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第三百九十一話 異世界皇女戦記英雄譚その14

ここはエルンスト国領。

駆け出し冒険者の街"ルクステリア"。


種族問わず個性豊かな人々が集まり、現実世界からも多くの人々が、異世界ライフの活動拠点にしている街である。


そのため日常のルクステリアの街は、毎日お祭り並みの賑わいを見せ、人々は節度を持った"自由"を楽しんでいた。


そんな賑わいを見せる街でも、この八月十三日から十五日に限っては、現実世界の文化を取り入れた大規模なお祭りが開かれる日であるため、誰もが血眼になって楽しみにしていた。



その大規模なお祭りは、"フューチャー・コネクト・フェスティバル"、通称"未来を繋ぐお祭り"と言われ、異世界との交流文化を永久(とわ)に続く事を願ったお祭りである。


そのため、このお祭りを生き甲斐にする人々が多く、天候が悪くても強行する様な滅茶苦茶なイベントである。



しかし今年は、帝都の変をきっかけに異世界のバランスは大きく崩れ、野心に燃える国々が帝都グレイムに取って代わろうと次々と決起。


異世界は混迷の群雄割拠に突入してしまった。


これにより、エルンスト国へ侵攻を始める国が現れ、

当然お祭りをしている場合ではなかった。




そう、お祭りをしている場合ではなかった…。



だが…、



このお祭りに関しては、その様な理由で中止するなど…、到底許せるものではなかった。



下らない戦で素晴らしきお祭りを台無しにされた人々は、強い(いきどお)りを感じながら、迫り来る侵攻軍を迎え撃つため、"ルクステリア"の街から東の位置にある、"フルロジカル"の街に陣を構えた。



とまあ、迎え撃つと言っても、一応神聖なるお祭りが行われるはずであったこの日。平和を願う意味であっても、さすがに死人を出すのは縁起が悪すぎる。



そのためルクステリア側は、ダメ元で分かっていながらも、なんと平和の使者を"くじ引き"で決め、更に話を穏便に進めるため、"贈り物"を添えて敵陣へと送り込んだ。


しかし、平和的な交渉は予想通り失敗。



時は、八月十五日。昼。

安明天皇の勅命が下されてから間もない頃である。




それにしても、全面的に聞き入れられなかったのは、

例え予想通りでもメンタルに来るものである。



しかし、"平和の使者"は負けじと"警告を込めたAプラン"から、"真心(まごころ)を込めたBプラン"に変更し、再度交渉に踏む切った。




平和の使者「えっと…ならばせめて、この"贈り物"だけでもお受け取りください。ちなみに、開けになる際は十分にお気をつけください。なにせ頭が飛ぶ程うまい"珍味"が入っていますので…。えーっと。それでは、後ほど戦場にて失礼します。」


