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第三百九十三話 異世界皇女戦記英雄譚その16

八月十三日から十五日のお盆の日。


現実世界では先祖の霊を(たてまつ)り、

戦争で散った人々の霊を(なぐ)める特別な日である。



その一方、異世界にある駆け出し冒険者の街"ルクステリア"では、"フューチャー・コネクト・フェスティバル"、通称"未来を繋ぐ平和祭"が開かれる日でもあった。



しかし、五月に起きた帝都の変により、異世界の情勢は徐々に揺るぎ始め、野心に燃え上がる有力者たちが次々と決起した。


帝都側諸国への宣戦布告を始め、

主従下克上、賊徒による反乱など。


その戦火は、瞬く間に魔界を含む異世界全土へと広がり、熾烈(しれつ)な群雄割拠へと突入した。



これにより、ルクステリアを統治するエルンスト国にも飛び火してしまい、お祭りをしている場合ではなかった。



当然、お祭りを楽しみにしていた者たちに取っては、心のそこから平和を仇なす某国及び、無駄な戦争を仕掛けた者たちに対して、かなりの憤りを感じていた。



本来なら"目には目を歯には歯"の様に、

それなりの大制裁、大粛清を望むところだが。


今は、八月十五日。


日本では、終戦記念日。

異世界では、平和を祈る大祭の最後の日である。



そのため"フルロジカル"の防衛戦は、例え、相手が武器を取ろうとも、この一日だけは平和的に終わらせようと画策した。



その結果、防衛戦は大成功を収め、

両陣営に血が流れる事はなかった。



だがそれは、今日までの事。



もし、改心して降伏、和平を望むなら良し。


しかし、改心がない時は、

八月十六日、午前零時を持って決するものである。


戦場は某国軍の将兵らの血で染まり、その道のりはブラッドロード(血の道)を作り、無数の(むくろ)が一面に広がる事であろう。



あるいは、地獄の様な光景を作る前に、

帝国側の諸国らによって壊滅するか…。



とまあ、どちらにせよ、



某国の運命はない。



フルロジカルの戦いで、平和的な攻撃(メッセージ)にビビった某国軍の先鋒部隊は、国境付近で陣を構える本陣まで撤退した。


これに対して某国の参謀を務める"司祭風の爺"は、軍の面子(めんつ)とも言える先鋒の醜態(しゅうたい)に、総大将である"屈強な髭面の男"を差し置いて酷くご立腹であった。



司祭風の爺「何たる体たらくだ!花火ごときにビビって逃げ帰るとは!」


先鋒将兵「も、申し訳ございません。し、しかし、あれは花火の度を越えています。」


司祭風の爺「だまらっしゃい!見苦しい言い訳は聞きとうない!」


屈強な髭面男「まあ、良いではないか。この際面子などどうでもよい。エルンスト国側に、あのヤマタノオロチを手懐けなる程の強者が居ると言う情報だけでも大きい。」


司祭風の爺「し、しかし、この程度で逃げ帰っては、エルンスト側にナメられるだけではなく、士気を高めてしまいますぞ。」


屈強な髭面男「そうかっかするでない。それでは参謀として冷静な判断が下せるどころか、脳内の血管が切れてしまうぞ。」


司祭風の爺「っ、くっ。」



高血圧な上、頭に血が上りやすい参謀を冷静に宥めると、某国の総大将は次なる命令を下す。



屈強な髭面男「さて、皆の者。初戦は敵の情報と引き換えに敗北したが、被害は極小だ。この際は、フルロジカルでの決戦を避け、森林地帯を通ってエルンストへ向かう。」


司祭風の爺「なっ、それはなりませんぞ!」


屈強な髭面男「何か問題でもあるのか?」


司祭風の爺「問題だらけですぞ。フルロジカルの森林地帯と言えば、魔界へのゲートがあちらこちらに点在しており、獰猛(どうもう)な魔物共が出入りしている危険な地帯ですぞ。」


