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第四百二話 異世界皇女戦記英雄譚その25

外道国家ジレンマ軍によって、東西から侵攻を受けている中立国サルベール。


現実世界から決起した義勇志士と、外道国家ジレンマ軍の侵攻により、国を追われて命からがら逃げ延びた人々の結集により、東西の戦線で一歩も引かぬ攻防戦が繰り広げられていた。



そんな中で、西側の攻防に大きな変化が起きていた。



後ろ盾であったドル公国がルクステリアの逆襲に合い壊滅。そのまま中立国サルベールの救出ついでに、ドル公国によって占領されたパーセル五湖国の一つ、ディーデン公国の解放に向かっていた。


更に一方では、中立国サルベールへ向かわず、ジークフリーデン国、リブル公国に向けて侵攻した外道国家ジレンマの三賊長の一人、盗賊団団長ガルベル・イザベル率いる西側攻略部隊の本隊が、リブル公国に居た(じゅっ)(しんちゅう)の怒りを買った事で無惨に亜種族諸共全滅した。


その後、ジークフリーデン国がリブル公国によって奪還され、最後の海路拠点がある隣国まで攻め込まれていた。


これにより西側攻略部隊のジレンマ軍は、前線を押し返されたタイミングを機に、海路拠点を死守するため全軍を後退させた。


西側からの脅威が去る中で、東側でも均衡が崩れる事態が起きていた。



現実世界から持ち出された、百八十口径のアームストロング砲を一発放っただけで、ジレンマ軍が張ったマジックバリアを破壊。


対してジレンマ軍は、自然要塞を内側から攻略するため、密かに影の傭兵団を投入…。


険しい自然要塞の崖を俊敏(しゅんびん)に登り、誰からも気づかれる事なく、胸壁(きょうへき)へ登り詰めていた。


そのため胸壁には、既に三十人以上にもなる影の傭兵が侵入しており、未だに続々と胸壁に登りつめていた。


するとそこへ、頭目であろうか。


フードを被っていない銀髪の若い男が現れた。


?「よっと、見かけによらず案外楽勝に登れたな。おい、野郎共!間違っても女は殺すなよ?俺たちの目的は、この要塞を落とす事だ!優先順位を忘れるなよ!」


警界官「っ、け、警部!あ、あいつは、手配書の影の傭兵団"ポイズンルーン"の若頭、ヨキ・ロマンシングですぞ!」


警界官警部「なにっ、カーマンの息子が直々に来たやと…、ふっ、わざわざ火ん中に飛んで来っとは馬鹿な奴や…、即刻返り討ちにすっぞ。」


警界官「はっ!」


影の傭兵団若頭の登場により、その場にいる警界官たちは、怯むどころか我先に捕らえ様とした。


続々と湧いて出て来る小物をなぎ倒しては、付近の衛兵らには、決して渡さないと言う熱を感じさせていた。


勇猛果敢に迫って来る警界官の姿に、ヨキは思わず殺伐とした感情へと変わる。


ヨキ「へぇ〜、やっぱり警界官も居たんだ〜。く、くくっ、いいぜ、面倒だが、全員叩きのめして…ぐふっ!?」


アリシア「……っ!!」


目の前に居る警界官に気を取られていヨキは、あろう事か、側面から迫って来たアリシアに気付かず、そのまま後頭部を力強く蹴り飛ばされてしまった。


硬い胸壁の床に叩きつけられたヨキの姿に、近くに居た者たちは交戦を止めて注目した。


後頭部を蹴られた事で脳震盪(のうしんとう)を起こし、更に身体の節々に痛みを感じて起きられないヨキの前に、アリシアが立ちはだかった。


アリシアは軽蔑した表情をしながら、倒れたヨキの胸ぐらを掴むなり、そのまま無抵抗のヨキの顔を殴り始めた。


そこには、清楚で可憐なアリシア姫の姿は無かった。



アリシア「久しぶりにっ!姿をっ!見せたとっ!思ったらっ!よくもまあっ!私の前にっ!現れたわねっ!ヨキっ!」


ヨキ「ぅぶっ、ぶっ……あ、アリシ…へぶっ!?」


アリシア「久々にっ!顔をっ!見せたとっ!思えばっ!あなたにはっ!尽くっ!呆れたわっ!」


普段のアリシアにしては異常過ぎる反応に、どうやら一国の姫君であるアリシアと、両世界で指名手配になっているヨキ・ロマンシングには、何かしらの関係がある様であった。


予想としては、幼なじみか、それとも禁断の恋人関係が思い付くが、真相は不明である。


しかし、あの清楚で大人しいアリシアが、あそこまで暴力的な一面を見せると言う事は、ヨキに対して相当な恨みがあるのだろう。


現状ヨキに対して怒りの声を上げながら、必要以上に殴り続けるアリシアを察するに、さしずめ二人の関係は、何かしらを(こじ)らせて喧嘩別れでもした幼なじみである可能性が高い。


