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第四百十話 異世界皇女戦記英雄譚その33

外道国家に成り果てたドル公国を討ち滅ぼしたルクステリア軍は、荒廃したドル公国の安定化を図るためしばらくドル公国内に駐屯していた。


自国によって虐げられた多くの国民たちが助けを求める中、ある意味この状況を好機と見たディノは、魔王シャルの威厳をカルガナ全土に広めるため、昨夜から熱心に純粋な子供たちを中心に布教を始めていた。


更にシャルは、カリスマ溢れる大人びた姿になっているため、多くの子供たちから絶大な人気を集めた。


これにシャルは、少し照れながらも満更でも無いご様子で、来る者は拒まず、(こころよ)く心の拠り所を求める子供たちと遊んだ。


すると翌日になると、広場で(くつろ)いでいたシャルの元に、多くの子供たちが駆けつけた。



男の子「姉ちゃん姉ちゃん!もう一回、昨日の夜に見せてくれた青い炎を見せてくれよ!」


男の子「うんうん、僕も見た〜い♪」


シャル「ん、あぁ、構わぬぞ。それっ!」


朝から多くの子供たちに囲まれたシャルは、無邪気な子供たちからのお願いに快く応えてあげた。


流石に聖母としては母性が足りない気はするが、それでも男女問わずに受け入れるシャルの姿は、聖女に引けを取らないものであった。



この光景にギールとディノは、率直に驚いていた。


ギール「す、凄い人気だな。」


ディノ「ま、まさか、たった一夜でここまでシャル様が崇拝されるとは……、さ、流石はシャル様です!」


ギール「す、崇拝って……うーん、と言うよりは、優しいお姉さんに甘えているだけにしか見えないけどな……。」


ディノ「っ、そ、そうでしょうか。わ、私の目には、沢山の子供たちがシャル様をお(した)いしてる様に見えますが……。」


ギール「ま、まあディノの言う通り、今のシャルは子供たちから慕われてるな……。」


少し会話が噛み合わない中、ギールとディノが思う崇拝と言う概念は、かなりのズレがある様であった。



ディノが思い描く崇拝とは、シャルを慕う時点で崇拝と見なされるため、崇拝と言うにはが物凄くレベルが低かった。


例えるなら、子供が懐くか懐かないかのレベルである。



一方のギールが思い描く崇拝は、かなり本格的なイメージであった。


黒いローブを着た信者たちが、薄暗い空間の中で、"おぉ〜、おぉ〜"と不気味な声を上げながら、ヤギの頭部を(まつ)った祭壇に向けて、幾度(いくど)も両腕を上げては地に伏している光景を想像していた。


もはや、崇拝と言うよりは闇の儀式である。



ギールとディノが、シャルの事で盛り上がる中、そこへ一人の女の子が声をかけて来た。


女の子「あっ、魔導父(まどうふ)様だ〜♪おはようございます♪」


ギール「ま、まどうふ?」


ディノ「あ、おはようございます。足の怪我はもう大丈夫ですか?」


女の子「うん♪昨日魔導父様に巻いてもらった包帯のおかげで、朝起きて取ってみたら…ほらっ♪傷が綺麗に無くなっていたんだよ〜♪」


ディノ「おぉ〜、それは良かったですね♪シャル様のお導きに感謝ですね。」


女の子「あっ、感謝です♪」


まるで神父様のようなディノの姿に、ギールは今すぐにでもツッコミを入れたい所だが、純粋な女の子が目の前にいるため、すぐにはツッコめなかった。


その後、女の子がシャルの元へ走って行くと、ギールは透かさずディノの腕を引っ張り、近くの路地裏へと連れ込んだ。



ギール「おい、ディノ…、何だよ魔導父(まどうふ)って、神父のパクリか?」


ディノ「ま、まあまあ、兄さんがツッコミたくなる気持ちは分かりますけど、と、取り敢えず話を聞いてください。」


ギール「……分かった。」




ディノ(いわ)く。

ここまでシャルを崇拝させる事にこだわっていたのは、かつて魔界全土を支配し、このカルガナの地でもその名を全土に轟かせていた魔王シャルの名声を、再び復活させたいと言うものであった。


もちろん、今の時代に相応しくない悪行による名声ではなく、平和を司る素晴らしき魔王として(まつ)り上げようとしていた。


そのためディノは、(がら)でもない神父の真似事をしていた訳である。


しかし、神父は神に仕える者。


しかしディノの場合は、神ではなく魔王シャルを崇拝しているため、流石に神父を名乗るのは恐れ多い事から、即席で考えた魔導父(まどうふ)を名乗っていた訳である。



ギール「なるほどな、それでシャルの崇拝にこだわっていたのか。」


ディノ「は、はい……。」


ギール「それにしても即席とは言え、その普段着の服装じゃあ……、神父は愚か、魔導父としても格好がつかないぞ?」


ディノ「わ、分かっています。けど……、今はそれどころじゃないし……。」


ギール「まあ、確かにそうだ。うーん、おそらく今日辺りでディーデン公国の奪還戦が始まると思うけど、今の状態じゃあ、シャルとディノはここに残ってもらわないとダメかもな。」


ディノ「ど、どうしてですか?」


ギール「よく考えて見ろ、今のシャルとディノが離れたら、間違いなくシャルを慕っている子供たちが、荷馬車にでも隠れてついて来るぞ。」


ディノ「っ、さ、流石にそれは考え過ぎでは?」


ギール「いや、子供は何をするか分からない。現にシールも予期せぬ事で命を落としてしまったからな。」


ディノ「っ!?」


ギールの説得力のある話に、ディノは背筋を凍らせた。


ディノ「で、では、どうすれば兄さんたちと同行できるでしょうか……。」


ギール「…うーん、何とか出陣前に、子供たちを安心しさせるしかないか。」


ディノ「うぅ、で、出来るでしょうか。」


ギール「ま、まあ、出来なくてもお留守番になるだけだから気にしなくてもいいんじゃないか?」


ディノ「し、しかしそれでは、もし兄さんの身に何かあったら……んんっ。」


ギール「心配するなって、何なら豆太も置いて……いや、豆太が居なくなると紗曇(さたん)との意思疎通が取れなくなるな……。」


ディノ「あぅ……。(うぅ、兄さんは強いけど、少し抜けてるから心配だよ〜。)」


ディノの心配を振り払うかの様に頭を撫でて来たギールであったが、余計な一言で(つまず)いた時点で、ディノの不安が一気に高まった。



ギール「と、とにかく、出陣前までがタイムリミットだ。取り敢えずシャルと合流して子供たちを安心させるぞ。」


ディノ「わ、分かりました!」



切り替えが難しい中で、何とか強引に仕切り直したギールは、一人で子供の相手にしているシャルの元へと戻った。





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