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第四百十一話 異世界皇女戦記英雄譚その34

魔導父(まどうふ)と名乗るディノに対して違和感を感じたギールは、近くの路地裏にディノを連れ込むなり、互いの胸の内を話し合った。


一方その頃、一人だけ広場に取り残され、多くの子供たちから囲まれている"魔王"シャルはと言うと、自慢の魔法を使って子供たちを喜ばせていた。


シャル「どうだ、余がもたらす魔法は凄いであろう?」


男の子「すげぇ〜!俺も姉ちゃんみたいに、凄い魔法が使える魔法使いになりたいよ!」


男の子「俺も俺も〜♪」


シャル「ふむぅ、余と同じ力を目指すか。それはじつに面白い事だな〜♪しかし、人間がここまでの力を得るには、それ相応の修行が必要だぞ?」


男の子「えっ?そうなの??」


男の子「じゃあ、その修行ってどんな事をするの?」


シャル「えっ、あ、えっと、そ、それはだな〜。(ま、まずいのだ…。こう言う時の誤魔化し方はどうすれば良いのだ…。そもそも余の力は、生まれ持った天性の様なもの…、この子たちには悪いが、修行をした事がないから分からぬぞ……。)」


純粋で知りたがりの子供たちから、かなり答えずらい質問を問われたシャルは、人生で一番と言える最大のピンチを迎えていた。


少し前のシャルならば……。


「下等な人間に辿(たど)り着ける領域ではない。」とか、「この力は生まれ持った天性の才であるぞ。故に余は、生まれてから一度も修行をした事が無い。」などと、子供の夢を(ことごと)く粉砕する様な現実を教え込み、最後は高笑いをしながら優越感に浸っていた事であろう…。


しかし、今のシャルに至っては、現実世界での暮らしを通して、他人の感情、常識、思いやり、優しさなどの道徳を学び、更には、その身を持って実感しているため、子供の夢を壊す様な返答は出来なかった。


