹変したギールの理性は、完全に失っているのだろうか。
ギールを押さえ込んでいた屈強な悪霊は、見るも無惨に八つ裂きにされており、更に豹変したギールの周りには、首、腕、足などを切り飛ばされた悪霊たちの死体が転がっていた。