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第三百九十話 特別記念話 天下覇道編 17

ここまで"一部の選手を除く"、

白熱した試合を繰り広げる第一回戦第六試合。


しかし、白熱と言っても呆気ない決着が続き、次々と有力選手たちがリタイヤして行った。


残る有力選手は四人。


中でも、微食会幹部"藤井尚真"と陰陽師"新発田孔真"による術式バトルは、多くの選手たちを捲き込み、無慈悲にリタイヤ者を続出させるガチバトルをしていた。


微食会幹部、藤井尚真の戦闘スタイルは、

身体強化を主軸とした術式を得意として、攻撃術式の五基礎はもちろん、火、水、風、(いかづち)(つち)を使い分けて戦うスタイルである。


対して、陰陽師の新発田孔真は、強力な防御結界を身体に(まと)い、五基礎の上位互換である、(えん)(ずい)業雷(ごうらい)疾風(しっぷう)土着(どちゃく)を主軸とした多くの術を使いこなし、更には、式神を駆使しての戦闘を得意としている。


さすがにこれでは、藤井の一方的な不利だと思うところだが、実際は孔真の方が劣性であった。


藤井が使う身体強化は、ただ身体能力を高めるだけでなく五基礎にも影響を与えていた。


例えば、思わず"メラ"と口に出してしまいそうな小さな火の玉が、地面に落ちたり、術式のぶつかり合いをすると、見た目は"メラ"的ながら、威力は"ゾーマ"的な破壊力を持ち合わせている。


もっと簡単に言えば、膨大な力を強引に小さな玉の中に押し込んだ爆弾である。



その気になれば、五基礎の上位互換を放つこともできるが、如何せん制御が難しいため、身体強化をした時だけは、強化されまくった基礎術を放っている。



ちなみに、孔真の拘束陣に束縛され動けなくなった犬神の末路は、藤井が孔真に向けて放った流れ玉が直撃してしまい、敢えなくダウンしてしまったのであった。



その後、数分に渡って術式による攻撃が続き、同時に茂野天と三条晴斗による大鎌の斬撃乱舞も加わり、周囲の選手たちを巻き込み一掃していった。




孔真「はぁはぁ、くっ。(やっぱり、藤井は強いな。長期戦になればなる程こっちが不利だ。大人しく拘束陣に踏み込んでくれていれば勝機が見えたのに…どうして踏み込んで来ないんだ…。まさか、拘束陣が見えているのか。)」



