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第四百一話 異世界皇女戦記英雄譚その24

異世界で初めて運用された百八十ミリ口径(こうけい)の"アームストロング砲"から放たれた砲弾は、外道国家ジレンマ軍の陣地から大きく外れた所へ着弾した。


しかし、アームストロング砲から放たれた砲弾は、広範囲に張られたマジックバリアを貫通させると、同時にガラスを叩き割るかの様な衝撃が加わり、ジレンマ軍のマジックバリアは見事に破壊された。


更に着弾時は、地表面の土を空高くまで飛散させ、地響きまで起こした。


警界官「着弾ば確認!各砲塔、速やかに着弾位置んを調整!次んの砲撃で的確に敵陣ば落とせばい!以下、第一砲塔は白煙発生んため解体に入る。」



試し撃ちの第一砲塔は、予想通り一発で限界を迎えた。


残りの砲台は四門。


一発くらいは、敵陣に向けてお見舞いしたい所である。


しかし、最初の一発は多いに外れたとは言え、外道国家ジレンマに取っては、初めて感じる兵器の威力に動揺が生じていた。


これを双眼鏡で見ていた志道たちを含む人々は、近代兵器の威力に圧巻していた。


ジャンヌ「こ、これは、す、凄い威力ですね!」


アンジェリカ「う、うむ!維新を感じさせてくれる様な素晴らしい威力だ。うむうむ、これは痺れるな。」


アリシア「……こ、この兵器が無制限に使えたら、この世界の戦い方が大きく変わってしまいますね。」


アンジェリカ「そうなったら、まさに戦いの時代を一変させた長篠の戦いと戊辰戦争だね〜♪」


志道「うん、そうだな。例え旧式と言っても、この世界からして見れば未知の近代兵器だ。幸いこの世界には、そう言った兵器の持ち込み、製造、使用に対して、強い制限が掛かっているけど、これが無制限に使える様になったら、この世界の戦い方や命の価値も大きく変わってしまうだろうな。」


アリシア「うぅ、引き金を一つ引くだけで、遠くにいる相手を簡単に倒せますもんね。」


ジャンヌ「確かにそうだね。それに、もし近代兵器を無制限に持ち込めたり、この世界で製造も出来ちゃったら、今頃この世界は荒廃してたでしょうね。」


志道「あぁ、間違いなくな。でも皮肉だけど、いまその兵器のお陰で助けられてるんだけどな。」


アリシア「た、確かに……。うぅ、"夏休み"が終わる前に、早くこの戦いを終わらせたいです。」


志道「それはみんな一緒さ。"夏休み"が終わる前に、何とか終わらせたいな。」


夏休みが始まってから、ずっと中立国サルベールで過ごしていた四人。ふと、志道の口から放たれた"夏休み"と言うワードに、ジャンヌとアンジェリカは、キョトンとした表情をしていた。


ジャンヌ「ふぇ、夏休み……?」


アンジェリカ「むっ、夏休み……。」


志道「えっ?」


アリシア「ふぇっ?」


まるで夏休みの存在を忘れていたかの様な二人の反応に、思わず志道とアリシアは、まさかの二人の反応にキョトンとした。


すると数秒後、ようやく今の時期が夏休みの期間である事を思い出したアンジェリカは、褐色の長い耳を直立させながら驚いていた。


アンジェリカ「っ、そうであった!?今は夏休みであった!?え、え〜っと、今は……、えっと、十六日……って、もう二週間しか残ってないぞ!?」


ジャンヌ「はわわ!?ど、どど、どうしよう〜!?夏休みが入ってから、ずっとここに居たから忘れてた!?」


アンジェリカ「ま、まずい……、このままでは、海やプール、浴衣を着てお祭りに行く事も難しいでは無いか!?」


ジャンヌ「そ、そうだよ!水着姿と浴衣姿で、志道とイチャイチャしたかったのに〜。」


どうやら夏休み後半は、現実世界で満喫しようとしていた二人であったが、現状それも難しそうであった。


中立国サルベールを支える同盟国の姫として、娯楽優先でこの危機的状況下にある戦場を抜けるのは、硬い同盟の絆に(ほころ)びが生じるため、抜けたくても抜けられなかったのであった。