屈強な髭面男「ほう、それは変だな。俺の情報と経験では、あの森林地帯は駆け出し冒険者でも倒せる魔物しかいないと思うが?」


司祭風の爺「そ、それは、総大将の感覚かと…。」


屈強な髭面男「ふっ、参謀よ。お主も人の事を言えんではないか?魔物ごときにビビっては、エルンストは落とせんぞ。」


司祭風の爺「っ、くっ、むぐぐっ。」


見事なブーメランを指摘された司祭風の爺は、

それ以上の反論は見せなかった。


屈強な髭面男「さて、皆の者。出陣だ!!」


失態を咎めない総大将の出陣の号令は、

落ち込んだ先鋒部隊を含めた全軍の士気を高めた。



一見、某国軍の優勢に見える所だが、実際かなりの劣勢下に置かれおり、某国軍の誰もがその現実を見ていなかった。


いや、見せない様に誤魔化されていた、

と言えば、正解だろうか。



ちにみに某国が生き残る可能性のシナリオとしては、

まず、森林地帯を無事に抜けてフルロジカルを突破。次に"龍の尾"と言えるルクステリアの街を無視してエルンスト国へ向かい迅速に攻略する。


この時点でも、かなり無理がある内容である。


まず、森林地帯で少しでも騒ぎを起こせば、確実にフルロジカルにいる部隊が駆けつけて来るのは目に見えている。



そもそも、運良く"フルロジカル"と"ルクステリア"を抜けてたとして、迅速にエルンスト国を攻略できるか怪しいところである。


例え攻略したとして、怒りと復讐に燃え上がるルクステリアの冒険者たちが、無事に某国へは帰さないであろう。



この様な"詰みゲー"に乗り出した愚かな某国軍であるが、進軍から五分後の事、早速予想だにしない強敵と遭遇してしまうのであった。



士気を乱さないため、自ら先頭に立って進軍する某国軍の総大将の前に、突如、筋肉ムキムキの金髪爺が、空から勢い良く突進して来たのだ。


金髪ムキムキ爺「おぉ、直人や~!直人はどこだ~!さっきのけたたましい声の化け物に食われておらんか~!!」


屈強な髭面男「っ、なんだ。この爺は…。」


上半身はもちろん、下半身を守る砦であるズボンが、異常な筋肉によって半分以上破れており、見えそうで見えない、しかし、角度を変えれば"ワンチャン"見えるのではないかと思ってしまう程である。


