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第三百九十七話 異世界皇女戦記英雄譚その20

エルバ公国の奪還に成功したルクステリアの一軍は、編成を整えた後、二手に分かれて進撃を開始した。


北方の隣国リバー公国と合流し、反帝都側のパーセル五湖国の一国、ペソル公国を帝都側に引き入れ、そのまま帝都グレイムに進攻中のマダル王国を滅ぼさんとする"カオスギルド"を除く全ギルドを主体とした第一軍。


そして、ドル公国を討ち滅ぼし、既に占領されているディーデン公国の解放と、中立国家サルベールの救出に向かう、"カオスギルド"を主体とした第二軍。


ちなみに、先の戦いで降伏したドル公国軍の部隊は、佐渡金守の厳しい制裁によって、第二軍の先鋒として加わっていた。


この時の金守曰く。


"彼らには残念だが、他人の人権を(ないがし)ろにする者に、人権を尊重するなど虫酸が走る行為である。"


"もし仮に、平等な人権を欲するなら、外道には外道に相応しい"人権のない人権"……、故に罰と死を与えてこそ真の平等である"……っと、ハッキリと明言した。


また、単身一人で帝都へ戻ろうとした際には、ドル公国の将兵らに、"少しでも裏切りの兆候を見せたら、容赦なく皆殺しにする"と言い残した。


そのため、ドル公国への攻略時は、先鋒のドル公国軍による決死の攻勢により、部隊の七割近くの将兵らを失うも、祖国の砦を次々と攻略し、あっという間に本国までも陥落させた。


その後、ドル公国内に入ったカオスギルド本体は、想像以上に荒んだ街の光景に驚愕した。


…ドル公国の街並は、既に廃れ果ており、(むな)しく閑散(かんさん)としていた。


ボロボロの建物中には、飢えと病に悩まされた子供と老人が隔離されており…、一方の若者と大人たちはというと、不眠不休の強制労働を始め、性奴隷として(なぐさ)み物にされていた。


これに対して、"カオスギルド"を主体にした第二軍の人々は、当然の様に大激昂した。


中でも"シャル"は、胸が張り裂けそうな怒りを抑えきれず、無意識に膨大な魔力を解放させると、幼女の姿からカリスマ溢れる凛々しいお姉さんの姿になった。


すると"シャル"は、処刑場に並べられたドル公国の"国王"及び、これに賛同した将兵、文官など、合わせて七割近くの外道共に対して、情け容赦の無い獄炎を放った……。


また、運良く処刑を免れた三割の将兵と文官らは、先の戦いで失った先鋒の補充員として加えられた。



……ドル公国の情勢は、外道国家ジレンマと結託してから、(ことごと)く反対勢力を処断していたため、誰一人として真っ当な考えを持つ者がいなかった。


その結果、国としての基盤が根元まで腐り果て、繁栄どころか滅びを招く要因となった。


一国を滅ぼした苛烈な戦場は、まさに地獄である。


地上は、ドル公国の将兵ら血で染まり、そして死屍累々と横たわる死体の山……。


最後は、降伏した者たちへの大粛清である。



そんな中、聖霊の身で死者の声が聞こえる桜華は、嘆き苦しむ魂を(うれ)いながら処刑場で手を合わせていた。


桜華「うぅ…。」


桃馬「あっ、いたいた。こんな所で何をしてるんだ?」


桜華「っ、と、桃馬。こ、これはその、ちょっと死者の声を聞いちゃったから、手を合わせようかなって。」


桃馬「っ、そ、そうか。うーん、じゃあ、俺もついでに南無…。」


人の心を捨てた外道に対しての供養だろうか。

桃馬は、桜華の隣に座り込むと一緒に手を合わせた。


桃馬「桜華、あまり外道に落ちた亡者の声を聞くな。」


桜華「えっ?」


桃馬「坊さんからの供養も終わった。これ以上、外道に落ちた者に対して同情する事は無いよ。」


桜華「そう……、かもしれませんね。でも、いくら外道に落ちた人でも命を落とせば仏です。あの草津で起きた怨霊事件を繰り返さないためにも、一人でも多く亡者を慰めないと。」


桃馬「っ、桜華……。」


桜華の思いに、桃馬は自分の冷たい発言を恥じた。確かに怨霊は、人々の怨念によって生まれる異物だ。


特に今回は、欲に準じた外道たちを一箇所に集めて大量に処刑したため、死に納得の行かない亡者たちの怨念が集まり、新たな怨霊を生む可能性があった。


桃馬「こほん、すまない。」


桜華「うぅん、桃馬の言う事は間違いじゃないよ。ここで命を落とした方々は、欲に準じて道を誤った方々です。厳しく言えば自業自得ですね。」



桃馬「確かに厳しいな。それより、亡者の声は耳を閉じても聞こえるのか?」


桜華「そうですね。耳と言うよりは、脳内に直接入って来る感じですね。」


桃馬「うーん、それは困ったな。」



これも聖霊としての(さが)なのだろう。


本来死んだばかりの霊体は、霊感のある者か、桜華の様に聖霊以上の神の位に付いている方にしか見えないのが一般的であった。


しかし今は、幽霊が誰にでも見える時代。


一般に見える幽霊とは、冥界へ昇って現世に降りる許可を得た幽霊。あるいは、恨み辛みの怨念を膨張させた悪霊、怨霊、呪霊が該当する。



そのため、霊感の無い桃馬は、処刑されたばかりの幽霊が見えず、悲痛な声すらも聞こえていなかった。


自分は聞こえず、桜華には聞こえている。


桃馬は無理に桜華の供養を止め様とせずに、桜華の様子を見ながら、共に手を合わせ続けた。



そんな様子を人気(ひとけ)のない路地の影から、一人の和服姿の少女が見ていた。


?「ふふっ、一時の栄華に浸り、最後に地獄を見せて死ぬ。本当に最高ね……。未練に満ちた怨念が現世を漂い……、私の糧となりて同士を……いや、下僕を増やす。……未熟な"貞美"とは違って、私は間接的に増やす。一時の幸福を与え、代償に幸福を受けた何万倍もの不幸を精算させる。ふふっ、この世界は元の世界よりも欲にまみれている。さぁ、もっと、もーっと、欲深く争うと良いわ。ふふっ、ふふふっ。」


