第四百六話 異世界皇女戦記英雄譚その29
今まで名前を偽り、正体までも隠し続けていたヨキ・ロマンシングは、友人である志道たちに今までの生い立ちを包み隠さず話した。
するとそこへ、ヨキを迎えに来た一人の警界官が来ると、志道たちはヨキが逮捕されるかと思い、頑なにヨキの身柄を渡そうとしなかった。
思わぬ展開に驚いたヨキは、志道たちの優しさを身に染みながら自らの意思でその場を後にした。
その後、迎えに来た警界官に連れられたヨキは、胸壁から下にある警界官の作戦本部へと足を運んだ。
警界官「んんっ、失礼致します。ヨキ・ロマンシング巡査部長をお連れしました。」
?「うむ、入れ。」
薩摩弁を封じた警界官の挨拶に続いて、本部の中から女性の声が響いた。
警界官「はっ、では、"ヨキ巡査部長"、中へ。」
ヨキ「ふぅ〜、失礼します。」
扉越しでも伝わる重い空気に一呼吸を入れたヨキは、意を決して作戦本部へと入った。
するとそこには、数十名にもなる警部以上の階級の警界官が席に着いていた。
そして最前列の中央には、ヨキに取って武術の師匠にして、ご主人様である霧隠彩花が座っていた。
オレンジレッド色の長髪をポニーテールでまとめ、ヤンキー風な佇まいの中に、少しクールな雰囲気を漂わせていた。
彩花「よく戻ったなヨキ。完全に無事とは言えない様だが、とにかく生きて帰還した事を嬉しく思うぞ。」
ヨキ「はっ、彩花ね…。」
彩花「あっ?」
ヨキ「っ!?(やべっ!?)…こ、こほん、あ、ありがとうございます、これも霧隠警視長から頂いている特訓のお陰であります。」
彩花「ふっ、私の特訓のお陰か……、それにしては、アリシア姫にあぁも呆気なくやられたな?」
ヨキ「っ、そ、それは……その〜。」
痛い所を突かれたヨキは、視線を逸らしながら言い訳を考えた。
彩花「ふっ、まあ良いさ。今回は幼なじみに手を出せなかった事にしておこう。」
ヨキ「〜〜っ///」
まるで弟をからかうかの様な彩花の言い回しに、恥ずかしくなって赤面するヨキは、周囲の警界官たちがたちまち笑われながら取り乱した。
すると彩花は、自分が仕掛けたとは言え、弟の様に可愛がっているヨキが、周囲の警界官に笑われている事に不快を感じ、直ぐに本題へと切り替えようとする。
彩花「さて、ヨキへのからかいはこの辺にしておいて……、早速本題に入ろうか。」
少し砕けた彩花の表情から、物々しい表情へと一変すると、その場にいる警界官たちも察して、キリッとした表情へと変わった。
彩花「本来の作戦では、ヨキの父であるカーマンも合流した上で、影の傭兵団を一網打尽にする物であったが、現にトラブルが発生した事によりカーマンが到着する前に、影の傭兵団が撤退してしまった。」
ヨキ「っ、す、すみません。」
彩花「なに、ヨキが謝ることでは無い。本来は、ヨキとカーマンが先陣切ってここへ来るはずであったからな。刺し詰め、急な作戦変更があったのであろう?」
ヨキ「は、はい。本来は父と一緒に乗り込む予定でしたが…、外道国家ジレンマ軍の三賊長の一人、山賊団団長ゼロール・ゲシャマの急な作戦変更により、部隊を一陣から三陣に分けられてしまい、父と共に合流が出来ませんでした。」
彩花「そうか、急な作戦変更か……。(少し妙な動きだな。このタイミングで部隊を分けるとなると、敵は何かしらの予感を察した可能性があるが……、それとも、アームストロング砲の威力に怖気付いて慎重になったか。……しかし、何はともあれ、直ぐにでもカーマンと合流したい所だな。)」
ヨキからの報告で少し嫌な予感を感じた彩花は、顎に右手を当てながら一瞬考え込んだ。
ヨキ「……あ、あの、霧隠警視長?」
彩花「……ん、何だ?」
ヨキ「っ、い、言え少し怖い顔をしてたので、てっきり怒ってるのかと……。」
