第四百五話 異世界皇女戦記英雄譚その28
アリシアの幼馴染みにして、クラスメイトでもある"ジレン・ロマネシス"に成り済ましていたヨキ・ロマンシングは、志道たちからの質問攻めを受けていた。
どうして、影の傭兵団を作り悪役を演じてまでアリシアの前から去ったのか。
どうして、名前を偽ってまで春桜学園に来たのか。
考えるだけでも謎が深まってしまう話であった。そのため志道たちは、一から過去の生い立ちを聞き出そうとした。
ヨキ曰く。
事の発端は、今から八年前……。
現実世界と異世界との交流文化が始まってから二年の月日が経った頃のこと。
当時の日本政府は、帝都グレイムの皇帝、シルバー・グレイムを始め、中立国サルベールの聖女、ジェシカ・サルベール及び、各友好国の代表者たちを国賓として招待していた。
そのため各国の代表者たちを守る護衛兵も多く、その中にはヨキの父、カーマン・ロマンシングの姿もあった。
当時のカーマンは、アリシアの父であるユーデント・ダクリネス国王からの推薦で、ジェシカ・サルベールの護衛兵として同行していた。
異世界からの護衛兵は合わせて二百人を越え、更には一万も越える警察機構が、迎賓館を中心に大規模な警戒網を敷いていた。
日本国としては稀に見ぬ緊張感に、誰もが完璧な警護体制だと思われていた。
しかしそれは、外からの脅威に限られていた。
つまり、二百人を越える護衛兵の中に、皇帝シルバーと聖女ジェシカを狙う黒い魔の手があったのだ。
幸い、他国の護衛兵を信用していなかったカーマンの鋭い観察眼によって看破され、暗殺などを企てた護衛兵は、カーマンの脅しに屈して手を引いたと言う。
なぜその護衛兵を殺さなかったか。
理由は、簡単であった。
あの場で護衛兵を殺せば、日本との会談が失敗するどころか、戦の火種になる可能性があったからだ。
その後、無血で済んだ案件は、ユーデント国王に報告され、暗殺を企てた護衛兵の国を調査するため、急遽カーマンに密偵と言う長い任務を与えたのであった。
そのため当時の幼いヨキは、最後の肉親である父親と離れたくない思いが勝ってしまい、アリシアを守る為と言いつつ、半ば強引に父親の背中にしがみついたのであった。
ヨキ「……俺に取って親父は、血の繋がった最後の肉親だ。あの時の俺は、アリシアを守りたい気持ちはあったけど、何より親父と離れるのが凄く怖かったんだよ。」
アリシア「そ、それで、私に何も言わずに国を出たのね。」
ヨキ「あぁ、本当はアリシアに別れを言いたかったけど、結局アリシアに別れを告げるが怖くて言えなかったけどな。」
ジャンヌ「うぅ〜、ひっく、そんな事があったのですね〜!」
アンジェリカ「恋心より親子の絆が勝るか。でも、幼い子供には仕方がない事だな。」
ヨキ「複雑な気持ちだけど、正直そのお陰で少しは強くなれたんだけどな。それから五年、俺は修行しながら親父と共に色々な情報を集めていたけど、表の情報にも限界はあった。」
志道「それってつまり、肝心な部分が分からないって事か?」
ヨキ「そうだ。より深い情報を得るためには、自ら闇に飛び込むしかなかったんだよ。」
志道「うーん、アリシアの元を去って五年と言う事は、その一年後に、影の傭兵団ポイズンルーンを結成したのか。」
ヨキ「そうなるな。まあ、結成とは言っても、とある暗殺集団を壊滅させて、その残党を束ねた乗っ取りみたいなものだけどな。」
志道「の、乗っ取りか。ち、ちなみに、闇に飛び込むってどんな事をしてたんだ?」
ヨキ「そうだな。他国の宮殿とか大きな所には親父が忍び込んでいたけど、俺の場合は、東国諸国と繋がっていた賊のアジトに潜入していたな。」
志道「おぉ〜、かっけぇ〜!」
ヨキ「ふっ、カッコ良くなんてないさ……。」
リアル潜入話を聞いた志道は、思わず心を昂らせたが、一方のヨキは表情を暗くさせながら視線を逸らした。
ヨキ「別にかっこよくなんかないよ。俺は二回くらい見つかって捕まった事あるけど……。酷い仕打ちを受けたよ。」