如何にも関わらない方が身のためと思える相手に、某国の総大将を含む将兵たちは、警戒しつつも見て見ぬふりをした。



だがしかし、目の前にいる老人は、人探しで頭が一杯になっているのか、こちらを見るなり声をかけて来た。


金髪ムキムキ爺「お、お主たち、この辺りでワシの可愛い孫を見なかったか?背が高くて、刀を持っていて…えーっと、あっそう、フラフラになった若者を見てないか?」


屈強な髭面男「い、いや、そんな者は見てはないが。」


グイグイと迫る金髪ムキムキ爺に、心当たりがない某国の総大将は、思わず返事を返した。一方の将兵たちは警戒のあまり、反射的に武器を握り締めていた。


金髪ムキムキ爺「そうか。ちょっと前に爆発音と大きな声が聞こえたから、てっきり何かに巻き込まれたのかと…。」



屈強な髭面男「失礼だが、それはご老人の聞き間違えではないか?そもそも、この何もない国境付近に、一人でフラフラと歩いているはずもないであろう。」



金髪ムキムキ爺「む、むぅ、ん?ほぅ、そうか。」



某国の総大将の堂々たる振る舞いを見て、

金髪ムキムキ爺は、根本的な事に気づいた。


本来ルクステリアを目指していたはずが、気がつけばエルンスト国の南東に隣接している小国。


"エルバ国"との国境にいたのだ。



金髪ムキムキ爺「お主ら…エルバ国の兵か。」



金髪ムキムキ爺の低い声に、

先鋒の将兵たちが一斉に武器を取った。


金髪ムキムキ爺「ほう…、やる気か。」


屈強な髭面男「皆の者!武器を納めろ!!」


親衛隊「し、しかし…。」


将兵「我々の行動を見られては、作戦に響きますぞ。こちらの情報が漏洩する前にやりましょう。」


屈強な髭面男「馬鹿者が!!俺の武を(わきま)えんか!!」


総大将による再度の一喝に、

将兵たちは渋々と武器を納めた。



金髪ムキムキ爺「なんじゃ…やらぬのか。」


屈強な髭面男「配下の無礼お詫びする。」


金髪ムキムキ爺「まあ、気にするでない。それよりは、お主たちは"どっち"側じゃ?」


挑発でもしているのか、それとも目の前にいる一軍が敵かどうか調べているのか。金髪ムキムキ爺は、再び低い声で問い詰める。


屈強な髭面男「この乱世。先に餌食になるのは我らの様な小国。みすみす、隣国に滅ぼされるよりは、(こころざ)し同じくする国々と盟を結び、乱世に一石投じる。例え反帝都に組みしようとも。」


金髪ムキムキ爺「…反帝都か。エルバも落ちたな。」


総大将の話を聞いた金髪ムキムキ爺は、哀れんだ表情で視線を下に向けた。



すると同時に、背後から強い殺気を感じ取ると、

瞬時に振り返り、短刀を持った二人の男の頭を鷲掴みにした。



金守「ふぅ…老いぼれと見て、この"佐渡金守(さどかなもり)"を甘く見よってからに…。」



屈強な髭面男「っ、さ、佐渡…金守だと。」


佐渡金守。

佐渡桃馬、両津直人、相川葵の祖父にして、異世界にどっぷりハマり、気づいた時には神々しいチート爺に成り下がった最強系爺さんである。


そんな爺さんなら異世界での知名度はかなり高いと思われるが、実際のところ、ルクステリアの街にて最強系爺さんが大量発生しているため、差ほど有名ではない。


ちなみに、現実世界の知名度レベルで例えるなら、幕末に出てくる長岡藩家臣"河井継之助(かわいつぐのすけ)"レベルの知る人ぞ知る知名度である。



しかし、百戦錬磨の総大将は、佐渡金守の名を知っていたため、先程まで振る舞っていた冷静さに(ほころ)びが出始めていた。


金守「さて、低姿勢から相手を油断させる策は見事だ。しかし、あんなに殺気を放っては意味はないぞ。」


屈強な髭面男「…おのれ…。各なる上は、強引にでも進ませてもらうぞ!」


とうとう本性を現した総大将は、背中に下げている大剣を握り締めると、馬から飛び降り勢い良く斬りかかった。


しかし、在り来たりな攻撃が、チート爺の金守に通用するはずもなく、勢い任せの重い斬擊は、意図も簡単に"スッ"と避けられ、挙げ句の果てには大剣をへし折られる始末である。


金守「おっと、いかんいかん。ワシは孫探しで忙しいんじゃった…、悪いがワシはこの辺りで…。」


戦闘モードになったせいか、

本来の目的を忘れていた金守。


本来なら目の前にいる賊軍を一掃したいところだが、今は一分一秒でも時間を無駄にしたくない時。


そのため金守は、突然話しかけて来た老人の様に、用事が済めば直ぐ帰る素振りを見せた。



するとその時、ピリリっ!!っと、

耳に響く様な高い音が鳴り響いた。



現実世界の文化に馴染みがないのか、聞いたこともない音に付近の将兵たちが動揺する中、一方の金守は、平然と大破したズボンのポッケに手を入れると、異世界でも繋げられる様に魔改造した、折り畳み式魔通信用の携帯電話を取り出した。


金守「はい、もしもし、おおっ、エルンちゃんか。どうだったかな、…おぉ!そうかそうか、道中で力尽きてたか。うむ、うむ、そうか、命に別状はないのだな。おぉ~、それはよかった。これでワシも一安心じゃよ。エルンちゃんありがとう。リールちゃんにもありがとうって、伝えておくれ。」