藤井「ちっ、式神を惜しみなく出しやがって…キリがねぇ。(くそぉ、孔真の結界が頑丈過ぎて、どうにもならねぇ。)」


茂野「はっはっ、なに苦戦してるんだよ藤井?」


藤井「うっせぇ、相手が孔真だと相性が悪くてやりづらいんだよ。」


茂野「ふっ、それは残念だったな?それじゃあ、こっちはそろそろ終わらせようか。」


晴斗「はぁはぁ…けほけほ…。(やばい…、妖気切れで体調が…。)」


本来、病弱体質の晴斗は、幸運にも死神のハーフともあり、普段は妖気を纏って体調を管理している。


そのため晴斗の戦闘スタイルは、早期短期決戦型のため、少しでも長期戦にもつれ込むと、この様に妖気切れを起こしては、病弱メス顔男子になってしまう。


茂野「ふぅ、序盤は危なかったが、我慢して耐えればこっちのものだな。」


晴斗「くっ、はぁはぁ…、妖気がもう少し持ってくれたら…俺の勝ちだったのに。」


茂野「はっはっ、それも実力の内だよ。さて、覚悟しろ晴斗。」


晴斗「くっ。」


茂野が大鎌を振り上げると、晴斗は完全に敗北を悟り、覚悟を決めて目を閉じてた。


当然、二人の対決に注目していた観客たちも、

完全に勝敗が着いたと思った。




しかし、そう上手く運ばないのが、


この試合である。



茂野が振り下ろした大鎌は、突如、二人の間に割って入って来た、"フードを被った謎の選手"に防がれてしまう。



多くの選手を捲き込んだ激戦区の生き残りだろうか、フードを被った謎の選手は、茂野の大鎌を片手で防いでいた。


茂野「っ!?な、なんだお前は?」


?「"お前"とは酷いじゃねぇか…"シゲ"。」


茂野「っ、なっ!?そ、その声…まさか…。」


聞き覚えのある男勝りな"女性"の声に、茂野が背筋を凍らせると一瞬でその正体を察した。


同時に近くにいた藤井も驚いた様子で、

一瞬だけ視線を孔真から茂野の方へ向けた。



茂野「…ごくり、ら、"ラグラ"…どうしてここが。」


ラグラ「どうしてって、シゲの様子に違和感を感じたから、"異世界の決闘祭"そっちのけで追って来たんだが?」


ラグラは、フードを取りながらシンプルな理由を言い放つと、何とも美しい銀髪と凛々しい顔立ちを現した。



映香「おおっと!ここでまさかの激戦区で生き残った一般枠の正体が、微食会幹部、茂野天の恋人にして、"白銀の死神"の二つ名を持つ"ラグラ・ノーヴァ"だ!」


まさかの超有力者の登場に、

会場は盛り上がった。


茂野に取って一年下の後輩にして、彼女でもあるラグラ・ノーヴァは、元退魔士にして"白銀の死神"と言われた戦闘狂である。


故に、この二人の恋愛は、一般的なイチャつきよりも、戦闘などによる半分命を懸けた"イチャつき"と称されている。


そのため茂野に取ってこの決闘は、完全に戦闘が合法化されているため、もはや悪夢である。


そのため茂野は、命大事を優先し、今回ラグラには、試合の事を告げるどころか、異世界の地で決闘祭が開かれると嘘をついてまで異世界へ送ったはずであった。



なのにも関わらず、

そのラグラが目の前に居る。


しかもメインカードではなく一般枠に…。



ラグラ「シゲも酷いじゃないか。こんな面白そうな試合があるってのに、あたしには異世界の決闘祭を薦めるなんて。」


茂野「っ…ご、ごめん、ラグラ。」


ラグラ「ふっ、まあ気にするな。シゲもたまには、あたしじゃない相手と闘いたいもんな。」


茂野「っ、わ、分かってくれるのか。」


ラグラ「あぁ、毎日あたしに負けては悔しいもんな♪」


茂野「いや、悔しいも何も…五分五分だろうに。」


ラグラ「そうか~?今週はあたしの六連勝中だが。」


茂野「…そ、それは、た、たまたま調子が悪かっただけだ。(あれ以上こっちが本気出したら、ラグラに怪我させてしまうだろうが。)」


ラグラ「はっはっ、中々いい言い訳だな。けど、もし今週の決闘で手加減をしていたとか、今日の決闘祭の話が嘘だったとかだったら…。分かるよな?」


茂野「っ。」


完全に手の内を読まれている茂野は、

全身に悪寒を感じた。


ラグラは、涼しい顔をしながら片手で掴んだ大鎌に力を入れると、肌を刺す様な冷気を放ち、怒りの感情を現した。



茂野「ま、まさか~、そんな事する訳ないだろ~?えっと、ちなみに…、もし該当してたら猶予の方は…。」


ラグラ「当然ねぇよ。もし該当してたら…そうだな。ここで殺す気でいくぞ。」


茂野「で、ですよね~。そ、それじゃあ、晴斗にトドメを刺してからでも…。」


もはや嘘を通しても無駄と悟った茂野は、大人しく覚悟を決めるも、その前に放置された晴斗との決着を着けようとする。


ラグラ「んっ?あっ、そうだったな。むっ?どこ行った?」


茂野「えぇっ!?」


二人の痴話の隙を突いて距離を取ったのか、

ラグラが振り向いた時には、晴斗の姿はなかった。


茂野は慌てて周囲を警戒するも、辺りは戦闘を再開した藤井と孔真の激闘で土ほこりが舞っていた。


自主リタイヤをしたのか、それとも勝機と見て土ほこりに隠れているのか、全く分からない状況である。


茂野(落ち着け…、今の晴斗は立つだけでもやっとだ。大きな動きはできないはずだ。)


