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第四百三話 異世界皇女戦記英雄譚その26

前回の小話の続き。


(アリシアとヨキの生い立ちの過去)


アリシアの幼なじみであるヨキ・ロマンシングと、ヨキの父親であるカーマン・ロマンシングが、突如として姿を消してから六年後。


アリシアは、カルガナ全土に広がった手配書により、ヨキの生存を確認しました。


しかし手配書には、特定重要危険集団、影の傭兵団ポイズンルーンの若頭として、ヨキの似顔絵が描かれていました。


これにアリシアは、忘れかけた幼少期の記憶を思い出してしまい、幼なじみが生きていた事への喜びと、悪に落ちた事への憎悪の気持ちが混在してしまい、思わず倒れてしまったとか…。


しかし、いくら複雑な感情に陥ったとは言え、流石にこれだけで、清楚で温厚なアリシアが、あそこまでヨキをボコボコに殴り続けては、(はりつけ)にしたりはしないでしょう。


では、どうしてこうなったのか。


それは、手配書が出回って数日後の夜。


ヨキの生存で複雑な思いが晴れない中、アリシアが日課にしている日記を書き終えて眠りにつこうとした時の事。


突如、部屋のガラス窓が開き、閉じ切ったカーテンが風に煽られヒラヒラと(なび)いていた。


アリシアは、咄嗟に護身用のレイピアを掴み鞘から抜くと、恐る恐るヒラヒラと靡くカーテンに手をかけた。


現実世界の文化を少し触れているアリシアは、この展開をいくつかのパターンで予想しました。


一つ、定番の暗殺展開。


二つ、鬼畜主人公による強引な夜這い展開。


三つ、同盟国のイケメン王子が、夜な夜な屋敷を訪れては、禁断の恋愛が始まる展開。


四つ、望み薄だが、幼なじみのヨキが来てくれたと言う展開。


※最後はアリシアの願望であるが、二つ目と三つ目に関しては、現実世界で見たアニメと漫画などから得た妄想です。


そのためアリシアは、この世界では一番あり得る暗殺を警戒しました。


下手に声を上げれば、即座に斬り込んで来るだろう。


アリシアは敢えて声を上げずに、一人でかたをつけ様としました。


ヒラヒラと靡くカーテンの(はし)を掴むと、ゆっくり覗き込む様に開きました。


するとそこには、月明かりに照らされた銀髪少年が、バルコニーの手すりに座っていました。


その銀髪少年を目にしたアリシアは、思わずレイピアを手放し、カーテンを全開に開けました。


アリシアには、目の前の銀髪少年を一目見ただけで、六年前に突如として姿を消した幼なじみのヨキであると分かりました。


成長期真っ只中とは言え、六年前のヨキの面影は残っていました。


そのためアリシアは、正体を確認する事もせずに、危機感もなくヨキに抱きつきました。


?「っ…、久しぶりだな。アリシア?」


アリシア「……ヨキ、やっぱり、ヨキなのね。」


ヨキ「あぁ…、アリシアも見ない内に大きくなったな。(全く相変わらずアリシアは、直ぐに危機感を緩めて……。普通なら相手の正体を確認してから抱きつくもんだろう。もし俺じゃなかったら、今頃襲われてるぞ。)」