電話の相手は、直人の彼女(ほぼ嫁)であるサキュバスのエルンからであった。




少し話をおさらいすると、


草津帰りで直人は、妖怪や魔族に取って麻疹(はしか)の様な病、その名も"妖魔病"を発症していた。


しかも、発症した時期が異世界の動乱期と重なっており、ほとんどの同級生が、異世界の危機を救うため義勇志士を名乗っていた。


これに直人は、自分だけ病に負けて義勇志士になれないことに酷く悔しがっていた。



そのため直人は、病人の身でありながらも、義勇志士と言う大義を得るため…、と言うよりは、夏休み明けの時に、この話題に入れない事を恐れ、監視をしていた二人の美女たちの目を盗んで家から脱走。


しかし、炎天下と麻疹(はしか)レベルの重い病が体を(むしば)み、結果的に症状を悪化させた。


そのまま道中で力尽きた直人は、

探しに来てくれたエルンに回収されたのであった。



孫嫁(まごよめ)からの連絡に安堵した金守は、携帯電話の通話を切ると、金色のオーラを更に放ちながら賊軍の方へ視線を向けた。


金守「さて…、無事に孫が見つかった事だ。やるかい?」


屈強な髭面男「…くっ。」


親衛隊「"エボンド"様、ご命令を…。」


親衛隊「そうですぞ。見かけ倒しの爺など、恐れるに足りません。」


格の差を(わきま)えない親衛隊は、今にも斬りかかろうと総大将のエボンドに命令を求めた。


しかしエボンドは、先程大剣を折られた事もあり、全軍を投じても目の前にいる爺を倒せないと悟らされていた。


金守の質問に数秒程沈黙する中、そこへ進軍のスピードに異変を感じた参謀が、中列より駆けつけて来た。


司祭風の爺「エボンド様!どうなされましたか!」


エボンド「っ、おぉ、ガビッドか。」


ガビッド「進軍スピードが止まったので気になって来ましたが、一体何が……っ、さ、佐渡金守!?」


金守「…っ、おぉ~、貴様は…えーっと、確か…、ガビルンルン…。」


ガビッド「ガビッドだ!このボケ爺が!」


金守「…あぁ、そうだったな。じゃが、お主何で生きとるんじゃ?貴様は…えーっと、確か五年近く前に、闇売人と取引していた所をボコして"パーセル湖"に沈めたはず…。」


ガビッド「ふっ、あの時、湖に殴り沈める前に重りでもつけておくんだったな。」


金守「おやおや、エルバ軍の皆がいる前で、悪事をばらすとは愚かだな。」


ガビッド「ふっ、それはどうかな。」


金守「何っ?」


ガビッド「エルバ国など、とうに滅んであるわ。」


金守「…ほう。」


ガビッド「我が軍は、エルバ国の南にある、"ドル国"の…へぶっ!?」


話の途中であるのにも関わらず、

金守は容赦なくガビッドの顔面を殴り飛ばした。


その勢いは、多くの"ドル"軍の兵を捲き込み軍の整列を大いに崩した。


エボンド「なっ!?」


親衛隊「っ!?」


金守「所詮、国が変わろうと人は変わらずか。えーっと、奴の話しによれば、貴様らはエルバ国ではなく、南のドル国の兵か。」


エボンド「…くっ、貸せっ!」


親衛隊「っ、エボンド様!?」


目の前で参謀が殴り飛ばされ、もはや、見ていられなくなったエボンドは、親衛隊の槍を奪うなり金守の背後を襲った。


金守「かはっ!」


エボンドが突き立てた槍は、金守の背中の中心を捉えていた。


これには刃が通らなそうな金守でも、確実に致命傷を与えられたと、エボンドを含む多くの将兵は思った。



しかし、次の瞬間。



金守は倒れるどころか、

振り向き様にエボンドの顔面を掴んだ。


エボンド「なっ、ぐはぁぁっ!?」


金守「筋は良かったが、ワシの肉体には届かなかったようじゃな…。」


致命的と思われた攻撃も今の金守に取っては、無に等しかった。金守は、屈強なエボンドの顔面を掴みながら軽々と持ち上げた。


傍から見ては、金守の方が悪役である。


金守「…さて、久々に楽しませてもらおうかの!!」


不敵に笑い出す金守は、その後、自慢の拳でエルンスト国に牙を向けたドル国軍に対して、大制裁を加えるのであった。




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