ラグラ「…なぁ、シゲ。」


茂野「っ、な、なんだ…ごふっ!?」


茂野がラグラの声に反応して振り向くと、

ラグラの重い拳が茂野のみぞおちを捉えた。


茂野「はぁはぁ!?な、なん…だ…ゴホッゴホッ。」


ラグラ「悪いなシゲ…。」


両膝をついてうずくまる茂野に、ラグラは指の関節をボキボキと鳴らしながら圧をかけていた。


茂野「…はぁはぁ、かはっ…、まさか…晴斗と…組んでたな。」


ラグラ「ふっ、あぁ~♪あたしを過保護にするシゲを懲らしめるために、三条先輩を通して相談してたんだよ。」


茂野「…ら、らしくないことを。」


ラグラ「はっはっ、それが狙いだよ。三条先輩からは意表を突くのも効果的だって言ってたからな。」


茂野「くっ、晴斗め…。闘いに負けて勝負に勝つ気か。」


ラグラ「まあ、実際試合が始まって見れば予想以上に周囲の戦闘が激しいし、反撃しようにも力を使ったら正体バレるし、しかも、三条先輩は予想以上に強くてどこで横槍入れるか悩んだしな。」


茂野「…くっ、(まじで、らしくない事をしやがって…。)」


ラグラ「まあ、三条先輩も自主リタイヤしたみたいだし、あとは心行くまで、シゲを懲らしめるだけだ。」


茂野「はぁはぁ、ふっ。懲らしめるか。それにしても、猶予は無いと言いながらも…そこそこ待ってくれたじゃないか。」


ラグラ「っ//…ふっ、つい話し込んだな。じゃあ…、始めようか。」


思わず話し込んでしまったラグラは、一瞬だけ取り乱すも、すぐに氷の剣を生成し構えた。


茂野「…はぁ、怪我しても恨むなよ。」


ラグラ「やれるものならな!」



誰もが想像しなかった恋人対決は、その後、熾烈(しれつ)な闘いを繰り広げ、藤井と孔真の激闘に決着が着くまで終わる事はなかった。


一方、身体の限界を迎えた三条晴斗は、ラグラに助けられた事を機に、自主リタイヤを成功させていた。



そして、最後の一枠はと言うと…。


激闘で舞った土ほこりを利用した藤井が、孔真の背後を取る事に成功すると、術式ではなく刀を抜いた近接戦を仕掛けた。


藤井「取ったぁぁっ!!」


孔真「くっ、その程度の攻撃で俺の結界を崩せるかよ。」


孔真の強力な結界の前では、藤井の刃は通らず、刀と結界が競り合う形になっていた。


藤井「はぁはぁ、へっ、それはどうかな。」


孔真「っ、どういう意味だ。」


藤井「…ふっ、着火だ。」


孔真「っ!?ぐっ、ぐはっ!」


藤井が刀に魔力を込めると、

刀の先から強力な爆破術を施した。


ゼロ距離からの爆破術は、孔真の自慢である強力結界を破壊し、そのまま吹き飛ばした。


均衡を破った藤井は、攻撃の手を緩めること無く孔真に追撃を仕掛けた。


藤井「これで(しま)いだ!」


孔真「っ、(つぐ)……くっ…、がはっ!?」


孔真は懐から何かを出そうとするも、この土壇場(どたんば)躊躇(ためら)ったため、藤井の一閃が決まった。



地面に倒れ込んだ孔真に藤井が駆け寄ると、なぜ反撃できるはずの一手を踏まなかったのか、その理由が明らかになる。


藤井「…最後まで継丸を出さなかったな。」


孔真「…はぁはぁ、大切な継丸を盾にしてまで…、勝ちたくなかっただけだ。」


藤井「…ふっ、なるほど。と言うことは、最後に(ふところ)で掴んだのは継丸の式か。」


孔真「…あぁ、そうだよ。」


藤井「…本当に過保護だな。まあ、気持ちは分からなくはないけど。」


孔真「…はぁ、負けちまったな…。(すまない、継丸、麗羅…、無様に負けちまった。)」


多くの選手たちを捲き込んだ二人の激闘は、

藤井尚真の勝利で幕を閉じた。


こうして長い第一回戦第六試合は、


佐渡桃馬

高田海洋

茂野天

藤井尚真

ラグラ・ノーヴァ


この五名が第二回戦へと駒を進める事になった。


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