某国将兵「待て。」


平和の使者「っ。」


某国将兵「ご使者殿…、悪いが帰る前に、その珍味とやらを今ここで見せた上、一口食べてもらおうか。」


平和の使者「…なるほどお疑いの様ですね。」


某国将兵「無論だ。贈り物と称して爆発物では洒落にもならないからな。」


平和の使者「…わかりました。では…。」


平和の使者は、疑り深い某国の将兵の言う通り、

山積みになった贈り物に手を伸ばした。


すると再び、待ったの声がかかる。


某国将兵「待て。」


平和の使者「こ、今度は何ですか?」


いちいち呼び止めるこの将は、

相当警戒心が強い男なのだろう。


とまあ、敵から大量の贈り物が送られて来れば、

普通警戒するのは当たり前ではある。


現に、この敵将の脳内では、目の前にいる"平和の使者"が、この様な展開になる事を読んでいた上で、安全な贈り物を開けてこちらの警戒心を削ぐ手口なのだと疑っていた。



そのため、某国の将兵は、

自ら贈り物の包みを選び、平和の使者へと渡した。



某国将兵「ふむっ、これだ。」


すると、平和の使者は、

苦虫を噛み潰した様な表情をしていた。



某国将兵「どうした。顔が分かりやすく引きつっているぞ?ふっ、どうやら思った通り、(よこしま)な物を贈って来たようだな。」


平和の使者「っ、ち、ちがっ…。」


某国将兵「ほら、さっさっと開けてみろ。さもなくば斬るぞ。」


平和の使者「…くっ。」


平和の使者が、包みを開ける事に躊躇(ためら)っていると、不信に感じた敵兵らは、すぐに四方八方を囲んだ。


もはや平和的に逃げるのも厳しい中、

平和の使者は意を決して包みを開けた。


するとその中には、

透明な瓶が二本入っていた。


某国将兵「ほう、見たところ…。酒に見立てた毒ってところか。ふっ、考えたものだな。」


平和の使者「……。」


完全に手の内を読まれたかの様に、

その場で(うつむ)く平和の使者は、

一言も話さず立ち尽くしていた。


某国将兵「さて、包みを開けたのなら、次は飲んでもらおうじゃねぇか?」


平和の使者「……なんで…俺が…てか、助けは来ないのかよ…。」


某国将兵「おっ、なんだ。死に際の一言か?まあ良いぜ。聞こうじゃねえか。」


平和の使者「くっ、…こいつに毒なんて入ってはいない。だが、毒物並みの酒だ。」


某国将兵「毒物並みの酒…。くっ、あはは!おもしれぇ冗談だな。なら、飲んでみろよ。毒じゃないかは、それから判断してやるよ。」



平和の使者「…くっ。うっ。」


瓶の蓋を開けた瞬間、平和の使者の鼻腔(びこう)に高濃度のアルコール臭が襲った。


嗅いだだけでも、頭がおかしくなりそうな臭いに、平和の使者は本能的にも飲むのを躊躇(ためら)い始めた。


この反応に、某国の将兵は平和の使者が持っている酒瓶を取り上げ、強引に飲ませ始めた。


平和の使者「んぐっ!?お…おごっ!?…ごくごく…。」


某国の将兵「ほら、飲め!飲め!そして、我らを侮辱したことを後悔しながら死ぬが良い!」


某国の将兵により、半ば強引に酒を一気に飲まされた"平和の使者"は、体を痙攣(けいれん)させながらその場に倒れた。




その一方、"フルロジカル"の防壁には、多くの人たちが、花火を打ち上げるための煙火筒(はなびづつ)を構えながら様子を伺っていた。


ピリピリと緊張が走る防衛陣ではあるが、

中には、"平和の使者"の無様な姿を(さかな)に、真っ昼間から酒をかっ食らう二人の豪傑がいた。


その二人の名は、


元魔王幹部、ランドルク


元ルクステリア騎士団長、エルドリック



ランドルク「ひっく、ありゃりゃ~。酒の弱い鷹幸に、あんな"モノ"を飲ませたらダメだっての~。」


エルドリック 「うんうん、ひっく。ただでさえ酒が弱いってのに、あんな…ひっく、極太触手を強引に(くち)ん中にねじ込んだあと、最後にドバーッ見てぇな飲ませ方はだめだよ~。ひっく、下手したら暴走するぞ。」



少々目に余る二人であるが、

これでも"カオス"ギルドきっての豪傑である。


普段から真面目にしていれば、かっこいい"ロマンスグレー"なのだが、如何(いかん)せん思考がおっさんなため、会話に下ネタを入れるのは当たり前、日課は昼夜問わず酒盛りする程の非常にマイペースなコンビである。



ここ最近の問題行動としては、エルドリックの副業で"ドクガ草"と言う、"毒を分解させる毒"を持つ薬草を育てていたのだが、酒に酔ったランドルクによって、大量の肥料を与えてしまい"ドクガ草"の生育が急速に拡大。挙げ句、ハウスから漏れ出た事によりルクステリア中に大量発生させてしまった事があった。


