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第四百十三話 異世界皇女戦記英雄譚その36

ドル公国の平定後。


しばらく国内の安定化を図っていたルクステリア軍は、翌日の八月十七日、午前十時頃にて、外道国家ジレンマ軍の侵攻に晒されている"中立国サルベール"の救援及び、道中避けては通れないドル公国の残党軍が占領しているパーセル五湖国の一国、"ディーデン公国"の奪還に乗り出した。


ディーデン公国の奪還には、パーセル湖の水上封鎖及び、陸上部隊への注意を逸らさせるため、水上戦を含めた二正面作戦が実施されていた。



これにドル公国の残党軍は、既に本国が滅ぼされた報を受け、占領したディーデン公国を拠点に反転攻勢の構えを見せていた。



しかし、あれ程まで勢いに乗っていた自国が、この数日の間に、"一体何があったのだ"っと、思わず声を上げたくなる様な滅ぼされ方に、一応、反転攻勢の構えを見せる残党軍の士気は著しく低かった。



そのため、残党軍の半数近くの将兵は、こぞって水上戦に名乗りを上げ、どさくさに紛れて逃げようとしていた。


一方、劣勢の中でも依然として好戦的な将兵らは、陸路より迫り来るルクステリア軍を迎え討った。



しかし、陸路より迎え討った残党軍の相手は、何とルクステリア軍に降伏したドル公国の将兵らであった。



実質同士討ちとなった戦場は、再び外道に落ちた将兵らの(むくろ)で埋め尽くされ、更には、魔王シャルを筆頭に撃ち出された激しい魔法攻撃により、陸上に蔓延るドル公国の残党軍は、為す術なく全滅した。



その頃。水上戦に名乗りを上げ、どさくさに紛れて逃げようとしていた残党軍は、カオスギルドの百戦錬磨の豪傑たちが乗り合わせている軍船に見つかり、容赦なくパーセル湖に沈められた。



こうして、ディーデン公国に蔓延っていた残党軍は瞬く間に壊滅。ドル公国の奪還に続いて、ディーデン公国の奪還も(わず)か一日足らずで成し遂げられた。




ここまでの戦況詳細。


この戦いでルクステリア軍に降伏したドル公国の生存者は、僅か十名ほど……。


その中に、エルンスト国領にある"フルロジカル"の街へ攻め入った"エボンド"と"ガビッド"の姿は無かった。


エルンスト国の攻略で、軍の総大将を務めていた"エボンド"は、最後まで武人らしく戦場を駆け、残党軍を率いていた総大将との一騎討ちの末、刺し違えながらも見事に散って逝った。



一方、"エボンド"の参謀を務めたガビッドは、ドル公国の奪還後。"高貴な着物を(よそお)ったの少女"と共に、近くの路地裏へ入って行ったと言う目撃情報を最後に失踪……。


多くの人たちが、失踪したガビッドを手分けして捜索する中、最後に目撃された位置とは反対側の路地裏にて、見るも無惨に切り裂かれたガビッドの死体が発見された。


死体の状況を察するに、恨みを買われた何者かによる殺害か。あるいは、"高貴な着物を装った少女"に手を出そうとした結果、()えなく返り討ちに合ったのではないかと思われた。



どちらにせよ。因果応報の報いであると断定されたガビッドの死体は、そのまま処刑場へと運ばれ、ドル公国の国王を始め、多くの断罪者らの死体と共に、獄炎の中に投げ込まれ"お坊さん"に(とむら)われた。




ディーデン公国を奪還したルクステリア軍は、ドル公国の時と同様に、しばらくディーデン公国に留まり現状の安定化を図ろうとしていた。



中でも、"魔王シャル"の名声を全世界に広めようとしている魔導父(まどうふ)のディノは、その凄まじい行動力を発揮させディーデン公国内でも布教を始めていた。


更にディノは、シャルとギールに対して、魔導父(まどうふ)からの神託改め、"魔降(まこう)"と称したお言葉を授け、半ば強引に救護班と合流させ救護活動に励んでもらっていた。



