第三百九十九話 異世界皇女戦記英雄譚その22
賢者ヴェンセント姉妹の参陣で勢いに乗る帝都グレイムは、三方から攻め立てる反帝都軍の一つ、リングデルト軍を打ち砕くための会議が開かれた。
帝都の西側から攻からめ立てるリングデルト軍は、昨夜のリーマス・エデンリング率いる補給部隊の離間騒動により、一部の部隊に動揺が広がっていた。
特に、裏切りの噂や密偵などの噂など蔓延し、リングデルト軍の軍律と内輪を乱していた。
この偶然にも起きた綻びは、劣勢であった帝都グレイムに取って、戦局を大きく打開させる兆しであった。
作戦会議後。
策を提案した両津界人は、かつて娘の様に可愛がっていた賢者ヴェンセント姉妹の協力を得て、早速リングデルトの軍律と内輪を乱す策を企てた。
ここで重要になるのが、リーマス率いる降伏に応じた"リングデルト"の将兵たちであった。
そのため界人は、早速リーマスら将兵に協力を呼びかけ、リングデルトの内情を中心に,"ほんの些細な事"でも、聞き取りを行い情報をまとめた。
少々手間は掛かったが、情報さえまとめてしまえば、こちらのもの。あとは、新聞社を通して号外を依頼すれば、嘘か真か、誇張した一面が、わずか一時間足らずで出来上がった。
界人「うわぁ〜、これは酷いな。こんなの見せられたら、内部不信どころか、自陣内で内乱が始まるかもな。」
リタ「ふむふむ、反帝都の中核となる三国の一つ、リングデルトに取って、アーデント、マダルは、帝都の主権を得るための足踏み台に過ぎず……。また、リングデルト軍の先鋒を預かる第一軍司令官グラディウス将軍を始め…、えっと、うーん、結構多いな〜。え〜っと、これら全ての者が、帝都側の密偵である可能性あり。」
リル「えっと、こっちは、"反帝都の絆もこれまでか。帝都グレイムを前にして夜逃げ発生。軍部内で亀裂発生か"……。」
栄角「ぶっ、第四軍大隊長バーハル将軍、妻子が居ながらも色街の"キャッスル"にて、妻子には、任務と偽り若い嬢とお泊まりデート。こっちは、第一軍のとある将が、第二軍司令官の秘書と肉体関係の疑い。ふむふむ、戦には関係ないがこれは酷いな。」
号外の内容は様々だが、どれもこれも誹謗中傷を促す、かつての"ろくでもない"週刊誌が掲載しそうな内容であった。
リーマス「…小さな情報に、ここまで誇張するとは、"異世界"の文屋は凄いですね。」
シルバー「ふむぅ、しかしこれは、完全に人権を侵害しておるな。」
界人「えぇ、今では一発アウトな記事ですよ。でもまあ、今回は特令で発行させましたからお咎目はありませんけどね。」
栄角「それにしてもだ、この見るも甚だしい記事を久々に見てしまうと、日頃から鬱憤を抱えているマスコミやジャーナリストたちの圧を感じるな。」
界人「それはそうでしょうね。人権を踏みにじって生活するマスコミやジャーナリストを抑制させるために、日本国内にある全報道関係を巻き込んだ報道規制法案を通したのですからね。」
栄角「あはは、あの時は賛否が大きく分かれたな。中には政治家を守る為の法案とか言われたが、実際当時の報道規制は酷いものだったな。」
景勝「えぇ、まだ、悪業に手を染めた人間のバッシングなら良いにしても、マスコミやジャーナリストたちは、何かに漬け込んでは人権を侵害しては、嘘の記事を書いて騒ぎ立ててましたからね。」
栄角「うむ、そのくせ自分たちは、報道の自由に守られている立場を良い事に、自分の行いを棚に上げては、過度な報道や取材を繰り返していたからな。特に一番腹が立ったのは、週刊誌と異世界との交流を良いとは思わない新聞社の卑劣な取材と誹謗中傷であったな。」
界人「同感です。正直この規制法案を通していなかったら、今でも異世界出身の人々が標的にされ、マスゴミ共の食い物にされどころか、人権を蔑ろにされ続けていた事でしょう。」
今回発刊された号外は、久々の人権侵害に関する記事の内容に、喜びと熱を込めていたのであろう。
委託した各新聞社と一部週刊誌から提供された号外は、皮肉にも見事なまでに、人権を侵害しており、更には軍の不信を募らせる様な風評被害まで掲載されていた。
そのため、過去の事案を思い出しながら熱弁する三人の男たちは、当時の自由過ぎた報道規制に、改めて危惧するのであった。
その後。
私生活からプライベートまで、ピンからキリまで載せられた"表現の凶器"こと、異世界語で表記れた大量の"号外"を外に運び出された。
積み重ねられた号外を前にして、賢者ヴェンセント姉妹は、風魔法を駆使して大量の号外を、リングデルトの陣営へと飛ばすのであった。
飛ばされた号外は、まるで生き物の様にリングデルト陣の上空を舞いながら、陣全体にヒラヒラと落ちて行った。
数分後、激しい攻撃を仕掛けていたリングデルトの攻勢が徐々に弱まり、更に十分後には、号外に踊らされた部隊が次々と混乱が広がった。
号外の標的にされた将官クラスの者たちは、互いの確認と問い質しのために、持ち場を離れ言い争いを始め、中には、激昂した将が一人の将を斬った事により、リングデルトの陣は大いに荒れた。
シルバー「おぉ、これは凄い効き目だな。」
界人「よし、反撃をするなら今ですね。今こそ、帝都グレイムと我ら義勇志士らの強さを見せつけてやる時です。」