かなり意味深な事を発した和服姿の少女は、闇に溶け込むかの様に路地裏へと消えていった。




一方その頃、ドル公国の広場では、虐げられていた人々のために、カオスギルドが総力を上げて、炊き出しや医療介護などの救護活動に尽力していた。





シャル「さぁ、子供たちよ。食べ物は沢山あるからな、しっかり食べるのだぞ。」


男の子「うん、ありがとうお姉ちゃん!」


女の子「はーい、お姉ちゃんありがとう♪」


シャル「うむうむ、皆が元気になってくれて余は嬉しいぞ。」


子供たちから絶大な人気を集めているシャルの様子に、ギールとディノは驚きながら見ていた。



ギール「意外とあの姿のシャルって、子供に好かれるんだな。」


ディノ「そ、そう見たいですね。きっと子供たちからして見れば、怖いお姉さんよりも、優しいお姉さんに見えるのでしょうね。」


ギール「…お姉さんか。もしこれがエロ同人ならシャルが子供たちを襲うか、逆に子供たちに毒を盛られて襲われるかの展開だな。」


ディノ「兄さん、もう少し現実を見ましょうよ。流石にシャル様に失礼ですよ。」


ギール「っ、ご、ごめん。」


珍しく軽蔑した目で見つめながら注意して来るディノに、ギールは思わず謝った。



ディノ「…兄さんは、今のシャル様を見てどう思っているのですか?」


ギール「ど、どうって、うーん、まあ可愛いとは思うけど、そうだな、カリスマ溢れる美しいお姉さんって所か。」


ディノ「っ、そうなんですよ兄さん!」


ギール「うわっ!?ど、どうしたディノ、いきなり大声なんか出して……。」


ディノの質問に率直に答えたギールであったが、質問の答えが良かったのか、突然大きな声で称賛するディノにギールは驚いた。


ディノ「いいですか兄さん。今のシャル様は、可愛いだけでは簡単にまとめられない程のカリスマ性を持っているのです!」


ギール「お、おう。」


ギールと利害が一致したディノは、感極まってか、目を輝かせながらギールに詰め寄った。


普段見せないディノの一面に、返す言葉が見つからないギールは、勢いに押されて返事を返した。


すると、二人の目の前で、炊き出しの配膳を待っている子供が、恐る恐る声をかけて来る。


男の子「あ、あの、お、お兄さん。」


ギール「っ、あっ、あはは、ごめんな。よっと、はいどうぞ。」


男の子「あ、ありがとうございます♪」


ギール「飯が尽きるまでおかわりは自由だからな〜、()りなかったらまた来いよ〜。」


シャルのカリスマ溢れる姿と、ディノの急な変貌に気を取られていたギールではあったが、子供からの呼びかけで我に返り、至って普通に子供たちにご飯を配った。


しかし一方で、隣にいるディノは、少々おかしな配り方をしていた。


ディノ「はいどうぞ〜♪シャル様のご厚意に感謝しながら沢山食べてください♪そして、大きくなったらシャル様のために恩返しするのですよ〜♪」


男の子「ふぇ、シャル様??」


女の子「シャル様って、誰ですか?」


ディノ「ふっふっ、それはですね。あちらの方で炊き出しをして()られる、カリスマ溢れる黒髪のお姉さんがシャル様ですよ。」


魔王シャルを(あが)める宗教でも開こうとしているのか。ディノは、弱りきった純粋な子供たちに対して、布教を込めながらご飯を配っていた。


男の子「あそこにいるお姉ちゃんに、感謝すればいいの?」


女の子「えっと、お姉ちゃんの頭に凄くかっこいい二本の角があるけど、聖女様何ですか?」


ディノ「いいえ、シャル様は心優しい魔王様です。」


男の子「ふぇ!?あのお姉ちゃん魔王様なの!?」


女の子「で、でも、絵本で見たイメージと違うよ?」


ディノ「絵本に描かれているのは、架空の物語です。実際は弱者を助け、非道な者を懲らしめる正義の味方なんですよ♪」


子供「おぉ〜!!」


何気に嘘は言っていないディノの布教に、子供たちは目を輝かせながら話を聞いた。


これを隣で聞いていたギールは、少し引き気味ではあったが、実際本当の事を言っているディノに否定は出来なかった。


ギール「ふぅ……。(相変わらずディノは、シャルの事になると頭が一杯だな。幼女の時のシャルが聞いたら絶対に調子に乗るんだろうけど、あの姿の場合は、どんな反応を見せるんだろう。)」



ギールに取って今のシャルが、子供たちから信仰され崇められる事に、不思議と悪いとは思っていなかった。


シャルが幼女の姿に戻った時、どこまで調子に乗ってしまうかは不安な要素ではあるが、そんな事よりも、今のカリスマ溢れる美しい姿のシャルが、子供たちに崇めら続ける事によって、どんな反応を見せるのか気になっていた。




その後、多くの子供たちがシャルの元へおかわりに行くと、シャルは嫌な顔を一つも見せずに、笑顔で子供たちの器を受け取りご飯を"よそう"のであった。





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