そうでなければ、直ぐにレイピアを構えてヨキを討ち取っていたはずである。


本来なら豹変したアリシアを止めるべき所であるが、志道を始め、ジャンヌとアンジェリカは、飛び火する危険性を感じ敢えて止めようとしなかった。


と言うよりは、猛攻して来る影の傭兵団の相手に手一杯であった。


一方の影の傭兵団では、鬼の様な覇気を放ちながら若頭のヨキを殴るお姫様に恐怖を感じ、誰一人としてヨキを助けようとせず、要塞の攻略に奮闘していた。


そのため、誰にも助けてもらえないヨキは、気絶するまでアリシアに殴られ続けていた。



その後、影の傭兵団の頭目が現れる事もなく、胸壁での乱戦は、双方合わせて五十人以上の死傷者を出した。


一向に胸壁から越えられない影の傭兵団は、襲撃は失敗と判断し、若頭のヨキを始め、負傷した同胞を見捨てて撤退した。


アリシア「ふぅ〜、少しやり過ぎてしまいましたね。」



ヨキを気が済むまで殴り尽くし、最後に磔にしたアリシアは、普段より晴れやかな表情をしていた。


恐らくアリシアは、ストレスを極限まで溜め込んで爆発する鬼仏(おにぼとけ)タイプの様であった。


志道「……。(敵とは言え、敵味方からも助けて貰えないのは、流石に可哀想だな。)」


ジャンヌ「……。(や、やっぱり、清楚系を怒らせると怖いな〜。)」


アンジェリカ「……。(三組の両津と五組の近藤と比べたらまだ優しい方だが、それでも普段のアリシアと比べたら身が(すく)む様な光景だな。)」


アリシア「あら?三人共どうしたのですか?」


無言で注目して来る三人の視線を感じたアリシアは、不思議そうな顔をしながら声をかけた。


志道「っ、あ、いや、べ、別に、な、何でも無いよ?」


アンジェリカ「そ、そうだ、私も特に無いぞ!」


アリシア「そうなのですか?うーん、では、ジャンヌもですか?」


ジャンヌ「ふぇ?あ、う、うん♪そうそう、何でもないよ〜♪アリシアが(はりつけ)にしたこの男性とはどんな関係なのか〜って、全然思ってないからね♪」


無理をして口裏を合わせようとしたのだろうか。


冒頭の所だけで(とど)めておけば良かったものを、ジャンヌは身の潔白を示そうとして心の声まで漏らした。


志道(おぉ〜い、こらジャンヌ!?何アリシアを刺激させる様な事を口走っているんだ!?)


アンジェリカ(ま、まずい……。ま、また過去を事でアリシアを刺激させては、わ、私たちに飛び火が……。)


口を滑らせたジャンヌに対して、身の危険を感じた志道とアンジェリカは、ジャンヌの方に視線を向けた。


するとジャンヌは、自分が口走った内容に気づいたのか、既に漏れた口を両手で塞ぎながら背を向けた。



アリシア「……あぁ〜。ヨキの事ですか。」



志道「っ……。(や、やばい……、このままだと、あのヨキって人の隣に、(はりつけ)にされるかもしれない。)」


アンジェリカ(…どうしよう。ここは様子を見て逃げるか。)


ジャンヌ「あ、あのねアリシア?えっと、その〜、過去に色々あったと思うけど…、そ、そんなに気にしなくて良いと思うよ。そ、それに、志道なら何でも受け止めてくれると思うからね♪」


必死で弁解しようとしているジャンヌは、無意識に火に油を注ぐ様な真似(まね)をしては、志道に責任転換をし始めていた。


志道「こ、こらジャンヌ!?俺を巻き込むな!?」


ジャンヌ「はぅ!?わ、私また余計な事を…、うぅ、こうなったら、志道!」


志道「っ、な、なんだよ?」


ジャンヌ「え、えっと、(はりつけ)になる時は、一緒だよ♪」


再び余計な事を口走るジャンヌは、無意識とは言え、巻き込んでしまった志道に対して謝るどころか、肩に手を乗せるなり清々(すがすが)しい表情で道連れにしようとしていた。


悪意のあるジャンヌの誘いに、志道が人差し指を構えると、無言でジャンヌの(ひたい)と頬をグリグリと押し始めた。


ジャンヌ「ふへぇ〜、なにふるの〜。」


アンジェリカ「お、おい、二人ともやめないか!?」


アリシア「ふふっ、三人とも何を勘違いしてるのですか?ここに磔けにしたヨキは、私の幼少期からの幼なじみですよ。」


ジャンヌ「ふぇ?幼なじみ??」


志道「と、という事は、元カレ?」


アンジェリカ「な、なんと……。」



まさかの幼なじみ展開に驚く三人は、聞いては行けないと分かっていながらも、無性に過去の生い立ちが気になるのであった。


ここで小話。

実はヨキの父、カーマン・ロマンシングは、元ダグリネス国の隠密部隊隊長として、国に仕えていました。


しかし、今から八年前のとある日。


何の前触れも無く、カーマンと息子のヨキが失踪したのです。


失踪理由は判明していませんが、当時将官たちの間では、スパイや亡命などと言った、裏切り行為だと(ささや)かれていました。


しかし、二人が失踪した際、金品や書簡などが盗まれた訳でも無く、ただただ忽然(こつぜん)と姿だけ消したのでした。


これだけなら、"あそこまで"する必要は無いと思われますが、実際当時のヨキは、失踪の前日にアリシアと遊んでおり、その際には「アリシアは絶対に僕が守る」みたいな、如何にも恋愛系の話では良くある約束をしていたのでした。


そして、その日の夜。


突然父のカーマンが、一人で国を出る事をヨキに告げると、幼いヨキは父親から離れる事を拒み、強引について行く事になったのでした。


そのためアリシアは、大切な友達を突然失っただけでなく、約束も破られた感じと、宮殿内で耳にする裏切りと言うワードに心を痛め、酷くショックを受けてしまいました。


しかし、その六年後。今から二年前。

アリシアが幼少期の記憶を少し忘れかけていた頃。


異世界の地であるカルガナ全土に、とある手配書が出回りました。


それは特定重要危険集団、影の傭兵団ポイズンルーンの組織名に続き、頭目カーマン・ロマンシング、若頭ヨキ・ロマンシングと、かつて国に仕えていた臣下と幼なじみの名前が載っていたのでした。



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