志道「……ごくり、ま、まさか。毎日ムチ打ちとか……?」
ヨキ「……そ、それは、言えるかよ//」
赤面するヨキの様子を見ても察せない志道は、捕まった後の話が気になって仕方がなかった。
よくあるゲームの話なら、女性は陵辱プレイと相場は決まってはいるが、男性の場合はどんな仕打ちを受けるのであろうと、志道は気になっていた。
実際ヨキは、捕まった二回の内、その二回とも同じ女盗賊に捕まっていた。
一回目は、潜入がバレてアジトから逃げる際に、姉御系の女頭領との戦闘に敗れ、そのまま喰われて童貞を失った。
二回目は、潜入とは別件で、散々食い尽くされた挙句、その辺の草むらに捨てられた事に腹を立てたヨキが、童貞を奪った女頭領にリベンジをしに行った時であった。
しかし、圧倒的な力の差の前に呆気なく敗れたヨキは、そのまま女頭領に気に入られてしまった。
あれやこれやと当時十四歳のヨキ少年には、刺激が強過ぎるプレイを強要され、最終的には身も心も犯されてしまったのでした。
更に言えない事とすれば、当時のヨキ少年の身と心を犯した女頭領は、当時新設されたばかりの警界庁特殊隠密科に所属している霧隠彩花と言う女性であった。
ここで小話。
霧隠彩花。
現在二十八歳にして、今でも好戦的でヤンキー風な風貌を見せている警界庁の中でも頭を抱える姉御系の美人捜査官である。
ちなみに、初めてヨキと出会った時は、今から三年前の話なので、当時は二十五歳であった。
先祖は、代々に渡る忍びの家系と言う話ではあるが、既に四世代くらい前に忍としての生業を断っていた。
しかし彩花は、忍としての血が覚醒しているのか。普通の人よりズバ抜けた身体能力と腕っ節の強さを持ち合わせていた。
そのため、中学と高校では、好戦的な性格が祟り、地元では有名な不良少女として名を馳せていました。
そんな彩花が十八歳になった年に、夢の異世界交流文化が始まり、当時の日本政府では、異世界の案件に特化した新たな警察機構を作るため、優秀な人材を求めていた。
そんな時に白羽の矢が立ったのが、霧隠彩花であった。彩花は、当時の両津界人にスカウトされ、危うく義理の娘にされそうになったが、警界庁の捜査員としてスカウトされたのであった。
そんな十歳以上も歳が離れたお姉さんに、二度も弄ばれたヨキは、数日間に渡る彩花の"おもちゃ"になるのであった。
あまりにもヨキの事を気に入った彩花は、完全にヨキが落ちた所を見計らい、舎弟兼、警界庁への誘いを仕掛けました。
これに身も心も落とされたヨキは、訳も分からず簡単に話に乗ってしまい、入庁の契約書にサインをしてしまったのであった。
皮肉にもこの誘いがきっかけで、父のカーマンも警界庁へ引き込む事になり、警界庁からの支援もあり、影の傭兵団ポイズンルーン結成(乗っ取り)の先駆けになったのでした。
ちなみに彩花とヨキの関係は、今でも舎弟兼、性処理ペットと言う絵に描いた様な関係を築いており、未熟なヨキの修行に彩花が付き合うと、代償にヨキの精を搾り取っているとか……いないとか 。
ヨキ「……。(さ、彩花姉の事だけは、絶対にバレたくない。)」
正直に答えれば既に終わる話ではあるが、国家機密が絡んでいる以上、より深く伝えたくても伝えられなかった。
仮に話せたとしても、姉の様に可愛がってくれている彩花との話は避けては通れないため、志道たちはともかく、アリシアにだけは絶対に知られたくないヨキは心の奥底で神経を尖らせていた。
ジャンヌ「うーん、でも、潜入捜査みたいな事を続けるために影の傭兵団を作ったのは分かるけど、どうして春桜学園に入ったの?」
ヨキ「えっ、あ、それは……。」
志道「確かに、しかも六組は王族か、貴族、あるいは優等生しか入れないと思うけど、ヨキは何で入ったんだ?」
アンジェリカ「うんうん、確かに気になるね〜?」
アリシア「……まさか、影の傭兵団で得た穢れたお金を使ったのかしら?」
ヨキ「っ、ち、違っ!?お、俺は、"彩花姉"に頼んでだな……っ!?」