幼少期のアリシアを知っているヨキは、相変わらず危機感のない行動を心配しながら、抱きついて来たアリシアの頭をそっと撫でた。


対して、色んな感情が込み上げて来るアリシアは、ヨキの服を掴むなり、ぼそっと本音を漏らした。


アリシア「ヨキ、どうして……、どうして何も言わずに私の元から姿を消したのよ……。」


ヨキ「っ……ごめん、アリシア。今まで心配を掛けさせたよな。」


アリシア「うぅ、本当に心配してたのですよ。宮殿内は、カーマンとヨキが他国へ亡命した裏切り者であると騒いでいたのですよ……。」


ヨキ「…そう…だよな。そう思われても仕方ないよな。それより、国王様は何て言ったか覚えているか?」


アリシア「落胆はしていたけど、何も盗んでいない事と、今までの功績を考慮して、直ぐに話を終わらせたわ。」


ヨキ「……そうか。」


アリシア「……ねぇ、ヨキ。六年前に何があったのか分からないけど……、お願い!私の元に戻って来て!」


ヨキ「っ、それは出来ない。」


アリシア「ど、どうして…、ではせめて、理由くらいだけでいいから。」


ヨキ「…ごめん、それも今は言えない。だけど、いつか必ずアリシアの元に帰って来る。六年前の約束は必ず守るからな。」


アリシア「…ヨキ。」


ヨキ「そんな顔をするなよ。俺はいつもアリシアの幸せを願っているよ。例え、アリシアが他の男と結婚したとしても、俺はアリシアの剣として守ってやるからな。」


アリシア「うぅ、ばか…、久しぶりに会ったのに、そんなセリフを言うなんてズルいよ〜。」


ヨキ「はっはっ、相変わらず危機感が(ゆる)い上に泣き虫だな。」


アリシア「ひっく、うぅ〜。」


ヨキの服に顔を(うず)めるアリシアに、ヨキが優しく頭を撫でた。しばらくすると、ヨキの口から重苦しそうな声が漏れた。


ヨキ「……アリシア、もう一つだけ、俺から謝らないといけない事があるんだけど、聞いてくれるか?」


アリシア「んんっ……ふぇ、なに??」


ヨキ「えっと、その、俺がアリシアの元を去った前の日、アリシアの部屋でケーキを食べただろ?」


アリシア「ふぇ、ケーキ…?うーん、あっ、うんうん、確かに食べていたわね。ふふっ、懐かしいな〜、ケーキを食べた事がないヨキが、初めて食べるって事で、"そわそわ"しながら待ち遠しにしてたな〜♪」


ヨキ「あ、あぁ、そ、それで、落ち着こうと思って紅茶を飲もうとしたら、うっかり零してな。」


アリシア「ふふっ♪そうそう、あの時のヨキったら、凄く慌ててたもんね〜。う〜ん、可愛かったな〜♪」


ヨキ「っ///……こ、こほん。そ、それで、アリシアが拭き物を取りに行ってくれる事になってな…。」


アリシア「うんうん、ズボンを濡らしたヨキをみんなに見せたくなかったからね〜♪」


少し歯切れの悪いヨキに対してアリシアは、昔のヨキの姿を思い出しながら和んでいた。


アリシア「それで拭き物を持って来た時には、ケーキを鳥に取られてしまったって、ヨキが大泣きしちゃってね〜♪確か、"僕はアリシアのケーキすら守れない弱い男だ〜!"って言ってたわね♪」


ヨキ「あ、アリシア…、じ、実は、そ、その事なんだけど……あ、あれは、う、嘘なんだ…。」


アリシア「ふぇ?」


ヨキ「あ、あの時、実は、鳥じゃなくて、俺が食ってしまったんだよ。」


アリシア「……。」


ヨキ「ほ、本当にすまん。直ぐに謝ろうと思ったんだけど…、その……旅立つ日が急に決まってしまって、あ、謝れなかったんだ。」


アリシア「…ふふっ、そんな事は、最初から分かっていましたよ♪」


ヨリ「っ、アリシア…。」


アリシア「だって…、あの後、私の大切なスカーフにベッタリとクリームが付いてたのですから〜♪」


ヨキ「っ。」


突如として、アリシアから放たれる殺気。


思わずヨキは、手すりから降りると少しアリシアから距離を取った。


ヨキと過ごした日々を振り返るに連れ、アリシアの忘れられていた復讐の記憶が蘇る。


当時と今のアリシアは、ケーキを取られた事よりも母から貰った誕生日プレゼントのスカーフを汚された事に酷くご立腹であった。


当時のヨキは、アリシアが部屋を出た後に、自分のケーキをすぐに食べた。


甘くてふんわりとした食感に感激したヨキは、無意識にアリシアのケーキまで手を出してしまうのでした。


アリシアのケーキを食べた後、我に返ったヨキは、強い罪悪感に囚われながら近くにあったスカーフを掴み、口元に付いたクリームを拭き取ると、直ぐに洗って返そうと思いポケットに入れたのでした。