考えれば考える程、顔が強ばる彩花の表情に少し心配したヨキが、恐る恐る彩花に声をかけた。
すると彩花は、無意識に顔が強ばっていた事に気づくと、少し取り乱しながら話を続けた。
彩花「っ、す、すまん。す、少し考え事をしていただけだ。"よーく"、っ…こほん、ヨキは先程、部隊を一陣から三陣に分けたと言ったな?ヨキは一陣と二陣、どちらにいたのだ?」
ヨキに指摘された事に動揺しているのだろうか、彩花は危うく部下の前で、大好きなヨキの事を"ヨーくん"と呼びそうになった。
ヨキ「は、はい、俺は二陣を任せられていました。」
彩花「そ、そうか。ふむぅ、となると三陣は直ぐに退いたと言う訳か。」
ヨキ「そ、それが、ここへ攻め入ったのは、一陣と二陣までで、三陣を受け持った父は敢えて敵陣に残りました。」
彩花「ふむぅ、なるほどな。下手にヨキと一緒に出陣すれば寝返りを疑われる事になるか……。慎重なカーマンらしいが、面倒な事をしたものだな。」
ヨキ「父の事なら心配は要りませんよ。何せ私の父は、ダグリネス国の隠密部隊隊長を務めたエキスパートですからね。」
彩花「こら、ヨキ?実の父親に対して、その様な死亡フラグを立てるな。」
ヨキ「っ!?〜っ、す、すみません。」
縁起でもない死亡フラグを立てた事で、彩花からデコピンをもらったヨキは、おでこに手を当てながら涙目になった。
このほのぼのしい光景を見せられている警部クラスの警界官は、気まずそうに咳払いをしたり、頭をかいたりしながら気を紛らわせていた。
二人の様子を察するに、二人の関係が大変仲の良い関係であるとは、誰が見ても分かりやすい光景であった。
例えるなら、ご主人に使える仔犬である。
彩花「さて、話が逸れてしまったが、そろそろ我々も新たな一手を打たなければならないな。」
先程までヨキと惚気けていた彩花であったが、その場から席を立った瞬間に、素早く警界官モードに切り替わった。
すると、彩花とヨキの戯れに少し気まずい思いをしていた警界官らは、号令でも待っていたかの様に姿勢を正した。
彩花「さて諸君。今段階で完璧に事が進んでいる訳では無いが、この均衡状態の中で、敵が動き始めた以上、すぐに新たな一手を打って来るのは目に見えている。周囲の警戒を強化した上、こちらも敵陣へ奇襲を仕掛けるぞ。」
警界官「おぉっ!」
その後の会議は、ヨキの情報を元に敵陣の配置、補給路、些細な内輪関係の情報を元に会議が進められた。
これにより、東側の戦線にいる警界官は、胸壁を始め南北にそびえ立つ山脈からの奇襲に備えると共に、ジレンマ軍への抜かりのない奇襲作戦を企てた。
そのため彩花は、ヨキに極秘の情報を聞くと言う理由で、一時ヨキと共に席を外した。
彩花に肩を掴まれ、作戦本部を後にしたヨキは、少しだけ体を震わせていた。
それから二十分後。
彩花が、何食わぬ顔で作戦本部に戻って来るも、そこにヨキの姿は無かった。
彩花曰く、長い任務をこなしたヨキを労い、自分が使っている簡易式の小屋で休ませたと言う。
しかし実際は、大好きなヨキの姿を久々に見た事で、心の奥底に封印していた姉心を掻き立たせてしまい、更に欲求の制御が出来なくなった彩花は、ヨキを簡易式の小屋へと連れ込んだ後、アレヤコレヤと一方的にチュッチュしていたのであった。
短時間ではあったが、彩花に散々搾られたヨキは、最後に口移しで眠り薬を盛られてしまい、彩花が使っていたベッドの上で眠らされていた。
ちなみに彩花は、ヨキの幼なじみであるアリシア姫が、依然としてこの砦に居るにも関わらず、今夜もこっそりヨキを食べようとしていたのであった。
ちなみに二人の激しい淫行は、決して見られてはいけないアリシア姫に、小窓からバッチリと見られていたのであった。