とは言っても、そもそもこの二人には、国家存亡の危機の他にも、個人的な危機に立たされている事に気づいていなかった。


志道「…な、なぁ二人とも?」


ジャンヌ「っ、ど、どうしよう志道〜、夏休みが終わっちゃうよ〜。」


アンジェリカ「そ、そうだ。早く戦いを終わらせなくては、楽しい夏休みが終わってしまうぞ!」


志道「そ、そうだな。けど、一つ聞きたいんだけど、二人とも"宿題"は終わってるのかな?」


ジャンヌ「えっ、宿題?…宿題…宿題……、っ、はっ!?ど、どど、どうしよう何もしてないよ!?」


アンジェリカ「っ、し、しまった!?わ、私も中途半端であった!?」


眼前の平和を乱す敵よりも、楽しい夏休みを乱す宿題(てき)に恐怖を感じる二人は、"おどおど"しながら取り乱し始めていた。


一方、八月に入る前に宿題を終わらせていたアリシアと志道は、嫌な予感を感じながらも、恐る恐る聞き込みを始めた。


アリシア「えっと、もしかしてですけど〜。」


志道「まさか、ずっと遊んで居たのか?」


アンジェリカ「わ、私はしていたぞ!た、ただ、三割近く残ってるけど……。」


ジャンヌ「ふぇ〜ん、私は何もしてないよ〜!」


志道「っ、ジャンヌ……お前ってやつは……、はぁ、全く二人は今すぐに宿題を終わらせて来い。」


ジャンヌ「ふぇ〜、そんな〜!?今の状態で宿題をしても集中できないよ〜。」


アンジェリカ「そ、そうだ!この危機的な状態下の中で、一人部屋に籠って夏休みの宿題など、シルフィード国の姫として示しがつかないぞ!」


志道「はぁ、示しをつけたいのなら、何故宿題を終わらせなかった……。」


アンジェリカ「あ、いや、それは……その……うぅ///」


志道の最もな言葉に、カウンターをもらったアンジェリカは、赤面しながら(うつむ)いた。


志道「ふぅ、とは言っても、集中出来ないのは確かだな。うーん、もしかしたら学園側も祖国の大事で宿題をしている暇がなかったと知れば、多少なり免除されたりするかもな。」


ジャンヌ「っ、本当!?」


アンジェリカ「それは本当か!?」


夏休みの宿題免除の可能性に、ジャンヌとアンジェリカは、目を輝かせながら志道に言い寄った。


志道「あ、あくまで俺の予想だよ?」


ジャンヌ「いいえ、絶対に免除になるわ。私はフィルシー国の姫、民のために戦場に立っていたとなれば、絶対に行けるわ!」


志道「おいおい、胸張って言える事じゃないぞ。」



夏休みの宿題に全く手をつけてないジャンヌは、あろう事か、夏休みの宿題を全て免除させようと、渾身の言い訳を堂々と志道とアリシアの前で言い放って見せた。


お世辞にも胸を張って言える事では無いが、不思議と何も知らない他人目線で聞いて見れば、何故か納得してしまう様な内容であった。



しかし、事情を知る志道とアリシアからして見れば、この危機的な状況を利用するだけじゃなく、自国と国民を盾にしてまで、夏休みの宿題に手をつけたくない強い意志を感じていた。