ドクガ草に花が咲いてしまうと、その一ヶ月後に毒の胞子を飛ばすため、当時は街全体で収穫及び除草作業に追われ、あわやルクステリアの街を滅ぼしてしまうところであった。



他にも奇想天外な行動を取ったりと破天荒な部分があるため、ギルドの中では頼りになったり、トラブルメーカーになったりと、良し悪しが多い二人である。


これで三十年前は、島を一つ沈める程の激戦をしていた敵同士だったとは、到底考えられないものである。


ちなみに、運悪く平和の使者に選ばれたのは、

春桜学園の数学教師にして、異種交流会の顧問である吉田鷹幸が選ばれていた。



桃馬「ちょっと、お二方。吉田先生を助けに行かなくて良いのですか?」


憲明「そうですよ。確か先生を送り出す時、何かあればすぐに助けに行くって言ってましたよね?」


ランドルク「うーん、助けたいのは山々だが…ひっく。よりによって"スピリタス"を一気飲みだからな~。下手に捲き込まれるのも嫌だしな~。」


エルドリック「そうそう…ひっく。鷹幸の酒癖は、わしらよりも酷いからな。」



桃馬「…うーん、もしかしてですけど…、始めから助ける気ないですよね?」



ランドルク「むっ、失敬な。わしらに取って鷹幸は愛弟子みたいな男だ。助けないわけないだろ?」


エルドリック「うむ、その通りだ。ただ、この程度の事で助けるのは、鷹幸に取ってためにならないからな。」


桃馬「えっと…お二方の助ける基準が分からないのですけど。」


エルドリック「まあまあ、今に分かるさね。酒乱に溺れた鷹幸をよーく見ておくと良いさ。」


桃馬「酒乱って…そんな酔拳みたいな…。」


ランドルク「はっはっ、桃馬よ…ひっく。酔拳も武術の一つだぞ?まあ、本当に危なくなったら助けにはいるから、ここはわしらを信じて見守るんじゃ。」


桃馬「う、うーん。(いきなり真面目な顔で言われると、妙に説得力あるんだよな。)」


憲明「…信じる…ですか。(本当に何を考えているのか読めない方々だ。)」


(はた)から見ても絶体絶命な吉田先生の姿に、桃馬と憲明を始めとする多くの人たちが心配する中、ランドルクとエルドリックだけは、余裕の表情で構えていた。





その頃、敵陣では、

某国の将兵が、酒に酔い潰れた鷹幸の背中に片足を置き、両手で剣を握り締め頭上より高く構えた。


それでも動こうとしない二人の豪傑に、

思わず痺れを切らした一人の幼女が、三尺玉の煙火筒(はなびつつ)に火をつけ敵陣へと放った。


突然の轟音に、両陣営の将兵と人々は驚き、

思わず視線を轟音を響かせた方向へと向けた。



その数秒後。


放たれた三尺玉の花火は、敵陣の地上から約三百メートル程の上空で、全身を響かせる程の轟音と共に薄い大輪を咲かせた。


敵陣には、無数の火花が降り注ぎ、

動揺と共に大混乱をもたらした。



同時に花火の轟音で目覚めた鷹幸は、三尺玉の威力に腰を抜かした将兵から剣を奪い取ると、瞳を赤く光らせては、まるで獲物を見つけた蛇の様な瞳で睨んだ。


鷹幸「…すぅ~はぁ~。おまえ…この蛇鷹公(じゃようこう)に喰われる者か。」


某国将兵「は、はぁ…。お、おまえな、何言ってやがる…。」


鷹幸「それとも、我が眷属である紗曇(さたん)に喰われる者か…。」


某国将兵「…ふ、ふっ。な、なるほど…、貴様酔っているのだな。"じゃようこう"とか、"さたん"とか、意味のわからない事を言って、ご、誤魔化してるのだな。」


鷹幸「ふっ、それはどうかな。…紗曇!」



酔った勢いとは言え、黒歴史である中二病を再発させた鷹幸は、自分の影に(しの)ばしていた相棒の紗曇を解放させた。


鷹幸の声を聞き入れた紗曇は、

日本神話に出てくる"ヤマタノオロチ"を彷彿(ほうふつ)とさせる立派な八首大蛇(やつくびだいじゃ)の姿で、鷹幸の影から"ズルルッ"と雄叫びを上げながら姿を現した。



某国将兵「ひいぃいっ!!?」


鷹幸「引くなら今だ…。さもなければ、この場にいる全員を食らう。」


某国将兵「あ、あは…あははっ。はっ…はへっ。」


苦し紛れの脅しと思っていた某国将兵は、あまりにも迫力のある大蛇を前にして、ついには気絶してしまった。



ほぼ至近距離からの三尺玉の花火に続いて、

八首大蛇の出現は、某国軍の戦意を大幅に削いだ。



この機にルクステリア側は、敵軍を完全に追い返すため、煙火筒(はなびつつ)に一斉に火をかけると、一尺以上の花火が敵陣へ目掛けて大量に飛んで行った。


追い討ちをかけられた敵陣は、

先陣と一部将兵たらを見捨てて大撤退を開始。


これにより、初戦の防衛は平和的に終わった。


※花火は人に向けて放っては行けません。

だめ、絶対に!







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