シャル「ふむぅ、ここはドル公国の時と比べて被害は少ない様だな。」


ギール「あぁ、少なくとも老人と子供への扱いは、まだここの方がマシに思えるな。……だけど、青年男性と女性への扱いは、相変わらず酷いものだ。」


シャル「ふぅ、全く愚かしい……。実に腹立たしい話だ。なぜこの様な事をして喜べるのだ。」


卑劣な行為で欲を満たし、更には快楽を得ている外道たちに対して、シャルは大変ご立腹であった。


するとここで、ギールが少し気になる事を口ずさみ始める。


ギール「……"善"なる喜び薄味なれど、"悪"の喜び甘味で濃厚なり……。」


シャル「むっ?何だその言葉は?」


ギール「今のか?…今のは父さんが教えてくれた言葉だよ。」


シャル「何だ"父上"の言葉か……、それでその言葉の意味は何なのだ?」


ギール「ち、"父上"って……、本当にその姿になると口調と話し方が変わるよな?」



シャル「っ、そ、そんな細かい事はどうでも良いだろう!?そ、それより早く言葉の意味を教えるのだ。」


ギール「え、えーっと、今の言葉か……、うーん、そうだな。」


シャル「もしかして、分からない癖にそれっぽく言ったのか?」


ギール「なっ、ち、違っ!?い、今のは、どう説明してやろうか悩んでたんだよ!?」


シャル「ふーん。」


動揺しているギールの姿に、シャルは怪しい眼差しを送った。


ギール「えっと、うーん、そうだな……。まず、"善の喜び"についてだけど、これは、自分だけが喜びに浸るんじゃなくて、自分から進んで困っている人たちを助けたり、周囲の人たちを喜ばせたりする、言わば、"和合"みたいなものだな。」


シャル「むっ?"和合"か。それなら簡単で良いのでは無いか?」


ギール「そう思うだろ?でも、この和合を取る行為は、簡単そうに見えて、簡単な事じゃないんだよ。みんなが他人のために助けようとしたり、小さな事でも素直に感謝できる様なら良いけど、実際そうじゃないからな。」


シャル「た、確かにそうだな。」


ギール「それに和合を取るためには、自分優先の考えを捨てて、常に相手の事を考えて尊重しなければならないし、相手を喜ばせるために、自分の欲望にブレーキを掛けたりする必要があるからな。」


シャル「む、むぅ……、時には我慢をしなければ行けないと言う事か。」


ギール「うん、それと、良かれと思ってした事が、裏目に出てしまうパターンもあるし、助けてあげた恩を仇で返されたり、冷たくあしらわれる事だってある。だから善の喜びは、本能のまま、欲望のままに動けない分、また、報われない面がある事から、"薄味"の喜びなんだよ。」


シャル「我慢した挙句、善意が報われない事がある…か。で、では、悪の喜びとは、自分の喜びのためだけに、欲望に準じていると言う事か。」


ここまで話を聞いたシャルは、まだ聞いていない悪の喜びについて、何となく察しがついていた。


ギール「そう言う事だ。悪の喜びに準じる者は、欲望のままに生き、平然と他人の財を奪っては(けが)し、更には、他人の不幸を見ては優越感に浸る様な"自己的平和主義者(じこてきへいわしゅぎしゃ)"だな。」


シャル「自己的平和主義者…か。確かにギールの言う通りだな。人間に関わらず、生を受けた者たちは、一度でも"うまい味"を覚えれば、善し悪し関係なく"それ"に執着してしまうものだな……。」


ギール「あぁ、俺も半年くらい前までは、(わる)になっていた時があったけど、自分の思うままに動けるのは、実に解放的で楽しかったものだ。」


ギール「それに、悪の喜びを知ってしまうと、そこから抜け出すのは本当に難しい。俺は運良く桃馬と出会えた事で脱したけど、あの時出会っていなかったら、今もやさぐれていたかもな。」


シャル「ふむぅ、警界官である両親を持っても尚、数年間も(わる)に準じていたとは、お主の"シールショック"も大概であったな?」


ギール「っ、う、うるさいな……。」


つい口を滑らして墓穴を掘ってしまったギールは、シャルからの痛烈な指摘に反論できなかった。


シャル「あははっ、すまぬな。まあ要するに、善は人のためであり、悪は自分のためである、と言う事か。」


ギール「まぁ、細かい所の捉え方は、人それぞれだと思うけどな。例えば、"自分のために、人に尽くす"の場合は、内容によっては、善と悪に分かれるからな。」


シャル「っ、そ、そうだな。確かに言葉だけでは、善に聞こえたとしても、悪に聞こえる事もあるな。うーん、そうなると内容次第か…、ふむぅ、やはり、道徳は難しいな。」


ギール「まあ、そう難しく考えなくても、少なくとも善悪さえ分かっていれば、そもそも、こんな馬鹿げた争い何て起きないと思うけどな。」


シャル「ふっ、それもそうだな……。さてと、十分に口を動かしたし、次は体でも動かそうかの。」


ギール「そ、そうだな。つい夢中に話し過ぎたな。」


難しい道徳の会話を終えた二人は、救護班としての活動を再開しようとした。


するとそこへ、二人の背後から一人の少女が声を掛けて来た。



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