これに感激したアンジェリカは、手を叩きながら称賛していた。


アンジェリカ「さ、さすがジャンヌだ。私もジャンヌの言い訳に賛同するぞ!」


志道「おいこら、ジャンヌの悪巧みに便乗するな。」


ジャンヌ「ありがとうアンジェリカ♪歓迎するよ〜♪」


志道「ジャンヌも受け入れるなよ。はぁ、全くアンジェリカはともかく、ジャンヌは少しくらいやっていた方が良いと思うけどな?」


アンジェリカ「っ、し、志道……、そ、それはもしかして、私は宿題をしなくても良いと言う事か!?」


志道「んなわけないだろ?今のはジャンヌと比較した話だよ。アンジェリカも七割くらい宿題を終わらせているなら、一国の姫様として最後まで終わらせろよ。」


アンジェリカ「っ、そ、それは……、うぅ。」


ジャンヌ「き、厳しいね志道〜?で、でも、この危機的状況と夏休みの宿題を天秤にかけてみなよ〜♪優先順位は目に見えてると思うけ……ど……。」


道理は合っているが、あからさまな現実逃避をしようとしているジャンヌの姿に、志道は無言の圧をかけながらジャンヌに近寄った。


志道「……。」


ジャンヌ「あ、え、えっと〜、きょ、今日の志道は、何だか少し意地悪な気がしますね〜?」


アンジェリカ「っ、うんうん!うんうん!」


志道「意地悪で結構。俺は二人の父上と母上から、娘が姫として至らぬ事をしたら、しっかり指導してやってくれと言われているからな。」


ジャンヌ「なっ!?」


アンジェリカ「そ、そんな…。」


ジャンヌ「っ、あ、アリシアは知ってたの?」


アリシア「ふぇ、あ、いえ、わ、私は特に……。」


志道「ふぅ、アリシアは何も知らないよ。実際、アリシアの父上と母上からは、娘をよろしく頼むとしか言われていないからね。」


ジャンヌ「むぅ、ダグリネス王は、お優しい様ね。」


志道「何を言っているんだ?お転婆なジャンヌと、熱くなると周りが見えなくなるアンジェリカを心配してくれているんだぞ?」


ジャンヌ「なっ!?う、うぐぐぅ〜っ。」


アンジェリカ「うぅっ〜///」


マウント取りのカウンターを受けたジャンヌは、不可抗力にも飛び火してしまったアンジェリカと共に、返す言葉も無く打ちのめされてしまった。


志道「ふぅ、この防衛戦が終わったら、みっちりと机に向き合わせなといけないな。」


ジャンヌ&アンジェリカ「は、はい……。」


そんな厳しい思いの中で志道は、再びジレンマの陣地を双眼鏡で望こうとすると、胸壁下から何の前触れも無く、黒いフードを被った男が目の前に現れた。


志道「えっ。」


アリシア「っ、志道!?」


ジャンヌ&アンジェリカ「っ!?」


黒いフードを被った男は、短刀を構えながら意表を突かれて棒立ちになっている志道を狙った。


死の間際には、よくスローモーションの様な感覚になると聞くが、まさに志道はその瞬間に立ち会っていた。


目元に迫る短刀に、志道は率直に死を感じた。


するとその時、咄嗟に動いていたアリシアが自らの脚で、棒立ちの志道の脚を払うと、間一髪の所で志道の体勢を崩した。


それでも志道の(ひたい)には、痛々しい切り傷を付けられるも、運良く致命傷は避けられていた。



志道を仕留め損なった黒いフードを被った男は、攻撃の手を緩めず負傷した志道を狙った。


俊敏(しゅんびん)な動きに、二撃目は志道の胴体に短刀を突き立てようとした。


これにアリシアは、腰元のレイピアを抜き、黒いフードを被った男の右胸を突き刺し、自然要塞の崖下に突き落とした。


アリシア「はぁはぁ、志道、大丈夫!?」


志道「あ、あぁ、くっ、まさか、崖から這い上がって来るとは……な。」


ジャンヌ「二人とも大丈夫!?」


アンジェリカ「っ、これは酷い、早く手当をしなくては……、誰か!誰か来てください!。」


衛兵「姫様方、一体何ごとで……ごはっ!?」


突然の襲撃にその場に居る警界官を初め、多くの人々が動揺する中、黒いフードを被った一派衆が、続々と自然要塞の崖を登り、胸壁へ乗り込んで来るのであった。



警界官「敵襲や!応戦せばい!」


衛兵「っ、衛兵隊!姫様たちをお守りしろ

!」


当然、警界官と衛兵たちは、真っ先に応戦を始め、瞬く間に自然要塞の胸壁では、小規模な乱戦が始まった。


黒いフードを被った一派衆の強さは、自然要塞の崖を難なく登って来るだけあって、かなり手強い者らであった。


そのため、胸壁の崖側にいる志道たちは、あっという間に四方を取り囲まれてしまっていた。


志道「くっ、三人とも俺を置いて早く逃げろ。」


ジャンヌ「何を言ってるの志道!そんな事できる訳ないでしょ!」


アンジェリカ「ジャンヌの言う通りだ。今の志道を置いて逃げれば、確実に志道は死ぬ……。そんな事は、絶対にさせない。」


アリシア「えぇ、無謀な自己犠牲はやめてください。ここで志道が死ぬ様な事があれば、私たちも死にますよ!」


志道「くっ、でも……。」


アリシア「今は止血に専念してください。その間、私たちがこの者たちの相手をしてますからね。」


ジャンヌ「そうそう、あと額を抑えているついでに、目を閉じてて貰えるかな?耳はアンジェリカの魔法で聞こえなくさせるから。」


志道「えっ、あ、わ、分かった。」


ジャンヌの言う通り、志道は目を閉じながら額にハンカチを当てると、徐々にあらゆる音が聞こえなくなると、直ぐに三姫の様子が一変する。


ジャンヌ「ふふっ、よくも私たちの志道に手を加えてくれたわね……。」


アンジェリカ「貴様らは絶対に許さぬ……。全員ここで血祭りに上げてやろう。」


アリシア「許しを乞うても許しません。あなた方は全員、ここで死刑にしてあげます。」


先程までほのぼのとした三姫であったが、愛する志道が目の前で傷つけられた事により、理性の(かせ)が外れた三姫は、漆黒のオーラを放ちながら、半ば闇堕ちに近い状態になっていた。


その頃、耳と目を閉じている志道は、恐ろしい魔力をビシビシと感じており、気になって片目を開けようとするも、金縛りの様な感覚に襲われ開けられなかった。



その後、四人を取り囲んでいた黒いフードを被った一派衆は、闇堕ちした三姫によって瞬時に片付けられたが、胸壁に上がって来る敵は未だに止まず、とうとう一派衆の若頭領らしき人物が現れるのであった。






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