ちなみに、鳥に取られたと言う言い訳は、アリシアが戻って来るまでに考えた苦し紛れの嘘でした。



アリシアのケーキを食べ、自分の罪を鳥に擦り付けたヨキは、その後、アリシアと庭で遊ぶ事になり、悪行がバレる事もなくアリシアの部屋から出ました。


しかしその際に、ポケットからアリシアの大切なスカーフが落ちてしまい、クリームだらけのスカーフは、夜までアリシアの部屋に放置されるのでした。


一方、スカーフを落とした事に気づいていないヨキは、お庭でアリシアと遊ぶに連れて、スカーフの存在を忘れてしまいました。



そして就寝時、アリシアが部屋に戻って明かりをつけると、真っ先に"しわくちゃ"な状態で床に落ちている大切なスカーフを発見した。



アリシアは慌ててスカーフを拾うと、ベトベトとした感触と共に甘い香りが漂っていた。


極めつけは、ケーキのカスの様な物が付着しており、これによってアリシアは、ヨキの愚行を全て察してしまうのであった。



そして現在。


当時の怒りを思い出したアリシアは、わざと距離を取るヨキに対して、ジリジリと壁際まで追い詰めた。


ヨキ「た、大切なスカーフって…、な、何の事だよ……。っ、ま、まさか、あのスカーフの事…うぐっ!?」


アリシア「ふふっ、今、認めましたね。私の大切なスカーフを汚した上、あの様な仕打ちをするなんて…。」


清楚で大人しいアリシアが、片手でヨキの胸ぐらを掴むと、不気味な笑みを浮かべながらヨキを持ち上げた。


ヨキ「うぅ、ご、ごめん、あ、あのスカーフがそんなにも、大切な物だなんて知らなくて……。」


アリシア「問答無用です!!」


口答えをするヨキに、アリシアは鬼の様な形相でヨキの頬を叩き始めた。


ヨキ「へぶっ!?うぶっ!?」


アリシア「この!この!見栄なんて張らずに、直ぐ謝りに来てくれれば良かったのに、今更六年も経って謝りに来るなんて最低です!」


ヨキ「ご、ごめっ、へぶっ!?」


アリシア「はぁはぁ、何が影の傭兵団ポイズンルーンの若頭ですか!カッコつけるのにも程があります!」


ヨキ「はぁはぁ…、うぅ。」


アリシアに頬を叩かれ大人しくなったヨキが、その場に座り込みグッタリとしていると、宮殿内の騒ぎに気づいた衛兵や従者たちがアリシアの部屋へ走った。


徐々に近づく足音に、ヨキは慌てて逃げようとすると、目の前には"向こうの世界"で見た事がある、怪しい突起物を持ったアリシアが立っていた。


アリシア「ふふっ、逃がさないわよ…。その小生意気なガキ顔を歪ませてあげるわ。」


ヨキ「っ、あ、アリシア…そ、それは。」


アリシア「向こうの世界で仕入れた、えっと、男を喜ばせる物って言ってたかしら…、これをヨキのお尻にねじ込んで…ふ、ふふっ。」


怒りのあまり今にも闇堕ちしそうなアリシアの姿に、身の危険を感じたヨキは背筋を凍らせた。


一歩、もう一歩と迫るアリシアに、ヨキは金縛りの様なら感覚に襲われる。


するとそこへ、アリシアの部屋に多くの衛兵たちが駆け込んで来た。


衛兵「姫様!ご無事ですか!」


アリシア「っ!?」


衛兵「っ、貴様はヨキ!?と、捕らえろ!」


ヨキ「っ、くっ。」


アリシアの視線が外れた事で、金縛りから開放されたヨキは、瞬時にバルコニーから飛び降りると、そのまま夜の闇へと消え去ってしまったのでした。


この日を境にヨキは、再びアリシアの前に現れる事は無かった。



二人の過去を聞いた三人は、感動から一変。


笑っていいのか、それともどちらの肩を持つべきなのか迷い始めていた。


志道「…えっと、要するにヨキは、アリシアの大切なスカーフを汚した罪悪感で逃げ出したのか?」


アリシア「ふふっ、もしそうなら、もう五回くらい殴りたいわね♪」


おっとりとした笑みを浮かべるアリシアだが、口から出て来る言葉は、本心とも思えるほど物騒なものであった。



志道「……熟成された恨みは恐ろしいな。」


ジャンヌ「はわわ……。(こ、ここ、怖い!?)」


アンジェリカ「……ごくり。(大人しい者を怒らせると言う事は、ここまで恐ろしいのか。)」


アリシアの鬼の様な一面に、話を聞いた三人は、アリシアの秘めたる恐ろしさをその身で痛感した。


するとその時、気を失った状態で(はりつけ)にされたヨキの懐から、手帳の様な四角い物が落ちて来た。


志道「ん?何か、落としたな。なんだろう……。」


ジャンヌ「っ、もしかして密書かな?」


志道「っ、まさか、内通者が居るって事か?……うーん、それはまずいな、早く中身を確認して報告を……んっ?って、えっ、んんっ??な、なあ、三人とも、よく見たらこれ……、春桜学園の生徒手帳じゃないか?」


アンジェリカ「な、なんだと!?」


ジャンヌ「ふぇ!?も、もしかして、こ、このヨキって人、春桜学園の生徒なの!?」


アリシア「っ、そ、そんなまさか……。」


志道「と、取り敢えず、中を見てみよう。もしかしたら、学園の生徒から奪った物かも……。」


衝撃的な落し物に、志道は冷静になって生徒手帳を開いた。


するとそこには、二年六組に続いて志道たちの友人でもある、ジレン・ロマネシスの物であった。



志道「じ、ジレン!?」


ジャンヌ「ふえっ!?」


アンジェリカ「なにっ!?」


アリシア「っ!」


あまりにも謎過ぎる展開に、四人は激しく混乱した。


ヨキがジレンの生徒手帳を持っていると言う事は、ジレンを殺して奪い取った可能性が高かった。


そのため四人は、磔にされたヨキを見るなり、すぐにでも尋問したいと思っていた。


アリシア「ジレンに手を出すなんて良い度胸ですね。ふふっ、ヨキ……、あなたは許しませんよ。」


ジャンヌ「そうだね。どうしてジレンの生徒手帳を持っているのか。実に聞きたいわね。」


アンジェリカ「あぁ、その他にも聞きたい事は山ほどあるけどな。」


志道「……くっ。返答によっては、斬る……か。」


瞳は赤く光らせる四人の手には、鞘に収まった刀、短刀、剣を握っていた。



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