四人の質問攻めに、つい彩花の名前を出してしまったヨキは、思わず両手で口を押さえた。
志道「彩花姉?」
アリシア「っ!?」
ジャンヌ「おや?」
アンジェリカ「ん?」
聞いた事のない女性の名前に、アリシアが強く反応する中、志道とジャンヌ、アンジェリカの三人は小首を傾げた。
アリシア「彩花姉……、その女性はどこの誰なの?」
ヨキ「あ、アリシアには関係ないだろ。」
アリシア「答えなさい♪」
無駄に反抗して来るヨキに対して、アリシアは笑みを浮かべながら指の関節をボキボキと鳴らし始めた。
ヨキ「っ、お、俺の上司……、け、"警界庁特殊隠密捜査部隊"の人だよ……。」
豹変するアリシアの姿もそうだが、何より反射的に秘密を漏らしてしまったヨキの答えに、志道たちは驚いた。
志道「っ、け、警界庁!?」
アリシア「よ、ヨキ、あ、あなたそんな……っ、その女性とはどんな関係なの!?」
ヨキ「っ、ちょっ、や、やめっ!?」
彩花の名前に反応したアリシアが、咄嗟にヨキの服を掴むなり激しく揺さぶった。
アンジェリカ「お、落ち着けアリシア!?いちいちそんな話で反応していたら話が進まないだろ!?」
アリシア「は、離しなさいアンジェリカ!?わ、私には知る権利が〜!」
背後からアンジェリカに掴まり、ヨキから引き剥がされたアリシアは、ジタバタしながらヨキに取り付く彩花について聞こうとした。
ジャンヌ「え、えっと、話が混在し過ぎていて頭に入って来ないのですが……。」
ヨキ「……うぅ。(も、もうだめだ。隠しきれない……。)」
自ら墓穴を掘り、追い詰められて行くヨキは、とうとう真実を語った。
志道「あはは〜!それは凄いな〜?まさか年上のお姉さんに押し倒されて今に至るとはな〜。」
ジャンヌ「ふふっ、という事はつまり、二年前にアリシアと再開した時には、既にそう言う関係だったんだね〜♪」
アンジェリカ「こら二人とも、真剣に話してくれたヨキに失礼だろ?一度や二度、何度落とされても、大切な幼馴染の事を決して忘れないヨキの忠誠心は素晴らしいではないか?」
当然、真相を知った志道とジャンヌに笑われる中、一方のアンジェリカは、二人に注意しながらヨキの忠誠心に感心していた。
これにヨキは、両手で顔を隠しながら悶絶していた。
ヨキ「〜〜〜っ///もう〜、やめてぐれぇ〜!恥ずかしくて死にそうだ〜。」
アリシア「…わ、私のヨキに、よくもそんな事を……、よくも、開発してくれたわね。」
一方のアリシアは、ヨキを襲っては童貞を奪い、大切な幼馴染みの心と体を穢した事に酷くご立腹であった。
するとそこへ、一人の警界官が駆け寄って来た。
警界官「お取り込み中の所失礼す。そろそろ、ヨキ・ロマンシングの身柄ばお引渡し願いたか。」
志道「っ、ま、待ってください!?た、確かにヨキは、指名手配の影の傭兵団の若頭ですが、そ、それは……。」
警界官「こりゃあ、上層部の命令ばい。あと、ジェシカ様には話ば通しとう。」
ジャンヌ「そ、そんな横暴な!?よ、ヨキの身柄は、も、もう少しだけこちらで預からせてもらいますよ。」
アンジェリカ「そうだ。そもそも、この件は私たちの自治領で起きた問題です。ジェシカ様に話を通しただけでは、到底受け入れる事はできません。取り調べなら、後日にしてもらいたい。」
アリシア「えぇ、ヨキは私の元配下です。彼の処遇の調査は、私どもの取り調べが終わってからにしてもらいたいです。」
ヨキは、自分を庇おうとする四人の背中に驚いた。
例え目の前にいる警界官が、ヨキと同じ警界庁特殊隠密捜査部隊の人間であるとしても、ヨキは嬉しく感じていた。
ヨキ「…みんな、それ以上は言うな。」
志道「だ、だけど……。」
ヨキ「大丈夫、ちょっと用を済ましに行くだけだから。」
アリシア「っ、それは本当に?」
ヨキ「ふぅ、本当だよ。もう隠したりはしないさ。」
二年前、アリシアに背を向けて去って行ったヨキであったが、今回はしっかり振り返ると嘘偽りなしの約束を交わすのであった。