シルバー「うむ、皆の者!出陣だ!!戦意の無い者は構わず、敵の総司令官を討つぞ!」
帝都義勇志士連合「おぉぉっ!!」
帝都グレイムの皇帝、シルバーの大号令に、今か今かと待っていた帝都の将兵と義勇志士たちは、西門の開門と同時に声を上げて反撃に転じるのであった。
一方その頃。
外道国家ジレンマによって、東西から侵攻を受けている中立国サルベールは、一進一退の攻防を繰り広げていた。
外道国家ジレンマに狙われた国々が、三日も経たずに即陥落する中で、今もこうして抵抗していられるのは、いくつかの理由があった。
一つは、中立国サルベールが、複数の中小国家が結集して成り立っている同盟国家と言う点。
二つは、中立国と言う名目上、外道国家"ジレンマ"の侵攻によって、命からがら逃げ延びてた王族を始め、難民と将兵らを招き入れて対抗している点。
三つは、自然の要塞に守られている点。
最後は、現実世界へと繋がるゲートが宮殿内にあるため、食料などの物資、日本からの義勇志士たちが集結している点であった。
ちなみに大半のゲートは、帝都グレイムか、ルクステリアの街に繋がっているため、中立国サルベールへの行き来は、主に九州方面の人々が多い。
各都道府県から見てもサルベールへと繋がるゲートは、三箇所程度しか無い所、九州方面の場合は、一県には約二十箇所程、存在している。
各地域によって繋がるゲートは様々だが、サルベールと九州の様に、大胆に強い繋がりがある地域は、近年他にも発見されている。
例えば、
北海道では、北方の島国。海洋国家アポリグネシス。
四国では、賊衆の大反乱により滅ぼされ、今では外道国家ジレンマと改められた旧ローデン国。
※今回の大反乱により、ゲートが破壊され異世界との補給を絶たれていた。しかし、急とは言え親交深かったローデンを滅ぼされた事に、四国の人々は大いに嘆いたそうだ。
他にも、反帝、外道国家に滅ぼされた事により、悔しい思いをしている人々は数多く、今では、帝都グレイム、中立国サルベール、エルンスト国領ルクステリア。海洋国家アポリグネシスである。
ちなみにリブル公国のゲートは、微食会十人の意向により、即全ゲートを閉じていた。
話は戻し、
中立国サルベールを治める"ジェシカ・サルベール"は、ハイエルフにして絶世の美女であり、同盟諸国や諸外国からは、聖女様として崇められていた。
聖女様を詳しく言えば、エロゲーに出て来る様な高身長でスタイル抜群、そして腰まで伸びたブロンド髪のお姉さんと言えば良いだろうか。
そして、この中立国サルベールには、春桜学園の生徒たちも多く関わっていた。
中でも、同盟国の姫である二年六組の三姫が目立っていのだ。
フィルシー国の姫にして、長髪金髪エルフ。
ジャンヌ・フィルシー
シルフィード国の姫にして、長髪銀髪ダークエルフ。
アンジェリカ・シルフィード
ダクリネス国の姫にして、長髪赤髪の人間。
アリシア・ダグリネス
春桜学園内で人気を集めている三姫であるが、こんな非常時の中でも、二学年の半数近くの生徒たちが、三姫の"彼氏"として公認している、藤原志道を取り合っていた。
ジャンヌ「お二方〜、今日は私が志道と一緒に居る日なんですけど〜?」
アンジェリカ「こんな非常時によくそんな事が言えるな!昨夜は抜け駆けしようとした癖に。」
アリシア「そ、そうですよ!それに昨日は、私が志道を独占する日でしたよ!」
ジャンヌ「っ、抜け駆けとは心外ですね〜。」
志道「こ、こらこら、三人とも、俺を板挟みにして喧嘩するな。みんなが見ているだろ?」
ジャンヌ「ふぇ、私は気にしませんけど、むしろ私の国民たちに見せびらかしたいくらいですよ♪。」
アンジェリカ「なっ、そ、それなら私だって一緒だ!志道とイチャイチャしながら熱い夫婦愛を見せつけてやりたいくらいだ。」
アリシア「ふぇ!?あ、あぅ〜///」
志道の静止も虚しく、ジャンヌとアンジェリカは、望むところだと言わんばかりに、張り合いを始めた。
一方のアリシアは、はしたい姿でも構わず見せつけ様とする二人の度胸に、顔を赤らめながらあざとく志道にしがみついた。
ジャンヌ「なっ!?あ、アリシア!何してるの!?」
アンジェリカ「っ、恥じらいと見せかけて志道に抱きつくとは、やはりアリシアはスケベだ!」
アリシア「ふえっ!?あ、こ、ここ、これは、ち、違いますよ!?」
志道「はいはい、二人ともストーップ!今はそんな下らない事で争ってる場合じゃないよ?」
ジャンヌ「っ、くだらない事……?」
アンジェリカ「それは聞き捨てならないな、志道よ?」
アリシア「そ、そうです!これは、国家存亡の危機と同じくらい問題なのですよ!」
志道「えっ、あ、えっと……、ごめん。」
恋路とは、一歩間違えれば争いの元である。
平和な日本で暮らしていた志道には、その重みが分かっていなかった。
歴史を紐解けば、たった一人の美女を得るために、争いが起き、そのまま一国が滅びたと言う例もある。
まして、三人は一国の姫だ。
下手な事をすれば、志道を巡って争いが起きる可能性は十分にあった。
そのため志道は、こんな非常時の中でも普段と変わらず、今日も三人の板挟みに合うのであった。