相手がギールであるならまだしも、相手が夢ある子供となれば話は別である。


そのため、どの様に"今まで努力した事がない話"を"努力して来た風"な内容で伝えるか、非常に難しい所であった。


現実世界での暮らし始めてから(わず)か四ヶ月。シャルの成長スピードは凄まじい物であった。


今まで、"自分の意見が絶対に通る世界"しか知らなかったシャルが、今では他人の意見を尊重できる立派な魔王へと成長していた。


しかしそれ故に、子供たちからの純粋な質問に、頭を悩ませているのは皮肉な話であった。


男の子「ね、姉ちゃん、どうしたの?」


シャル「っ、あ、す、すまない。ちょっと、どう説明して上げれば良いのか悩んでいたんだ。」


男の子「そ、そうなの?」


女の子「こ、こら"シリウス"!シャル様を困らせる様な質問をしないでよ!」


男の子「っ、ご、ごめん姉ちゃん。」


シャル「あ、謝る事では無いぞ!?そ、それに"リファ"よ。そう言葉強く"シリウス"を叱りつけるでない。」


女の子「はぅ!?ご、ごめんなさい。」


シャル「ふぅ、この際だ。皆には大切な事を伝えておこう。」


男の子「ん?大切な事?」


女の子「もしかして、神託ですか!?」


シャル「まあ、似た様な物かな。」


子供たち「おぉ〜。」


シャル「こほん、さてと、皆に一つ尋ねるが、この世で一番強い魔法は何だと思う?」


女の子「ふぇ、一番強い魔法ですか?」


男の子「シンプルに火魔法ですか?」


男の子「えぇ〜?僕は雷魔法だと思うけどな〜?」


男の子「いや、ここは大地を制する土魔法だよ!」


女の子「うぅん、絶対に回復魔法に決まってるわ。」


女の子「え〜っと、意外と水魔法だったりして……。」


シャルからの質問で、子供たちが次々と答える中、次第に子供たちの口調が強まり、気づけば派閥に分かれて言い争いを始めた。


シャル「はいはい、ストーップ。」


この展開を待っていたシャルは、手を叩きながら子供たちの言い争いを静止させた。


急に静止させられた子供たちは、心にモヤモヤとした感情を宿したまま、シャルの方へ視線を向けた。


シャル「ふふっ、余が出した問題の答えだが、まず正解者は誰も居なかったぞ。」


男の子「えぇ!?そ、それってどう言う意味ですか!?」


女の子「も、もしかして、私たちが言っていない魔法とかですか?」


シャル「ふふっ、余の問題の答えは、そもそも"皆が思っている様な魔法"ではない。」


女の子「ふぇ?そ、それはどういう意味ですか?」


男の子「ん〜?僕たちが思っている様な魔法じゃないって、どう言う意味だろう?」


男の子「もしかして、禁断の魔法とか!?」


ナゾナゾ染みたシャルの問題に、子供たちは小首を傾げながら考え込んだ。


シャル「ふふっ、少し意地悪が過ぎたかもな。じゃが、この問題の答えを知るには、少し実感してもらわないと、答えの本質が分からないと思うからな。」


男の子「えっ?じ、実感ですか?」


女の子「ううーん?」



シャルが出した問題に頭を抱える子供たちは、話の内容が掴めないまま、更に小首を傾げた。


するとシャルは、笑みを浮かべながら答えを出した。


シャル「あはは、やはり難しい様だな。それじゃあ、答えの発表だ。この世で一番強い魔法……、それは"言葉"だ。」


男の子「こ、言葉?」


女の子「ふぇ?こ、言葉ですか。」



シャルの答えにピント来ない子供たちは、ポカンとした表情をしながら、更に更に小首を傾げた。



シャル「あはは♪その様な訳も分からぬ顔になるのも無理もないな。」


男の子「ご、ごめん、姉ちゃん。言っている意味が分からないよ?」


シャル「あはは〜♪だろうな〜。余が言った"言葉"とは、単純にこうして皆に話している言葉だ。」


男の子「う、うん、それは分かるよ?」


シャル「うむ、そこまで分かるなら次のステップだ。」


男の子「す、すてっ……?」


シャル「異界の言葉で"段階"と言う意味の言葉だ。」


うっかり、現実世界の言葉を使ってしまったシャルは、動揺する事なく子供たちに説明した。



シャル「さて、本題に入るとしようか。そもそも、いつも我々が何気なく使っている言葉と言うのは、目に見えない凶器、つまり心を切り裂く剣なのだ。」


男の子「心を切り裂く剣?」


女の子「…私たちの言葉が凶器ですか?」



シャル「そうなのだ。先ほど皆は、余の出した問題で言い争いを始めようとしたであろう?」


男の子「あっ、う、うん。」


女の子「は、はい……。」


シャルの指摘に、子供たちは素直に頷いた。



シャル「"言葉"と言う物は、本当に恐ろしいものだ。声の強弱と、話す時の態度や仕草などによって、相手の心を無意識に傷つけたり、酷い場合は間接的に死へ追いやる事だって出来る恐ろしい"魔法"だ。」



シャル「しかしその逆に、傷ついた心を癒す力があるのもまた事実。故に"言葉"とは、相手を良い方向へ導くだけでなく、悪い方向へ陥れる事だって出来る"最強の魔法"と言えるのだ。」



シャル「…皆の言う通り、確かに火魔法や回復魔法などの基礎魔法は強力だ。しかし、人の感情を暴走させ、相手の意志を操り、己の手を一切汚さず相手を殺める事が出来る魔法は、この"言葉'しかないと余は思う。」


シャルの教えに、思わず言葉を失った子供たちは、黙ってシャルの言葉に耳を傾けていた。


シャル「"言葉"の力は実に無限大だ。他にも"言葉"に準ずる手話や文章もあるが、それもまた然り…。大まかに言えば、あらゆる"表現"が目に見えない凶器と言えるかもしれないな。」


シャル「もう少し簡単に例えるなら、"会話"が良い例であるな。"会話"の内容がどうであれ、"会話"をすると言う事は、目に見えない凶器を常時振り回している状態だ。もし、"会話"が成立している時は、互いの凶器が上手く交わっている証拠であり、逆に"会話"が成立せずに、負の感情が出てしまう時は、互いの凶器が交わらず、互いの心を切りつけ合っていると言える。」


シャルとしては、かなり長い真面目な話をしている中、一方の子供たちは目を輝かせていた。


シャル「とは言っても、まだ皆は子供だ。正直、この話を今聞いたとしても、流石に理解をするには難しいだろう。」


真剣に話を聞いてくれている子供たちの様子を見ていたシャルであったが、やはりこの話をするには、まだ(おさな)過ぎるのではないかと思った。


本当ならこの争いの原因について、子供たちに教えたいシャルであったが、どこか気が引けてしまっていた。


すると、そんなシャルの様子を見た子供たちは、話の続きを聞こうとした。


男の子「……姉ちゃん。俺、姉ちゃんの話をもっと聞いて、もっと理解したいよ。」


女の子「わ、私も!シャル様が教えてくれた事をもっと理解したいです!」


男の子「シャル様!僕もお話の続きが聞きたいです!」



シャル「…っ、お主たち。」



子供たちの意欲に押されたシャルは、意を決して使い方によっては凶器にもなり、薬にもなる"言葉"の魔法について、正しく子供たちに教え込むのであった。



"言葉"……。あるいは、その総称である"表現"は、決して目に見えない凶器である。


そして争いの火種は、常に行動よりも"言葉"から始まる物である。

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